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生鮮ECクックパッドマート - サービスの立ち上げから拡大に向けて(全1記事)

生鮮ECサービス「クックパッドマート」ができるまで ”コードを書かない”価値検証から、リリースまでの軌跡

2019年2月27日、恵比寿ガーデンプレイスザ・ガーデンホールにて、「Cookpad TechConf 2019」が開催されました。Cookpadのエンジニアやデザイナーがどのようにサービス開発に取り組んでいるのか、またその過程で得た技術的知見について公開します。プレゼンテーション「生鮮ECクックパッドマート - サービスの立ち上げから拡大に向けて」に登壇したのは、クックパッド株式会社の長野佳子氏。講演資料はこちら

クックパッドマートの立ち上げと、スケールへの取り組み

長野佳子氏:こんにちは。買物事業部の長野です。本日私からは『生鮮ECクックパッドマート』と題しまして、クックパッドの買物領域における新しいチャレンジについてお話させていただきます。

最初に少しだけ自己紹介をさせてください。私は2010年にクックパッドに入社してちょうど10年目になります。

デザイナー兼エンジニアというかたちで、レシピ領域にてサービス開発をしてきました。ですが昨年の1月から買物領域へと領域を変えて、クックパッドマートというサービスを新規に立ち上げています。

本日お話する内容ですが、クックパッドマートについて初めて聞くという方も多いかと思いますので、まずはサービスモデルの概要についてお話します。

そして立ち上げ時に価値検証をいろいろとやってきたのでそのプロセスのお話と、現在少しずつサービス拡大に向けて取り組みを進めていますのでそのお話をします。最後に少しだけ開発チームの体制について触れたいと思います。

まず最初にクックパッドマートとは何かというところです。クックパッドマートとは一言で言うと、アプリで注文する生鮮ECサービスです。

ですがスーパーマーケットのようにあらゆる食品を揃えているというわけではなくて、街の専門店、お肉屋さんやパン屋さんのような専門店の商品であったり、地域の農家さんのような生産者の商品を扱っています。それらをアプリで注文を受けて、出荷当日にお届けするといったサービスです。

もう1つ特徴的なのが、クックパッドマートは家まで届ける個別配送をしていません。近所のドラックストアや酒屋さんなどの拠点を受け取り場所としていて、自分の都合のいい時間に商品を受け取りに行くというピックアップ型のECサービスになっています。

そういったかたちで配送効率を上げることによって、最低注文金額なしで送料無料のサービスを実現しています。

また、クックパッドと連携しているという点で、食材購入にとどまらない買い物体験にもチャレンジをしています。料理に合わせた食材セットであったり、レシピ付きの食材というかたちで、調理まで見越した買い物体験を作ろうとしています。

解決したい課題

クックパッドマートが解決したい課題とは何か? 平日に買い物をする時間がないという方は世の中にたくさんいます。単身の方や共働きの家庭に多いですけれども、仕事が終わって帰宅する時間にはスーパーやお店が閉まっていて買えなかったり、在庫が少なくなっていて欲しい食材が買えないということがよく起こっています。

また、既存のネットスーパーのようなサービスを使おうと思っても、最低注文金額が設定されていることが多いのでどうしてもまとめ買いせざるを得なかったり、生鮮の場合は再配達が難しいので受け取るためには在宅が必須だったりします。あとは物流センターを介するような形式のサービスの場合、どうしても食材の鮮度が落ちてしまうという問題もあります。

つまり、新鮮でおいしい食材を買うことができない状況があります。いわば買い物難民的な状況の人がたくさんいることを、クックパッドマートは解決したいと考えています。

クックパッドマートのサービスモデルはこのようになっていて、ユーザーから見ると普通のネットスーパーのようなかたちです。ですがその裏側には、物流センターや在庫を持たずに、販売者さんや生産者さんから出荷当日に配送するかたちで、新鮮な食材を美味しい状態で届けるということを実現しています。

また、受け取り場所を近所の拠点とすることによって、送料や再配達の問題をクリアしています。要は地域の販売者や店舗が参加する生鮮ECプラットフォームが、クックパッドマートの大きな特徴です。

クックパッドマートの価値検証プロセス

では、このようなモデルにたどり着くまでにどのような価値検証をしてきたか? そのプロセスのお話をしたいと思います。まず最初に、すごく小さなプロトタイピングで十分な学びを得た事例として、チーム発足後すぐに行った初期のプロトタイプのお話をします。

実はチーム発足時は今とはまったく違う仮説からスタートしていました。最初に私たちが立てていた仮説は、買い物上手な主婦や時間に少し余裕がある方が、忙しい人の買い物を代行するCtoCのサービスというものを作ったらどうか? という仮説を立てていました。

ですが最初の仮説はすごく不確実なものなので、なるべく早く価値があるかどうかを試したいということで、検討をしていきました。まず、クックパッド社員を対象に注文を受け付けて、自分たちで買い物代行をしてみようということで実際にやってみました。

そのときの注文形式はこんな感じのGoogleスプレッドシートに商品名を羅列して、注文したいものに数を入力してもらうというすごく素朴なかたちをとりました(笑)。

実際の購入代行は、当時チームは3名だったので3名でレンタカーを借りて街のスーパーや専門店から注文いただいた商品を買い出して、会社に持って帰ってきて個別に包装して社員に渡すということをやりました。

ただ、テストなんですが、価値を測るにあたってお金をもらうのはすごく重要だと考えていたので、商品価格プラス手数料分の金額で、受け渡し時にクレジットカード決済ができるように仕組みを作りました。

このときはコードらしいコードは1行も書いていないプロトタイピングでしたが、このプロトタイプを通じてかなりたくさんの新しい仮説が得られました。

そのとき得られた仮説の1つ目は、まず1対1の代行モデルは、スケールに課題がありそうだということが実感できました。このときは3人で約20名分くらいの買い物を代行したんですが、そのオペレーションは写真を見ていただければわかるかもしれませんが、予想以上にカオスでした。

初日は個別仕分けに2時間かかってしまって。あとは、梱包スキルにもバラつきが出ました。人によって袋の詰め方が違うので、そういったものをレギュレーションしてサービスにするのはかなりハードルが高いんじゃないかということが実感されました。

また、自分では買いづらいものが買えることに価値を感じられやすいということも、このときに得られた仮説です。生のお魚やお肉屋さんのお肉は平日の買い物では買えないことが多いので、そういったものを届けるととても喜ばれました。

一方で、いつものスーパーで買うようなものを届けても手数料が乗っかるので「自分で買ったほうが安いや」って思われてしまって価値を感じてもらいにくいということもわかりました。

あとは、お魚を届けたあとに「こんなふうに食べるとおいしいですよ」というおすすめの食べ方のような情報を社内のSlackで発信したところ、これがすごく好評でした。

これを通して、おすすめの食べ方の情報があると、購入にとどまらない価値を提供できるのではないかという仮説もこのときに感じられました。私たちクックパッドの強みもここでは活かせるのではないかということが仮説として得られました。

このプロトタイピングはチーム発足から10日くらいで実施したんですけれども、そこで初期の仮説を一気に軌道修正することができて、その後のチームの動きを加速させるというところにつながったと思っています。

接点のないユーザーに対する価値検証

では仮説検証フェーズで行ったもう1つの事例を紹介したいと思います。ふだん接点のないユーザーに対する価値検証というところで、接点のないユーザーって誰かと言うと、モデルの右下に位置している販売者や生産者です。

いわばこのサービスに商品を提供してくれる人たちです。

この人たちが価値を感じて参加してくれないとサービスが成り立たないので、そこを検証したい。でも、ふだん私たちが業務している側にはこういった方々はいないので、どうやって検証しようか? というところでした。

私たちはDesign Sprintの手法を使いました。先ほど宇野からも少し話がありあしたが、Design SprintはGoogle Venturesが提唱しているサービス開発の手法です。3日や5日といった短期間でチームで集中してソリューションプロトタイプをして、ユーザーにも当てた検証を行えるというフレームワークです。

このときのスプリントで私たちが検証したかったことは、販売者や生産者がクックパッドマートを通してお店の売上が上がるというイメージを持てるか、ということ。あとは、ふだんのお店の業務と平行して、クックパッドマートに対応ができると思えるのか。この2点を検証したいと思っていました。

これがそのときに作ったプロトタイプのストーリーボードです。プロトタイプといっても、このときはシステムみたいなものを作っただけではなくて、販売者たちがクックパッドに参画する際に必ず最初に目にするであろうサービス導入資料を、まずは紙で用意しました。

そのあとに、お店の売上やユーザーの反応が見られるアプリをプロトタイプで作って、あとは実際にお店の営業中に対応していただくであろう集荷のフローをスタッフがドライバーに扮して再現するということもやりました。要は、販売者の方に実際に協力いただくであろう体験全体をプロトタイプして検証を行いました。

これが実際にインタビューしている様子です。この方は本当に農家を経営している方で、このスプリントのためになんとかツテをたどって、農家やお店を営んでいる方を数名集めてインタビューに応じていただきました。

これが、スタッフがドライバーに扮して商品を集荷にくるところのイメージをしてもらっているところです。

チームメンバーはこのときに別室でインタビューを観察して、ユーザーの反応をメモしていました。

ピンクがポジティブな反応をメモしたもの、グリーンがネガティブな反応をメモしたものです。全体的にピンクなことがわかるかと思うので、全体的にとても好意的な反応でした。

先ほど話した検証したいことをチームで振り返ったときにも、この2点に関して私たちのモデルは高評価じゃないかという結果が得られました。

Design Sprintは検証が難しい課題ほど向いていると言われている手法なんですが、このときも私たちの身近にいないユーザーさんに価値を感じてもらえるのか、という難しい課題を5日間で検証することができました。

このスプリントを経て、販売者や生産者の方に対するチームの目線が揃えられて、その後ある程度自信を持ってサービスモデルを構築していくことができたと思っています。

サービス拡大への取り組み

という感じで仮説検証の事例を2つご紹介したんですけれども、クックパッドマートはそのときどきで最も早く試せる方法で仮説の確度を上げていくというスタイルでサービスモデルを構築してきたと言えます。

昨年の夏に正式にサービスリリースをしているんですが、リリース後もサービス改善に関してはこういった仮説検証のスタイルを続けながら、現在もサービス開発を進めています。

ではここからは少し視点を変えて、サービス拡大に向けて今進めている取り組みを紹介していきたいと思います。まずサービスを拡大するというのは、要は価値を届けられるユーザーさんの数を増やすということだと思います。クックパッドマートの場合のアプローチとしていくつか考えられます。

ここに3つ挙げたんですが、これらに関して私たちがやっている取り組みを紹介していきます。まず、配送頻度を増やすということです。クックパッドマートは社内でテストしているときからずっと火曜日と木曜日の週2配送というものをずっと続けていました。

週2回であれば、スタッフの稼働で前日にいろいろ準備をして、配送を回すということを毎週繰り返すこともできなくはない状態でした。ですが、ユーザーからすると毎日届いたほうが便利ですよね。しかし、毎日配送をやっていこうとなると、週2と同じやり方では難しくなってきます。

具体的には、配送前日や当日に行なっている配送準備を極力自動化しないとオペレーションの負荷が高すぎてやっていけないので、それらを少しずつ自動化していきました。

まず店舗への発注ですが、LINE WORKSを利用しています。

自動化以前はスタッフが手動で発注内容をまとめてLINEに送るということをやっていたんですが、今はサーバーサイドでPDFを作成して、それを自動送信するというところまでサポートするようになっています。

また、LINE WORKSに対応できない店舗もありますので、そういう場合にもそれがネックにならないようにFAXによる発注書の自動送信も仕組み化しています。

次に商品ラベルの発行・送付についてです。クックパッドマートではユーザーが自分の商品をピックアップするときに識別できるように、こういった受け取り番号をシールで商品に貼っているんですが、これは販売店さんに貼っていただいています。

ですがそもそもシールをどうやって用意していたかというと、週2の配送のときにはクックパッド社内で印刷して、それを前日にバイク便で送るということをやっていました。これも毎日やるとなるとすごいコストになるので、ここをなんとかしようと。

現在は、店舗さんにラベルプリンタを置いていただいています。

ここから注文締め切り後に自動でラベルが印刷されて、それを商品に貼れば配送準備が完了するというフローを構築しています。

3つ目の配送準備作業としてドライバーへの集荷指示というものがあります。これはメールで送信していたんですが、そのメールもPDFをサーバーサイドで作って自動で送信することでスタッフ稼働が不要になるような仕組みを構築しています。

このように自動化を重ねた結果、クックパッドマートは週6配送に対応しました。

「日曜日は?」と思うかもしれませんが、これは販売店さんの休業日の都合で、自動化とは別の観点で配送開始を見送っています。

受け取り場所を増やす

では次に、受け取り場所を増やすという観点でお話します。受け取り場所を増やそうと思った場合にハードルになっていることの1つに、受け取り場所のセキュリティの問題があります。現在稼働している受け取り場所は店員さんの目の届く場所で、基本的に性善説に基づいた運用ができるような場所に限られています。

ただ、セキュリティのハードルを減らす取り組みとして、冷蔵庫のスマートロック対応を検証しています。

このようにアプリからボタンを押すと冷蔵庫の鍵が開きます。

これによって、注文したユーザー以外の人が冷蔵庫を開けられなくなるので、半無人の場所にも受け取り場所を設置することができるようになると考えています。マンション共用部や駅ナカといった場所に受け取り場所を設置することができれば、よりユーザーさんの利便性が向上するのではと考えています。

最後にプラットフォームを増やすという点です。実はクックパッドマートはまだiOSアプリしかありません。ですので今まさにAndroid対応を進めています。ほぼiOSと同じ機能を持つAndroid版を作って、価値を届けられるユーザーさんを約2倍にしたいというところで、鋭意開発中です。

技術を使ってスケールの壁を乗り越える

ということで、価値検証のフェーズではコードを1行も書かないような選択肢もありましたが、スケールのフェーズではいろいろな技術を使って、スケールのハードルを越える取り組みを進めています。

最後に、どんなチームで開発しているのか? チーム体制について少しお話します。クックパッドマートは最初3人からスタートしたとお話しました。

立ち上げ期はそれぞれができることをなんでもやるという感じで動いていたんですが、少しずつサービスが具体的になるにつれて各領域に強みを持ったメンバーが増えました。

現在はこんな感じで、総勢25人くらいに増えています。見ていただくとわかるように、プロダクトに寄るでもなくビジネスに寄るでもなく、全体的に分布しているのがわかると思います。各領域がきれいに分かれているわけでもなくて、重なり合うメンバーがいたり、それぞれの領域もすごく密接に関わり合いながらサービスを作っています。

クックパッドマートは、サービスの特性上すごく関わる領域が広範囲なので、例えプロダクトが強くなってもパートナーを見つけられなかったり、流通のオペレーションが滞ってしまうことがあったらサービスとして成り立ちません。各領域をバランスよく育てていく必要があって、そのためのメンバーを揃えて全員でサービスを作っているのがおもしろいところです。

こちらのnoteでチームメンバーがいろいろな観点からサービス開発について発信していますので、もしご興味があればぜひご覧いただけたらと思います。

ということで、クックパッドの買い物領域における新しい挑戦であるクックパッドマートとその開発について、私からの発表は以上とさせていただきます。ご静聴いただき、ありがとうございました。

(会場拍手)

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