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マイクロソフト西脇氏 講演(全2記事)

もはやトイレは「用を足す」場所ではない? 多目的化するトイレの明日を考える

2017年8月2日、サムライインキュベートが主催するイベント、「日常生活の当たり前を変える”Toiletech"~トイレボリューション~」が開催されました。1日に5回〜7回ほど使うと言われているトイレですが、現状はさまざまな課題を抱えています。そこで、テクノロジーの分野からトイレのイノベーションに挑戦するお二人の登壇者が、変わりゆくトイレの今と未来について語り尽くします。はじめに登壇したのは、日本マイクロソフトの西脇資哲氏。トイレ事業があるわけではないマイクロソフトは、どのような形でトイレに関わっているのか? 最新のトイレ事情を紹介します。

マイクロソフトがトイレに進出⁉︎

司会者:お待たせしました。これから「Toiletech」のイベントに移りたいと思います。まずは日本マイクロソフトの西脇様よりご講演いただきます。では西脇様、よろしくお願いします。みなさま大きな拍手でお願いいたします。

(会場拍手)

西脇資哲 氏(以下、西脇):マイクロソフトの西脇でございます。夕方の大変貴重なお時間をいただきましてありがとうございます。

30分間で私、西脇がトイレの話をするのはなにか不思議な感じなんですが、なぜマイクロソフトがトイレの話か? 実は非常に簡潔な理由があります。その理由についてちゃんと触れながら、みなさまにお届けしたいと思っておりますので、お付き合いください。

今回、タイトルに「Toiletech」という名前が付いていますので、トイレのテクノロジーの話です。マイクロソフトはIT企業ですから、テクノロジーの話をお届けしてもいいんじゃないかと思うのですが、実は7月と8月はトイレづいているというとおかしいですが、7月の上旬にもトイレのイベントがあったんです。

7月9日のトイレのイベントでお会いした方、今日いらっしゃるんじゃないかな。そのときもトイレのイベントがあって、そのイベントのテーマはLGBTなんです。LGBTってわかりますよね? レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーという、いわゆる性的マイノリティの方です。

そういった方々がトイレに対して関心や課題があって、それをどうやって克服するのか? というイベントでした。私は別に性的マイノリティの該当者ではないのですが、トイレの専門家でもないです。

ただ、いろんなことでトイレのITについて大変勉強させていただきました。トイレのITを勉強すると、当然トイレのことも勉強しないといけないので、そういう過去の経緯があって、性的マイノリティのトイレのイベントであったり、トイレとITというイベントだったり、今日の「Toiletech」があったり、いろんな話をお届けできるようになっています。

とくに今日は、トイレとITにフォーカスしてお届けしても構わないのですが、今週あるメディアでトイレの話をするので、その話も絡めながら進めていきたいと思います。

2020年に欠かせないトイレ問題

じゃあ西脇って何なんだ? というと、私はマイクロソフトの人間としてお邪魔しているのですが、マイクロソフトは別にトイレの専門でもないんです。マイクロソフトのオフィスは品川港南口にあるんですが、すごいトイレを入れているのかというと、別にそういうわけでもありません。普通のオフィスです。

ただ、私自身がそういったいろんなトイレの話をすることが重なってきましたので、いろんなところで呼ばれているということなんです。今日はたまたまマイクロソフト、そしてトイレの活動が多いのでご指名いただきましたが、それ以外にプレゼンの本もやっています。

コミュニケーションとかプレゼンテーションとか、いろいろやっているものですから、こういったところでお話しすることも仕事の1つで、その内容が別にITに限った話じゃなくていいじゃんと、いろんなところでお声掛けいただいているんです。

本をいくつか出させていただいておりますが、最近いろんなことを始めまして、みなさんはまったくご関心がないと思いますけど、トップアイドルグループの乃木坂46さん、彼女と一緒にラジオ番組を毎週土曜日にやっているんです。

マイクロソフトとまったく関係ない仕事がすごく多いですけど、ラジオのレギュラーをやったり、実は医療や衛生で、iPS細胞研究所のノーベル医学・生理学賞をとられた山中氏が率いるiPS細胞研究所のアドバイザーもやらせていただいているので、多少なりともその分野の知見があるわけです。

いろんなことをやらせていただいて、今週のラジオも実はもう収録が終わっていますが、トイレの話なんです。今やトップアイドルの乃木坂さんとトイレの話をラジオでするのはどうかなという話なんですが、かなり注目されています。

その理由はトイレというのは施設、環境空間なんです。今、東京都は2020年に向けてトイレの設置が盛んに行われるんです。それはそうですよね。設備が増えますから。それとトイレの環境改善が盛んに行われる。これは実は60年代に行われた東京オリンピックのときも同じなんです。

同様に中国の北京で行われたオリンピックのときも同じです。韓国のソウルでオリンピックが行われたときもトイレの改善がものすごく進んだ。トイレって国籍問わず使うわけです。性別問わず使う。障害者だろうが障害者でなかろうが使うから、私たちの人生に欠かせないものなんです。

トイレは多目的化してきている

ちょっとそれについてお話しします。トイレメーカーさんとか、あるいはいろんな調査会社さんがトイレの利用状況において調査しまくっています。どれぐらい私たちはトイレに行くと思いますか? 一生の間に15万回です。すごいですよね。そんなに行くのかよって話です。多いのか少ないのかわからないです。

ただ積算をすると一生の間に8〜11ヶ月はトイレの中にいるんです。つまり私たちは、1年間はトイレという空間で過ごしているんです。人生って重ねると3分の1はベッドの上なんです。赤ちゃんの頃とおじいちゃん、おばあちゃんが病気になったとき。それから平日の3分の1。平均して8時間ですね。

これを合わせると3分の1はベッドの中にいるんです。それで1年はトイレの中にいるわけですから、一生のデザインをしていく上で、やっぱりトイレという空間って大事なんです。これは間違いないと思うんです。ではどれぐらい利用時間があるのか? 男性は31.7秒だそうです。どうですか? 男性の方、想像してください。31秒で事足りますかっていう話です。

私は短いなと思ったんです。30秒ではちょっと私のような年齢になると終えられない。若い方は大丈夫かもしれないけど、30秒って短いなと思ったんです。1日平均5.5回だそうです。けっこう行っていますね。

女性はやはり長いです。個室もありますから。1分33秒。男性の3倍だそうです。回数も1.5倍ですから7.5回。差があるんですね。ですから女性のほうがトイレにいろんなものを求めるということがわかっているわけです。

そのトイレなんですけど、実は「Toilet」という英単語は「水を流して用を足す」という意味なんですね。英語で言うと「Toilet」もしくは動詞だと「Flash」になるわけですけど、ところが今はトイレって書いてない。トイレなのにトイレと書いていない。その代わりに「化粧室」「休憩室」と書いてあるんです。

「Rest Room」です。また、「多目的室」と書いてある。そして「Refreshment Room」とか「Refresh Room」って書いてある。つまりトイレが本来の英単語の「用を足す」という意味をもう超えちゃっているんです。非常に多目的なエリアになっているんです。

男性はどちらかというと「用を足す」エリアのためにトイレという空間を捉えますが、女性は違うんですよね。今日、女性の方が何人かいらっしゃいますが、女性がどういう理由でトイレに行くか? 変な質問ですよね(笑)。

実は「用を足す」以外になにかという調査があるんです。女性の1番はやっぱり「化粧」です。もしくは化粧直し。それで驚くことに2番目は「メール」なんです。そうかもしれない。3番目が「ストッキング」。男性は持っていないからわからないですけど。そして4番目は「着替え」です。5番目に「考えごと」がくるんです。トイレで考えごとしたほうがいいんです、女性はね。

あと休憩。この5番目と6番目に「泣く」っていうのが入るんですよ。女性の場合、トイレの空間で泣くんです。そして鏡の前でお化粧直して出て来る。不思議ですよね。トイレ内広告を読む、電話をする、これは男性もけっこう多いと思います。スマホで遊んでいる、インターネットをしている、メール以外ですよ。あとお薬を飲むために行く。これは私もよくやります。

薬を飲むというのは口からの服用だけではなく、経皮です。塗るとか湿布を貼るという行為にトイレに行く。トイレという空間が実は私たちの想像以上に多目的化しているんです。これが今のトイレの現状です。

Toiletechはトイレの未来を変える

ですから、トイレメーカーさんはトイレの漆器、便器。あれをつくることだけでは、もう満足度が上がらないんです。これらを全部満たさないと「あそこのトイレは……」となる。それがトイレ空間に求められているんです。ところが大きなジレンマがある。実はトイレというのは収益を生まないエリアなんです。

例えば本屋さんだったら本を並べていけば売れる。飲食店であれば座席を置いておけば「チャリン」とお金が入る。ところが、トイレはまったく収益を生まない空間です。これは営業所であろうが、店舗であろうが、工場であろうが同じなんです。だからなるべく造りたくない。どちらかというと、ないほうがいいんです。だって収益を生まないから。

なるべくお金をかけたくないし、収益を生まない空間。でも求める側は「いやぁ、着替えもしたい。メールも見たい」と言う。もう1つ、トイレというのは初期投資だけじゃなくて、ランニングコストがかかる。これが非常に大きな問題です。例えば、ミーティングルームといったらランニングコストはほとんどかからない。でもトイレって清掃しなければいけない。

それとある一定の時間がたったら、やっぱりメンテナンスを入れないといけない。ですから設備の修理、保全、清掃、排泄物の管理という意味で、要は「金食い虫」なんです。これが今までの大きなジレンマです。

そして、もう1つ、トイレというのはプラス要因よりもマイナス要因を生みだす空間です。「汚ねえ」と投稿されたり、なにか事件事故が最も起きる空間って街の中ではトイレなんです。犯罪が起きるとか。だから悪いイメージばかりなんです。それと「あそこのトイレ混雑してる」って、わざわざ施設がトイレを用意しているのに、混雑していることでマイナス要因になる。

実は、これを全部引っくり返すのがトイレの未来なんです。つまりトイレが抱えているジレンマをテクノロジーで全部プラス要素に変えるのが「Toiletech」です。

トイレをビジネス空間にする

なぜそうなったかという背景はトイレが多目的化しているということです。素晴らしいトイレを得るためには、これらのジレンマを全部プラスの向きに変える。

例えば、女性はトイレに1分30秒以上います。1日に7.5回です。けっこうな回数行くわけです。メールを読んだり、お化粧を直したり、着替えをしたり、ストッキングを替えたり、いろんなことをやっている。本を読んだりメールを読んだり、泣いたり考え事をしたりする空間。そういう空間を例えば広告スペースにしている。

トイレ内広告は昔からあります。昔からありますが、今はデジタル化がめちゃくちゃ進んで、左側、右側、両方とも透過型ミラーなんです。透過型ミラーで鏡の前で手を洗っていたり、お化粧を直していると広告が浮かんできます。常日頃は広告は浮かんでいません。かつ、その広告は鏡の前にいる性別、年齢、表情、人数、時間、所持品に応じて広告が変わる。

例えば若い女性の方が鏡の前に立つと、若い人向けのコスメティックスの広告が出るんです。ところがご高齢の方が鏡の前に来ると、基礎化粧品の広告が浮かぶ。夜の時間帯だと2次会、3次会のご案内という広告。ところが昼間の時間だったら化粧品の広告なんです。

その他にも、人数が多かったらこの後のカラオケルームの広告なんです。人数が少なかったら今のトレンドの本。個人広告になる。所持品です。例えばアクセサリーをいっぱい着けていて、ものすごく装飾をしている人は、アクセサリーの広告になる。そのほうがターゲッティングできていますかね。

つまりトイレという空間は鏡の中の滞在時間が長い。これは広告主からするとめちゃくちゃうれしいわけです。だって自分の広告の前に1分半以上、必ず見てくれているわけです。ですから非常に素晴らしい広告媒体なんですが、鏡の面積を全部広告に使うことはできない。だからデジタル化なんです。万人向けではなくてターゲッティングされた広告スペースとして使われています。

これは、すでに実用化されています。ちょっとだけ出てきましたけど、まだまだ完全にすべてのエリアではなってはいないです。理由はやっぱりコストの問題や、ここで私が立ったら私に合わせた広告が出るということは、鏡の向こう側から私を映しているわけです。「そんなトイレの空間で私を映さないでくださいよ」というクレームがある。その可能性がありそう。

でもトイレなんて、今どこだって監視カメラが入っています。ですから今さら始まった問題でもないんです。このようにトイレという空間をもっとリッチなデジタル広告の場所に使う。これでベンチャービジネスがものすごく進んでいます。それが1つ目です。

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