2024.10.10
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まつもとゆきひろ氏(以下、まつもと):はじめまして。Ruby Association理事長および、Herokuとか肩書多数のまつもとです。今日は、Rubyをつくった人として、登壇しているつもりです。
Rubyの25周年が見えてましたので、昨年来、「Ruby after 25 years」というタイトルで講演をしてきたんですけれども、先ほど(高橋征義氏の講演で)言われたように、わりと過去の25年の話をすることが多かったんです。
私もだいぶ忘れてることが多かったので(笑)、「あー、そうだったっけ」なんて思いながら聞いていました。高橋さんが私よりはるかに詳細に、過去の話をしてくれましたので、「未来の話をしろ」ということで、未来のことを中心に話すことにします。
Ruby誕生25周年ということで、今日は本当にRubyの誕生日をお祝いするために、ここまで集まってくださって本当にありがとうございます。また、Twitterでも#ruby25thというハッシュタグで、たくさんの人からメッセージをいただきました。私が直接お会いして知ってる方だと、本当に世界中のたくさんの方々です。
アメリカ、台湾、シンガポール、マレーシア、フィリピン、ブルガリア、ポーランド、スペイン、あとイギリスもあったかな。インドからも何件かありましたね。私の知ってるだけでもそれぐらい世界中……。
数えてないんですけど、たぶん1,000件以上の方が、Rubyの25周年を祝うコメントをTwitterに上げてくださいました。本当にありがたいことだと思います。
Rubyのカンファレンスは本当にたくさん開かれています。一番最初は、2001年にフロリダ州のタンパで開かれた「Ruby Conference」です。9.11の直後で本当に大変だったんですけれども、そういう時に開かれたのが最初と言われてます。
実際には、1998年だと思いますけれども、日本オラクルの会議場で、「Ruby Conference」というタイトルのイベントをしたのが本当の一番最初ではないかな、と思います。参加者は30人ぐらいいたかな(笑)。この時点では本人たちもわりと冗談でしたが。
一番最初のカンファレンスですと、デイブ・トーマスとアンディ・ハントの『プログラミングRuby』、ピッケル本と呼ばれている本が出た時に、それを見て感銘を受けた人たちが、「じゃあ、みんなで集まりましょう」「遠くだけど、みんなの参加費を集めて、まつもとの航空券を買って、まつもとを呼んで話そう」みたいな会を開きました。
それ以来、毎年、Ruby Conferenceというものがアメリカで開かれています。それから、「日本でも開こう」ということで、2006年以来、「RubyKaigi」というかたちで開催しています。ヨーロッパでも、「EuRuKo」と「European Ruby Conference」というかたちで、毎年開かれています。その他にも、定期ではないにしても、本当にさまざまなカンファレンスが、先ほど名前を挙げたような国々で開催されています。
そのようなカンファレンスが、現在では世界中で1年間におそらく何十回も開かれているんですけれども、正直、私自身が「カンファレンスやりましょうよ」って言ったことはないんですよね。ただ、今回、Rubyの4分の1世紀は、本当にエポックメイキングだと思ったので、私から「お祝いしたいね」って言ったんです。
そしたら、わりと軽い気持ちだったんですけれども(笑)、私の言葉を真摯に受け止めてくださるすばらしい方が周りにいらっしゃって、あれよあれよという間に、こんなに大きくて立派なカンファレンスとなりました。(イベントパネルを指して)たくさんのスポンサーの方に協力いただいて、「大変なことになったな」と思ってるんですけれども、結果、このようにしてRubyの25周年を祝う、すばらしいイベントが開催されることになりました。
ちょうど今日、2月24日をRubyが誕生した日と言ってるんですけれども、「言語の誕生っていったい何だ?」という気がするんです。プログラミング言語の誕生とか、そもそもソフトウェアの誕生というのは、「いったいどこをもって指すのか?」ということがあります。
それで、Wikipediaのプログラミング言語のページを見ると、だいたい最初のリリースが行われた日が記録されてるんですよ。Rubyの場合は、さっき高橋さんが紹介してくださいました、Ruby0.95をNetNewsで公開したのが、1995年の12月21日になります。
しかし、そもそもRubyをご存知なかった人にとっては、世界で初めて公開されて、Rubyというものを見つけたという意味では、誕生というイメージがあるかもしれませんけれども、つくってる本人としては、それよりずっと何年も前から、Rubyに関わって、つくり続けてきたので、あんまり公開した日をもって誕生という気はしないんです。
ソフトウェアの誕生を考えた時に、ソフトウェアには物理的実体がないんですよね。触れるようなものがない。コンピュータを通じてRubyに触れ、Rubyとコミュニケーションができるんですけれども、そういう意味で言うと、ソフトウェアというものは、プログラミング言語も含めて、概念上の存在なんですね。
そうすると、すごく哲学的な質問ですけれども、「RubyはいつからRubyか?」ということです。それは、私の中で、最初からそう思ってたわけではないんですけれども、「Ruby、いつ生まれたの?」ということを考えるにしたがって、Rubyという概念が誕生した日こそがRubyの誕生日だと。
Rubyという概念は何かと言うと、おそらく、Rubyという名前が、その概念をつくったんです。
私は、もとからプログラミング言語にすごく関心があったので、とうとうプログラミング言語を自分でつくろうと決心した時があったんですね。それで最初にRubyの名前を決める時に、私の会社の先輩である石塚さんと、「どんな名前にしようか? コードネームを決めよう」と話しました。そのへん(客席)にいらっしゃいますけれども、最初のほうの『オブジェクト指向スクリプト言語Ruby』を共著してくださった石塚さんです。
形から入るタイプなので、ソフトウェアプロジェクトを始めるためには、まず名前を決めないといけないと思いました。名前がすごく重要なので、「どんな名前にしようか?」という話をして決めた日が、1993年の2月24日です。
概念というのは名前によって存在が認識されます。名前というのは概念と直結するので、Rubyを名付けた1993年2月24日こそがRubyの誕生日だということです。
「なんでRubyという名前を付けたんですか?」とよく質問されるのですが、Perlという言語があって、当時、それと同じことができるような言語をつくりたいと思っていたので、「宝石の名前を付けよう」ということですね。
それで、残った候補は、RubyかCoralか。まあ、サンゴですね。SapphireとかDiamondとか考えたんですけど、どれもスペルが長くてすごくうっとうしいので(笑)。「短い名前がいいだろう」ということで、Rubyのほうがきれいだし、短いし、高級感があるので、「Rubyにしようね」って言ったんですね。
そしたら、言った瞬間に、石塚さんが「僕の誕生石だしね」って言ったんです。
(会場笑)
いや、別に石塚さんの誕生石だから決めたわけじゃないんですけれども(笑)。
(会場笑)
その後の偶然として、誕生石ですが、6月が真珠で、7月がルビー。それから、フォントサイズにも宝石の名前が付いているんですけれども、5ポイントがパール、5.5ポイントがルビーで、このルビーがフリガナのルビの語源になってるわけです。そうすると、Rubyという名前は、「Perlの次」として非常にふさわしい名前じゃないかと、自己満足したんですね。
冷静に考えると、1993年だったらGoogleより前で、石器時代みたいなものなので、あんまりGooglability(検索性)って考えなくてよかったんですね。これが現代であれば、Rubyみたいな名前の言語をつくったら、「検索しにくくてつらいじゃん」という非難ごうごうな感じなんですけれども、当時は、だいぶ牧歌的な感じがありますね。
「Perlの次」というのが当初の目標で、Perlと同じぐらい使えると思ったからこそリリースしたんです。「Perlのできることはできる」ということを目標にして、いろんな機能をデザインしてたんですけれども、正直やりすぎたと思ってます。
現状、Rubyはあんまり「Perlの次」というイメージはありません。RubyとPerlが並んでるポジションはあんまりなくて、どちらかというと「Pythonの隣」とか。
(会場笑)
あるいは、「斜め後ろ」とか、そういう感じになってるわけですけれども、それは所詮、25年前の想像力の限界だと思います。未来の予測は非常に困難なので、未来がどういうふうになるかというのは、誰にもわからないんです。
そこで「Ruby After 25 Years」と題して、Rubyの25年。Rubyが生まれてから今まで25年きましたが、「どっちかというと、今後25年みたいな話をしてください」と言われたんです。すごく困りました。未来の予測は誰にとっても困難なんです。
有名な経済評論家でも、「今年こそ日本の経済は崩壊する」みたいな本を毎年出してる方もいらっしゃいますけれども、「そりゃ毎年出せば、いつかは当たるよね」みたいな感じですが(笑)。
(会場笑)
誰が予想しても外れます。でも、考えてみれば「当たるも八卦当たらぬも八卦」ってみんな知ってるので、無責任でも許されるんじゃないかなと思って、未来の話をしようと思います。
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