2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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(会場笑)
G1ベンチャーで仮想通貨について語ります。例えば地方自治体によるICOなんてことも、最近話に聞きますし、また、「FinTechという観点では、どんな可能性があるのか」を勉強したいと思っていたところで、モデレーターになったと。
そういう意味で、私は本当に理解不足な中で、堀(義人)さんはそういった、あえて知らない人が語ることによっての化学反応を期待するということですから。もうダメだったら、これは堀さんのせいであって、私のせいではないです(笑)。
(会場笑)
私は仮想通貨についてぜんぜんわからないのですが、「通貨」を辞書で引いてみると、「モノやサービスと交換ができる貨幣」と書いてあるわけです。
じゃあ、今後の仮想通貨って、本当にそうしたものになっていくのか。それとも、「いやいや、それはBtoBの世界の話で、国際的な金融をスムーズにするためなんだ」とか。どういう未来になっていくのかというイメージ図が、そもそも私は、はっきりとわかってないわけですね。
これからお話しいただくみなさんは、こんな素人の私には本当にもったいない、日本を代表する仮想通貨の分野の第一人者のすばらしい方々です。「仮想通貨にどんな未来があるのか」というところを、みなさんの中から1人ずつ聞いてみたいと思うんですが。岩下さんは、どういう未来があると見ていますか?
岩下直行氏(以下、岩下):はい。京都大学の岩下でございます。
私は、仮想通貨に関する研究や、仮想通貨よりも前に普及した電子マネーなどに関する研究を、かれこれ二十数年やってきておりまして。(ビットコインを提唱した)サトシ・ナカモトよりも、たぶん長く研究している人間の1人でございますので(笑)。
(会場笑)
岩下:仮想通貨には特別な思いがございます。仮想通貨がこれだけ人々に注目されるようになったということは、長年研究していた人間としては、大変うれしいことではあるんですが。一方で、私自身は長いこと日銀に勤めて、今は金融庁の参与という仕事もやっております。
こういう観点から見てみますと、仮想通貨というものが、みなさんが現在お使いになっている通貨、例えばフィアットカレンシー(法定通貨)の円であるとか、ドルであるとか。あるいは、それらの預金であるとか、法定通貨を利用したクレジットカード。あるいは、Suicaのような電子マネーといったものと同じように使われるということは、ないと断言します。
これはなぜかというと、もうすでにテレビでは、「ビットコインがビックカメラで使えるよ」という話がよく出ます。新聞にも、「(ビットコインが)日本全国で使われている」と載っていたり。実はね、使われてないんです。
どういうことかというと、ビックカメラは、ビットコインを受け取っていません。「通貨」として使われるということは、実際に払う側と受け取る側が同じものを払って受け取って、そこで初めて「使った」と言えるわけです。
仮想通貨を利用した決済というのは、デモンストレーションのために仮想通貨を受け渡して、「ほら、決済してみました」ということが、時々あります。しかし、(ビックカメラで行われているように)実際に制度としてやるときには、ほとんどが「後で、円の預金を送ります」と。実際には、銀行の円預金で決済されてるんですね。
それは当然で、ビックカメラはビジネスですから、30万円の冷蔵庫を売った時に、いくらになるかわからないビットコインをもらっても、困っちゃうわけですよね。そういう状態が今の仮想通貨(を利用した決済サービス)であり、たぶんこの状態は今後も変わらない。したがって、通貨としては残念ながら使われないというのが、私の見立てです。すみません、ちょっと長くなりました。
高島:「通貨」という名前がついているから、やっぱりイメージとして(法定通貨のような)通貨のイメージに、そりゃなりますわねって話なんで。そのあたりがやっぱり、混乱するところなんですが。では、廣末さんは、今後をどのように見てますか?
廣末紀之氏(以下、廣末):はい。ビットバンクの廣末と申します。今は国内で、仮想通貨の取引所だとか、あと、教育構造にブロックチェーンを取り入れた「ブロックチェーン大学校」とか、あとメディアでは「BTCN(ビットコインニュース)」なんかをやっておりまして。
そもそも、私が仮想通貨に惹かれたのは、2012年だったんですけども。ビットコインのストラクチャ―がとてもおもしろくて、「これは非常にすばらしいものだ」と感激しまして。そこからハマって、事業を始めてしまったという経緯なんですけども。
2012年から(2018年まで)約6年間ぐらいやって、今岩下先生がおっしゃったように、法定通貨の代わりの交換媒体としては、正直私もあまり魅力を感じてないです。なので、うちでもリアル店舗での決済とかは、やってないんです。
ただ、やはりなにかしらの交換媒体として機能してるのは、間違いないと思っていて。とくに、現在の法定通貨でカバーできない、超マイクロなトランザクションだとか、あるいは、グローバルベースのトランザクションでは、とても効用が出ると見てまして。
私自身が、一番フィットする(と思っている)のは、これから人間以外のソフトウェアやロボットだとかでAIを実装して、自律的にいろんな決済を始めていく中で、おそらく法定通貨ではカバーできない領域が、たくさん出てくる。そういうときに、やっぱり仮想通貨のストラクチャーじゃないとできないことが多いです。
したがって、私がイメージしているのは、人間以外の経済圏がこれから出てくる中で、いわゆる「法定通貨的な役割として、仮想通貨が利用される」というようなイメージですね。なので、「人間の世界観」とは、ちょっと離れたところを見ています。
高島:(参加者に向かって)今、ついてこれてますかね?
(会場笑)
高島:大丈夫?(笑)。今もう、思考止まってないですか? 大丈夫ですか? (質問とか)あったら言ってくださいね。私も今、わからないところが微妙にあったんですが。わかったふりをして進めてもいいけど、もしかしたら同じことを思ってる人もいるかなと思って。
人間同士じゃなくて「人間以外の世界」が広がってくるというところを、もう少し咀嚼していただけたらありがたいんですけど。
廣末:いや、もうだって、「AIが人間を超える」と言われるような世界が、目前にあって。これからソフトウェアとかマシン同士で(人間に仲介させず)自分たちで考えてお金払ったりとか受け取ったりとか、そういう経済圏が出てくるのは間違いないと思ってますし。
例えば(日本から)アメリカに円をドルで送金するとき、じゃあ、「3日かかります」「(送金)コストがいくらかかります」。とてもじゃないけど、ビジネスができないです。1円未満の決済だったらとくにそうで、もうコストに見合わないので。こうなってくると、新しい経済圏で新しいマネタリーのシステムが必要だというのは、もう当然だと思うんですよね。なので、たぶんそういう世界で実用化されてくる。
僕が懸念してるのは、今、法定通貨でやってもいいところを、無理やり仮想通貨にしてるようなところがあって。それは、意味がないと思うんですよね。だから、今ビックカメラの話をしてましたけど、ビックカメラだとクレジットカードで払ったほうが絶対得なわけで、それを仮想通貨で払う理由があんまりないんですね。
なので、うちはあんまりそういうところ(ネット上での仮想通貨決済)には手を出してないですけども、これから技術が進展する中で、そういう世界が出たときには、ぜひそういう決済の領域にチャレンジしてみたいと思うんですけども。たぶん、リアルの店舗での(仮想通貨を用いた)決済を導入するのは、たぶんやらないと思います。
高島:今お話に出た中で、やっぱり海外への送金はレートにしても、いろいろなかたちで手数料がものすごくかかると。(決済に仮想通貨を導入することで)それはすごくスムーズにいくようになるんじゃないかという、期待感があるんですが。
増島雅和氏(以下、増島):はい、ありがとうございます。僕は今、ここのまわりの話(仮想通貨の今後の展望について)では、わりと日本を超えちゃってまして。
IMFの人とか、ドイツバンクの人とか、Goldman Sachsとか……あっちのほうの、「こういう話を、今真剣に考えてます」という状態のヘッドクォーターみたいな人たちが、日本に寄ったときに、「ちょっと話をさせてくれ」というような話をもらったりですとか。
あとは、日本でチョロチョロやってる取引所じゃなくて、グローバルにやってる取引所にいる人。もしくは、DApps(非中央集権型アプリケーション)って言われてる、仮想通貨で支払いをするアプリケーションがありますけど、これをすでにグローバルにローンチをして、すごくユーザーを集めている人たちとかが、日本に来たとき(に話をする)。
もしくは、いわゆる「セキュリティトークン」と言われてる、証券ですね。証券をブロックチェーンに載っけたもので、どういう世界をつくりたいかということを考えてる人たち。こういう人たちと話をすることがあるので、たぶん今、日本で話をしているところよりは、ちょっと違う視点をもっているのかなと思っているんですけれども。
彼らと話をしていても、彼らは基本、もう「仮想通貨」って言わなくなってますというのがあって。基本的には「クリプトアセット(仮想資産)」という言い方をしているんですけれども。
高島:え? もう1回……。
増島:はい、クリプトアセットです。
高島:クリプトアセット。いや、みんな、今ちょっと書き留めようとしてたんで。
増島:あー、ありがとうございます(笑)。まあ、そういうふうな目線になっていまして。
増島:これは昨年ぐらいから言われてたんですけど、「仮想通貨」という名前をつけたのが、誤解を生む最大の理由だったんじゃないか、みたいなことが、けっこう強くあって。今年ぐらいから国際機関でも、その「クリプトアセット」という言葉を使い始めていて。
これはどういうことかというと、結局、通貨のアナロジーとか別の通貨みたいな話でやると、やっぱり、いろんな誤解が発生しますねと。通貨の世界を独占したい中央銀行とかの人たちにとっては、チャレンジをされてるように感じて、過剰に反応するとか。そういうことが起こるわけですけれど。
1つのアセットとして見たときに、その後ろ側に何が走ってるかというと、証券が走ってるものもあるし、ゴールドみたいな、リアルのものが走ってるものもある。ある意味、それのすっからかんのやつがビットコインとか、みんなが「仮想通貨」と認識しているものですね。ここが、なにか連続的なものなんですねという受け止め方をしていて。
それで、その「すっからかんのなにか」だけじゃなくて、その中になにかが入っている、そういうものを含めたクリプトアセット全体。これは、全部ブロックチェーン上に載っているので、アーキテクチャは同じですから、やりとりの仕方はまったく一緒なんですね。
一緒な中で、それが今までの証券会社とか銀行とか、そういうところを介さずに「グルグル回っちゃいますよ」みたいな。こういう世界が開けている中で、「これから僕たちは、どういうことを考えていったらいいでしょうか」みたいな目線で考えているので、「通貨かどうか」とか「通貨を変えるか」というフェーズは、もう終わっちゃったかなという感じがしてます。
高島:だから、通貨という前提から「何ができるか?」って考えるんじゃなくて、「将来は、こういうことができるといいね」という世界から逆算して、「じゃあ(そのためには何が必要か)」と考えていったほうが、理解しやすいのかもしれないですね。(現在は)「通貨」という枠組みで固定してしまっているので。
高島:そんな中で、どうして仮想通貨の話が巷でもこんなに広がってるかというと、投資の対象として非常に値が上がって、「これは儲かる」というのが、一般的に言われているからですね。「仮想通貨長者」みたいな方が出てきたり。そういう流れの中で、やはり「コインチェック」(の流出)という問題が起きてしまったことで、規制当局の動きが出てきた、変わってきたということなんですが。
岩下さんは、そのあたりに詳しいと思うんですが。あれ以降、今はどういうふうに規制が変わっているのか。そして、規制当局は(仮想通貨において、拡大・縮小の)どっちの方向に向かおうとしてるのかという、未来像を教えていただきたいんですが。
岩下:わかりました。その前にちょっとだけ。今、増島さんがとてもいいことをおっしゃったので。ブロックチェーンという入れ物と、その上のアプリケーションとして、例えばビットコインとかイーサリアムというものがあります。これは、中身がすっからかんで、後ろになんの裏付けもないものですと。従来、これを主として仮想通貨と言っていました。
ところが今、「これにいろんなものを載っけられないか」ということで、いろんなチャレンジがなされています。ただ、いろんなものを載っけた結果、昔はただのデジタルデータで、中身もすっからかんだから(価値は)なんでもないだろうというかたちだったのが、なぜか(投資家が)投機して、値段がすごく上がっちゃったわけですよね。仮想通貨の価値は、一時期、全世界で90兆円ありました。今は3分の1ぐらいの、たぶん30兆円ぐらいになってますよね。
ところが、そこに、裏になにかを載っけるという。(例えば)金を載っける、商品を載っけるという話になった途端に、これまでの伝統的な規制へ、もろに入ってきちゃう。裏側に有価証券が入っているセキュリティトークンがありますけど、これ(仮想通貨)は、どう考えても裏に有価証券が入ってるんだから、これも有価証券ですよね。
だとすれば、「有価証券の規制を受けなくていいのか」「インサイダー取引(の規制)がなくていいのか」「相場操縦をしていいのか」という話になる。これはちょっとまずいので、そこの(規制に関する)部分……裏にモノが載っかったものに対する議論は、新しい議論として、しなくちゃいけない。
今のところ日本の仮想通貨法は、基本的に、裏にモノが載っかっていない……つまり、空っぽのビットコインとかイーサリアム、リップルとか、そういうものに対応するものだということでお話をします。
2015年に「FATF(Financial Action Task Force)」という、国際的なマネーロンダリング対策をやる機関が、これについてガイドラインを出しました。各国はこれを取引する業者をきちんと登録して、ちゃんと実名制で取引をさせてくださいという内容です。
岩下:仮想通貨は、仮名あるいは匿名で取引できるのがメリットだと、つくった人は考えたんですけど。取り締まる側からすると、匿名で取引されちゃうと、マネロンの対象になってしまう。あるいは、さまざまな脱税のリスクがあると。そういうことを避けるために、例えば廣末さんのところでは、ちゃんと実名で、「『KYC(Know Your Customer)をやってくださいね』ということを徹底しましょう」と言ったのが、2015年の「FATF」です。
この「FATF」の指針を一番真面目に受け止めて、一番最初に法制化したのが日本です。できたのが仮想通貨法、改正資金決済法です。これを議論してた頃は、実はビットコインは(1BTCが)200ドルとか300ドルぐらいで、大したもんじゃないなと思ってたんですよね。だから、「そういうの(仮想通貨)でチャレンジしてみることを、ちゃんと法制化しましょう」ということをやった。
ところが、これが実際に法律として、2017年の4月に施行されたんですが、その後、ものすごい勢いで仮想通貨(の価格が)上がっちゃいましたよね。仮想通貨全体で、50倍に上がっちゃったんです。そうするとやっぱり、前と理屈が変わってきちゃう。
つまり、最初に仮想通貨の議論をしてた時は、「イノベーションのために、新しいことにチャレンジしましょう」という話でよかったのが、すでに上がった後……今年の頭ぐらいのイメージでいくと、日本の国内で投資してる人は延べ360万人、たぶん資金額は何兆円かに上ってると思います。これ、(確かな)金額はわかんないですけどね。
それだけのものを、主に仮想通貨交換業者が預かってる。彼らが持ってるから、ネムは580億円も盗まれちゃったわけですよね。これはたぶん、ちょっとした金融機関と同じぐらいの規模になります。金融機関は、ものすごい規制と頑丈なシステムで守ってますが、多くの仮想通貨交換業者は、クラウドの上にシステムを構築してるだけです。となると、「これでいいのか?」という議論が出てくるわけですね。
それで、「実際にどういうことをやってるか、チェックしましょう」という議論が、やっぱりコインチェック(のネム流出)以降に出てきて。その結果、「もし同じことが起こって、消費者の被害につながったら大変だ」と。今、一生懸命になって、仮想通貨業者に対してチェックを行っていて、新規参入しようとしている人たちには「大丈夫ですか?」と念押しをしてると。そういう状態にあるというのが、現状の私の認識です。
高島:なるほど。当然、それだけの方が大きなお金を預けて、それだけ多くの方が利用されてるということですから、そこに対して当局がチェックをしていくということは、流れとしてはわかるわけなんですが。
増島:実は日本が(法制化などで)先行してますという話をしましたけど。同じぐらい、もうちょっと早く先行しているのがニューヨークで、「ビットライセンス(ビットコイン事業者に対する法律)」というものがあるんですね。
ニューヨークで起こった仮想通貨に関する事項としては、けっこう厳しい規制を置きましたと。(厳しい規制をした)途端に、ニューヨークから仮想通貨のマーケットはなくなりました……みたいな(笑)。けっこう厳しいスタンダードを取りにいかないと、取り扱えませんという状態になりました。
金融の中心地みたいなところなので、ああいうスタンスを取らないと持たない、みたいなところがあって。たぶん彼らは、それをやっているんでしょう。それで、日本もある意味、たぶん同じようなスタンスを取ろうとしていて。
「アジアの金融の中心地」だと、未だ思ってるということなんだと思うんですけれども(笑)。そうすると、やっぱり「ちゃんとしないとだめだ」ということで。まあ、「(規制をちゃんと)やりますよ」ってなった時の、民間側の対応にアドバイスをする立場としては、明らかでありまして。だいたい、「日本の外に出よう」というアドバイスをするんですね。
我々側からすると、少なくとも60代・70代よりも若い人は、アジアの金融の中心はシンガポールだと思っています。それで、シンガポールはおそらくストラテジックにやってるんですね。ちょっと、実はこれから厳しくなるんですよ、シンガポールも。
なので、全体的・世界的には、日本の規制に追いついてくるみたいなかたちなんですけれど。スタートアップの世界は時間対効果を常に狙いますから、規制ができる前にまずやって、ユーザーを広げて、マーケットを先に取るのが、勝つ手段ですよね。メルカリさんなんかは、それで勝ったわけですから。
そうすると、「まだいけるところはどこだ?」「けっこう使いやすいところはどこだ?」と真剣に探して、「そこを起点に、仮想通貨戦略を練りましょう」というかたちに切り替えていく。
日本のマーケットからお金を取りたいのであれば、日本のルールを守らないとしょうがないから、それはやるんだけれども。それ以外の国のお金を取ってビジネスを広げるのは、日本以外の国には、全世界の国マイナス1億3,000万人ぐらいいるわけですから(笑)、「こっちのほうが、いいんじゃないんですか」みたいな話がありますと。
まあ、「インターネットですから、別にかまわないですよね」みたいな話をして、やりましょうと。現に中国なんかは、規制がすごく厳しいですけども、中国のブロックチェーン企業はそういう動きをしてますし。アメリカのちゃんとイノベーションをやろうとしてる人たちは、そうやって場所にこだわらずに、できるところでやるというストラテジックなかたちで、ビジネスをギューンと大きくしてるんですね。
それで、今は我々からなかなか情報が入ってこなくなっちゃったんで、たぶん(マーケットの拡大が)見えないと思うんですけど、世界はそれでギューッと(成長して)きてるんで、これは逆に僕らはまずいなと思っていて。今は、「(日本から)みんな出よう」というキャンペーンをしてるって感じですね。
高島:でも、さっきの岩下さんの説明でいくと、やっぱりマネーロンダリング、消費者の保護という点については、必要な改正・規制はしっかり行ったんだということからすると、いずれにせよ、方向性としては、こういった規制は必要だったのかなと思うんですが。例えば、この規制によって、逆に盛り上がるべきところがすごく押さえつけられてしまっている……というところは、出てきてないんですか?
廣末:いや、今、増島先生がおっしゃってた感度そのものだと思いますね。規制は一定以上必要だと思いますし、やっぱりルールがないと、いろんなトラブルとか問題が起こる。改正資金決済法ができた当初は、事業者とか将来のことを考えて、金融庁もある程度イノベーションスタンスだったんですけども、コインチェック以降は180度転換してまして。
私の肌感的には、「日本でビジネスをやるのは、もう厳しいかな」という印象です。ちょっと、イメージがわかりにくいかもしれませんけど、桁がやっぱり変わってしまっていて、先ほど岩下先生から「仮想通貨のマーケットは30兆円だ」と(お話がありました)。だいたい、トヨタの1銘柄を世界中で取り扱ってるぐらいの、本当にちっちゃいマーケットに、銀行や証券の基準を適用しようとしてるわけですね。
このギャップが、やっぱり大きすぎて。起こった事件は、もちろん反省しなきゃいけないんですけども。じゃあ、今いろいろこれから出てくる規制が果たされたからといって、コインチェックの問題が防げたかというと、そうじゃないんです。
そこらへんの程度のさじ加減を間違っちゃうと、日本の市場が、すっからかんになるリスクはけっこうあるんじゃないかなと思います。だって、僕もちょっと最近の動きを見てると、「大丈夫かな?」というのが正直なところです。
高島:なるほど。「今の規制があったって、あれは防げなかったんだ」というご指摘もあったわけなんですが、そういう中で廣末さんはいわゆる業界団体で、1つの組合というか、団体をつくられたというお話なんですが。これの目的はなんでしょう?
廣末:これは、大前提として、「利用者保護のための最低限のルール」をつくっていかなきゃいけない、というのが目的ですね。
ただ、これ言っていいのかわかんないんですけど、裏の狙いとしては、もともと改正資金決済法ができて、その資金決済法の中で、仮想通貨を手当てしていこうといったものがあって。例えば、デリバティブだとか、あるいは、レバレッジだとか、ちょっと金商法じゃないとカバーできないような領域も出てきてしまったんですね。まあ、トレードユースが今メインなんで。
その中で、資金決済法でカバーできないところを、業界団体として自分たちのルールをつくって、要するに、金商法的な法律をきちっと守ってこうというのが、今の金融庁の考えなので。そこを自主規制ということで、団体をつくって、そういう金商法の手当てをやっていこうというのが、裏の狙いですね。
高島:なるほど。
高島:岩下さん、ちょっと戻りますけど。今、業界ではそういう動きをしてますと。一方で、規制当局の規制は、「コインチェック(のような問題)が起きないための規制になってないんだ」というご指摘もあったんですがいかがでしょう?
岩下:もし今やってる規制でコインチェックが防げないんだったら、意味はないですよね。廣末さんのご発言、ちょっと僕自身は耳を疑ったんですけれども。「今の規制をきちんと進めることによって、コインチェックを再び起こさない」ということが我々のかけ声になっています。
そのために、例えばコインチェックの時に、何が問題だったかというと、580億円がそのまま、たった1つの秘密鍵によって、たった1つのアカウントの中に保管されていたわけですね。しかも、それはコインチェック社の持っているリレーショナルデータベースによって26万人の分が持たれていたわけですが、実際にはブロックチェーン上は、コインチェック社たった1人が1個だけ管理してる状態だったわけです。
これをわずか20数分間に秘密鍵を不正に利用されて、犯人の手元に送られ、それが15パーセントディスカウントで販売され、世界中の人たちがそれを買い漁って、15パーセントの利ざやを取ってですね。
明らかに盗品の故買であることがわかるのに、それで換金しまくって、結局500億円某が犯罪者の手に渡ったという。大変痛ましいというか、「最終的に投資家が救済されたからいいじゃないか」という議論ではなくて、本当に恥ずべき事件が日本で起こってしまったと。
これはやはり、コインチェック社がわずか71人で月商4兆円とかという、ビットコインの取引をやり、テレビで派手なコマーシャルをやって、人々を惹きつけていたということに、大きな原因があると。「内部の管理体制はどうなっていたんだ?」ということを、きちんと本当はしてほしい。きちんとしてほしいわけですが、技術的な標準が残念ながら今はないので。
我々は、日本におけるブロックチェーンのセキュリティ技術を研究してきた研究者、および一部の取引所が集まって、バーチャルカレンシーガバナンスタスクフォースというのをつくりました。
これがつい最近、インターネットのRFC(IETFが発行する正式文書)を出しまして、「バーチャルカレンシーのカストディアンには、こういうベストプラクティスで、きちんとこういうことをやってもらうんだ」という標準をきちんとつくりましたので。我々は、「もしかして業界とかに任せておくと、甘い標準をつくってしまうんじゃないか」ということを大変恐れたんですね。
(コインチェック社のような問題を)2度と起こさないということを、業界の方々には、肝に銘じていただきたいので、そのためには、業界には重い責任があり、(問題は)絶対に起こさないでほしいというのが、規制当局の思いです。
「その結果、イノベーションが(妨げられる)」という議論がよくあります。もちろんイノベーションも大事です。しかし、被害者を出さないこと、犯罪を起こさないことも大事です。(イノベーションと安全対策の)両方を上手に両立させてほしいというのが、規制当局としての願いです。
高島:じゃあ、今、技術的なお話もけっこう出てきたと思うんですが。FinTechとか仮想通貨の話が出てきたそもそもの前提でいくと、例えば、ブロックチェーンとか、そういう支える技術の進歩によって、安全な取引ができるから、こういう信用度の極めて高いものもオンラインで(やり取り)できるようになったのが前提にあったから、安心してお金も預けたり、オンライン上でいろんなやりとりをしてたと思うんですが。
実は、今のお話を聞くと、「いや、けっこう簡単に盗まれるじゃないか」というような不安も持ったんですが。今、こういう仮想通貨ないしはFinTechを支える技術面でいくと、廣末さん、どうなんでしょう?
廣末:まあ、一定以上(の安全)というのが担保されているから、当然利用されているわけで。今までのコインチェックの話だとか、先日ちょっといろいろ起こりましたけども、モナコインの問題だとか、いろいろ問題が起こるわけですね。
コインチェックの問題というのは、別にアーキテクチャとかの問題ではなくて、アプリケーションの運用上の問題ですから、先ほどの私の発言にも語弊があったかもしれないですけど、規制を強くすることで、ある一定以上の防止ができるわけですね。
例えば、ネムなんかでも、プロトコルが非開示になってるようなところがあって。ディベロッパーたちが手を加えれば、そもそも崩壊するようなものというのが許されたりしてるわけで。だから、必ずしも運営側の規制を強化をすれば、事故が全部防げるのかというと、そういうわけじゃないんですね。
なので、それは、多方面でいろんな要素があるので。我々は、事業を開始してからそういうことって一度もないですけども、けっこう細部に渡ってチェックをしないといけない。ただ、あまりにも金融的なアプローチで規制をやったとしても、必ずしも、そのような規制は万全ではないと僕は思ってて、それはやっぱり程度の問題ですね。
イノベーションを阻害して、後々の産業の発展を妨げるのか。あるいは、規制を重くして、「利用者保護」という大義名分があまりに大きくなりすぎて、そこの将来を取り損ねないかと。今は、けっこう大きな岐路だと思います。
高島:できるだけこのセッションでも、今後の明るい未来を話していきたいと思うんですが。要するに、こういった仮想通貨ないし、FinTechのいい部分、強い部分は、「これまでできなかったことができるようになる」といういい部分と、「(これまで大きな組織とコストをかけて築いた)今の金融システムが異常に強固にできてる」というところの、いい面同士を掛け合わせているところだというような、FinTechとしての動きもあると思うんですが。
高島:増島さん、例えばスタートアップと金融機関との、コラボレーションとか、こういう動きで最近のおもしろい話ってあります?
増島:海外の伝統的な金融の人たちは、なかなかこうクリプトに興味はあるんですけど、やっぱりAML、いわゆるマネロンリスク、マネロンリスクを横断的に見てみると、「やっぱクリプト危ねえ」ってみんな思ってるわけですよ(笑)。
なので、海外でクリプトビジネスをしようとする時に一番引っかかるのが、銀行口座が開かないってやつなんですね。ほとんどやっぱ開かないみたいで、これによってビジネスできないみたいな人がいっぱいいるんです、みたいな感じになってますと。
日本は、「伝統的に」って言うと変ですけど、まあ、日本語ですとちょっとあれなので、若干このAMLとか、ここのマネロンについての認識が、これは当局も実はそうでしたし、伝統的な金融機関もそうなんですけど、けっこう甘いんですね。
で、IMFみたいな人たちは「おまえら、ちゃんとやれよ」と(笑)。「でっかい国なんだから」って言って怒られるみたいな、こういうふうな状態になっていて。怒られるもんですから、「ちょっとがんばろう」みたいな感じに今なってるんですよ。
逆に言うと、伝統的な金融機関の人たちも、上の人も含めて、クリプトには神話的な目線をけっこう持っちゃってますよと。いいか悪いかは別として、(そういう目線を)持ってますみたいな感じになっていて。
そこ(金融機関の人たち)と、このスタートアップの人たちが、「なにかコラボしますか?」というと、なんかコラボができちゃう。これも先ほど言ったように、いいか悪いかはちょっとわかんないんですけど、できちゃうみたいなところがあるんです、ということですね。
それが、逆に「まずいんじゃないか?」という目線ももちろんありまして。そういう人たちは、「危ない」と言って、止めにかかりたいと思っているような状態なので。単に前向きに、「目線合わせてやりましょう」という感じでもたぶんなくて。
クリプトの事業者さん側もそうなんですけど、世界ですごくでかい(組織の)人たちは、一言目には「セキュリティ」って言うんですよ。ここは本当にエンジニアを大量に集めていて、別に規制はないんですよ。規制はないんですけど、「ここをやられたらアウトでしょ」というのをわかってるんで、「すごくロバストな仕組みを敷いてるんです」みたいな状態になってまして。
で、どちらかというと、このセキュリティって、ガバナンスとテクノロジーでやるんですけど、わりとテクノロジーに寄ったかたちをつくる。金融の人はガバナンスで、守ろうとするんですけれど、テックに寄せて、こんな状態になってるんですね。
日本はたぶん、ガバナンス側もできてないんじゃないかなと思うんですけど、テックのところも、ちょっと事業者さんが「弱いかもしれません」みたいなところがあって。
そういう「ちょっと弱いかもしれないね」って思ってるクリプトのビジネスの人と、マネロンに関して、ホワホワした認識の伝統的な大企業さんが組むという話になると、変なことが起こる可能性はあって。そのあたりをたぶん岩下先生とかは気にされてるのかなと感じるので、善解すれば思います。
高島:さて……。
増島:(笑)。
高島:いやいや、いいんですよ(笑)。「なるほど」って言ってる方と、途中からわからなくなってる方がいらっしゃったんで(笑)。
(会場笑)
途中からでもみなさんが入ってこれるような、進行をしていきたいと思います。
(会場笑)
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