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【自分の人生に集中する生き方】Live Your Life(全3記事)

「人は1日4時間しか集中できない」 メガネでパフォーマンスを変えるJINSの挑戦

2018年6月27日、早稲田大学日本橋キャンパス WASEDA NEOにて、「自分の人生に集中する生き方 Live Your Life」が開催されました。集中力を計るデバイス『JINS MEME』と、集中力を高めるワークスペース『Think Lab』の開発責任者である、株式会社JINSの井上氏が登壇。従来のメガネの枠を超えた、集中力や予防医療などにつながる新たなIoTデバイスの可能性を提示します。本パートでは、『JINS MEME』や『Think Lab』誕生の背景を語りました。

メガネ屋のJINSでデバイス開発を手掛ける井上氏

司会者:本日はお越しいただいてありがとうございます。今回みなさんの机の上に置いてあるパンフレットは、「人生100年時代を生きる 人間再開発」ということで、ライフ・シフトがテーマになります。

いま、実質的な働き方だけではなくて、新しい働き方や生き方がどんどん出てきています。(WASEDA NEOでは)このなかで、自分たちはどう生きていくべきなのかを考えられるような講座を一週間かけて開催させていただいております。

今回の(講師である)JINSの井上さんは、『集中力 パフォーマンスを300倍にする働き方』という本を書かれているだけでなく、働き方改革自体に注目されていることもあってお迎えさせていただきました。

集中力 パフォーマンスを300倍にする働き方

1時間半という短い時間ではありますけれども、ぜひいろいろとお話をうかがいながら、みなさんに考えていただければなと思いますので、どうぞよろしくお願いします。

(会場拍手)

井上一鷹氏(以下、井上):よろしくお願いします。僕がかけているこれ(メガネ)は、「JINS MEME」というデバイスです。この通り、普通のメガネをかけているだけに見えるんですが、Bluetoothという通信でスマートフォンとずっと繋がっています。

僕がいついかなるときに集中しているか、いつ眠くなったかなどを、目の動きから推定して、それをライフログにするようなビジネスをやっています。「JINS MEME」の事業責任者をやりながら、「JINS MEME」で集中を計ることができるということで、今まで日本で延べ5,000人くらい(の方)が「JINS MEME」をかけてきたんですね。

「人はどういう状況になると集中できるか」というデータが集まってくるので、世界で一番集中できる空間をつくるのは、実は僕らが一番強いんじゃないかと思ったんです。

メガネ屋のJINSがこういうデバイスをつくるだけでも、みなさんが想像つくぐらいけっこう投資がかかっているのに、もっと張り切って、世界で一番集中できるワークスペースまでつくっています。その2つの事業の責任者をやっています。

そして、今日はJINSのスドウさんが見に来てくれていて、こんなに話しにくいことはあんまりないですね。ちょっとそんな感じです。

(会場笑)

人は1日4時間しか集中できない

「JINS MEME」と「Think Lab」の話を基本にさせていただきますが、「JINS MEME」はいま申し上げたとおり、この(一見)普通に見えるメガネで、まばたきと目の動きと姿勢をずっと測っています。

「人は1日4時間しか集中できない」と言われているので、「JINS MEME」によって、その4時間という有限なリソースをどこに割けているかをライフログに残すようなアプリケーション(の提供)を始めています。

それを通じて、世界で一番集中できるスペース「Think Lab」を、去年の12月1日にオープンしました。飯田橋にあるので、これもぜひ見に来ていただけるとうれしいです。

自己紹介も本当に簡単になんですが、もともと経営コンサルティングファームにいて、いわゆるメーカーの事業戦略などを見ていたんです。月並みな話ですが、外部からコンサルティングというかたちではイノベーションは起こせなくて。「起こせた」という実感が一回もなかったんです。やっぱり自分でやってみたいなと思って、JINSに入社しました。

僕がJINSに入社したときからいまもずっと思い続けていることが、「イノベーションの条件」です。僕の中では、マーケティングのセンスと技術の目利きと投資判断、この3つが4人以下のチームにしっかり集まって、すぐPDCAが回っていることが条件だと思います。十分条件ではないですが、これが前提条件ですね。

それがいま日本の中で整っているのは実はJINSかなと思って入社をし、こういうハードウェアのイノベーションをずっと繰り返してやってきています。

そして、こういう働き方改革のような話で講義をさせていただく……講義でもないのですが、講演をさせていただく機会が多くなってきたので、副業解禁の時代の中で僕もなにかしなきゃなと思って、自分が一番強いところの本(『集中力 パフォーマンスを300倍にする働き方』)を出したり、(NewsPicksで)プロピッカーをやっていたりします。

メガネではなく“集中できる体験”を売る会社

うちの会社で言うと、いわゆるメガネというハードウェアを売る会社だったのが、例えば、集中という切り口で体験やUXを売る会社になっていきたいなと思ったのが1つです。

そして恐縮なんですが、僕はあくまでも講義だとはぜんぜん思っていないです。なぜかと言うと「JINS MEME」も「Think Lab」も、事業としてはまだまだ黒字が出ているようなものでもないですし、イノベーションとしてちゃんと重要条件をクリアしていないんですね。

今回、日本初のライフシフトをつくるという話で機会をいただいたので、僕なりにこういうハードウェアの小売から一気に事業を革新する、違うものにしていくという流れの中で、僕がずっと悩んでることをそのままお伝えしたいと思います。

それがみなさんのライフシフトと、ライフシフトをするような事業の新規事業のつくり方の、何かの一助になればなと思ってお話をさせていただきます。なので、悩みのままなことはけっこうあります。

一応60分くらいお話をさせていただいて、その後、僭越なんですが、この時代に重要だと思うことを簡単にまとめてみたので、それを受けてみなさんが、例えば「来週からこういうふうに変えてみよう」というブレストをしていただけるとうれしいなと思っています。

まず、うちの会社はよく「JINSがなんでこんなことをしているの」と聞かれます。(スライドを指して)データが古いので恐縮です。すごく手前味噌なんですが、目の悪い方に視力矯正という普通のメガネを提供するだけだと、ほぼそろそろこうなんですね。

それはもう、衣料品領域におけるユニクロさん+GUさんより商品点数シェアがすでに高いんです。そうすると、シェア100パーセントはありえないので、うちの会社では事業規模としては、たぶんこのまま、国内だと1,000億円ぐらいが頭打ちなんですね。そうすると、市場の期待である株価に絶対に応えられないんです。

メガネは730年間イノベーションが起きていない

例えばそれを1つの切り口として、これはご存知の方も多いと思いますがJINS PC、今は「JINS SCREEN」と呼んでいますが、目が悪かろうが悪くなかろうが、目を守るというものです。

パソコンやスマホから出るブルーライトを選択的にカットして目を守るという切り口。これもすごく手前味噌なんですが、最初の4年ぐらいに800万本ほど売れていたので、メガネの市場ではけっこう珍しいイノベーションが起こせたかなと思います。

もう一方で当然海外展開をしていて、中国がいま100店舗を越えています。これもうちの事業の拡大の要素としてはあります。

私としては国内の従来のメガネを海外に展開していくという方向と、国内でも新しい付加価値を生んでいく、上の矢印のミッションを持っている人間になります。

メガネにそんなに興味はないと思うんですけれど、メガネは730年前にイタリアで発明されたと言われています。これは僕らがリーチできた一番古い絵画なんですが、見ていただくと、今おかけになってるメガネとなんにも変わってないんです。

世界、例えば日本で言うと1日1回でもメガネに触れる人は7割います。それだけ身近にあるものなのに、730年間イノベーションがぜんぜん起きていない。僕は数ある身近なもののなかで、メガネは一番イノベーションが起きていないと思っているんですね。こういうものに対してしっかり、なにか新しい付加価値を探したいなと思っているのがうちの会社です。

そこで出会ったのが「JINS MEME」です。「JINS MEME」は、先ほど申し上げたとおり、まばたきと視線移動、目の動きと姿勢(のデータ)を取っています。これもちょっと手前味噌なんですが、『IoT大全』と呼ばれるところで、一応、目の事例の一番に挙げていただいたりするので、一番というわけではないですけれども、それなりに注目をいただいているかなと思っています。

『IoT大全』

デバイスにかけるメガネ屋ならではの心意気

技術的な説明を簡単にお話しすると、任天堂DSの「脳トレ」の先生である、東北大の川島隆太先生に教えていただいた技術で、眼電位の検出技術というものを使っています。なにかと言うと、僕らの眼球は黒目側がプラスの電位を持っています。電池のプラス極なんですね。

そのため、メガネの内側に電極が3つ付いています。例えば、この鼻パッドの部分に電極が付いて、左を向くと、プラス極がここに近づくんですね。それによって、左見た・右見た・上見た・下見たというデータを取れる技術です。

目の動きのデータを取ると、目は口ほどにものを言うので、心理状態や生理現象などを見える化できるんじゃないかとずっと言われています。目の動きを一番素直に取ろうと思うと、カメラなんですね。でも、例えばスマートフォンは「JINS MEME」の20倍以上の電池容量を積んでいても、カメラ・CCDをつけっぱなしにすると電池がすぐへたってしまいます。

メガネに本サイズでこの重さのものを取り付けるためには、かなり消費電力を下げなければいけないので、こういう技術を採用しました。そんなかたちです。

一応、社長が言ってしまったのであれなんですが、来年ぐらいに普通のメガネに取り付けられる可能性が技術的にも出てきました。これ、外で話すと「もうこれは普通のメガネですね」と言われるんですが、メガネ屋の中だと「お前、よくこれをかけられるな」と言われます。

(会場笑)

「こんなもんメガネじゃねえ」と言うんですね。それは僕らも真摯に受け取ったほうがいいと思っていて、メガネを毎日ずっとかけている人にとっては、まだまだストレスなので、本当に普通のメガネにするという技術革新を再度しています。これを言うと買い控えが起きるので、あんまり言わないでください。

(会場笑)

目の動きでトラックドライバーの眠気や高齢者の健康状態も分かる

この三点で上下左右の目の動きを取るのが、うちが独自に特許も含めて押さえているものです。

(スライドを指して)これはうちのチームで一番つぶらな目のヤツですが……これを覚える必要はないですよ。みなさんがまばたきをしたとき、実は目が一回上に上がって戻っています。薄目にすると白目になるのは、目が上転しているからなんですね。いろんな説があって、話すと長いので一回止めます。

上に上がって戻った信号を取って、何回まばたきしたか、強いまばたきなのか弱いまばたきなのかを分けています。これが強いです。こういう状態は、ゆっくりで弱いですね。

これで何がわかるかと言うと、1つのアプリケーションとして、例えばトラックのドライバーやバスのドライバーにこれをかけていただきます。眠くなってくるとまばたきがどう変わるかを簡単に言うと、弱くなり遅くなるんですね。

トラックドライバーの方から、延べで3万時間くらいのデータを取ってカメラで突き合わせて、じゃあこの状態が眠いであろう、と推定のアルゴリズムを積んで、スマートフォンから起こしてあげたり、管理者に繋いで労務管理に使ったりしていただくというソリューションをつくっています。

こちらも一応国交省の補助金対象にはなっているのですが、まだまだメガネが(ずっとかけていると)痛いので、トラックドライバーの方はそういう管理系のものを与えられると1日目に壊すんですね。

(会場笑)

その難しさはありつつも、こんな事業をやっていたりします。GPSデータと合わせるとけっこう国交省が喜ぶようなデータになって、どこだとどの道路が眠いか、という情報がわかってきたりします。

もう一個が加速度・角速度センサーという、スマートフォンに入っているデバイスと一緒のものがメガネにも入っています。これがメガネに入ることには意味があって、スマホはこうやって(液晶を下に)置いているかもしれないし、こうやって(液晶を上に)置いているかもしれないし、ポケットに入っているかもしれないですよね。つまり、どれか正しいという位置がないんです。

メガネは絶対にこのかたち(水平)でかけます。起きている時間で言うと、99パーセントは立っているか座っているので、(メガネは)地面から一番遠い場所で、絶対にこのかたちでいるんですね。

そうすると、「この状態(メガネが上を向いている状態)でスマホを見ているんだな」ということがわかるんです。こうやって歩いていたら、顎が上がりがちになっています。例えば1日ずっと高齢者のデータを取って、左に2度ずれている高齢者がいたら、膝を壊しているんですね。ということで、加速度・角速度センサーがメガネにあることには、けっこう意味があります。

スポーツジム×JINS MEMEでランニングフォームをチェック

(スライドを指して)これは今やっているアプリケーションで、ランナーさんが走っているときにとる進行方向です。走っているときに重心がどこにあって左右前後にどう振れているかをずっと測って、トレーニングのツールに使っていただいたりしています。

それから、これがずれ続けると怪我をします。だから、日本でランナーさんは1,200万人いると言われているんですが、走るのが趣味なのに半分ぐらいの時間は怪我をしているという人が多いんですね。あんまり学ばずに走っているので、それを補助するツールをつくっています。

こちらに関しては「ライフ・フィットネス」というランニングマシンの世界シェアを4割ぐらい持っている会社さんと組んでいます。ランニングマシンは、と走るときはテレビを観ているだけなので暇ですよね。

「JINS MEME」をかけると、自分の姿勢がどうなっているかがそのコンソールに出る、というものもつくっています。

これが一応ルネサンスさんという、日本で三番目に大きいジムに入っていて、ルネサンスさんで「メガネを貸してくれ」と言うと、これを貸してもらって自分の姿勢を測りながら走ることができます。

もともとは「JINS MEME」を経て何をしたかったかと言うと、身体の量的なデータを残して……万歩計ですね。何歩歩いたかを教えてくれるので、メタボにならないためにどれぐらい活動量を上げるかというインフラはこれで整っているんです。

つまり、「JINS MEME」ができることは身体の量的なデータだけでなく質的な姿勢がわかるので、メタボリックシンドロームではなくて、ロコモーティブシンドロームに使える。

これもみなさん話半分で聞いていただきたいと思います。厚労省の人と話していたことで、厚労省は2000年ぐらいにメタボリックシンドロームという言葉を流行らせました。潜在で3,300万人いて、この言葉を流行らせて、内科医経由で万歩計を配ったりしたんですね。

日本人の高齢者は真面目なので、本当に毎日1万歩歩いたんです。そうしたら、痩せたんですけれど、膝を壊して整形外科医が混んでいるんです。そういったことがあって、今度は2013年ぐらいからロコモーティブシンドロームという言葉を流行らせはじめました。整形外科医行きの疾患が問題だと言っているんですね。

つまり、データを見える化して選択を変えることをしても、本質的じゃないデータを残すと、むしろ問題を悪化させる可能性があるんです。メガネというかたちでもっともっと包含してデータを残せるかなと思ってつくっています。

認知症や生活習慣病の対策につながるメガネを目指す

身体の姿勢だけでなく、どれだけ脳を活動させているか、精神疾患になってないかといった、メンタルやマインド寄りの研究を進めるなかで、認知症対策や精神疾患などの生活習慣病に対して、このメガネをかけていれば対策ができます、という世界をゆくゆくはつくりたいと思って始めました。

でも、こんな話を実現するには絶対に20年はかかるんですね。証明するのに疫学データと呼ばれる、「この状態だったら認知症なんだ」というものを集計するのは、ものすごく時間がかかるんです。メガネ屋であるJINSが20年間もずっと収支を出さずにそれを続けることはできないので、もうちょっと目の前のニーズにピボットしながら進める、というのが僕のビジョンです。

そこで、どんなことをしてきたかという経緯をパラパラと話しますね。意外と時間がかかっていて……かかるに決まっているんですけれど。僕が入社したのが12年の1月で、その半年前ぐらいにこのアイデアをいただきました。発売したのは3年前の11月なので、そもそも4年半ぐらい開発に時間がかかっています。

ちょっと興味があるかはわかりませんが、僕が入社したときはこの基本特許をやっていただけで、JINSは小売りなんですね。しかもローテクな商材しかやったことがなくて、研究開発なんてしたことがなかったんです。

本社でたぶん200人ぐらいいて、R&D(Research and Development)がなんの略かわかってるヤツはいまだに半分もいないです。そういう環境なんですね。大変だと言いたいわけじゃないですが、そのなかで商品開発するのはけっこう大変です。

こういう見た目の意匠デザインは技術的に持っていましたが、すべての技術レイヤーに関してのエンジニアは、うちの中には今の時点でもいないので、全部がオープンイノベーションで進めなければいけないという環境にありました。

そんな中でやってきたのは、器用なデザイナーに「何のために使うの?」と聞かれても「ちょっとそれは……言えないけれど」と言いながら、こういうちょっと大きめのメガネに彫ってもらって、配線を背負って、「井上さん、かけてみて」と先生に言われて、まばたきをしたら「あ、出たかも」というようなことをずっと繰り返して開発をしてきました。

ウェアラブル技術の新たな活用方法

ご興味があるかわからないですが、今とある電子部品メーカーさんにアッセンブリまでやってもらっているんですね。すごく一線級のプレイヤーにエンジニアとして入ってもらっています。プレイステーション3のコントローラーのプロジェクトマネジメント、プロジェクトマネージャーを張っていただいたんですね。

その会社の中のトップのエンジニアを張ってくれているんですが、これはなんでかという話を最近飲みながら聞いてみたんです。リアルで、けっこう部品供給なので、みなさんも知っている世代じゃないかな。

携帯のセットメーカーやキャリアから「どんどん小さくしろ」と言われて小型化のための研究開発投資と設備投資をしてきたのに、2006年ぐらいから「別にそんなにデバイスは小さくなくていいよね」と言われて、結局これを償却できていないんですよ。

それで「ウェアラブル」という言葉が流行ったんですね。ウェアラブルは、もっともっと小さくする技術の逃げ口が欲しいです、という言葉です。一応JINSというメガネ業界でマーケット側としてニーズを一所懸命つくり続けてきた会社がこういう案件を持ってきたので、おもしろそうだと言って、張ってくれたりしています。狙ってやったわけじゃないですが、そういう力学の手助けをして、これはつくられています。

もう1個は、メガネ屋でR&Dというのはたぶん世界初でつくっていて、いろんなアカデミアさん、川島先生含め眼科の先生、元AIやVRをやっているような先生と一緒にずっと研究を繰り返してきました。まばたきや自然移動がどういう意味を持つかの研究までは、ずっとオープンイノベーションの中でやってきたんですね。

メガネのかけ心地やデザインはノウハウの塊

ここでけっこうリアルに話し始めたのが、うちはもう商社なんじゃないかということです。結局なんの付加価値を自社で持っているのか、プロデュースしているだけじゃないか、となったんですね。「あれ? うちは投資だけ?」という話になって、じゃあ付加価値を改めて定義しなければいけない、ということをふわふわ議論し始めたのがこの辺です。

それで、僕らが1つ絶対に強みとして持ち続けなきゃいけないなと思ったのが、デザインの話です。うちの社長がAudi好きだから、AudiのA6の和田智さんという意匠デザインなどの電気工学的な工業デザインに特化した人を連れて来たんです。

でも、やっぱりメガネにするとなるとけっこう難しくて。GoogleやFacebookが一所懸命つくろうとしても、Intelも一回やったんですが、どこがやってもメガネ型にするとかけていられないデザインなんですね。意外とかけ心地や、ふだんの見た目が普通の状態であるというのは、わりとノウハウの塊なんです。

なので、うちのデザイナーと一緒に意匠系、見た目やかけ心地と工業デザインとしてしっかりパッケージできるか。この3つのデザインをしっかり社内で内包しろと。ここでは絶対に負けないようにするということを1つ決めました。(オープンイノベーションでも)この件は外に出さないということを決めました。

それ以降はまたアプリ開発やシステム開発は協業先とやってきたんですが、一番最後、サービス開発は単なるオペレーションだと難しくて。業務委託だと難しいんですね。

なぜかと言うと、これ(JINS MEME)で居眠り運転防止ができますということになって、メガネ屋のJINSの人間が運送会社に行って「これで明日から居眠り運転防止してくださいね」と言っても、まったく無理なんですね。なので、BtoBが一番最初の市場になる以上、最後のラストワンマイルのサービスの開発に関しては協業先を見つけないと、どうしてもうまくいかない状況になりました。

「売れる商品」がクリアしている3つの条件

ここがまたうちの会社の特別なやり方だと思っています。発売の目処がまだぜんぜん立っていなくて、結局1年半かかった14年の4月の時点で、「こういうコンセプトのメガネを売り出します」という発表会をうちの社長にしてもらいました。

JINSはそれなりにコミュニケーションやPRに関しては尖ってきたので、一応これだけでメディアは120人ぐらいで、広告換算価値が6億ぐらいになったんですね。何のためにやったかと言うと、結局ドライブ領域で言うなら「JINSがそんなコンセプトのメガネをつくるから、みんなこれのサービスをつくってくださいね」ということで、「この指とまれ」をやったんですね。

それで、この1年で、デンソーさんやオムロンさんなど、けっこうビッグプレイヤーが200社ぐらい話しかけてくれたりしたので、そういうところに力を入れてきました。うちはファンクションでの勝負はできないので、「“ストーリーとしてこういうものをつくる”と世の中に対して提言できるんじゃないか」という、PRに注力しながら強力なパートナーを見つけていくようにしてきました。

それによって、ドライブ、フィットネス、オフィスという領域をやっています。僕らの付加価値は、デザインとストーリーかなと思ったんですね。それから、濱口秀司さんという、USBフラッシュメモリを開発した人と話をしていて、彼の言っていることに近いなと思ったことがあります。

まるっきりのメーカーだとファンクションで勝負することを基本とするんですけれど、今の商材やサービスでうまくいっているのは、ひと目でわかり、ひと言で言えて、誰もが語れるストーリーが後ろ盾になっている。この3つの条件をクリアすると売れると言われています、ということです。

(スライドを指して)そのときに、ここだけは外に出すけれど、上と下に関しては自社で絶対につくり続けるということが僕らの決めごとになりました。そういうふうに開発をしてきました。

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