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DATANOMICS ~「知能革命」の始まり~(全3記事)

「僕らは100年前をもう1回生きているかもしれない」WIRED編集長が語る、1916年と現代の符合

2016年9月6日に開催された「Tech In Asia Tokyo 2016」。初日最後のセッションに登壇したのは、メタップス代表の佐藤航陽氏と『WIRED』編集長の若林恵氏。これまで社会を守っていたシステムがテクノロジーによって解体されていくなかで、世界はこれからどう変わっていくのか。若林氏は第一次世界大戦中だった100年前と現代を重ね合わせています。

お金がどう動くのか、一部の人しか知らない

若林恵氏(以下、若林):ちなみに佐藤さんは、ものすごい人気のブログの書き手でしたよね。

佐藤航陽氏(以下、佐藤):ブロガーみたいに言われてる(笑)。

若林:すごくおもしろいので会場のみなさんにもぜひ読んでいただきたいと思うんですけど、最近書くのをやめられたじゃないですか。

佐藤:やめましたね。

若林:なんでやめられたんですか?

佐藤:なんだろうな。書く内容はいっぱいあるんですよね。書く内容はあるんですけども、人が聞きたくないんだけども真実の話ってのもあるなと思っていて。まあ、露悪的になれば、別に書いてもいいんですけれども。そんな露悪的な人間ではないので。

若林:それって、みんなが持ってる幻想みたいな話と関わりある話ですよね?

佐藤:それもありますね。データを分析していくと、「真実はこれなんだけども、でも社会は真逆の仕組みで成り立ってる」というのがいっぱいあるなと思っていて。

若林:例えばどういうのがあるんですか?

佐藤:経済はやっぱり典型だなと思いましたね。お金ってものすごく偏るじゃないですか。お金の性質ってなかなか研究されてないので、どう増えていって、どう動いていくかって、一部の人を除いてほとんど知らないんですよね。でも、多額の資本を扱ってる人はやっぱりわかってるんですよ。お金がどう動いているか。

でも、そのメカニズムを落とし込んで学問にするかというと、しないんですよね。全員が儲かったら経済って成り立たないので。これ当然なんですよね。

若林:すごくないですか、それ。だって、話をしてる佐藤さんも大金持ちだってことですよね。それを知ってるっていうことは(笑)。

佐藤:いやいや、そんなことないですよ(笑)。活用すればそうなるって話ですよね。

若林:活用しないんですか?

佐藤:お金ってある程度、意味があるものだと思っていて、なにかに使わなきゃいけないじゃないですか。ただ増やしていくということ自体に意味を感じる人もいれば、感じない人もいるのかなと思いますが、個人的にはやっぱりなにか発見したりするほうがエクスタシーを感じるので。

若林:ただお金を増やしていってもしょうがない、という?

佐藤:まあ、地獄には持っていけないですよね。

社会システムを暴いた先にある自然の残酷さ

若林:だけど、そういうのを知ってるってすごい話だと思いません? 要するにお金がどう流れていくかというメカニズムを、ある一握りの人たちが知っていて、おそらくここに来ているほとんどのみなさんは、あ、僕も含めてですけど、誰も知らない(笑)。

佐藤:ベンチャーキャピタルは知ってるんじゃないですか(笑)。

若林:そりゃそうか。

佐藤:あと政治も一緒ですよね。世の中的にはこういう仕組みで動いてるだろうってみんなが思っているけれども、実態は違ったりするじゃないですか。

意思決定の仕組みというのは、外から見えているものと実態というのは相当差がありますよね。でも、そこを「本当はこうなってるんですよ」って話をしても……。

若林:まあ、「身も蓋もねえ話」になっちゃう。「それを言ってみてもな」ということですよね。

佐藤:というのもあります。あとは、社会のシステムってそもそも、自然の残酷な仕組み、弱肉強食とか、あとは淘汰の仕組みとか、そういうものから身を守るために群れを組んで、生存確率を上げるためにできているので、それを暴いていって真実に近づけていくと、残酷なのは当たり前なんだろうなと。

なので、別に珍しいことではなくて、「実は人間にとって不都合でした」というのは、「まあそのとおりだよね」と思ってはいます。

だから、自然の立場から見たらぜんぜん普通なんだけれども、人間から見たら相当残酷な仕組みですよね。逆に、自然から見たら「それおかしくねえか?」「摂理に逆らってるね」という仕組みでも、人間から見たら平等とか自由という概念も重要ですし。だから、どっちに立つかによってぜんぜん違いますよね。

若林:それだけ、ある種のデータによって捕まえられる真実というのは、非常にパワフルなものになるってことでもあるわけじゃないですか?

佐藤:そうですね。

若林:それはやっぱり、なんていうんだろうな、「使いよう」ってことになるんですかね。

つまり、その真実を知ったのが佐藤さんだったからよかったけど、もうちょっと悪い人だったら、きっとそれをなにか悪いことに使うことになるわけじゃないですか。

佐藤:使ってるんでしょうね(笑)。

若林:あ、すでに実際使ってるのか(笑)。なるほど。怖いな。

人はなぜお金を払うのか?

佐藤:今までの社会学とか政治学って、あまり検証せずに成り立ってきてるじゃないですか。そもそもデータがないから検証できなかったし、実験ができなかった。なので、実験をして検証するというプロセスって、自然科学の領域でしかなかったんです。

今後、ビッグデータやAIが普及してくると、今まで実験せずにディベートでやってきた理論が本当か嘘かっていうのがわかるようになります。なので、実験をとおして、社会学なんかが実は違ったかたちをしていたというのが暴かれるんじゃないかなと。

若林:本当に社会科学が自然科学に近くなっていくという。ソーシャル物理学みたいなのがあったりするように。あれは目を見開かせてくれるものがありますよね。非常に強力なものですね。

佐藤:使う人にとっては悪用もできますし、すごくいい方向に使うこともできます。

若林:大きい社会のトランジションもあるなかで、例えば「資本主義というのは、常にある種の格差を構造的に生むものである」というようなことがあるのに対して、お金をめぐる価値観が変わっていくなかで、お金の重要性が相対的に下がっていくことによって、格差問題といったものも、もしかすると多少是正されるかもしれない、みたいなことが期待としてあると思うんですが、佐藤さん的には、そういう流れを、実際メタップスのビジネスのなかで促進していきたいという思いはあるんですか?

佐藤:そうですね。やっぱりそれがミッションにあります。できれば「機会が平等」という仕組みがベターだと思うので、そういうきかっけみたいなものが作れればなと思っています。

なので、世の中に波紋を1回投げてみて、「もしかしたらこういうやり方も、アプローチもあるんじゃないの?」ということをやるのが自分の役目なんじゃないかなと勝手に思ってますね。

若林:なるほど。具体的な事業でいうと、どういうところにそれは現れていると思いますか?

佐藤:事業でいうと、決済なんかはその典型です。お金の流れを可視化できますし、「人がなぜお金を払うのか?」というのが、データで分析していると見えてきます。

若林:なぜ払うんでしょう?

佐藤:けっこう難しい話ではあるんですけれども、本当に必要な場合もありますし、「儲かるから」という場合、「お金を増やす」という意味ですね。そのために払う場合もあります。

あとは感情ですよね。ソーシャルゲームもそうですけど、やっぱり楽しいとかうれしいとか。対価はないんだけれども、精神的なインセンティブがほしいからというタイプがありますね。

つまり、サービスがどの分類に当てはまるのかによって、動き方がぜんぜん違うんですよね。本当に必要なものなのか、はたまた精神的なインセンティブなのか、もしくはお金を増やすという目的で払っているのか。

選択肢が増えると相対的な幸福度が下がる

若林:お金ってけっこうおもしろいものだなって思うのは、いろんな情報がそのなかに含まれるじゃないですか。

つまり、「お金を払う」ということのなかには、ある種の自分の思いみたいなものもあるだろうし、つまらない損得勘定のなかで払ったりもするだろうし、これ持ってても邪魔だとは知りつつとか、まあ、いろいろ考えたりするじゃないですか? そういう意味でいろんな情報がやっぱりそのなかに入っていて。それがお金として落ちる。

ただ、それってもっと内実というのがおそらくあるはずで、そこはもうちょっと分析されてもいいかもしれないし、もしかしたら、それは「お金」という表現じゃないほうがよかったかもしれないということもあるわけじゃないですか。

その可能性が広がってくると、さっきおっしゃったみたいに、もうちょっと選択肢が増えるという話が出てくる。

佐藤:そうですね。信用と言うこともできるし、価値と言うこともできますし、時間と言うこともできますし、けっこうお金がいろんなものを代替してますよね。

でも、必ずしもお金のかたちをする必要もなかったり、お金に替えて流通させる必要がなかったりというのが、徐々にネットによって起こってはいるので、かなり変わってくるのかなと思っています。

若林:なるほど。ただ、わりとさっきの共同幻想みたいな話とも絡む話かもしれないんですけど、お金の役割が解体されていく、もしくは相対化されていくという話って、要するに、本当に社会を成り立たせてた幻想が相対化されていくみたいなことって……まあ、大変じゃないですか。

大変というのは、つまり「お金で価値計算されてた時のほうが楽」という話もたくさんあるかもしれなくて。

わりと僕らは、社会を成立させるために大きなものがあるっていうのに乗っかってないと不安もあるし。それが徐々に自分の選択という話になってくると、まあ、めんどくさい。 さっきと同じ話なんですが。

佐藤:難しいですよね。テクノロジーって選択肢を膨大に増やしていく性質があるじゃないですか。でも、人間って選択肢が増えると、相対的な幸福度って下がっていくんです。選ばなきゃいけないってなると、「あれもこれも選べた」っていう後悔が残るんですよね。

若林:たしかに。それ嫌ですよねえ。

佐藤:なので、選べなかったときのほうが、実は人間って幸福度が高くて。「いや、仕方なかったんだ。これしか選べなかったんだもん」って割り切りができるんです。

若林:本当に(笑)。

佐藤:いっぱいあると、「あっちのほうがよかったんじゃないか?」って思ってしまうんです。

結婚とかは昔は選べなかったんです。「お前こいつと結婚しろ」と言われたらもう選択肢がなかった。

若林:そうですよね。

佐藤:それが今は選択権がある。いろんな仕様があるので選択するのも難しいですよね。なにがいいのか。

ドナルド・トランプが大きなパワーを持った背景

若林:だから、それで最終的に決定ができなくなるということもありますよね。結婚に限らず……。

佐藤:職業選ぶとかね。

若林:そうそう。職業を選ぶっていうのも、条件やら何やらパラメータが多すぎて、「いや、もう誰か決めてくんないかなぁ」みたいな気分にどんどんなっていくということになりそうですよね。

で、世の中的にはある種そっちの方向に向かってるかもしれないですけど、「それに耐えきれない人は多いであろう」という気はするんですよね。どうですか?

佐藤:そうですね。なので、やっぱり「方向はこっちだ!」って指を指す人とか、宗教的なものとか、そういう“決めてくれる人”ですよね。そこに人や資本が集まっていくということはあるなと。

あと、エンターテイメントや宗教というのは、今後20年ぐらいまた盛り上がってくるんじゃないかなと思います。まあ今も盛り上がってますけど。

若林:だからそういうことでいうと、あんまり言いたくはないですけど、今はやっぱり大きい物語に人が流されやすい環境にあるだろうって気はしますね。

つまり、今まで僕らが当たり前だと思っていたコモングラウンドが崩壊し始めたときに、自分たちの共同体もそうだろうし、個人もそうだろうし、アイデンティティみたいなものが非常に揺らいでいくなかで、大きな物語とか、もう1回それを包んでくれる幻想みたいなものが非常に強いパワーを持つであろう、という気はしています。

佐藤:ナショナリズムとか、近いですよね。(ドナルド・)トランプみたいに「あれだ!」って言ってくれる人が。

若林:そうなんですよ。今年は目に見えてそういうことが現象として出てきた年でしたよね。要するに、「俺らがこんなに苦労してるのはあいつのせいだ」「悪いのはあいつだ」って言ってくれる人がいて、多くの人が、「そうだそうだ!」ってなってしまうという。このままそういう状況が続くと、「これって、そのうち戦争になるんじゃね?」という気分が、僕にはあったりして。

今から100年前って、ちょうど第一次世界大戦の真っ最中なんですよ。で、来年にロシア革命が起きるという時期なんですね。100年前って。ちなみに今年はダダイズムというものも100周年なんですよね。

100年前に起きてたことって、大規模でマッシブな工業社会みたいなものが、人の生活を根こそぎ変えていくなかで、人や共同体や社会を取りまとめていた共同幻想のようなものが揺さぶられて非常に大きな混乱のなかにいたっていうことなんだと思うんですけど、それに似た動揺が、いま改めて起きてるように見えるんですよね。

佐藤:その時は、みんなの精神の柱みたいなものはどこにあったんですか?

若林:どこにあったんですかね? わからないけど、例えばロシア人のインテリは一応新しい「社会主義」というものに希望を求めたんだろうし。その一方で例えばドイツなり、イタリアなり、日本みたいなところは、その後ぐっと国家主義に傾いて行きますよね。

僕らは100年前をもう1回生きているかもしれない

どうでもいい話なんですけど、『WIRED』って今5ヵ国で出てるんですよ。US版とUK版が出てまして、これ、二次大戦で言いますと連合国側なんですね。で、残りがどこかというと、日・独・伊なんですよ。旧・悪の枢軸(笑)。

この3国というのは、ちょうど100年前にけっこう激しくモダニズム運動に突っ込んでいった国なんですね。要するに、技術がもたらす新しい世界みたいなものを、文化として非常に強く推進しようとした運動があったんですけど、その帰結としてなのかどうかはわからないですけど、結果的にファシズムに飲まれていく。

で、なぜか今、世界で『WIRED』を出してるのが、その日・独・伊であるのは、なんとなく意味があることかもかもしれないって思うんです。テクノロジーというものに対して独特の、ある種の信頼感みたいなものを持ってるんですよね、日本もイタリアも、ドイツも。

100年前の話のアナロジーでいくと、新しい技術にドーンと突っ込んでいって、みんなの暮らしとかぐちゃぐちゃになって、その間隙を縫って強烈なリーダーが出てくるっていうことがありうるんじゃないのかな、みたいなことを思ったりするんですよね。

佐藤:今回の時代でいうと、本当に大きくなったインターネット企業が、いわゆる100年前の鉄道会社とか石油の会社に近い。

それに反対する人たちというのが、ポピュリズムというか、そういうちょっと尖った政治の考え方に寄っていって、そこを打倒しようというので変わっていったと思いますし、けっこう似てるなと思いますね。

若林:そうそう。100年前を僕らもう1回生きてるかもしれないって気持ちになってくるんですよ。

イスラム国(IS)の話題に必ず出てくるサイクス・ピコ協定という、フランスとイギリスが勝手に国境線引いちゃうという、あの密約が結ばれるのが1916年なので、ちょうど100年前の今年なんです。

ISは要するに、近代世界のなかでの国家っていうものの以前に戻ろうという話をしているんだと思うんですけど、100年後のいまそれを現実的なものとして実行しようとしているというのは、やっぱり今の時代の相と明らかに符合するなっていうのは、イメージとしてはあるんですね。

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