2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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データによる技術分析や未来予測などを提供するアスタミューゼ株式会社。今回、「事業を目利きする力を養う方法」をテーマとしたセミナーに、『起業の科学』著者の田所雅之氏と同社代表の永井歩氏が登壇。日本企業には少ないグロース投資家を増やすためのポイントや、大企業がピボットを繰り返して新市場を開拓する難しさなどが語られました。
永井歩氏(以下、永井):ここからは、大企業における新規事業の成功のあり方や見極めについてお話しします。新規事業を検討する際には、目指すべき姿や必要な事業ポートフォリオ、投資、マイルストーンの設計、ステージゲートの設定、実行体制などが重要です。しかし、ROIの評価指標としてPL(損益計算書)だけでは限界があります。
スタートアップの場合、赤字であっても将来的なスケールの蓋然性や、LTV(顧客生涯価値)をベースに、将来の収益を予測して企業価値に反映させることが可能です。チャーンレートが低ければ、より高い将来収益を期待でき、これをもとに現在の企業価値を割り戻すことができるのです。
大企業の場合、すでに数兆円規模であるため、PL(損益計算書)だけで判断されることが多いです。しかし、現在の日本企業には、PBR(株価純資産倍率)が低く、割安な企業が多いという問題があります。
これは、新規事業や新陳代謝がなく、企業が一本足に見えることや、知財や人的資本のケイパビリティが可視化されていないことが原因です。その結果、ROE(自己資本利益率)が8パーセントを超えても、PBRが1倍を超えないという状況が生じます。
新規事業に取り組み、そのケイパビリティを可視化することで、企業価値を向上させることが可能です。企業価値の向上は、将来の収益を今の価値に織り込むことができるため、長期のPLではなく、短期的な企業価値への貢献を示すことが重要です。
例えば、ソニーのようなコングロマリットプレミアム企業や、継続的にイノベーションを生み出している企業は、ROIが高いだけでなく、事業ポートフォリオを通じて成長余地が評価されています。このように、社会インパクトや企業価値向上をROIの判断に組み込むことが、大企業ほど重要です。
私たちは、投資家サイドに立ってイノベーションを評価・定量化し、投資ロジックに基づいたデータをクオンツやアナリストに提供しています。特に日本の企業は、現在の株主がほとんどバリュー投資家であり、グロース投資家が少ない状況です。バリュー投資家から卒業するためには、「自社の強みやコア技術」を新規事業とともに可視化することが重要です。
闇雲に投資してしまうと、かつての「サステナビリティやESG活動がCSRに近い」と見なされていたように、社会貢献として誤解され、利益を食いつぶす活動と見られることがあります。現在の日本の大企業の取り組みも、自社の強みを活かしているように見えないケースが多いため、これを可視化し、企業価値を上げるために活用することが必要です。
永井:また、新規事業が成長市場をターゲットにしているかどうかも重要です。単発の成功に依存するのではなく、成長ポテンシャルのある市場に繰り返し参入することで、成功率が高まります。新規事業群全体が成長市場に取り組んでいるかがポイントです。
さらに、どのようなステージゲートを設けるか、田所さんが話された目利きだけでなく、撤退基準を明確にすることもガバナンスの基礎として重要です。
新規事業に取り組む際、1つ1つの事業が3年以内に10億円を超えるかどうかだけではなく、これらの試行錯誤そのものが企業価値を高めることにつながります。ステークホルダーの合意のもと、個別の成否に限らず、試行錯誤がしやすい環境を整えることが重要です。
その一方で、撤退基準を設定していない企業が多いことが、私たちの相談の中で明らかになっています。撤退基準を設けることがいかに重要か、メリットとデメリットをしっかりと理解する必要があります。
立ち上げのフェーズでは、机上の計画に時間をかけるよりもスピードを重視し、自社と他社のリソースをうまく活用すること、そして社内外の協力を得ることが大切です。
また、10から100へとスケールさせるための仕組みを同時に考えることが求められます。
大企業の新規事業担当者にとっては、スピードを重視しつつ、スケールするための仕掛けを先に打っていくことが説明責任を果たす上で欠かせません。これにより、事業の立ち上げとスケールを同時に進めることが可能になります。
永井:私たちの20年の経験の中で、50億〜100億円以上の事業を生み出したケースでは、「有望なブルーオーシャンを選べるか」や、「テコが効くケイパビリティを活かせるか」が重要なポイントです。
また、「優秀な人材をアサインできるか」、そしてグロースの戦略として、「事業拡大のシナリオを組み立てやすいか」も重要です。例えばリクルートなどでは、このようなやり方が多く見られます。
私たちにご相談いただく企業の7割以上が製造業で、総合力や四隅を押さえる戦略が特に重要です。弊社では、ブルーオーシャンの見極めをデータに基づいて行っています。さらに、世界各国の政府投資の情報を活用し、マーケットの変化に先んじて対応しています。
ボトムアップで成長する市場は、同時に多くの企業が気づきやすく、レッドオーシャンになりがちです。しかし、グリーンイノベーションやサステナビリティの領域では、政府や投資家が強制的にマーケットを作るケースが増えています。
例えば、気候変動が抑えられない場合には、核融合の市場を作る必要が出てきたり、PFASの規制により代替素材が求められるようになるなど、政府主導で新たな市場が形成されることがあります。
こうした新たな市場が生まれる背景には、経済安全保障や気候変動、さらにはパンデミックなど、地球規模の課題があります。人々の健康問題やパンデミックの発生が今後も繰り返される可能性があり、これまで存在しなかった市場が確実に生まれてくるのは事実です。こうした市場をバックキャストで見ていくことで、ブルーオーシャンを早期に捉え、シェアを一気に拡大することが可能です。
この中で、インパクトという視点も重要です。世界の投資家と国内の投資家を比較すると、特に投資の回収期間に大きな差があります。日本のVCは、10年以内に回収できる案件には投資しますが、15年や20年かかる案件には消極的です。一方、海外ではソブリン系ファンドや、ビル・ゲイツ、ジェフ・ベゾス、イーロン・マスクなどが長期的な投資を行い、時間軸が短縮されています。
残念ながら日本には、こうした長期的な視点で大規模な投資を行う投資家が少なく、その結果、長期的に成長が見込まれるテーマが見逃されてしまうことがあります。企業にとっては、投資回収の期限を戦略的に設定することで、差別化が可能です。
ベンチャー投資や政府の投資、大学・研究機関の投資、特許のデータを解析することで、どこにブルーオーシャンが存在するかを見極めることができます。
永井:自社の強みとして、技術、設備、特許、人材などが競争力の源になりますが、それをどこで活かすかが重要です。
弊社のお客さまの中でも、素材やケミカルの企業、またはUIやロボットなどの川上や川下に強みを持つ企業は、技術をテコにして成長を加速できる傾向があります。
一方で、コンポーネントやデバイス、機械を扱う川中の企業は、技術のテコが効きにくいケースがあり、異なる戦略が求められます。例えば、大手企業の総合力を活かして成長産業にエコシステムを構築することが考えられますが、これを実現するには慎重な戦略が必要です。
スタートアップが手を出しづらい部分に対して、自社の強みを活かしつつ、足りない部分は買収などで補う方法もあります。半導体やモビリティの分野では、品質や精度、サプライチェーンに関する知見が求められますが、最近ではスタートアップも参入している状況です。それでも、大企業が持つ強みを活かせる分野であり、参入の余地は大きいといえます。
弊社では、食品やバイオ分野の企業が半導体やモビリティに参入する際の支援を行い、成功事例も増えています。異業種と思われる業界でも、成長している市場に積極的に新規事業として取り組むことが重要です。
既存のコア事業の周辺領域での強化、これは新規事業と呼ばないこともありますが、解釈次第です。例えば、1兆円や5,000億円規模の事業の周辺で100億円を上げることは比較的容易です。特に、顧客データを活用したドリブン型の事業や、新市場におけるピボットを繰り返す事業は、GAFAのようなデータや開発能力、スタートアップのようなスピード感が求められます。
こうしたEやFの戦略を取る場合には、自社が本当に勝てるケイパビリティを持っているか確認する必要があります。
特に、CVCやベンチャー投資を行っていた企業が新規事業開発に成功するケースはあるものの、ものづくりを中心に行ってきた企業がピボットを繰り返しながら数百億円規模の事業を成功させるケースは、弊社のお客さまの中でも多くありません。
そのため、スタートアップと協業することで成功の可能性を高めることはできますが、大企業が内部だけでピボットを繰り返して新市場を開拓するのは難しいことが多いです。
永井:顧客データをドリブンに活用する際、データが汚すぎることやクレンジングの必要性がバリアになることがあります。特に日本語のデータを扱うことがネックとなり、大胆な投資がしにくい状況です。さらに、こういったデータは資産計上できず、費用として扱われるため、PL上で赤字になりやすく、日本企業にとっては新規事業立ち上げが難しくなる要因です。
そのため、川上、川中、川下それぞれで異なる戦略を立て、どのように事業を選ぶかが重要です。ここで話した内容は、田所さんのご説明とも重なる部分がありますが、起業家が自然に行っているエフェクチュエーションのような行動パターンを活かし、社内外での交流を設計し、魅力的な事業に人をアサインすることが大切です。
弊社の経験では、新卒の社員が新規事業で成功する率が高いこともあり、シニア社員を動かすよりも、若い社員から底上げしていく方が早いというケースがあります。しかし、それだけでは長続きしないため、シニア社員にもイノベーションや新規事業の考え方を仕組みとして浸透させることが重要です。
最後に、事業拡大のシナリオの組み立てについても資料に記載していますので、ぜひご覧いただければと思います。ありがとうございました。
司会者:永井さん、ありがとうございました。それでは質疑応答の時間に移ります。すでに1問いただいていますので、こちらを取り扱います。「既存事業で優秀でも新規事業ができるとは限らないと思いますが、新規事業における優秀な人材のケイパビリティとは、具体的にどのようなものがありますでしょうか?」
永井:これは田所さんにもご意見をいただきたいですが、私たちの考えでは、ゼロイチ(0 → 1)、イチジュウ(1 → 10)、ジュウヒャク(10 → 100)の各フェーズで人材のケイパビリティや組織のケイパビリティは異なります。
ですので、単純に一言で言ってしまうと、かえって新規事業のケイパビリティに対するバイアスが生まれてしまうかもしれません。もし必要であれば、個別にご説明させていただければと思います。
田所雅之氏:そうですね、これは単純ではないと思います。先ほどエフェクチュエーションの話がありましたが、既存事業では因果関係を見つけるコーゼーションが重要だと思います。ただ、新規事業でもそうした因果関係を見つける力は役立つことがあります。
大事なのはモードを変えることだと思います。例えばUXの改善も新規事業でよく話されますが、既存事業でも非常に重要です。ですので、一概には言えない部分もありますが、共通している部分も多いです。特に顧客の洞察を取り、市場の変化を把握することは、既存事業でも新規事業でも共通して重要です。
司会者:ありがとうございます。それでは、お時間となりましたので、Q&Aはここで終了させていただきます。本日はみなさん、ご参加いただきありがとうございました。
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