2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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藤田:とはいえ、7年間徐々に成長とはいえ、描いているビジョンとの落差があったりすると、そういう意味での焦りとか、これでいいのかっていうのが頭の中を駆け巡って、ついつい違うビジネスモデル(を考えてみたり)とか、こっちじゃないとか、そういう浮気っていうのはなかったですか?
鉢嶺:まず元々、FAXのビジネスで上場しようと事業計画を書いて、ベンチャーキャピタルからもお金を出資していただいていたのですが、自分でやっていて、「ああ、これはもう上場できないな。この市場ではできない」というのが分かってきました。そこで、1997、1998年にインターネットに舵を切りました。
そこは、事業ドメインを、FAXからインターネットに、大きく舵を切りました。ここは、今から考えると非常に良い判断だったかなと思います。
藤田:ドラスティックに変わるために、当時の売れ筋だったFAXDMの商材を売るなっていう命令をされたんですよね。
鉢嶺:そうですね(笑)。現場の営業からすると、その月々の営業成績で給与が決まるようになっていましたから、いきなりインターネット(商品)を売ってこいと言われても数字も立たないし、本人もよく分からないと。それなら従来のFAX商品を売ってたほうがいいや、ってなってしまったのです。
そうすると会社の方針でインターネットに変えるよと言っても、変わらないのです。ですから、「FAXは一切売ってはダメです」ということにしました。それに反発して辞めてしまった社員も数人いましたが、結果的にそれで一気に会社がインターネットにシフトしましたね。
藤田:そこからどんな風に会社が伸びていったんですか?
鉢嶺:アメリカの市場を見るとインターネットがすごいことになるっていうのはもう分かっていたので、インターネットに舵を切って、ワクワクしていました。ただ、自分の事業は全然うまくいかなくて。「これから日本もインターネットの時代が来るなら、いっぱい投資しよう」と、いっぱい投資をしてしまったのです。
ですから、小さなベンチャー企業で、社員もそれほどいなくて、お金もそれほどないのに、出来る限り、借り入れをしまくって、4つも事業を始めてしまったのです。当たり前ですけど、全部中途半端になるので、全部赤字です。
さらにネットバブルがはじけたので、そのタイミングで急遽この事業を全部凍結して、インターネット広告代理業にすべてのリソースを集中しました。その後、バッと伸びましたね。
ですから、ベンチャー企業にとって、「事業をフォーカスすること」というのは非常に重要なキーワードだと思っています。自分も分かっているつもりでも、フォーカス出来ないこともあります。(笑)ベンチャー企業の創業社長って新しいことするのが好きな人が多いので、どうしても「これがある程度うまくいったら、次はこれをやってみよう、、あれをやってみよう」となってしまうのです。
でもこんな小さな会社が分散してやっていたら、それぞれ勝てるわけないのです。やはり一点突破で集中しないといけないんだなというのは、身をもって体験しました。
藤田:そういう中でも、当時、ほかにもインターネット広告の代理店さんが業界の中にあったと思うんですけど、なぜその中でもオプトさんがトップレベルに成長できたのでしょうか?
鉢嶺:基本的には「アドプラン」ですね。今は、広告を測定するというと、Googleアナリティクスなどで誰でも測定できますが、当時はまだ広告を測定するという概念がありませんでした。
マスマーケティング、テレビは視聴率調査というものがありますけれども、正確に「何人の人がテレビを見て、何人が買ったのか」というのは誰も分からないのです。
それが、インターネットの場合は「何人がクリックして、そのうち誰が行動したのか、買ったのか」ということが全部測定できます。だったらこれを測定して、クライアントに開示してしまおうといって作ったのが「アドプラン」なんです。
このアドプランは、クライアントに喜んでいただきました。「これ、いいね!」と。次々とクライアントの導入が決まっていきましたので、一気に広まりました。これが非常に大きかったですね。
藤田:それ以外にも、そこまで利益が出ていなかったころから採用に力を入れて、大きな広告を使ったりとか。
鉢嶺:そうですね。
藤田:いろんなプロモーションされたと思うんですけど、優秀な人材を採用するために、その当時取り組んでおられたことっていうのは?
鉢嶺:私は、会社を起こした翌年から新卒採用を始めました。私はこれをお勧めします。私は会社の中で一番大事なものは風土、社風だと思ってます。「オプトという会社はこういう風土なんだ」、と。これはAppleにしろGoogleにしろIBMにしろ、必ずその独特のカラー、風土というものが、実は会社の見えざる資産、競争力だと、私は思っています。
ですから、「オプトという会社はこうなりたいんだ。こういう理念なんだ」という共通の価値観で、同じバスに乗せるっていう作業がとても大切だと思っています。(ジム・コリンズの著書)『ビジョナリー・カンパニー』にも書いてあります。そういう時には新卒の方のほうがキャンバスが白いので、「こういう風にしようよ」って言ったことに対して素直に乗ってくれます。
1つでも会社を経験していると、その会社が会社としての固定概念になっているので、「何でこんな福利厚生がないんですか?」とか「何でこういう制度がないの?」と言います。元の会社が1つの像になってしまっているので。
私自身が森ビルに入社したときも、当時の創業社長が中途採用を止めていました。「森ビルという1つの文化、カラーをつくるためには、やはり新卒だ」と、当時おっしゃっていました。そういう思いに私も共感しましたから、私はベンチャー企業は早いうちから新卒を採用したほうがいいんじゃないかなと思いますね。
藤田:でも、よくマンションのときから、心に決めてくれる学生がいたものですね。その学生は何が決め手になって……。
鉢嶺:やはり、私の想いではないでしょうか。「こういう会社にしようよ」とか、「将来こういう時代になるんだよ、ダイレクトマーケティング来るんだよ」とか「インターネットでこういう世の中が来るから、絶対大きくしようよ」という思いに乗ってくれる学生の方は必ずいますので。
オプトヘ最初に入社を決めていただいた2名のうち、1人は女の子でした。でも「娘がだまされているんじゃないか」といって、お父さんが長野から来られて、僕が面談されて(笑)。
藤田:逆に(笑)。
鉢嶺:はい(笑)。そのときは何とか了承いただいて、入社いただきました。そういうことが多くありました。当初は中途の人についても、ご家族の面談を私が受けるということが、よくありましたね。
藤田:やっぱり大事にされてきたことっていうのは、会社としての理念、ビジョンもありますし、会社としてのスケール感の定義、要は将来こうなりたいっていうのは、常に意識しておられたんですね。
鉢嶺:創業のときから、「社員を1000人規模まで拡大したいし、売上も1000億円くらいにしよう」ということは言ってましたし、上場をするということは最初から決めてました。
これは、私はすごく重要だと思ってす。大きければいいというものではなくて、「自分がどれくらいの規模の会社にしたいのか」ということはとても重要だと思います。10人の少数精鋭の会社にしてもいいと思いますし、150人未満でとにかく社員の幸せだけを求めたいという会社もいいと思いますし、やっぱり大きくして社会に影響力を持ちたいという会社でもいいと思います。
どのぐらいの規模にするかによって資本政策も大きく変わりますし、組織の作り方から全部変わってきますので、やはり「どのくらいの規模にしたいのか」ということは、私は目標設定上は重要なのではないかと思いますね。
藤田:もう1つ、オプトさんの特徴としては、かなり積極的に投資というか、ほかの企業を育てる、それは産業全体を育てるみたいな志もおありだと思いますし、ユニークな志を持った人を応援したいっていうのもあると思いますけど、そういうのも、(創業)当初から考えておられたんですか?
鉢嶺:そうですね。今、ベンチャー企業に投資をした上で、お金だけではなく、いろいろなサポートもオプトの支援の特徴にしています。本業にしているeマーケティングのサポートもしますし、人も派遣します。我々の社員が経営者育成研修っていうプチMBAみたいなコースを受けまして、その卒業生だけが投資先に派遣されて、支援に行くことを許されたり。
あるいは、法務や広報や経理といった管理業務、また、研修などは、なかなかベンチャー企業はその機能を持っていません。そういう機能を僕らは持ってるので、アウトソースで受けますよ、というように、お金以外の支援を、今ベンチャー企業にどんどんすすめています。
これは、私自身がベンチャーキャピタルから出資を頂いた体験の中で、1つの大きな期待外れ(笑)からきています。日本のベンチャーキャピタルの場合はお金が中心であって、私が期待していた経営のアドバイスや人脈紹介というのが、当時はあまり受けられませんでした。
ですから、金銭的な支援は圧倒的にベンチャーキャピタルが強いと思うので、ベンチャーキャピタルさんと協力しながら、お金はベンチャーキャピタル、我々はお金も少しは入れますが、サポートもする、といった形ででベンチャー企業の底上げが出来ればいいなと思います。
アメリカのようにベンチャーがどんどん生まれていかないと、日本の活力が生まれないと思うので、こういうことはやっていきたいなと思っています。
藤田:今、最初思い描かれていたところに随分近づいていって、成長されていると思いますが、人数が増えてくるとビジョンの共有とか、直にメッセージを伝えるというところがなかなか難しくなってきていると思うんですけど、そんななか工夫されていることっていうのは?
鉢嶺:文字通り、創業の頃は、毎晩のように飲みに行って「こんな会社にしようよ、あんな会社にしようよ」と語るのが一番のコミュニケーションでした。最近は、人数が増えるにつれて、だんだんコミュニケーションのやり方は変えています。
現時点ではいろんな方法をとっています。まず毎週1回月曜日にブログを書いて、私が発信する。あるいは年に2回、全社員総会みたいなのをやるんですけども、そういった場で色々なプレゼンをしたり、表彰もありますが、その表彰もうちの理念に合った活動をした人に賞をあげたりしています。
あとは社内報であるとか、さまざまな手段で出来る限り私の思いというのを皆に共有する。で、皆の思いを吸い上げるというような場は、どんどん設定するようにしています。
藤田:少しさかのぼるんですけど、ベンチャーって大概創業社長兼営業部長として、どんどん先頭に立って開拓するじゃないですか。それがある段階でマネジメントに切り替わりますよね。つまり、一時的にもどかしく思っても、どっしり座って軍師として会社の進路を考えたり。そこのときに、鉢嶺さん自身は戸惑いとか……。
鉢嶺:私は、100人社長がいたら、100通りの経営の仕方があると思っています。先ほど、松下幸之助さんや稲盛和夫さんの本を読んで真似をしたけどうまくいかなかったと言いましたけど、それは松下さんだからうまくいった、稲盛さんだからうまくいったことであって。
正しいところは真似しないといけませんが、私のやり方、私の長所を活かした形にカスタマイズしないとうまくいかない、ということに気づきました。それをやるように変えていくようにしてから、だいぶうまくいくようになりましたね。
藤田:それまでは、マネジメントの仕方とか経営の仕方とかだいぶ悩まれました?
鉢嶺:悩みましたね。それと、私自身が業務の執行に関してはそれほど得意ではない、ということを自分の中では自己認識しているつもりなので、そういう執行に長けている人にお願いをするような形にしてます。例えば営業であれば私よりもっと長けてる人がいるし、マーケティングだったら長けてる人がいる。それぞれ私より長けてる人にお願いをするというような形にしてます。
藤田:では最後に、今まさに創業したり、その前後でこれからもっと会社を大きくしていくぞとそういう企業の経営者に向けて、何か最後一言カメラ目線でアドバイスを。だいぶこのお話の中で、ビジョンであるとか、逆に組織の小ささを活かして生のコミュニケーションを大事にして共感して口説いていくということがすごく大事なんだなって思いましたが、それ以外に何かございましたら。
鉢嶺:アメリカを見てもそう思うのですが、ベンチャー企業が次々と出てくる、そこに優秀な人が集まり、強い産業を生む、そして、そこに投資家が集まる、このエコシステムを回すことが日本の国力を上げることに必ずなると思います。
アメリカはそれによって、ITとインターネットで世界の覇者になったわけですから、やはり日本も見習わなければなりません。新しい次の産業、もしかするとそれはロボットかもしれないし、ヘルスケアかもしれないし、何か分かりませんけれども、何かそういう産業に対して、戦後の日本のように生み出していくことが重要です。……日本も昔はどんどんベンチャーやれって(空気だったので)、松下さんも稲盛さんもベンチャーなんですから(笑)。
トヨタさんもそうですけど、最初はベンチャー企業でしたし、新しいものを築いて、挑戦していってほしいと思います。すでにチャレンジされている方はその誇りを胸に、どんどん優秀な人や投資家を巻き込んで、大きな目標を立てて、チャレンジしていただきたいな、と思います。そして私も応援したいと思っています。
藤田:ありがとうございました。本日は、株式会社オプト代表取締役社長・CEOの鉢嶺様にお越しいただきました。本当にありがとうございました。
鉢嶺:ありがとうございました。
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