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注目若手経営者が語るビジョンと経営(全5記事)

ベンチャーに苦労はつきもの--創業メンバーの集め方

IVS 2015 Springの本セッションにアカツキ・塩田元規氏、freee・佐々木大輔氏、ラクスル松本恭攝氏、ランサーズ・秋好陽介氏の若手経営者4名が登壇。モデレーターを務めるグリー・田中良和氏の進行で「若手経営者が語るビジョンと経営」をテーマに意見を交わしました。本パートでは、創業時のメンバーの集め方として「実家の弟にお願いした」「友人を監禁して説得した」など、ベンチャー企業ならではのユニークなエピソードが語られました。

ベンチャーの創業メンバーの集め方

田中良和氏(以下、田中):じゃあ、次の話にいきたいと思います。どういう形で一番初めの創業メンバーというか、経営陣を集めたかということをお伺いしようと思っています。まずはランサーズの秋好さん、お願いします。

秋好陽介氏(以下、秋好):実は、あまり外部に言ってないのですが、一番最初は共同創業者がいたんですよ。事業計画を一緒につくってランサーズをやろうって言ってたんですけど、1ヵ月前に「やっぱり違う」と。バンドマンが方向性の違いで解散するかのように、会社設立前に解散になったんですよ。

田中:ちなみにどういう人なんですか? 差し支えない範囲で。

秋好:えーっと……差し支えます。

(会場笑)

秋好:「ごめんなさい」って言われたときに、僕は大阪出身なんですけど、ちょうど実家に帰っていたんですね。実家に帰っていたときに、目の前に弟がいたんですよ。

もう藁にもすがる思いだったので、弟にダメもとで「3ヵ月だけ手伝ってくれ」と。彼はそのとき偶然同じHTMLコーダーの仕事をしてたんですよね。そのまま車で東京に連れて帰って手伝ってもらったという。3ヵ月のはずだったのですが、未だに役員とかではなく社員のエンジニアとして会社にいます。

田中:すばらしいですね(笑)。じゃあ松本さん、お願いします。

松本恭攝氏(以下、松本):今日ここにもいる佐俣アンリが学生時代からの友人なんですが、会社を辞めるって決めた日に、アンリに「会社辞めることにした」って電話をしたんですよ。

「このサブプライムショック真っ只中に、辞めてどこに行くんだ」みたいにみんなに止められる中で、アンリ1人が「おめでとう!」って言ってくれて。その2~3週間後にアンリが「いい人いるから紹介するよ」って言って紹介してくれたのが共同創業者になっていますね。

初期の創業メンバーは、だいたいみんな別の仕事を持ちながら土曜日だけとか、土曜日と平日の夜だけみたいな、草野球みたいな形でのスタートでした。だんだん1年経って2年経って、「これ2つの仕事するのつらいよね」っていうような状況になって、「じゃあ辞めて入ろう」ということになっていきました。

うちのCTOは元グリーのエンジニアなんですけど、学生時代からずっと手伝ってくれていて、グリーに3年勤めた後に戻ってきて、今はラクスルでCTOをやっています。そういうふうに、長い時間をかけて2足のわらじの中で一緒にメンバーができたという感じです。

経営陣でいうと、うちはビズリーチから来ている人がすごく多くて。たまたまビズリーチの創業メンバーが草ベンチャーのチームの1人にいて、ビズリーチを活用していろんな優秀な人が面接にやってきてくれて、その中で意気投合した人たちが今の経営陣として入ってきています。

印刷業界のラクスルに人が集まった理由

田中:なんか「印刷会社やりたいんだけど」って言うと、かなりセクシーじゃない感じしか漂わないんですけれども。その中で人を集めようというのはちょっと難しかったかなと思うんですが、そこは自分の魅力がすごいということでしょうか?

松本:「古い産業をインターネットで変える」っていうビジョンに対しての魅力ですかね。「印刷」って言っちゃうとセクシーじゃないんですけど、オールドエコノミーとかレガシーの部分をネットで変えるというチャレンジを本気でやってる日本のインターネットの会社ってそんなに多くなくて。

オールドな部分ってすごく規模が大きくて、例えば日経平均とか見ても、インターネットの会社って全部合わせても10兆円とかなくて、でも東証の時価総額って600兆円ぐらいあって、600兆円と10兆円っていうぐらい、リアルの部分にまだインターネットがそんなに入っていないんですね。

そこをインターネットのプレイヤーとして業界の仕組みを変えていくみたいな、そういう大上段での大義名分に対して共感を持ってくれて、そのチャレンジを一緒にしたいと思ってもらうっていう、ビジョンに対しての共感がすごく大きいのかなと思いますね。

田中:そういうビジョンを考えた俺がすごいっていうお話ですね?

松本:いやいや(笑)。

田中:ウソです(笑)。じゃあ次は佐々木さんお願いします。

ベンチャーならではのサクセスストーリー

佐々木大輔氏(以下、佐々木):僕の場合には会計ソフトをつくろうと決めたときにいろんな友人に「Facebookのグループに書き込んでくれ」とか言って、それで出会ったエンジニアと一緒に創業しました。一緒にやろうと判断したのは、彼ももともと両親が自営業で、「親のために会計ソフトをエクセルのマクロでつくったことあるんですよ」「あれ本当に面倒くさいよね」っていうようなところですごく意気投合したんですね。

2人目のメンバーっていうのが実はおもしろくて、僕のGoogle時代の同僚の紹介で紛れ込んできたんですけれども。当時31歳で東大法学部を出て、司法試験を3回受けて、落ちて、「もう次の人生の道がありません」と。

「だから無給でいいから働かせてくれ」と。いいとは言ってないのに紛れ込んできちゃったんですね。それで何日か働いていると、結構……いろいろ役に立つなということで(笑)。

それで一緒にやろうということになったんですけども、彼は結局「エンジニアになりたい」って言って、そこから勉強してエンジニアになって、今ではエンジニアのチームのマネージャーをやっていて、経営の幹部としてもすごく参画するような存在になっています。これはベンチャーならではのおもしろいサクセスストーリーだなと思いますね。

田中:日本のネット業界を見ていると、社長はともかくとして、ベンチャーからベンチャーに移る人って多いんですけど、Googleとかの大きな会社からベンチャーに行く人ってあんまり少ないイメージがあると思うんですが。Googleの人たちと会社をつくるってまた珍しいなと思ったんですが、そういうのに関しては苦労はない感じですか?

佐々木:あまり抵抗感はなかったですけどね。ただやっぱりGoogleにいたっていうのは1つメリットにはなっていて、創業してから1年後ぐらいにはGoogleで一緒に中小企業向けのマーケティングをやっていた東後(澄人)という今のCOOが参画することになって、そういう意味ではそのときのネットワークも活かしながらどんどん経営陣なりメンバーを強化してるっていう感じですかね。

田中:ありがとうございます。じゃあ、塩田さん。

「彼女NG」が出た友人を監禁して説得

塩田元規氏(以下、塩田):2人いまして、1人は共同創業で今役員をやっている香田(哲朗)という人間なんですけれども、もともと大学のときにワークスアプリケーションズのインターンシップで右斜め前の席にいて、すごいモチベーションが高いやつだったので、一緒にビジネスプランコンテストに出たりして、その頃からの友人でした。

自分がもし会社をするんだったらという名簿を書いてたんですけど、そのときに役員として彼の名前を書いていて。結果そうなったのかなっていう感じですね。

ただ、実際に会社を始めるときは、「会社をつくろう」って言って始めたというよりは、ややなりゆきでした。香田に1年ぐらい経って久々に会ったら仕事に飽きてて、本当に死んだ魚みたいな目になってまして……。

「もうやる気ない」みたいに。「じゃあ(一緒に)やる?」と言ったときに、彼はその翌週からいきなり会社休みはじめまして(笑)。これはもう面倒見てあげないといけないなっていうことで会社になったというのが1人目です。ただ、絶対10年間は何があっても裏切らずにやろうっていうのを約束してスタートしました。

もう1人、デザイナー兼エンジニアの人間がいて、もともとシリウステクノロジーズにいてヤフーに買収されたタイミングだったんですけど、やっぱりヤフーのほうが大企業で安定していてですね……。彼はちょうど誘ってたタイミングに彼女と結婚することになっていて、うちに来るって言ってたのに「彼女NG」が出て、「来れない」と言われたんです。

もう「ふざけんな!」っていうことで、家に呼んで鍵を閉めて、3時間監禁するということをして(笑)。何がダメなのかを整理して、1年目の給与を、たぶん400万ぐらいだったと思うんですけど、僕が何をやっても払うと。最悪実家を売るっていうコミットをしてですね……。

(会場笑)

塩田:そもそも親に起業したことを言ってなかったんですけど、実家を勝手に抵当に出して(笑)。「ちゃんと給料出すから」っていう話で来てもらいました。

なぜ今の事業を始めたのか

田中:さまざまな経緯があって創業したことがわかりました(笑)。そういう形でメンバーを集めてきて、同時に何をやるかというのも大事なんですけども、次は数多ある中でなぜ今の事業を始めたのかということを聞きたいと思います。

創業という話でもそうなんですけど、ここにいらっしゃるみなさんも今の事業をどう広げていこうとか、今の事業じゃなくて次の事業展開を広げようというときに、数多あるプランの中からどういうふうに事業を決めるのかということが一番大事だと思うんですが、選び方というか、選ぶ考え方についてお聞きしたいと思います。じゃあ今度は塩田さんからお願いします。

塩田:僕はビジョナリーカンパニーが大好きだったので、最初につくるときも世界一になれる可能性がある場所で、自分たちの情熱を燃やせること、かつ経済合理性があることっていうのでゲームを選んでスタートさせました。3人でも世界変えられるかなって思って。

その1年後ぐらいに「ゲームの価値って何なんだろう?」っていうことを徹底的に議論して、今は「人の心を動かす仕組み」という定義でやっています。

これからまさに僕たちもエンターテインメント以外の領域もやろうと議論しているんですけども、一番大事なのは自分が覚悟を持ってやれるかだと思っているので、「なぜやるか」と、「本質的な価値があるか」っていうことを一番最初に決めて、それがあることをやるというルールで新しい領域は進めていますね。

田中:ありがとうございます。じゃあ佐々木さんお願いします。

佐々木:僕の場合は、どれだけ社会の大きなボトルネックになっているのかっていうところが結構キーなんじゃないかなと思っています。

会計ソフトのクラウド化が進むと、会計ソフトってあらゆるビジネスに使われるので、「会計だけじゃなくて、こんなものもインターネットで簡単にできるよね」って中小企業が思うようになったらそれはすごくイノベーティブな社会になっていくんじゃないかなと思ったんですよね。

それのためにやれば別に失敗しても悔しくもないし、なんかいいことやったなっていう気分になれるんじゃないかと。そんなところを起点にして始めました。なので、今でも新しいプロダクトをつくったりしているんですけども、これが解消するボトルネックって何なんだろう、それって大きいのか、その先の波及的インパクトはあるんだろうかみたいなところを常に問いながら考えてやっています。

田中:ありがとうございます。じゃあ松本さんお願いします。

松本:私の場合、ビジョンである「仕組みを変えれば、世界はもっとよくなる」の「仕組みを変えれば」っていうのは、今あるものではない何らかの0から1をつくるっていうことと、「世界をよくする」っていうのは1を100にするということ。

インパクトを出していくことができるような事業をしているという根本があるので、まず市場の大きさというのがすごく重要で、つまりそれは需要の大きさだと思うんですけど、それが一番大事にしていることです。

改善がどんどん進んでいるところではなくて、需要は大きいんだけどもイノベーションが起きていない、不満が放置されているような非常にセクシーじゃない業界っていうのがあって、そういう業界って相対的に自分たちが出せる価値の大きさが大きいんじゃないかと思います。

たぶん他の人がやらないから、これは自分たちがやらないと世の中ってこうなんないよねっていう、自分たちじゃないとできないこと。何か他の人がやりたがらないようなホワイトスペースで、ただインパクトはものすごく大きい、そういう領域で事業をつくっていこうというのは結構意識してやっています。

田中:ありがとうございます。じゃあ秋好さんお願いします。

秋好:僕らはあんまりおもしろくないんですが、8年間ずっと同じ事業をやっているんですね。なので、創業のときの事業の決め方で言うと、自分自身が企業で働いていたときに個人に発注するって稟議上難しかったんですよ。でも「待てよ」と。インターネットが使えれば個人にシームレスに発注できるんじゃないか、与信も担保できるんじゃないかと思って。

松本さんの話じゃないですけど、Googleでそういうサービスあるか調べたんです。僕はエンジニアでGoogleの検索オプションはほぼ知ってるぐらい「ググり力」が高かったんですけど、この僕を持ってしてもそういうクラウドソーシングみたいなサービスが当時日本に1件もなくて、これはもう「気づいてしまった使命だ」と思って起業したんですよね。

たぶん今はクラウドソーシングってたくさんありますけど、当時1件でもあったら僕は起業してなかったと思います。それぐらい自分が欲しいと思う部分に基づいて創業したっていうところと、とはいえ我々には今ビジョンがあるので、「新しい働き方を創る」っていうところとの壁打ちで経営陣含めて新規事業とか新しい企業っていうのはつくっていますね。

田中:ありがとうございます。今のお話をお伺いしていて僕が改めて重要だなと思ったのは、結局事業の決め方はみなさん自分なりに理由を話されていますけど、その理由には必ずしも統計的な合理性があるわけではないというか。あくまで自分で思う、自分がやったほうがいいということだと思うんですね。

そういうことを持てるっていうこと自体が成功するかわからないことをやっていく中で重要なことなので、みなさん自分なりの信念、自分のフレームワークを持たれて今の事業を選定されてやってるんだなということをすごく感じました。

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