2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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瀧俊雄氏(以下、瀧):ありがとうございます。じゃあ、そういったおもしろい話を引き出していただくべく、北川さんにご登場願います。本当にお待たせしました。拍手。
(会場拍手)
北川拓也氏(以下、北川):今日をすごく楽しみにしてまして。当然、瀧さんといえばマネーフォワード。昔から、僕もマネーフォワードのアプリ使ってるんですけど、すごく尊敬しています。
エルテスさんは……何年前でしたっけね? 3年前?
加藤エルテス(以下、加藤):北川さんが日本に戻ってすぐでしたね。
北川:だからもう5年ぐらい前ですね。一度お話をさせていただいたことがあって。最近いきなり本を書かれてて(笑)。びっくりして、すごくおもしろかったので、僕は今日のことをすごく楽しみにしてきました。
加藤:ありがとうございます。ちょっと自己紹介的なところを。
北川:楽天でデータの責任者をしています、北川と申します。具体的にはECカンパニーのほうがCDO(注:Chief Data strategy Officer)というかたちで、eコマースでどういったデータを活用して、店舗さんのお手伝いをしたりとか、お客様によいサービスをどうやって届けるかということを考えたり。
ほかにも、全社のデータも見ておりますので、まさにFinTechだとかトラベルなど、そういった幅広いデータを基本的には取り扱って、世の中をどうよくできるかということを日々考えております。
加藤:もともとのバックグラウンドはぜんぜんビジネスっぽい人じゃないんですよね。
北川:そうですね。僕は理論物理学出身で。会場に理論物理出身の方っていますか?
瀧:(笑)。
北川:すいません(笑)。
瀧:マジでさっき量子コンピューティングについてちゃんと聞いて、「要するにこういうことですか?」って言ったら、見事に違いました……。
北川:そんないちいち突っ込まないんで(笑)。まあ、という感じですね。
北川:瀧さん、エルテスさんとは別々に知り合っていたので、共通点が見えづらかったのですが、お聞きしたら、本がたまたま隣にあったという話で(笑)。
瀧:そうです、そうです。
北川:僕なりに今日、「お二人の共通点は何かな?」と考えたところ、やっぱりお二人は「未来をつくる存在」という共通点があるんじゃないかと思いました。
瀧:ありがとうございます。
北川:そう思いまして、今日はできるだけ未来の話をしたいなと思ってまいりました。
加藤:はい。
北川:はい……いいですか?
加藤:もちろん(笑)。
北川:(笑)。それで、いろんな未来の話をしたいなと思ったんですけれども、やっぱりまずは機械脳ということで。機械脳ってつまり機械が考えるってことなんですよね。
加藤:そうです。
北川:その観点で、機械が考えられるようになったら、僕らはもう考えなくてよいのかと。「僕らの仕事はどうなるのか?」みたいな話をちょっと聞いてみたいなと思って。仕事の未来はどうなるのか、お聞きしていいですか?
加藤:ありがとうございます。テクノロジーが進化して人の仕事がなくなるという話を、よく週刊誌とかでセンセーショナルなタイトルで見るんですけど、それ本当にそうなると思ってる人はちなみにどのぐらいいらっしゃいますか? たしかに仕事がなくなる?
(会場挙手)
あ、ちらほら。でも、あまりいらっしゃらないんですね。
僕はなくならないと思っています。2,000年前から今の現代にいたるまで、テクノロジーってものすごく進歩してるんですよね。だけど、人の仕事がなくなるかといったら、まったくなくなっていないでしょうと。
中身は変わるんです。日本でいえば、100年前なんて人口の90数パーセントが農業に従事していたわけで、そういった人たちの職業は変わっています。
もうちょっとうまい話で言うと、産業革命の時だとか、あとはモータリゼーション。馬車から車になったところですね。馬車から車になって人はぜんぜん働かなくなったかといったら、ぜんぜん働くわけですよ。馬車の内装つくったりとか、車のインテリアをつくったりするんですね。失業するのは馬だけですよね。
人というのは、いろんな新しいものを学べるんですね。「やりたくない」「新しいことは絶対いやだ」という人は、テクノロジーがその人を避けていくので、失職することもあると思います。ただ、馬車から車になった時がそうであったように、働く中身が変わるだけで、決して人の仕事はなくならないだろうと。
北川:逆に、よく聞かれる話かもしれないですけれども、じゃあその時に人の付加価値って何になるんですかね?
加藤:「そうぞう力」だと思います。これ本当は今日のセッションの結語に持ってこようとしてたんだけど。
北川:(笑)。
加藤:イマジネーションとクリエイティビティの両方の「そうぞう」。何かをおもい描く「想像」と、何かをつくり出す「創造」です。機械学習は、繰り返しゲームが得意なんですよ。逆に言うと一過性のものをつくり出すのって相当難しいんですよ。
簡単なのは例えば、株取引。マネーフォワードユーザーの方で株取引をやっていらっしゃる方もいると思うんですけど、「勝った!」とか「負けた……」とかやってるとき、半分以上の確率で相手は機械です。
ニューヨーク証券取引所でも、だいぶ早い段階から機械取引が入ってます。出来高でみると、今では8割ぐらいが機械と言われています。システムトレードというやつですね。だから、こっちが「ああ、悔しい! 相手はどんなやつだ!?」って言ってるとき、「機械なはずねえだろ」「いや、機械です」というのが確率的な事実です。
株価は毎日必ず決まるじゃないですか。毎秒毎秒いくら、って出ますよね。ずっと繰り返しているんです。なので、機械は大得意なんですよ。
あとは「人間がやるんじゃない?」と思われるようなライティング。何かを記事にするっていう話も機械が得意な「繰り返し」仕事ですね。例えば、スポーツゲームの記事にするStats Monkeyという会社がありますけれども。地方のアメフトから、カバディみたいな、わからんけど(笑)、すごくマイナーな都市のマイナーなスポーツまで全部記事化してるんですね。年間15億本と言っていたので、1秒間にどれぐらいだろう? 1秒間に1、2個記事になってるのかな。毎日。
「ものを書くのって人の仕事じゃないの?」と思われるかもしれないんですけれども、そのなかでも繰り返しやっていい仕事と、毎回新しいコンセプトや切り口を考えて読者に提案しなきゃいけないものというのはぜんぜん違う。
機械は繰り返しだけ得意。逆にそうじゃない仕事というのはずっと人間に残り続ける。というか、むしろそこでの差別化がこれからますます大事になる。というのが私の持論です。
北川:ありがとうございます。
瀧:乗っかっていいですか? 当社は会計ソフトを出しているのですが、このテーマですごく有名な2013年のFrey-Osborne論文というのがあって。
なくなる仕事ランキング702個のうちトップ10みたいなものに、税務処理をする人とか帳簿をつける人というのが出てきた。それで、当社の重要なお客さんである会計士さんとか税理士さんが失業するんじゃないかというのが……。
北川:書いてましたね。
瀧:もうすごく人気トピックなんですよね。これ、おっしゃるとおりで、税理士さんの仕事のうち、なくなる仕事となくならない仕事が必ずあります。
当然ですけど、毎月同じような帳簿を持ってきて「これは水道光熱費ですね」みたいなかたちで経費処理する仕事はなくなっていくと思います。ただ、それを使って経営判断するところはなくならない。
私もまさに、経営者みたいなものに5年ぐらい前からなったんですけど、毎日完全にカオスだし、本当に今まで接したことがない状況の意思決定を迫られる。よく「経営はアートだ」みたいなことを言いますけど、一品物の意思決定をつくり出すという意味では確かにアートだと思うんですよ。
だから、そういうところに意思決定として寄り添える税理士さんだったら、別に機械学習とか関係ないよって話をよくします。
北川:ちなみに、瀧さんに聞きたいんですけど、「意思決定」って何ですか?
瀧:また、その……ハーバードでPh.D.取った人にそんな質問されると本当困るんですけど。
北川:いやいや(笑)。
瀧:意思決定って、たぶんすごくいろんなテーマあると思うんですけど。基本的に、今日やれることが7つあるときに、それを1つに絞る勇気みたいなことだと思います。
たぶん、順位をつけるのは機械はすごく得意なんですよね。そういう意味では機械は「判断」は得意だけれども、そこから「いや、言うても俺、今日は8時間半しか動けんしな」ってときには、それを「決断」に変える必要がある。
それって他の6つを捨てることだと思うんですよね。その6つを捨てて、あとから各方面からめっちゃ怒られても、「いや、それは私が決めた」って言い切る。それが「決断」だと思います。
北川:僕も「意思決定」って、結局感情の壁を乗り越えることかなと、おっしゃるように感じるんですね。機械ってそこがけっこう苦手なんだと思います。
どう思います? 機械は今後、僕らの感情の壁を乗り越えるのを手伝ってくれるんですよね?
加藤:背中を押してくれるかみたいな?
北川:そうですね。あとで嫌な思いをするのはわかっているのに「やる」と「決められる」みたいな。
加藤:機械が人間の心を理解するというのはちょっと哲学的なテーマすぎてあれなんだけど、「過去にどんな介入をこの人にしたら、この人がいい感じに動いたか」というのを蓄積することはできるんですよね。
医療の領域だったら、診療報酬というのは、今までお薬とか医療行為についていたじゃないですか。例えば、「血圧高いですね」というときに、「この薬開発するのに数億ドルかかりました」、なのでそれをインバースさせる、償還するというのが保険制度の仕組みなんです。
この医療報酬が、最近、ソフトウェアにつき始めたんですよ。北川君に血圧を下げる薬を処方するのと同じように「このアプリで行動ログとったり、いい頃合いに励ましてくれたら血圧が下がる、もちろん副作用がない」というので、「そこにお金出していいじゃん」という話になっています。
例えば「今日、塩分を摂ったらこうだから、次はお酢を使いませんか?」みたいな介入をする。それによって「これがうまく効いた」「これはうまく食塩を抑えてくれた」「お酒は飲まなかった」とかデータが蓄積されていく。実際に起こっていることは、人間の感情が「う~ん、今日は誘惑に負けそう」とか「勝ったぞ!」みたいなことなんです。
機械は感情の機微はわからないけども、文字通り機械的に、どうやったら人間がよりよい方向に変化、行動変容を起こすことができるのかというところに、介入が可能になってます。
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