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働きがいのある会社を創る(全5記事)

ベンチャーには緊張感が不可欠--成長企業の“マンネリ脱却法”

IVS 2015 Springの本セッションにセプテーニ・佐藤光紀氏、コロプラ・千葉功太郎氏、VOYAGE GROUP・宇佐美進典氏の3名が登壇。モデレーターを務めるCampus for H・石川善樹氏の進行で「働きがいのある会社を創る」をテーマに意見を交わしました。本パートでは、緊張感と居心地の良さのバランスを取る方法について、それぞれの会社で取り組んでいる施策について語られました。

役員合宿の“マンネリ”防止策

石川義樹氏(以下、石川):今日は働きがいというテーマで、各社それぞれの取り組みを“本邦初公開”ということでお話いただいているんですけれども。たぶんみなさん自身も、それぞれの会社が何をやっているのかって初めて聞かれたことが多いと思います。

聞いてみて自分の中で、「これ勉強になったな」とか、「これはおもしろいな」と思ったことがあれば、ぜひ教えていただきたいなと思うんですけれども。

佐藤さんからいいですか?

佐藤光紀氏(以下、佐藤):宇佐美さんの「BOARDING PASS」という制度がすごくいいなと思って、似たようなケースでうちでも最近「これけっこういいな」と思って手ごたえを感じている仕組みがあるんですけど。

けっこう似ているんですがうちで言うと、ユニットごとにもよりますが、役員合宿をだいたい四半期に1回していて、このマンネリ化をどう打破しようかと。けっこう参加メンバーが固定化してくると、役員の範囲を少し広げてみようと言っても、そんなに変わり映えしなくてですね。

「ちょっとマンネリだね」という中で、半期に1回、各部門ごとに表彰されるすごい人というのがいるわけです。セブンスター賞といって、7人くらいいるんですけれども。この人たちと一緒に、合宿に行ってみたらいいんじゃないかということで。

その半期間で現場で一番イケてるメンバーに、合宿への参加パスをあげています。役員とその表彰された数人の社員とが泊りがけで、特定の経営課題について、現場の最前線で一番成果を上げているハイパフォーマーと一緒に膝をつきあわせて真剣に議論して。

そこで決まったことを本当に実行するという合宿のモデルに、年4回のうち2回を思いっきり現場のメンバーと一緒にやる仕組みにしたんですよね。

その場では役員自身が、自分がコミットして、今当事者として解決したい経営課題をあらかじめ教えておくんですよ。例えば、中途採用を強化したいといったときに、どうすればその中途採用が定着、仕組み化して、今の新卒と同じかそれ以上のパフォーマンスをあげられるか、という経営課題があるとすると。

これに対して、うちにこういう経営課題があるんだけどどうすればいいかな、というのをそのメンバーを一緒に実際に決めて、それを実行に移していくんですよね。

これってやっぱり現場に戻したときの伝播力がすごくて、ハイパフォーマーが巻き込まれて当事者意識を持った状態で、会社としてはこういうことを解決したくて、こんな手を打つんだということを応援し、かつ共感した仲間として現場でインフルエンサーになってくれるんですよね。

うちの場合、会社の規模が1000人とかになってきて、誰と何を決めたら一番業績が上がるのかということがわかりにくくなって、ピントが合わなくなってくるんですよね。これはどうしようかなと思って、変に組織のレイヤーごとに役職順に呼んでいっても、全然ベストメンバーになっていなくて。

ベストアンドブライテストの問題解決ができるメンバーを、どうやってピックするんだっけ? という中で、現場での評価の仕組みと連携させて役員合宿をやっちゃうというのが、たまたま今の「BOARDING PASS」の仕組みとけっこう近いなと思って、「そのメンバーをどうやって選んでいるのかな?」というのが気になったんですけど。

宇佐美進典氏(以下、宇佐美):そうですね。これは自薦です。手を挙げさせています。基本的に会社の中のいろんな制度は、すべて自薦をベースにしています。選んで「お前来いよ」というのではなくて、やりたいと言った人の中から選ぶのをベースにしています。

結果として若手から選ぶことと、中堅から選ぶことが多いですけれども、それにこだわってはいないです。

誰を選ぶかというのはそのときどきによるんですが。例えば、このクオーターにおいて、この部署とこの部署を一緒にするかもなとか、もしかしたらこの事業は撤退するかもしれないとか、そのような事業の人を選ぶことが多いですね。

そうすると、その手前のところの状況や、議論のプロセスが本人たちもわかるようになるので。あと、新卒だったら比較的新卒の中のインフルエンサー的なタイプの人を選ぶことが多いですね。

石川:ありがとうございます。千葉さんは?

緊張感と居心地の良さのバランスの取り方

千葉功太郎氏(以下、千葉):僕、両者に聞きたいことがありまして、360度評価とかいろんなことをされている中で、僕もずっと悩んできたことなんですが「緊張感と居心地の良さのバランス」ってすごく難しいなと思っていまして。

我々って、やっぱり緊張感がすごく大切だと思っているんですね。要は、あまり居心地を良くしてしまうと、働くモチベーションにも影響が出るんじゃないかと思っていて。

ある程度体育会系じゃないけど、ピリッとした空気の中で、頑張るんだ、前へ行くんだ、進むんだ、何がなんでもやるんだ、みたいな空気感もベンチャーのパワーを上げることと、前に進むことにはすごく重要だなと思っていて。

いろんな制度をやるときに、いわゆる柔らかくなっちゃう、あるいは居心地を良くする話と、逆に聞きすぎることで、それが上司にとっての思考の雑音になってしまって柔らかくしてしまう、みたいな。

本来、聞いていなければその人の適度な緊張感で仕事をやれていたのが、聞くことによって遠慮されてしまって、角が取れてしまったりとかということがあるんじゃないかなと思っていて。

お聞きしたいのが、バランスの取り方ですね。情報を集める話と環境を良くする話のところで、どういうふうに意思決定をされてきたのかなと。それでいくと、うちはあまり踏み込んでいないんですね。

佐藤:前提としては、会社の企業理念の中に「フリー&ルール」という言葉があって、『ビジョナリー・カンパニー』でいうところの、規律の中の自由。自由で居心地いい状態で野放図にするのではなくて、必ずピリッと緊張する規律があった上で、自由があるという概念、考え方というのがまず前提にあります。

誰がどんな仕事をして、どんな成果をあげたのかという、誰がハイパフォーマンスで、誰がローパフォーマンスなのかというのを、これは残酷なくらい定量化してみんなが知れる状態になっているので。

貢献している人は誰で、そうでない人は誰でというのが、なるべくわかりやすくみんなに共有されていると、自然とその中で緊張感というのが生まれていって。

ふさわしい人が残り、ふさわしくない人が離れるという、無言の中での合意形成というのが、ファクトを明らかにすることでできていくのかなというふうに、自分たちもそれに向かって努力を日々しているというところです。

石川:宇佐美さん、いかがですか? 先ほど、「経営陣の意志と覚悟」という話がありましたけれども、どうバランスを取るのか。

宇佐美:ベースは目標設定で、直接の上司とそのチームのメンバーのところでどういう話をするかだと思うんですね。

目標設定をする前のタイミングのところで、グループやその部署の中で、評価の基準に則って、いわゆるアラートを出すべき人。例えば中途の人だと、これだけの給与水準であれば、これだけのパフォーマンスを出さないといけないよね、というところの目線は合わせた上で、そこで目標設定も行うようにしていきます。

基本的にはそこで日々、本人もアラートをちゃんと感じられるようにして、上司の人も「彼自身を成長させるためには何をしなきゃいけないのか」みたいな(ことを考える)。そういったところを本人だけじゃなくて、チームとして共有できるようにしていくというのがベースのような気がします。

石川:目標設定をしっかりし、その結果をきちんと残酷なくらい見せるという、そういう仕組みをやられているということなんですけれども。どうですか、千葉さん。

「働きがい」と「働きやすさ」は違う

千葉:その通りですよね(笑)。僕が最近一番危惧していたのは、我々も新卒を採用しだすようになってきて、いろんな施策をやっていると新卒にとってはそこからがゼロスタートなので、一番怖いのは「奢り」なんですね。

やっぱり新卒の子たちって、まっさらで入ってきたときに「一部上場企業でこんなに福利厚生がしっかりしていて、俺はすげーいい会社に入ったんだ」という奢りが生まれた瞬間にすべてが崩壊すると思っていて、こことの戦いをどれだけするか。

やっぱり社員はいい環境で働いてもらいたい、一方で我々にとっての最大の敵は、個人の中に生まれてくる奢りだと思っています。

これが出ないように、常に謙虚な気持ちで頑張らなくちゃいけないという緊張感とのバランスの中で、制度設計、目標設定も全部一緒なんですけど、やっていかなくちゃいけないなというのが、直近の僕にとっての課題ですね。

佐藤:「働きがい」と「働きやすさ」っていうのは、似た言葉なんですけど、やっぱり意味が違うんだなと。環境整備をしていくと、「働きやすい」環境がどんどん生まれていくんですけど。一方で、さっき宇佐美さんの話にあった成長機会がない状態でそれをしてしまうと、単に居心地のよい緩和した状態だけの組織になってしまうので。

今質問されて考えてみて、あたらめて気づいた点でいうと、「働きがい」というのは、優れた環境の中で成果を上げていくという動機づけがしっかりされていて、熱気のある状態というか意欲にあふれている状態の組織のコンディションというのが、働きがいにつながるんじゃないかなと、聞いていて感じました。

経営者とは何か

石川:ありがとうございます。あっと言う間の時間だったんですけれども、最後に、「経営者とは何か」ということをあらためて問われたときに、ひと言で言うとしたら、経営者って何ですかね? 宇佐美さんから、お話いただいていいですかね?

宇佐美:オーケストラの指揮者みたいな。

石川:その心は?

宇佐美:全体がどううまくワークするようにするのか。さっきの人事制度や評価の仕組みや、いろんなものがそうなんですけれども、何かひとつだけをやったらうまくいくわけではなくて。

何かをやれば何かが下がる部分があるので、そのバランスを見ながら、そのタイミング、経営の状況であったり事業の状況であったり、いる人の状況を見ながら、全体としてどう上に上げていくのかということをやっていくという。そういう意味での指揮者がイメージとしてあっているなと思います。

石川:なるほど。ありがとうございます。千葉さん、いかがですか? 経営者とは。

千葉:とても恐れ多くてそんなこと言える立場ではないんですが、個人的には「決めること」と「環境をつくること」だと思っています。決めることってすごく大切なので。良いか悪いかは常にわからないものの、一生懸命考えて決める。そして、決めたことをやるための環境を全力でつくる。特に人が集まることだったり、まさに今日のテーマである「働きがい」を持って、人が働いている状態をつくるというのが、一番重要だなと思っています。

我々はゲームをつくっている会社なので、人が生み出すものだから、資本はそこしかないんですよね。

石川:ありがとうございます。

佐藤:「仕組みをつくる人」ですかね。個人と法人という言葉がありますけど、法人づくりなわけですよね。法人格といいますけど、個人に人格があるのと同じで、法人という人格を働いている人たちみんなで1個の人格として、セプテーニだったら、セプテーニ君という人格をみんなで一緒につくっている。

これは概念的な話なので、なんとなく想像していただければということなんですが、一体の法人をみんなで一生懸命つくっている状態で、経営者はその中でも脳と心臓に責任を持っている存在だと思っていて。

どういう指令を脳から与えるんだっけということ、神経を全身に行き届かせる上での頭脳の役割というのと、あとやっぱり心臓ですよね。

実際、もうちょっと組織に熱を与えていったり、血液という情熱を注いでいくための原動力というか、心臓がドキドキいっている状態をつくっているのがまさに経営者の仕事だと思うので、脳と心臓を法人格においてつくっている人という感じです。

石川:巨大な生物体みたいなものですかね?

佐藤:そういうものだと思います。会社って有機体で、すごく人間の体に近いと思っていて、会社が調子悪くなるときって、人間が病気したり風邪ひいたりしてる状態にすごく近くて、日々運動が足りないから風邪をひきやすい、免疫が下がっているとかね。

そういう人間の体のつくりと法人の人格のつくり方とかコンディションのつくり方ってかなり似ていると思っていて。

そういう相関性で今うちの会社がこんな状態なのは、きっと体でいうとこういう病気にかかっている状態なんだろうなぁとか想像しながら、その病気を治すには普段からどういうトレーニングをして、メンタルをより健全にして、健康になっていけばいいんだっけという。

さっきの健康の話につながるんですけど、法人格における健康の話というのは、まさに個人の体づくりとかなり似ているんじゃないかなと思っています。

石川:ありがとうございます。

京都で100年以上続いている会社の共通点

石川:今回、「働きがい」というテーマでセッションするときに、ビジネスを継続的に長く確かなものにするために「働きがい」というのは、非常に重要だなということで、日本の会社で長く確かな経営をずっとしてきた会社って、京都にすごく多いんですね。

京都にある会社の3分の1以上は、100年以上続いているということらしいんですけれども、そういう会社がどんな思想で経営されているのかという社是をいろいろ調べてみたんですよ。

そもそも京都では、3世代くらい続かないと会社と認識されないような、3世代続いてようやく「あそこの家は最近ビジネス始めたみたいだね」みたいな(笑)。そういうところみたいなんですね。

それぞれ違うんですけども、共通していたのは、「長男に会社の経営を任せないこと」。必ず、経営できる人を外から持ってくること。

もうひとつが、「急いで大きくしないこと」というのがあったんですね。京都の会社は早く大きくなってしまうと、「かわいそうに」って言われるらしいんですよ。「大きくしちゃって、きっと大変なのね」と。

早く大きくするということと、長く確かな経営をするということは、両立できれば一番いいんですけれども、ずっと確かな経営をしていくためには、何が社員にとって働きがいなのかというのは、京都の社是を見るとしっかり書いてあったんですね。

今日お三方の話を聞いて、私が個人的に感銘を受けたのは、それぞれ表現は違えど、これが自分たちの会社の価値観であるというのを言語化されているということが非常に重要なのかなと思いました。

言語化したものを広げていくためには、「BOARDING制度」のようなものであったり、役員合宿に取り入れるとか、そういう仕組みとして、まさに今チャレンジされているんだなとういことも思いました。

これから21世紀の企業がどのようにして確かな経営をしていくのか、「働きがい」というのは今後も大きなテーマになるなということを私自身感じました。

ということで、あっという間の75分だったんですが、あらためてお三方に大きな拍手をお願いします。

(会場拍手)

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