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「AIが答えを出せない 問いの設定力」著者、鳥潟氏に学ぶ AFTER AI 時代に求められる能力とは(全6記事)

ロジカルに考え抜いたのに…部下がついてこない理由 グロービスの教員に学ぶ、頭→心→腹の「意思決定3作法」

業界業務の経験豊富な「その道のプロ」に、1時間からピンポイントに相談できる日本最大級のスポットコンサル「ビザスク」。そのビザスク主催のセミナーに、『AIが答えを出せない 問いの設定力』の著者で、グロービス経営大学院 教員の鳥潟幸志氏が登壇。多面的・長期的・根源的なモノの見方3原則や、一貫性と謙虚さを持つリーダーの特徴などが語られました。

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決めるために「自分の不安」を言語化する

鳥潟幸志氏(以下、鳥潟):次に「決める力」についてお話しします。「AFTER AIにおいて『決める力』が求められる」と書いていますが、生成AIに良い問いを投げかけると、さまざまなアウトプットが出てきます。

私も実際に「AI時代に我が社はどのような育成プランを作るべきか?」という問いを2024年の初めに投げかけてみました。すると、「AIとの共働スキルの強化」「クリエイティビティと人間中心のスキルの促進」「倫理的および社会的責任の意識の育成」といった回答がぱっと出てきました。もちろん、これらは要約していますが、このようなアイデアが提示されるわけです。

この3つのアイデア、どうやって決めますか? 当然、これをそのまま役員に提案するわけにはいきませんよね。そして、これが本当に正しいかどうか、どうやって判断するのか。ここが、今後人間により求められていくスキルの1つだと私は考えています。具体的なところは後ほど説明しますが、「決める力」は非常に重要です。

私自身も「決める」ということについては、過去にかなり苦労した経験があります。私は20代の頃、友人と会社を立ち上げ、10年ほど経営をしていました。最初はナンバー2の立場で、社長が決めたことを実行に移す役割でした。

これはこれで順調に進んでいたのですが、創業して3~4年目に、新規事業を始めることになり、担当役員制を導入しました。そこで、私はPR事業の責任者として、戦略を決める立場になったのです。しかし、いざメンバーと議論して最終的な戦略を決めるという段階で、どうしても決めることができず、非常に悩みました。

いろんな意見があり、どれも良さそうに見えるけど、「どうやってこれを決めたらいいんだろう?」と悶々としてしまい、決断に対する焦りや不安、さらには決めることから逃げたい感情にまで至りました。

その結果、意思決定に関する本をいろいろと読んだり、自分なりに振り返ってみた時、「なぜ自分はこんなにも不安なのか?」ということを言語化することができました。

まず、見えていないこと、考え切れていないことに対する不安。「この選択肢は良さそうに見えるけど、他にもっと良い選択肢があるんじゃないか?」という不安です。そして、決めた後に何が起こるかに対する不安。「失敗したらどうしよう?」という恐怖もありました。

さらに、軸がぶれている自分に対する不安もありました。Aさんと話すとAの意見が良さそうに見え、Bさんと話すとBの意見も良さそうに見えて、「自分の意見が話すたびに変わっている。自分は本当にダメだな」と悩んでしまったのです。

多面的・長期的・根源的なモノの見方3原則

鳥潟:先ほどお話ししたように、さまざまな書籍を読んだり、多くの人と話をして、最終的に「意思決定とはこうすればいいんだ」というかたちで自分なりに整理しました。それが次のページに書かれている内容です。

「モノの見方3原則」と「意思決定3作法」という2つの考え方です。

まず、「モノの見方3原則」というのは、東洋思想に由来する考え方で、安岡正篤さんがよく使っていたものです。この3つの原則は「多面的」「長期的」「根源的」です。

「多面的」というのは、幅広い視点で物事を見ることです。これが欠けると意思決定を誤る可能性が高くなる、というシンプルな考え方です。「長期的」というのは、時間軸に関する話です。意思決定でよく揉めるのは、短期的な利益を重視するか、長期的な利益を見据えるかという対立です。

例えば、社内の効率化のためにシステムを導入したいけれど、現場が反対している場合、短期的には負担が大きいが、長期的には効率化が期待できる、という状況です。このように、まず時間軸をどちらに重視するかを整理してから意思決定しないと、決定がうまくいかないことが多いです。

最後に「根源的」というのは、議論が進むうちに最初の目的や論点がずれてしまうことがあるため、「そもそも何のための議論だったのか?」と立ち戻ることが大切だということです。迷った時に、最初の目的に戻ることで、意外とシンプルに解決することがあります。

ロジカルに考え抜いたのに…部下がついてこない理由

鳥潟:次に「意思決定3作法」についてです。「頭で考え」「心で感じ」「腹で決める」と書いています。意思決定をする際には、先ほどのように多面的・長期的・根源的な情報を集め、まずはロジカルに考えることが必要です。これは知力を使う部分ですね。

ただ、やはりこれだけで意思決定をすると、人がついてこないこともあるんです。ロジックで「AからB、BからCだから、これでしょ」とぱっと決めても、周囲から「なんか違うよな」と感じられることがあります。

この点は共感力が必要だと思います。意思決定をすると、ある人にとってはうれしい結果になるかもしれませんが、別の人にとっては苦しい状況になることがあります。リーダーとしては、そのような状況で「この決定によって、誰がどのように感じるか」をしっかり理解し、共感することが大事です。「わかっているよ」という姿勢を示すことですね。

私も経験がありますが、例えば売上を上げるために受注を取る際、オペレーションチームのみなさんには負担がかかります。そんな時には、「みなさんが大変になるのはわかっているけど、この受注はどうしても必要だから、ごめんね。後で手当てをするよ」と伝えることが重要です。共感を持って意思決定に臨むことで、メンバーがついてきやすくなります。

ただし、共感しすぎると決断ができなくなってしまうこともあります。私もそのような経験がありますが、最後は「腹で決める」、つまり胆力で決断することが必要です。胆力とは信念に基づく決断力です。

一貫性と謙虚さを持つリーダーの特徴

鳥潟:グロービスの学長である堀義人は、「信念とは、知の極み」という言葉をよく使います。私もこの言葉が好きで、信念は知識を極めた末に生まれるものだと感じています。

決めるということについて、誰よりも考え続けることが重要です。考えて、考えて、さらに考え続け、他の人から批判を受けつつも、自分の考えをブラッシュアップしていく。そうしているうちに、ある時、信念に変わる瞬間が訪れます。

その領域について、これほど考えている人は他にいないと思えるくらいまで深く考え続けると、今度はどんなことを言われてもぶれなくなります。反対に、他者の意見を謙虚に受け入れることもできるようになります。「あ、その視点はなかったな。ありがとう」という具合にですね。

それでも、自分の意見としてはしっかりとこれだというものが残り、アップデートされていきます。ここまで行き着くと、胆力が生まれます。意思決定をした後、結果が出るまでの辛い期間も耐えられるようになるんです。

もし、考えが十分に深まっていないまま意思決定をしてしまうと、少し進んで仮説が違っていると感じた時に、「やっぱり違ったのかな」という不安が生じ、行動が鈍ります。場合によっては「いや、実はこれは自分の本意じゃなかった」と言い出すリーダーもいます。これは、あまり良いリーダーシップとは言えませんよね。

今日は時間の都合で細かい説明は省きますが、日頃から「モノの見方3原則」と「意思決定3作法」を意識していれば、意思決定に必要な要素が揃うと考えています。AIから良い提案が出た時も、この目線でしっかり意思決定をすれば、少なくとも自分で納得のいくかたちで決断ができるのではないかと思います。

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