CLOSE

シード期からの爆速成長の秘訣!徹底議論!(全5記事)

なぜ大企業の優秀な人材が新規事業で成功できないのか? 守屋実氏が指摘する、新規事業が頓挫する組織構造

「シード期からの爆速成長の秘訣!徹底議論!」と題して開催された本イベント。株式会社Sales Marker 代表取締役CEOの小笠原羽恭氏、元スマートニュース株式会社執行役員の川崎裕一氏、新規事業家の守屋実氏が登壇し、シード期のサービス立ち上げに関してディスカッションを行いました。本記事では、新規事業が頓挫しやすい大企業の組織構造や、シード期の組織作りのポイントを語ります。

前回の記事はこちら

大企業が新規事業で陥りがちな問題

萩谷聡氏(以下、萩谷):では組織の話にいきたいと思います。スピード感のある組織は難しいという話もあると思うんですけど。守屋さんはシード期にどういう人材を集めるべきかや、どういう組織体制だったらいいかなど、考えがあればおっしゃってください。

守屋実氏(以下、守屋):そうですね。スタートアップの話は(ほかの2人に)しゃべってもらったほうがいい気がするので。今日は大企業の方が半分来ていたので、僕は大企業の新規事業についてしゃべりましょうか。

大企業に対して僕はいつも「本業の汚染」と言っているんですよ。大企業には大きい事業がある。なにもない空っぽな大企業はたぶんなくて、頭の先から足の先までその事業を最適化するために必死にがんばっているはず。それは当然で、必死にがんばらないと大企業になれないんでね。

わざわざ新規事業と言うからには、たぶん本業とは違うんですよね。本業と同じだったら「本業」と呼ぶじゃないですか。本業が最適にできている中で「本業と違うものを作ろう」という時点で、やっぱりいろいろな不具合が生じるんですよ。例えば事業を立ち上げる時には10年勝負だったりするのに「本社に帰任します」と言って「いや、帰任ってなんやねん」という話じゃないですか。

大企業は、新規事業で新しいスタートアップを生むのに最適なぐらい信頼残高もあって体力もあって優秀な人の塊のはずなのに、ありとあらゆる本業の汚染にあって新規事業が死滅していっている。種の時点でもう芽生えることもなく、芽を吹くこともなく枯れている。

だからやっぱり新規事業の場所は作ったほうがいいと思うんですよね。世間一般で言うと出島を作る。もし本国の中でも(新規事業を)問題なく作れるんだったら、わざわざ法人を分ける必要はない。うまく本業の汚染と隔離されたかたちで、新規事業ができるならいいんじゃないかなと。

ただ「業務としてやっている」だけの新規事業担当者

守屋:でもこれを大企業の中で普通にやるのはけっこう難しいと思うんですよ。本業をやる上では当然ですが、法務も広報も労務もうるさいでしょ。

創業メンバーからするとそれが足かせだと思うので、そこをうまくやるのが組織上一番大事。そこがないと、何をやってもけっこう苦難になっちゃうところがあると思いますね。

萩谷:本当にそうですよね。大企業も本当に優秀な方が多い。僕もよくアクセラ(レーター)や審査員もやるんですけど、いい切り口ですごくおもしろいアイデアだけど、やっぱり途中で止まっちゃったりして、もったいないことが多いですね。

守屋:当然、本業の影響が被るじゃないですか。なんだったら決算が四半期開示ぐらいの勢いであって、株主の圧力にさらされている。さらに、いろいろとがんばらなきゃいけないことがある。本体の都合からすると、そりゃそうじゃないですか。



本業からすると全部正しいんですよ。でも帽子を被り直して、「じゃあ新規事業においても、本当にそれは全部正しいんですか」となると、そうでもないと思っていて。例えばトヨタという日本で最も大きな会社が「病院をやります」と言った時に、トヨタの工場の人はやらないでしょ。「医者や看護師、薬剤師を雇わないの?」という話じゃないですか。

トヨタが弁護士事務所をやるんだったら、「トヨタの工場の職員が裁判の法廷には立たないでしょ? 普通は弁護士を立たせるんじゃないの?」となる。そうなると、もはや「社内の人間で立ち上げるべきか」ということさえも怪しくなってくる。

これは極端な話だけど、わかりやすい事例でわざわざ言っているだけです。でもそれぐらい本業と違うものに、我々は手を出そうとしていることをよくよく考えて。

今日来ている半分の方々は大企業だというので、その方々はまずはどういう環境でやろうとしているのか。今期の自分の評価はどうなのか。「たまたまアサインされたから、ただ業務としてやっています」というのじゃ、本物の創業者には敵わないと思うんですよね。そこらへんが大事だと思います。

「本業の汚染」で退職を決意・起業した小笠原羽恭氏

萩谷:ありがとうございます。事業会社の方もいらっしゃると思うので、もしご質問あればのちほどしていただければと思います。小笠原さんは、最初Sales Markerをどういうかたちで立ち上げたんでしたっけ?

小笠原羽恭氏(以下、小笠原):実は私も本業の汚染を目の当たりにして会社を辞めたことがあって。もともと新卒で入った会社で新規事業を立ち上げていたんですよ。新規事業のリーダーもやっていたんですが、私はプロダクトを作りたかったんですね。

ただその会社がコンサルファームで、SIerと呼ばれる業界だったので、プロダクトを作って売るのはあまり良しとされない文化がありました。

だから「こういうプロダクトを作って一緒にやっていきましょう」と、いろいろな会社とワクワクする内容を話せても、社内に持ち帰ると「いや、それは受託開発じゃないから無理だよ」と言われて、実現に至らないことが続いて。次第に「なんだ、これおもしろくないぞ」と思うようになって、起業することを考えたんです。

実は当初、65歳までその会社で勤め上げるつもりだったのですが、「この本業の汚染から脱出したいな」と思って起業を決意しました。ただ、エンジニア経験だけでは起業は難しいと思ったので、戦略コンサルの経験を積んでから起業したところがあって、これが非常に良かったなと思っています。

創業の話ともつながりますが、4人で共同創業しました。私たちは休日にハッカソンやビジネスコンテストにも積極的に参加し、全部で8回ぐらい出場して6回入賞し、2回アジア大会で優勝したこともあります。

萩谷:そうなんですね。

シード期の組織作りで重要なポイント

小笠原:その時、有名な三大商社の方から出資のオファーをいただいて、その事業で起業するかどうか悩んだことがあったんです。でも、寝る間も惜しんでやりたいと思える事業じゃないと、絶対に勝てないと思って。

これは『起業の科学 スタートアップサイエンス』という本でも取り上げられているイーロン・マスクの考え方の一例であり、私たちもその信念を大切にしながらやってきました。だから、ある意味、教科書どおりに進んできたと言えるかもしれません。

萩谷:めちゃめちゃ本の影響を受けていますね(笑)。

小笠原:(笑)。そこは4人の共同創業者全員で心に決めて、かなり大事にしながら進めてきました。創業者は取締役なので「取締役は労働基準法と関係ない」という前提で聞いていただきたいのですが。

ある投資家の方に「君、フルタイムの仕事時間は何時間か知ってる?」と聞かれ、私が「2時間ぐらい残業して10時間ぐらいですかね」と答えたら、「いや、18時間だ」と返されたんです。その時、「なるほど!」と思って、そこで一気にマインドを切り替えたんです。



「起業家の常識と会社員の常識は違うんだ」ということを学び、マインドをブレイクして起業家として動けるようになったことは大きかったです。シード期の組織作りや仲間集めの重要なポイントは、このマインドの切り替えができるかどうかじゃないかと。それができるメンバーを集めることが一番大事なポイントなんじゃないかなと、今でも思っています。

萩谷:なるほど。その時そういう4人が集まったのか、あとから「この4人でよかった」という話なのか、どっちなんですか。

小笠原:たまたま4人が集まったんですが、そもそも創業者が4人だと失敗する可能性が高いらしくて、少ないほうが良いとされているんです。ある本には、「創業メンバーは1人か2人であるべき。4人は多すぎ、5人は本当にやめたほうがいい」。確かそう書いてあった記憶なんですが。

でも、我々は誰が何と言おうと4人でやると決めていて。なぜかというと、私がコンサルとエンジニアの橋渡しをする役割、COOはキーエンスで全国1位をとった営業の役割、CTOはビッグデータやバックエンドの開発の役割。

もう1人はフロントエンドに強いので、みんなが異なる領域をカバーし、SaaSに必要なピースが揃っている状態だったので、この4人じゃないことはあり得なかった。だから「この4人で必ずやる」と決めていたんです。

かつ、ビジネスコンテストで、ある意味一緒に仕事をした感覚もあり、ハッカソンで一緒に優勝した経験もあったので、「このメンバーじゃないと意味がないな」と心から思って。

あえて正社員を雇わず「意思決定」を早める

萩谷:なるほど。Sales Markerの場合、4人軸でもシーズンAぐらいまで正社員をとらず、業務委託のベースで進めていったと思うんですけど、それはどういう考えからだったんですか。

小笠原:4人いたことで、ある程度の領域がフルタイム以上でできるのが良かったのと、4人とも取締役という立場で従業員とは異なる動き方ができたんです。そのうえ、業務委託の方なら場合によっては翌日からジョインしていただける。

そうすれば、今、目の前にあるイシューを翌日には解決できる可能性が高まる。こうしたフレキシブルな対応を最優先かつ最速で進めるために、最初は正社員を雇わず、業務委託の方々と取り組みました。

萩谷:すごいですよね。CTOの方のnoteでも書いてあるように、意思決定の速度がめちゃくちゃ速くなるんですよね。

小笠原:本当に速いですね。「これはどっちにしようか」と迷うこともなく、すべて1秒か2秒で決めるようにしています。もし検討するのに1日1日と重なっていくと、5個決めるのに5日かかってしまいますが、私たちは1個1秒で決めるから5秒で終わる。そこが意思決定のスピードの違いに関係してくるかなとは思っています。

<h2>共同創業者をスペックだけで選び、大失敗</h2>

萩谷:なるほど。その時間の考え方はすばらしいなと思います。川崎さんも、たぶんいろいろな新規事業やスタートアップの組織を見てきたと思うんですけど、いかがですか。

川崎裕一氏(以下、川崎):そうですね。僕が創業した時に大失敗したことがあって。それは共同創業者をスペックだけで選んだこと。そいつは経営コンサル出身で自分でプログラムをかける。僕にはその賢さはなく、ただエモいだけという。そういう組み合わせだったけど、それがよくなかった。

結局、毎晩僕が詰められるわけですよ。「お前はどうするつもりなんだ!」「いや、おもしろいものを作ろうとしているんだよ」「おもしろいとはどういうことか、俺にロジカルに説明してくれよ」「いや、おもしろいものだって言ってるだろ!」みたいな。最後に「もうお前とはやってられねえよ。もうやめる」となったんだけど、「株はどうするんだ」と(笑)。

(一同笑)

その株をただってわけにはいかないから、なけなしの金を払って。それから8年間、本当に音沙汰がなかった。

萩谷:へー。

川崎:お互いにちょっと変になって。でもその10年後ぐらいに、とある顔合わせがあったんですよ。僕も向こうもさすがに大人になっていたから「あの時はごめんね。俺がちょっと子どもだったわ」と言ったら「俺も子どもだった」となって。

萩谷:エモいですね。

採用で重視するのは、組織が壊れても慌てない人

川崎:それで気づいたのは、スペックや能力よりもテンションやモチベーションのほうがすごく大きいなと。ごめんなさい、はっきり言うとスタートアップは、楽しいことよりつらいことのほうが多いです。だから、その時のテンションが同じじゃないとマジでつらくなる。



僕はそのあとに「スクランブル交差点テスト」というのを発明しました。それは「疲れた祝日に渋谷のスクランブル交差点で、向こうから大量の人の中からそいつが来る。だけど相手は気づいていない。そんな時でも、俺が『おーい!』と言えるやつしか入れちゃダメ」という。

萩谷:(笑)。なるほど。そういう時にも声をかけられると。

川崎:向こうは気づいてないんだけど、こっちが「おーい!」と声をかけて「一杯行こうぜ!」となるテンション以外のやつを入れたら絶対にダメ。ものすごく嫌な経験をしていろいろな人に会った結果、めっちゃ思っていることです。

もう1個は、ミクシィやスマニューに入って「また新規(事業)をやるはめになる」という時にすごく意識していたことなんだけど、どういうメンタリティのやつを採らなきゃいけないか。ちょっと被るんだけど、組織もプロダクトも日々壊れているから、壊れても慌てないやつ。壊れても慌てないやつはどういうやつかと言うと、自分で作れるやつ。

萩谷:なるほど。

川崎:例えて言うなら、伊勢神宮が壊れてもう1回作り直すみたいなことでしょ。あれで神主の人も誰も慌てないじゃない。だからスタートアップも壊す前提で作られる。なぜなら僕たちはチャレンジしているから、何かの仕組みを入れたら壊れちゃうもの。

それは組織もそうで、例えば評価制度1発で壊れちゃう。同じようにプロダクトのフィーチャーを1個入れたら壊れちゃう。だけど壊れる前提で作るから壊せる。「毎回新しいものを作るんだ」というメンタリティがないとダメですね。

だから自分で(プロダクトを)作れるやつを採る。その作れる経験は何かと言うと、申し訳ないけどマグニフィセント・セブン(米国株式市場を代表するテクノロジー企業7社)みたいな人は無理。だって、それだとすでにめっちゃいい商品があって売るだけだから。

萩谷:確かに売るだけとは違う。

シード期の採用で大事な視点

川崎:プロダクトを作るなんて、言うまでもなくそうなんだけど。僕が思うに初期は、セールスでも作ることができない人はダメなんです。だってセールスは「売れない」を「売る」ようにするんだから。ストーリーもチャネルを作らなきゃいけないから、作れるやつじゃなきゃダメなんですよ。

萩谷:さっきのお客さんから言われたことも、ちゃんとプロダクトに落とし込む。

川崎:プロダクトセンスがあって作れるセールス。同じように作れるマーケター、作れるプロダクトオーナーというね。それはなぜかというと、壊れる前提だから。慌てている時間はないから、慌てたら負けます。僕は絶対にこれは合っていると思う。

萩谷:そうですね。だから、そういう人を集めることが、まず何よりも重要だということですね。

川崎:その時にどう見極めるか。変な話、意外に「好きか嫌いか」というのは大事ですよ。
さっきのスクランブル交差点テストで確かめる。(確かめないと)やっていられないです。

守屋:川崎さん、めちゃくちゃいいですね。第一印象がクールな方じゃないですか。なんか惚れちゃいました。

萩谷:いやぁ、(川崎さんは)もう百戦錬磨というか、ご自身もCEOで十何個ぐらいの新規事業が潰れたり、本当にいろいろな経験をされているところでの話だと思うんですけど。
このへんで会場からご質問があれば聞いていきたいなと思います。ここまでありがとうございました。

続きを読むには会員登録
(無料)が必要です。

会員登録していただくと、すべての記事が制限なく閲覧でき、
著者フォローや記事の保存機能など、便利な機能がご利用いただけます。

無料会員登録

会員の方はこちら

関連タグ:

この記事のスピーカー

同じログの記事

コミュニティ情報

Brand Topics

Brand Topics

  • お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策

人気の記事

人気の記事

新着イベント

ログミーBusinessに
記事掲載しませんか?

イベント・インタビュー・対談 etc.

“編集しない編集”で、
スピーカーの「意図をそのまま」お届け!