2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
尾原和啓×徳力基彦(全1記事)
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尾原(以下、尾):どうも今日はよろしくお願いします、徳力さん。さっそくですが本(『ITビジネスの原理』)、いかがでしたか?
徳力(以下、徳): 面白かったですよ。多分、こういう俯瞰的に分析してる本って、意外に日本だとないですよね。ノウハウ本とかが多いんで。本にあった、ハイコンテクストとか非言語とか、いわゆるアングロ・サクソン系のインターネットと、アジア的なインターネットの行く末がどうなるのかは、僕も非常に興味があります。ソーシャルメディア界隈にいると、シンプルに言えば日本と米国の国民性や文化の違い、つまり、同じウェブサービスを使っているはずなんだけど全然違う使い方をしているなんてことがよく出てくるんですよね。その違いを踏まえてインターネットを語らないといけないということによく遭遇するのですが、なかなかそこをまとめている人はいないですよね。
尾:実際に、徳力さんがお仕事されてる中で、そのようなアジア的なインターネットや日本的なコミュニケーションを感じられたりしますか?
徳:そもそもインターネットの使い方自体が、シリコンバレー的米国と日本で違うというようなこと、『ウェブはバカと暇人のもの』の中川さんも言っていましたけど、そのことを僕らは真剣に受け止めなくちゃいけない立場だと思うんですよね。
やっぱりシリコンバレーでは大成功していて揺るがない地位を築いているGoogleが、日本だと意外にYahoo!に勝てないとか。Facebookのようにグローバルを席巻しているSNSよりも、日本ではLINEやTwitterの方が盛り上がっているのもそうですね。米国のITトレンドだけを持ってきて「米国で起こったことが、日本でも起こる」という論調が毎年のように同じサイクルで繰り返されますけど。冷静に見ていると、やっぱり日本のインターネットは全然違うなとすごく思いますね。
尾:そうですよね。その違いを、まさにおっしゃったように『ウェブはバカと暇人のもの』って自嘲的に言っちゃうじゃないですか。
徳:中川さんはああいうところが、ある意味、天才的にうまくて。ズルいポジションだなとは思いますけど、あれはあれでうまく言い当てているとは思うんですよね。最近、さとなおオープンラボに通わせて頂いてたんですが、「ヤンキーとエリート」だったかな、そういうフレーズでの分類が良く議論になりました。
いわゆるパソコンを使って東京で働いているような人たちを仮に「エリート」と定義した場合、そうではなく地方でパソコンじゃなくスマートフォンを中心にして地元のコミュニティにいて、東京に出てこない人たちがヤンキー的である、みたいな言説です。
まあ、言い方が言葉としてあんまりよくないんですけど。実際に日本でウェブサービスがユーザー数でブレイクするには、エリートではなくヤンキー側の人にちゃんとウケないとブレイクしないということが、言われてみれば日本のインターネットサービスでは顕著だなっていうのがありまして。
尾:GREEやDeNAのmobageがトラックの運転手にウケたんじゃないかって話と同じですね。
徳:そうそう。だからブログにおいても「はてな」的なものじゃなくて、やっぱり「アメブロ」の芸能人ブログを一カ所に集めたようなわかりやすさ、シンプルさじゃないとマスには拡がらない。ちょっとクールなシリコンバレー的なものって、東京を中心とした普通のビジネスパーソンからするとそれが主流に見えるんだけど、日本全体のボリュームからすると実はそのいわゆるヤンキー的な人たちが使うようにならないとダメなわけですよ。
尾:ヤンキー層の方がボリューム的に圧倒的に多いと。
徳:僕らのような一般的なビジネスマン男性は「なんでAmazonで買わないの?」とまず思っちゃいますが、たとえば主婦の人たちは「ポイント貯まるし楽天の方が楽しい」みたいな違いはすごくありますよね。
尾:その違いはネットじゃなくてリアルの店舗だとわかりやすいと思います。Amazon的な店舗はきっと全部がきっちりと場所が決められて商品が置かれている店舗なので買いやすいけれど、やっぱり100円ショップのダイソーで「これも100円かー」なんて迷いながら買うことが楽しいということはあるじゃないですか。
徳:そうですね。ドン・キホーテとかもですね。
尾:時間の消費の仕方が「効率性よりも逆に非効率の方がもっと豊かになる」というところが、多分、さとなおさんの言うヤンキーの人たちの一つの特徴でもあると思うんですよ。
徳:この議論はすごく面白いと思うんですよね。やはり米国的インターネットは論理的で、テキスト中心で、ちゃんと議論をしてといったように、どちらかと言えば、みんな向上心がある前提で高め合うためにインターネットを使っているように見えます。そのシンボルがGoogleだと思うんですよね。「検索する」という行為自体が、すでに知的な行為ですし。
ヤンキー的という言葉でくくるのがいいのかはわかりませんが、普通の一般的な人はテレビをつけっぱなしで受け身で見ているのと同じように、パソコンでYahoo!を受け身で見ていたり、スマホのソーシャルゲームを受け身でプレイしている人の方が実は大多数なんじゃないでしょうか。
実は人間の生きている時間の中で、積極的に知的活動をする時間ってわずかな割合だと思います。友だちと雑談したりする時間がほとんどで。インターネットというものが、論理的なもので成り立っているというか。まあ、僕はどちらかというとそちらの方が好きな人間ですけど。
尾:うんうん。
徳:実はインターネットの裾野が広がったことによって、論理的なものが好きじゃない人たちの方がはるかにたくさんいることがわかった。それを中川さんは「バカと暇人」と表現しているわけですが。でも先ほど言ったように、実はそちら側の大多数の人に認めてもらえるサービスにならないとブレイクしないという話は、日本においてとても面白いテーマだと思うんですよね。
尾:そこには理由が2つあって、1つはiモードをきっかけにモバイルで常時接続できる環境が世界のどこの国よりも先に日本にあったということ、もう1つは前提として生活水準が高いということがあったと思っています。
徳:そうですね。
尾:これからAndroidの普及によりスマートフォンの値段が50ドル以下に下がる。そうするとモバイルで常時接続できる環境は日本だけじゃなくインドネシア、インド、ブラジルと広がっていき、5億人ユーザーが増えると言われている。そうした人たちはきっと今の話でいうヤンキー特性の人たちだと思うんですよ。
徳:今の話に付け加えるなら、スマートフォンという端末のインターフェイスが影響しているところもあると思うんですよ。以前、レノボの担当者が言っていたのですが、パソコンはキーボードという入力デバイスがあるけど、スマートフォンやタブレットは端末の特性上、受け身になりがちだと。
今まではインターネットにつながる端末がパソコンしかなくアウトプットをすることが前提の時代が長く続きましたが、今はキーボードがなくても出来ることがたくさんある、インプットの方がラクなのでネットで時間を費やしているというところがあると思います。
尾:そのとおりですね。
徳:そのことを「ヤンキーとエリート」という言葉でくくるのがいいのか、「パソコンとモバイル」でくくるのがいいのか、よくわからないですけど。尾原さんが本でおっしゃるように、米国シリコンバレーがウェブサービスは先端をいっているように見えるかもしれないけど、実はユーザーの傾向としてはアジアの方が先をいっていると見る方が、実はずっと面白いことなのかもしれないと思うんですよね。
尾:おっしゃられたようなインプット中心のスマートフォン・タブレットという話は、本の中では「リーンフォワード(前に傾いた姿勢)」「リーンバック(後ろに傾いた姿勢)」という言い方をしているのですが、まさにリーンバックで受動的なインターネット、ときどき衝動的に動くようなインターネットが今後増えていくと思います。
そうするとマクロとして見た時に、ヤンキー的な人たちがインターネットにどんどん接続されていき、二重の意味で日本のインターネットが面白くなるんじゃないかと、そんな風に思っています。
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