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メイカームーブメントのその先 - “HACK”と“ROCK”の現在形-(全4記事)

「iPhoneXより40年前のApple Iのほうがはるかにロック」 ものづくりとクリエイティブの歴史の転換点はいつか

デジタルファブリケーション分野のクリエイティブアワードである「Creative Hack Award」と「YouFab Global Creative Awards」。それぞれの審査員を務める、WIRED編集長・若林恵氏と、SFCソーシャルファブリケーションラボ代表の田中浩也氏が、トークイベント「メイカームーブメントのその先-“HACK”と“ROCK”の現在形-」で対談しました。世界中のガレージがオンライン化し、仕事とデジタルツールの利用を同時に行う際に起こるメイカームーブメント。ものづくりとクリエイティブの両方の見地から、メイカームーブメントの現在地とこれからを語ります。

メイカームーブメントの反省点と可能性

岩岡孝太郎氏(以下、岩岡):「メイカームーブメントとはなんだっけ?」ということを改めて田中浩也さんに聞いてみたいと思うのですが。いかがでしょうか?

田中浩也氏(以下、田中):いろいろな意味で、ひとまず「流行としてのメイカームーブメントは一旦過ぎ去った」と認識している、というところから今日のトークをはじめたいと思っていました。

ここでいう「過ぎ去った」というのは、「ムーブメント」というより、「ブーム」や「バブル」と呼んだほうが近い、一過性の過剰な現象のことです。ちょっとショックを受ける方もいるのかもしれませんが、今はそう冷静に現実に向き合ったほうが、建設的な議論になると思います。

「ハイプ」と呼ばれているような、世間の期待が実体を追い越していってしまうような状況もありましたし、雑誌をにぎわす新技術の特集テーマが、3DプリンタからIoT、AIへと移っていくにつれて、少しずつ状況が整理されてきたとも感じています。

あと、「メイカームーブメント」と呼ばれるようになったはるか前から、ファブラボやメイカーフェアにかかわっていた人たちからすると、たとえるならば、台風18号みたいなものといえると思うんです。

台風なのでザーっと雨が降って通っていくじゃないですか。ただ、僕はこれを決してネガティブな意味では捉えていないのです。雨が降ったあとに、土から新しい植物が生え、新生物が生まれてくることへ期待しているのです。

実際芽は出てきていますが、本当に何が出てくるかは、これからです。その意味では、メイカームーブメントを「焼畑農業」にしてはいけない。次に生かさなくてはいけない。だからむしろ「台風」に例えたいと思ったんです。

若林恵氏(以下、若林):いつぐらいに通り過ぎたんですか……?

田中:やっぱり5年経ったら、そりゃあ一旦は通り過ぎるのが世の常ではないでしょうか。インターネットも、95年から2000年くらいはすごくおもしろかったけど、黎明期はその5年くらいです。だいたいその時期にバッときてそのあとバブルが来たと思うんです。

若林:バブルといって、はじけるわけですもんね。

田中:はい、ただ、バブルがはじけたからといって、「インターネットという技術自体」がなくなったわけではもちろんありません。今も当たり前にあります。同じように、台風が去って行っても、ファブラボもメイカーフェアも3Dプリンタも誕生し、きちんとしたものは、きちんと社会に残っているわけです。

むしろ大切なのは、ここからだと思うんです。一過性の流行に流されない持続的な文化をどうつくり、将来にどうつなげるか。そっちのほうが正しい意味で、後になってから「ムーブメントだった」と呼ばれうる何かになるはずです。

ところで、この前の『WIRED』の特集「ものづくりの未来」にもあったように、もともとメイカームーブメントって西海岸カルチャーなんです。西海岸からワーッと各国に行ったけど、通り過ぎた後、いまはそれがマルチカルチャーに変容していく様子を観測することが大切なはずです。あれ(『WIRED』の特集)で取り上げていたのはフランスでしたっけ?

若林:フランスですね。

田中:フランスとか、最近だとイスラエルとかエストニアとか、ああいう西海岸ではないところ、いわゆる米国文化ではないところが、技術を自国の文化とハイブリッドにローカライズしていく過程で何を生み出すか、が一番興味深いところだと思います。。

若林:日本における可能性については、どういう見通しをもっていらっしゃいますか? つまりメイカームーブメントって、ブームになったときは大手企業も、ある種の可能性とある種の脅威を感じながら「おお!」みたいになっていたじゃないですか。それこそ「第三次産業革命」と言って。結局そこで何を期待しすぎたのか、どこを見なければいけなかったのか。どういう見解をお持ちですか?

田中:僕が今も昔も一番おもしろいと思っているのは、田舎や辺境の地にあるファブ施設なんです。なぜ面白いかというと、振り切っているからです。鹿児島の廃校を使って完全にエネルギーを自給自足しようとしているダイナミックラボとか、北海道のレーザーカッターでアイヌ民族の彫刻を切ってる人たちがいるとか。そういう都市からすごく遠いところにデジタルなものが届いて、もともと持っていたローカルなものと、周縁からの化学反応で何が起こってくるかですね。

「ものに値段をつけて売買する」という産業イメージから脱却すべき

若林:それはどういうイメージを持たれていますか? つまり既存の産業みたいなものをテイクオーバーしていくものなのか、もう少し補完的な関係性になるのか。

僕は、ファブって、悪い言い方をすると非常に趣味っぽい、ホビーのところに落ちていったという認識があります。ハードウェアのスタートアップがポッと出てきて、それが日本の今までの産業と合流することによってもう一回チャンスがあるんじゃないかというのが、5年前にみんなが見ていた夢かなという気がするんですけど。それは違ったなというのがおそらくあるんじゃないですか?

田中:僕はもともと、ファブラボは「ハードウェアスタートアップ」という、革新的なモノをつくって売ろうという流れだけではなく、知識や機材・設備など資源の共有化を図る「シェア経済」「コミュニティ経済」の流れと半々が混ざっていると思っていました。

そして、その2つが見たことのないかたちで合流する中から、「モノをつくって、モノに値段をつけて、モノを売る」という20世紀型製造業ビジネス形態ではない、新しいビジネスモデルが生まれることをイメージしていました。

それは、サブスクリプションかもしれないし、サービスビジネスかもしれない。いずれにせよ、「モノと貨幣の交換」ではないカタチを、21世紀前半は模索する必要があると思うのです。

「(それまでは)大企業だけしかものをつくって売ることができませんでした。それが3Dプリンタやファブなど、技術が民主化され、個々人でも、ものをつくって売れるようになりました」という解釈だけだと、結局、主体は変わったかもしれませんが、ビジネス形態そのものは20世紀型を温存しているように感じてしまうんです。

若林:なるほどなるほど。

田中:ファブをデジタルとフィジカルの連結とか横断と言っていましたけれども、デジタルファブリケーションってデジタルな側面とフィジカルな側面と必ず両方が残るんです。その2つの間でどういう交換をして、価値を生み出すか。

インターネットが生まれてから、いくつも新しいビジネスモデルが誕生したように、ファブにおいても、新しいモノをつくることとセットで、新しいビジネスモデルを発明することにも創造力を伸ばすべきだと思います。その芽はあります。IoTやブロックチェーンなどが出てきましたし、UberやAirBnBなども出てきた。

「物質にお金を払う」時代から、「使うことにお金を払う」時代へ

若林:それって、いまいちイメージできないんです。

田中:そりゃ簡単にはイメージできないです(笑)。

若林:それは田中さんはイメージできているけど、言っていないのか……。

田中:今日の2部のOTON GLASS(第2部出演クリエイター)でその話が出るんじゃないですか? (会場を指して)彼らは眼鏡を売るビジネスをやるつもりはたぶんないのではないかと思います。

若林:なるほど、なるほど。僕のもう一個気になるところは、どう考えてもすごく定常経済っぽい話になる気がするんです。

田中:全然ROCKとHACKの話に行かないけど……。じゃあ具体的なイメージの話をしてもいいですか?

これまでの経済って、ものを買うときに売買しますよね。そうすると100円のものを300人が買ったら収入になりますよね。でも300人とも1回しか使わないで捨ててしまうかもしれません。では今度は、1人の人が300回使ったとします。そうすると、「ものが使われた回数」で数えると、どちらも同じ300になるわけです。

300人が買って1回しか使わないのと、1人の人が同じものを300回使うのは、使われた回数は同じなんです。この「使用料」感覚は、ウェブやネットの方は分かると思いますが、「物質」の世界ではなかなかイメージしにくいかもしれませんね。

ここからはもう漫画やSFの領域ですが、例えばシューズを買うでしょ。一歩、歩くごとに1円とすると、もしかしたら、みんな歩かなくなるかもしれないですよね・・・・。「やばい」とか言って、すごく大股になったりして。しかし毎日こういう思考の訓練をしています。

(会場笑)

ファブのイメージを固着化させないために

若林:なるほど、なるほどね(笑)。

田中:例えばね。

若林:あ、以上……? なるほどなるほど。じゃあ、まあその話はいいや。

(会場笑)

田中:はい、そろそろ今日の本題にいきましょう。ROCKですよね。

若林:ROCKはどこから話がでてきたの? 田中浩也先生はぜんぜんROCKの人じゃなくて、ジャズのサックス奏者ですよね。なのでコルトレーン好きなので。……おかしくないですか? という指摘はあるんですよね。これは田中先生の発案?

田中:これは僕が言いました。恐れたのは、昨年賞をとったような作品を今年の応募者が追従して、「こういうのがいいんだ!」となって評価軸が固着化していくことでした。

やはり、まだまだ未知のものが集まる新鮮な場であって欲しくて。

若林:なるほど。今年、何年目でしたっけ「Award」自体。

岩岡:「YouFab」自体が6年目です。

田中:なんか「ファブってこういうのだよね」という形骸化したイメージが出始めているのではと危惧したのです。これはFabCafeのイメージもあると思っているのですが……。

いろいろな人から「ファブってこうですよね」と言われるのですが、僕のなかでは、まだまだカオスですし、雑然として混沌としたものだと思っていて、そうかなぁ、と思うことも多い。実際、世界中のファブ施設にいくと、いつもその多様性や振れ幅に驚かされます。

若林:なるほど、なるほど。それがROCKなのか、なるほど。

田中:ROCKじゃない他の音楽のタームは、この後出てくるかもしれないですね(笑)。

若林:これ、ジャズじゃ駄目だったんですか?

(会場笑)

田中:じゃあ1つ目のやつを紹介しながら……。

岩岡:お願いします。

最新のiPhoneXより、40年前のAppleIのほうがはるかにROCK

田中:(スライドを指して)ROCKのプロジェクトを考えろって言われて全然思いつかなかったんですけど。今週、みんなiPhoneXの話題を随分していますね。僕、全然興奮もなにもしないんです。

ただ解像度が少し良くなって何がうれしいんだ? という気がしてしまって、iPhoneXのニュースはまったく心に刺さらないんです(笑)。別にちょっとしか変わってないし。性能の改善ではあるかもしれないけど、根本的な発明だ、という感じはしないんです。

それで40年前の最初の『Apple I(アップル ワン)』の話をしようと思います。僕は当時1歳だったのですが、スティーブ・ウォズニアックが手でつくった最初のApple Iを知っている人はどれくらいいますか?

(会場挙手)

田中:すごいですね、さすがですね。

(スライドを指して)こういうキットなんです。こんな手づくりの木の箱に入れて、手でつくるものでした。ディスプレイはないので、家庭のテレビにつないでそこに出てくる。昔のファミコンと同じですね。使っていくと埃も付くし、ちょっと隠すか、みたいな感じで外装をつくる人も出てくるわけです。一体化です。こうすると、デスクトップPCの面影がだんだん生まれてきますよね。

さらにスーツケースにするとちょうどいいんじゃないかと、開くとパソコンみたいに使えるということを考える人も出てくるわけです。この先、歴史が長く続くけど、「開く」って、ノートパソコンの原型みたいなものですよね。「パソコンを開く」「スーツケースを開く」という。

これにいろいろ通信の音響カプラをつけたり、ぐちゃぐちゃ足しているのが、今のパソコンの起源です。だから、基本的な構成はこの時代にできているんです。あとは性能と洗練だけなんです。

これをつくったスティーブ・ウォズニアックはギークで。スティーブ・ジョブズがこれを見て「もしかしてパソコンって売れるんじゃないか。ただ、あれだとギークしか買わない」というので、外装を家電っぽく樹脂でつくったりしました。整えるデザインセンスはジョブズはあったんだと思いますし、その意思もパソコンをこうしたいというビジョンもありましたよね。

Apple IからApple IIまで1年しか経っていないんですね。やっぱりこっちのほうがはるかにROCKを感じるというか、おもしろいんです。

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