2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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まつもとゆきひろ氏:人類は25年経っても、そんなに変わりません。昨日おもしろい話を聞いたんです(笑)。足の小指の骨が、1つ少ない人がいるんですって。よくタンスにぶつけますよね。あのせいかもしれません。
だから、最近の教科書は、「人類の骨の数は204」って書いてないんですって。「202~204」とか、幅があるんだそうです(笑)。過去、人類は靴を履いて、あんまり足を使わなくなったこの数百年とか数千年の間に、進化して骨が1本減ったわけですけれども。
そうは言っても、生物学的には25年スケールではあんまり変わらないんですよね。ただ、文化は若干変化する。年寄りになると、若者の文化がわからないみたいなことになるわけです。
あと、文化の変化というのは環境への適応とか、心理的障壁の克服によって登場するわけです。そうすると、「コンピュータは難しい」って言ってる年寄り連中の次の世代は、むしろ「コンピュータは楽しい」と思うようになってきました。
これはもっと先に進んでほしいな、と思います。みんなが「コンピュータは難しすぎて触れない」ではなくて、「コンピュータはものすごく楽しい」「コンピュータに何か『やってくれ』ってお願いすると、ちゃんと言うことを聞いてくれて、私の仕事を楽にしてくれる。私を楽しませてくれる」と。
そういう「楽しい」が当たり前になってほしいと思います。そのためにはもっとコンピュータが賢くならないといけないし、コンピュータとのコミュニケーションも、もっと的確にできるようにならないといけません。
さらに、コンピュータと話すためには、自分の頭の中にあるアイデアを、ぼんやりしたものではなくて明確化する必要があるわけですけれども、そういう思考のツールとしてのRubyが働いてくれるといいな、と思いますね。
Rubyの価値の本質というのは、プログラマーはいつもコンピュータと向かい合ってるので、コンピュータのために、コンピュータにとって便利なようなソフトウェアを開発することが多いんですが、そこは頑なに、人間のほうを向いてRubyをつくってきました。
ですから、Rubyはコンピュータのためではなくて、人間がコンピュータを使うための言語として誕生しましたし、これまで成長してきました。これはこの次の25年にあっても、まったく変わらずにそうあってほしいと思います。
さらに、プログラムをする誰か特別な人のためではなくて、私たちのRubyとして、私たちみんながRubyを使って、プログラミングの楽しさを享受できるようになるといいなと思います。そして25年間、文化やテクノロジーのさまざまな変化があると思いますが、それにもキャッチアップしていけるようになるといいな、と思っています。
Ruby25周年にあたって、いろんな方々からメッセージをいただきました。初めての驚きではないんですけれども、やっぱり「Rubyありがとう」とか「Rubyが好きです」「Rubyは私の一番の言語です」みたいなことを言ってくださる方が、本当に多くてびっくりしました。ソフトウェアを愛するって、どういうことなんでしょうね?(笑)。
(会場笑)
「プログラミング言語を愛するって何だろう?」って思って、私も未だにわかんないんですけれども。
というのも、私はRubyをつくったので、Rubyは私の作品なわけですよ。だから、画家が自分の絵を愛したり、彫刻家が自分の彫刻を愛したりするように、Rubyに愛着があるのはむしろ当たり前ですよね。ところが、みなさんはRubyをつくったわけではないですよね。なのに、みなさんはRubyが好きなんですよ。不思議。なんで?(笑)。
(なんでかわからない)けど、もうRubyは本当に愛されてると思います。Rubyを愛してる人たちが集まってるこのRubyのコミュニティは本当にすばらしいと思います。未だに私は、みんながなんでRubyを愛してるのかわかんないですけれども(笑)、ただ、その愛してくださってることそのものについては、本当に感謝してますし、本当にありがたいと思ってますし、本当にうれしく思っています。「愛はすべてを変える」という言葉もありますけれども(笑)。
Rubyは25歳になりました。だいたい、いい歳ですよね。大人だがまだ若い感じで、未来がある感じがあります。未来があるので、未来をつくっていこうと思います。むしろRubyそのものが変化することはないので、私たちがRubyを成長させて、未来をつくっていく必要があります。Rubyをつくる未来、Rubyでつくる未来です。
25年、Ruby(づくり)をがんばってきました。「これからの目標は何ですか?」「今後の目標は何ですか?」って聞かれることが多いんですけれども、私の最大の目標は、サバイバルすることです。
プログラミング言語の中でも、やっぱり変化を止めてしまって、だんだん使われなくなってしまった言語、もちろん資産はあるので、ごく一部の人は使うんだけれども、ほとんどの人は使わないようになってしまった言語というのは、いくつもあります。Rubyが変化を止めてしまうと、同じようなことになると思うんですね。でも、私はそれはイヤなんです。
Rubyをつくりました。Rubyのことを本当に大好きなので、Rubyがみなさんを助けて、社会に対して大きな影響を与えたり、あるいは、加藤先生がおっしゃるように、次の言語に対して大きな影響を与えたりしてるのを見るのが、本当に好きなんです。せっかくRubyをつくったんだし、Rubyがあるんだから、これからもそうありたい、と思っています。
そのためにも、Rubyコミュニティとして、Rubyにサバイバルしてほしいんです。オープンソースのコミュニティは、ごく一部のフルタイムコミッターを除いては、別にRubyの開発に関わったから、Rubyを使ったからといって、特別な給料が出たりすることはないんです。
Rubyのソフトウェアをつくってお給料をもらってる人も、もし同じソフトウェアを、例えばPythonやPHPでつくることができたら、やっぱり同じだけ給料がもらえるんですね。それを考えてみると、Rubyに対する忠誠心を私から要求することはできないんですよ。
じゃあ、私から何が提供できるかというと、例えば知的好奇心とか、ワクワクする気持ちとか、未来に対する良い予感とか、そういうものしか提供できないんですね。でも、逆に言うと、それらの提供をやめてしまうと、Rubyの進歩は止まってしまって、つまんなくなってしまって、「なんかおもしろくないから、他の言語にいこうかな」「本屋に行ってもPythonの本しかないし」……(笑)。
(会場笑)
このようになってしまうんですね。そうならないためにも、サバイバルは重要です。
Intelの標語らしいんですけれども、「Only the Paranoid Survive」という、偏執狂的にがんばる人だけが生き延びる。生き延びるためにも、Rubyは価値を提供し続けないといけないと思いますね。Rubyの価値は何かというと、「楽しいRuby」「楽しいプログラミング」じゃないかな、と思います。
あと、もう1つ大事なことは、昨日も懇親会の後にちょっと話をしたんですけれども、最大の問題は、「私が死んだら、Rubyのコミュニティはどうなるの?」という話があって。
Rubyコミュニティのコアコミッターの人たちはRubyの開発に慣れて、いろいろと付き合ってくれてるので、たぶんみんなで頭を突き合わせながら、いろいろと考えてくれるんだろうなと思うんですけれども。
最悪のシナリオは、合議制でいろいろなことを決めるので、無難な判断しかできなくて、つまんない判断が積み重なって、「Rubyおもしろくないな」と、だんだんRubyが落ちていくという未来なんです。まあ、私は死んでるから関係ないんですけれども(笑)。
ただ、そうならないためにも、その場で話してたことは、「じゃあ、まつもとの発言を全部集めて、機械学習にぶち込んで」(笑)。
(会場笑)
「Matz botに設計させよう」というのがあったんです(笑)。そうなるかどうかはちょっとわかりませんけれども、ただ、折に触れて、「こういうふうにRubyをつくってきて、これからもこうするんだ」ということを言い続けることによって、誰か適切な後継者が現れるんじゃないかな、と思っています。
ちょっと(時間が)オーバーしましたね。今日はどうもありがとうございました。Rubyをつくり始めて25年経ちました。今度どうしましょうね? Rubyをリリースして25周年とかどうでしょう?(笑)。よくわかりませんけれども、今日は本当にご足労いただきましてありがとうございます。
私がRubyから受けたものは本当にたくさんあります。それはみなさんからもらったものなので、本当に感謝しています。また、Rubyがみなさんに与えたものも、数多くあると思います。それもどっちかというと、私があげたというよりはコミュニティ自身が、みなさんで交換しながら価値を創造したんだと思います。
Rubyが創造した価値は、本当に大きくなりました。世界中の人たちが、「Rubyで生活が良くなりました」とか、「Rubyで結婚できました」「Rubyで給料が上がりました」とか、それだけ聞くと無茶苦茶、胡散臭いんですけれども(笑)。
(会場笑)
ただ、そういうことが起きたのは事実だと思います。そういう価値は本当にすばらしいので、これからもその価値を継続していきたい。その価値を継続するためにも、私自身もRubyもサバイバルしていきたいということを最大の目標にして、これからもがんばっていく所存でございますので、一緒にがんばりましょうということでした。
本日の提供はRuby Associationでお送りしました。ありがとうございます。
(会場拍手)
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