2024.10.10
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清水亮氏:というわけで、僕が、人類補完計画と呼んでいるもので、なにを補完するのかと言うと、計算能力なんですね。もしくは、人間の能力拡張なんです。
そういう分野を、かつてはHuman Augmentationと呼んでいました。Human Augmentationは、要するに、人間性の拡張という意味で、ずっとあったわけなんですけれど。
たとえば、皆さんにとって身近なHuman Augmentationは、メガネですね。メガネが発明されていなかったら、文明ってすごく野蛮だったはずです。日本人の大半は近視なので。
もしメガネがなかったら生活に困るわけじゃないですか。本も読めない、字も書けない。そうしたら、知識の高いこともできないし、もちろん、大学なんか行けない。コンピュータも使えない。文章も書けない。
ところが、メガネをかけるだけで、視力の違いがほとんど無力化されました。メガネやコンタクト、これがHuman Augmentationです。
携帯電話もコンピュータも自動車も、いろいろな道具の発明全体がHuman Augmentationっていうジャンルなんですけれど。
このジャンルは、Augmented Humanとも言われます。Augmentedというのは拡張されたという意味なので、「拡張された人間」みたいなことだったりするんですけど。
最近、神戸でやってた「シーグラフアジア2015」で、東京大学の稲見(昌彦)教授がおもしろいことを言っていました。
「これからは、Augmented Humanじゃない。Enchanted Humanだ」
国際学会でEnchanted Humanという言葉を初めて使ったので、びっくりしたんですけど。
Enchantってなにかと言うと、魔法をかけるという意味です。Enchantedは、魔法がかけられたという意味ですね。稲見先生によるとenchantMOONにインスパイアされてくださったらしいですけど、魔法にかけられた人類、そういうのが次なる目標なのだと。
テクノロジーが進化すればするほど、魔法にどんどん近づいていく。メガネなんて魔法そのものなんですよね。電源もいらないし、半永久的に動くし。かけていると気にならなくなる。
まだまだコンピュータというのは、メガネに比べると非常に不自然です。時代的には、メガネの前にルーペってありましたね。虫眼鏡で見る。その次にモノクル、単眼鏡というのがありました。あれも、使うのは相当不便でした。
今のコンピュータって、そんな時代なんですね。まだ発明されたばかりで、有用性はなんとなくわかっているけれども、誰もがごくごく自然に使いこなすところまではいっていない。
その壁を乗り越えるためには、当然、コンピュータはもっと人が使いやすくならなきゃいけないし、もっと人が使いこなせるようにならなきゃいけない。なによりも、人がなにをしたいかっていうことを、両方の面からいかなきゃいけない。
Enchanted Humanこの言葉自体が、人類補完を意味するわけですよ。足りない部分を補うわけですから、Enchantedで。
これには2つのアプローチがある。まず1つは、Humanのほうをコンピュータに近づける。つまり、これを成し遂げるのは教育ですね。人間がコンピュータを使えるようにしていく。これは、教育です。もう1つは、コンピュータ側が人間に近づく。これは、イノベーションです。
この2つがどうしても必要になってくるんですね。
実はまだ、詳しくお話はできないんですけれど、この間、別のイベントで話した内容でもあるんですが。今、僕らは、まったく新しいプログラミングというか、コンピュータの勉強法を開発しています。これが非常におもしろくて(9分間メソッドで学ぶ!秋葉原プログラミング教室)。
これだけやれば、プログラミングはもちろん、国語・算数・理科・社会・英語・物理まで勉強できる。これだけ勉強すれば、人間がもっと賢くなれる、みたいなものを作っています。そういう教材を。
よく話すんですけど、三角関数って使わないじゃないですか。なんの役に立つかわからない。微分も積分もそうです。でも、微分も積分も、みんなやってるんですよ。
このなかで、家計簿つけたことある人いますよね。家計簿じゃなくても、事業計画書でもいいです。家計簿で言ったら、「今月は赤字」みたいな。「今月はこれだけ支出があって、収入これだけで、足して引いたら赤字だ」って。あるじゃないですか。それが積分です。1ヶ月の支出と収入を足したものですから、積分ですね。
「先月よりも今月節約したから、先月より1万円貯金が増えたわ」と。これは、微分ですね。
こんなもんなんですよ、実際。微分と積分を噛み砕いて言えば。ところが数学というのは、わざわざ難しく作ろうとしているから、難しい言葉になって。もちろん、歴史的背景もあるんですけど。
そういったものを理解すると、世の中がもっとシンプルに見えるようになる。先ほどの月が地球に落ちてくる例じゃないですけど、実際的なものを主軸にすると、勉強が楽しくなってくるんですね。
プログラミングというのは、人間の考えたこととかを、実際に実験して手で触って確かめることのできる非常に重要なツールで。これができるかできないかで、大きく変わってくるわけです。
人間がコンピュータに近づく。残念ながら、今日、ここにいらっしゃる皆さんには間に合わないです、これ。僕らが想定しているのは、小中学生ですから。皆さんもやれますよ。やっていただくのは構わないんですけれど、退屈かもしれない。
すごいですよ。今、作っている教材、おもしろくて。割り算の概念を教えた直後に、素数の概念を教えるんですね。でも、素数って割り算と一緒に教えたほうがいいんですよ、絶対。だって、割り算の概念がわからなすぎるんだから。割り算教えたら素数。
小学校1年生でも、素数の概念が理解できると。素数教えたら、次はエラトステネスのふるいを教えるわけですね。素数表から素数を見つけていくということをやる。エラトステネスのふるいを勉強させたら、次は最適化を勉強するというような仕組みで。こんな教え方は学校ではあり得ないです。
「それ、小学生にできるのか?」って思うかもしれないですけど、多分できると思います。僕もできましたから。実際、今教えてる子たちはできています。
そしてもう1つ。コンピュータが人間に近づく。イノベーションと呼んでいるところなんですけど。これはいくつかの要素技術からなります。
このうち、すごく重要になってくるのが、最近流行りのディープラーニングです。なぜ重要なのか。
ディープラーニング、深層学習って言うんですけど、ニューラルネットワーク、人工知能と言われます。ディープラーニングによる人工知能の性能というのは、人間を超えているわけですね。
どう超えているか。たとえば、おそ松さんの6人全部見分けることができる。これは、人間には無理です(笑)。がんばれば見分けられるようになっているんですけど、人間には相当難しいようなことも、人工知能にはできるようになってきています。
もちろん、苦手な部分もいっぱいあるんですけど。今までは到底想像することもできなかったようなコンピュータの作り方が、これからできるようになるんですね。これ、非常に重要なポイントです。
1970年代、アラン・ケイがさっきの論文を書いて、Dynabook構想のことを書いて、マルチウィンドウだなんだって考えたとき、すでにタッチスクリーン、ペン、マウス、ディスプレイ、そのとき全部ありました。そのときになかった技術ってなにか。そこから考えなきゃいけないです。
アラン・ケイが、そのとき存在する最先端の道具の組合せのなかから、きっと世の中はこうなっていくだろうなというビジョンであの論文を書いて、それを読んだ人たちがこれ(iPad Pro)を作った。
けれども、今、アラン・ケイが1970年代にけっして持ち得なかった道具があります。それがAIです。つまり、あの頃っていうのは、AIがここまで発達することをまったく想像できなかったんですね。
そして、それが一体どんなものかもわからなかった。たとえば、ユーザーが「こんなことしたい!」っていうのを、コンピュータはどうやったら読み取れるでしょうか。
「あなたがしたいことは、こういうことですね」と、ユーザーにどう確認するでしょう? そのとき、コンピュータがユーザーに対して、「あなたがしたいことって、こういうことなんじゃないですか?」って聞かなきゃいけない。聞くときのインターフェイスになるのはなんですか。どんな言葉でそれを確認しますか。プログラミング言語しかないです。
人工知能が発達して、人間がなにをしたいか、だいたい想像できるようになりました。「あなたに必要なのは、こういうプログラムじゃないでしょうか」と、そこまではできる。でも、勝手に動いては困る。
「あなたはきっと財産増やしたいですよね。最近、外貨預金に興味ありますよね。あなたの預金口座から勝手に引き落として、ユーロ買っておきました」みたいなこと言われても、「おい、勝手にするんじゃないよ」となるじゃないですか。
「あなたがやりたいことは、こういうことですよね」ということを、論理的かつ正確に人間とコンセンサスを取らなくてはいけない。そのときのインターフェイスになるのは、おそらくプログラミング言語なんです。
だから、これから先、いろんなものが発達する。コンピュータも、もっと速くなるし、高性能になるんですけど。そうなっていったときに、最終的に、シンギュラリティと言われている状態、コンピュータのほうが人間よりはるかに賢くなる。もしくは、人間と同等以上の性能を持つような時代が来たときに、コンピュータと正しく会話するためには、プログラミング能力が不可欠になる。
僕のさっきの話とちょっと通じるわけですよ。チームビルディング。僕は言いましたよね。僕は自分より優秀な人じゃないと仕事しない。自分より優れた存在を使いこなさないと、仕事しない。自分より優れた存在を使いこなせるからこそ、僕は経営者をやっていられるわけですね。
経営者がトップの会社はダメなんです。エンジニアがトップで、そのトップの社長が一番エンジニアとして優れているような会社っていうのは、社長が働かないとなにも起きない会社になっちゃうって。社長が一番甘えるじゃないですか、結局。
僕みたいな、怠けたい怠けたいと思っていて、自分じゃない人たちを一生懸命おだてて働いてもらうという性格じゃないと。俺が俺が、という性格だと、プログラマー経営者の会社は、なかなかうまくいかないことが多いですね。潰れないことも多いですが、大きくならない。僕の周りにはたくさんありますね。
それって、人間の限界だと思うんですよ。なまじ賢いんで、いい大学出たりとかね。そうすると、「俺が一番できるんだよな」ってなっちゃうんですけど、そうじゃなくて。俺は、むしろこの組織では一番できない存在なんだと。その代わり、自分より優れた人たちの力を借りるんだという発想で、物事を見るようにしないと、将来、人間よりも賢いと言われる知能が生まれたときに、うまく付き合っていくのが難しいんじゃないかなと。
逆に言うと、僕は、人工知能は大歓迎で、むしろ人間より賢いですよ。みんな認めたくないから認めていないだけで。おそ松さん見分けられないですから、僕は。ももクロも見分けられないんでね(笑)。
とにかく、見分けられないんですよ、がんばらないと。がんばりたくないし。たとえば、計算能力で言ったら、コンピュータのほうがずっと速いわけじゃないですか。人間の48億倍くらい速いんですよ。足し算だけだったらね。
そんなのと比較して、「人間のほうが賢いです」っていうのは、ただの自尊心であって、かわいそうなプライドなんですよ。「俺たちのほうが種として長く生きてるもんね」くらいな話ですよ。生まれてたった50年のコンピュータに負けちゃってるじゃないですか、すでに。(コンピュータは)種じゃないかもしれないけど。
という意味で言うと、ディープラーニングがすべてではないですが、これからどんどん発達してくる人工知能とか、もしくはそのほかの半導体技術とか。そういったものとうまく付き合っていくためにプログラミング能力は必要だし。そのときには、必ず、自分より優れた人、存在とどう付き合っていきたいか、どう付き合うべきかっていうことを考えなきゃいけないと思うんですよね。
僕は、彼らコンピュータ、もしくは、その先にあるAIとか。その人間のインターフェイスが1つはプログラムであって、プログラム自体がものすごく簡単にならないことには、誰もができるようにはなりません。
それができたとき、ただのHumanからEnchanted Humanになるんじゃないかなと。そうすることによって、初めて人類が補完されると思うような、新しい人間の進化が起きるんじゃないかと考えているわけです。
今日はそんなところで。大上段に構えたタイトルでしたけれども、これが、僕が今考えている人類補完計画の入口です。
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