2024.10.10
将来は卵1パックの価格が2倍に? 多くの日本人が知らない世界の新潮流、「動物福祉」とは
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「Cross the Boundaries」を旗印に、日本最大級のスタートアップカンファレンスIVS(インフィニティ・ベンチャーズ・サミット)が2024年も昨年に続いて京都で開催されました。今回のセッション「Road to PMF 一流起業家から学ぶピボット成功の極意」には、BoostCapital CEOの小澤隆生氏、IVRy 代表取締役の奥西亮賀氏、そしてコインチェックの執行役員・大塚雄介氏が登壇。DCM Venturesの原健一郎氏の司会のもと、起業家が学ぶべき「ファイナンスの仕組み」とその重要性や、一生ピボットし続けるために必要なスキルについて語られました。
原健一郎氏(以下、原):株式会社IVRyが5億円ぐらいのARR(年間経常収益)を達成したとして、将来的にプロダクトが停滞する時が来る。その時に新しい事業を始める際、理想的なプロダクトオーナーは誰ですか? 成功させる起業家か、新しいチームか。いろんなパターンがあると思いますが、誰が2個目のプロダクトオーナーになるべきですか?
大塚雄介氏(以下、大塚):私がやってみて思ったのは、ゼロからイチを作るのは非常に難易度が高いし、財務状況と合わせて意思決定しなければならないので、社員に任せるのは難しいと思います。なので、既存の事業を任せられる人を採用して、その人に託しながらゼロイチは自分と和田(晃一良)でやった方が成功確率は高いと感じました。
原:なるほど。つまり、ゼロからイチを作るのは創業者自身が担当し、既存事業の運営は信頼できる人に任せるということですね。
大塚:そうです。既存の事業をしっかり運営できる人を採用して、その人に託すことで、創業者が新しい事業に集中できる体制を作るのが良いと思います。
原:2個目の事業はBtoBですか? 2個目のPMFがあったやつは。
大塚:まったく違うBtoBなので、これも違うんですけども(笑)。それ自体も良かったのかという反省はあります。
原:どういうプロダクトで、どのような経緯でその2個目を立ち上げ、どんな感じで決めたのか教えていただけますか?
大塚:それは組織と財務の状況が関係しています。私たちの場合は、マネックスグループに入ったことで経営基盤を安定させることができました。また、組織としても、私と和田に依存するリスクを減らさなければ継続的な成長ができないので、既存事業を他の人に任せるようにしました。
これによって私と和田に余力ができ、新しい事業、バーチャル株主総会の支援サービスを始めることができました。
大塚:もともと暗号資産がやりたいというわけではなく、テクノロジーで新しい価値を提供したいという気持ちがありました。次の事業のタイミングとして、コロナの影響で多くのものがデジタル化していく中、特にオンライン会議ツールの普及によってビジネスのミーティングが対面でなくてもよいという商習慣が広がったことが大きかったです。株主総会の法律改正もあり、デジタル化の波に乗ることができました。
オンライン株主総会の市場にも、また最後発で入っていきました。先行者に対して自分たちの優位性を見つけ、勝ち抜いていくかたちです。
原:その時の事業オーナーは?
大塚:私と和田ともう1人、3人で始めました。
原:まさにやり始めたって感じですね。
大塚:そうです。ある日、和田から全社員に「明日から僕と大塚さんは会社にいないと思ってください」と伝えて、私たちは独立して新しい事業を始めました。
原:その3人は100パーセントぐらいのリソースを使ったんですか。
大塚:そうですね。そうじゃないと立ち上がらないんです。小澤さんと同じで、僕も全部の営業を自分で回り、手触りを確かめました。「どこが自分たちの勝ち抜きポイントか」を理解しないと事業計画が立てられません。それを理解してから会社側に説明する、そんな感じですね。
原:奥西さんの会社だと、2個目、3個目を作るとしたら、奥西さんがまた離れてやる感じですか。
奥西亮賀氏(以下、奥西):僕は新卒から新規事業を10年ずっとやっていて、たぶん20~30ぐらい失敗しています(笑)。なので、かなりの失敗経験があります。一方で、IVRyでやりたいのは、市場参入の角度から寝ないプロダクトにどう変革していくかです。寝ないビジネスを作り続けるのがベストなので、新規事業を作るというより、事業開発の能力を持ちながら既存事業をどう拡張していくかが大事です。
特にSaaSなので、自分たちのプロダクトをどう拡張するかで市場規模(TAM)は変わってきます。その市場規模を広げながらシェアを高めることがポイントです。ただ、どこかでアッパーが来るので、そのタイミングでは新規事業をやらなければなりません。
新規事業は経験のある僕がやった方が成功確率が高くなるかもしれませんが、チャレンジできる時間と人間的アセットがあるなら、他の人にも失敗の経験を積ませることが大事です。ナレッジを伝えながら失敗チャレンジをさせるというのは、今のタイミングからもちょこちょこやっています。
原:ちょっと小澤さんにも聞きたいんですけど、例えばヤフーなどで今後も新規事業を立ち上げ続ける場合、起業家オーナーみたいな人がいない段階では、どういう人がそういう事業をやるべきなんですか?
小澤隆生氏(以下、小澤):これは極めて明快な答えがあって、買収です。会社ごと買うんです。
原:ああ、なるほど。
小澤:PayPayはイチから作った極めて珍しい例ですけど、次の事業を作りたいと思った場合、Googleや楽天も同じように、YouTubeやAndroidを買収する。Microsoftもそうです。楽天がトラベル、証券、銀行、金融を買っていくように、ほとんどのケースは買収です。
ヤフーもZOZOやアスクル、一休を買収して、経営者ごとついてきます。そこでしっかり任せる。そして、自分たちの強みと買収した会社の強みを掛け合わせて、新しい事業を大きく成長させていく。
例えばZOZOは8,000億円のバリュエーションの51パーセント、4,000億円で買いました。当時は高づかみと言われましたが、現在では600億円の利益を出しています。これで十分にペイする買収になっています。
シナジーを出すことで600億円まで増やせたのです。これが非常に強い事業に育っていて、またZOZOもPayPayに寄与しています。こういう事業ポートフォリオを、みなさんも必ずどこかで組まなければなりません。そのためには、買収というカードを自分のものにすることが重要です。
(一同笑)
なので、買収をしたい、するべきだ、できるようになりたいという方はぜひ来てください(笑)。
原:スタートアップがスタートアップを買収する場合についてですが、例えばFacebookとInstagramのようなケースを考えると、当時のFacebookはかなり大きな会社でした。小澤さんがスタートアップにアドバイスするとしたら、どれぐらいの規模の企業が買収を考えるべきでしょうか? 例えばIVRyのような規模でも買収を検討するべきでしょうか。
小澤:いやいや、IVRyのような規模でも上場企業を買ってもいいぐらいです。
原:いけるならですね。
小澤:結局、ファイナンスがつくかどうかです。ソフトバンクがボーダフォンを買った時や、展示会の会社を買った時も、自分の体力より大きな会社を買っています。楽天も売上が数十億円の時に300億円かけて楽天トラベルを買い、持っている現金を全部使っています。
最近では、newmoがレガシーの会社を買収し、売上50億円をつけてくるケースもあります。買う会社によると思いますね。
スタートアップ同士のバリュエーションが高いと、株式交換での買収も可能ですし、レガシーの会社でバリュエーションが高くなくても良い会社を買うこともできます。プライベートエクイティが買うような会社は、デットも含めてファイナンスがつきやすいです。
後ろにしっかりファイナンスがつけば、レバレッジをかけてLBO(Leveraged Buy-out:会社や投資ファンドが他の企業を買収する際に、買収対象会社の将来キャッシュフローや資産を見合いとして買収資金を調達するファイナンス手法)などで大きな会社を買える可能性があります。
ファイナンスの仕組みを使えれば、確実性の高い事業成長が見込めます。なぜそのテクニックを勉強しないのかというと、経験がないからだったり、教える人がいないからです。投資銀行や証券会社に集中していて、スタートアップとの交わりが極めて低いからです。
しかし、これからは間違いなく増えるでしょう。newmoの事例は素晴らしいもので、どんどん増えると思います。
原:大きな会社が小さな会社を買収する場合、FacebookとInstagramやGoogleとAndroidのように、組織的なハレーションをあまり気にしなくて済むことが多いです。しかし、これからスタートアップが少しだけ小さい会社や自分よりも大きい会社を買う場合、お金の問題がクリアされて、事業的なシナジーもあっても、ファウンダーやチーム、カルチャーの違いはどうなるんでしょうか?
小澤:これは本当にケースバイケースです。僕らの場合、例えばZOZOでは前澤友作さんというカリスマが辞めた後どうするかという問題がありました。あまり詳しくは話せませんが、アスクルの件では株主権を行使して経営陣を入れ替えるというケースもありました。
基本的には、その場にいるマネジメントチームを尊重して経営するほうが良いというのが、楽天やヤフーを通じて得た経験です。大規模な人員の送り込みはほとんどなく、マネジメントチームをそのままにして経営していくほうが効果的です。
難易度が高いというよりは、経験の問題です。みなさんも買収を考えるなら、まず3社買ってみてください。失敗、失敗、成功というパターンで最終的に取り戻せます。最初の1社で全負けしないような金額に抑えて、とにかく3社買ってください。
大塚:わかりました。
奥西:買います。
(一同笑)
原:じゃあ、売りたい方、集まってください(笑)。
原:売りたい側の立場として、みんな起業家で「絶対俺がうまくいく」と思ってるし、「自分がずっとやるんだ」という方が多いです。そんな中で、どうコミュニケーションを取り、売る側はどんなメンタリティを持つべきなんでしょうか?
小澤:僕は楽天に1社、ヤフーに1社、自分の会社を売っています。これには2つのパターンがあります。
多くのケースでは、「自分の事業のさらなる成長のために、こういう会社と一緒になったほうが良い。なぜなら、そうでもしない限り競合に勝てない」という現実的な意思決定が働きます。
みなさんの会社が年間100社のIPO枠に入る確率は高いかもしれませんし、低いかもしれません。でも、その100社の枠に入れない場合、どうエグジットするかを考えなければなりません。会社がさらなる成長を遂げるためには、より大きな、もしくは勢いのある会社と一緒になることが良いと考えます。株式交換で新しくなった会社の株を手に入れることで、投資家も従業員も納得させることができるかもしれません。
これは今後、かなりの確率で起きるでしょう。スタートアップ市場にはここ5~10年で過去10倍のお金が流れ込んでいますが、IPOの件数も金額も10倍にはなっていません。市場は膨れ上がっています。ダウンラウンドでIPOを認めない株主がいる場合、みなさんのやる気や従業員は離れていきます。そういう時に前向きなエグジットとしてのM&Aは、社長にとって非常に重要な意思決定です。
もう1つは、「そろそろ現金化したい」という方も一定程度いると思います。この2つのパターンでこれから……10年の経験を持つ会社はたくさんあります。「で、どうするのこれ?」という感じです(笑)。
原:まさにそうですね。どこかでお金をイグジットしなければならないし、そういうオポチュニティが生まれると思います。
原:お二人、もちろんCoincheckはグループ入りしていますし、逆の立場ですよね。IVRyもそのうち「買いませんか」「売りませんか」といった話が来ると思いますが、どう判断されるんですか?
大塚:私たちの場合は、状況が特殊で、他の資本の傘下に入らなければならないという状況がありました。
原:そうですね。
大塚:グロースするためには、金融機関の人たちと一緒にやる必要がありました。お互いのケイパビリティが必要でしたし、任せていただいた部分も大きいです。Coincheckの名前を残すのか、オフィスを別にするのか、マネジメントをどうするのかなどの点でコインチェックの意志を尊重していただき、その結果、トップラインも再び成長させることができました。
株主に任せる部分と私たちに任せてもらう部分それぞれを、ちゃんと報告し合いながらやっていくことが重要だと思います。
原:もし今、IVRyに話が来たらどうします?
奥西:話が来たらですか? どうなんですかね(笑)。今のところ、IVRyはむちゃくちゃ伸びると思っているので、わかりません。話し合いながらという感じでしょう。
スタートアップtoスタートアップの買収の話もありますが、newmoの件のように、タクシー業界などのインダストリーにITやAIのテクノロジーを持って入っていくと、マルチプルギャップが生まれるという話だと思います。
それを日本や世界の市場でどのインダストリーに対して自分たちが入っていくとそのギャップを作れ、活用することで成長できるかを考えるほうがおもしろいと思います。そういうことを考えていきたいです。
原:スタートアップが買われるタイミングについてですが、アメリカのVC案件を見ていると、アメリカではInstagramのように「え、もう売るの?」というようなタイミングが多いですよね。日本では苦しんで苦しんで「もうダメだ、売るぞ」というタイミングが多いです。今後、日本でも売る側が「こっちのほうが伸びる」と意識を変える必要があると思います。
原:もうあと5分ですので、最後にお三方に質問です。優秀な起業家が一生ピボットし続け、新規事業を続けるためには何をすれば良いでしょうか? 「PMFを作り続けるための能力を研ぎ澄ますためにはこれがいい」というアドバイスを一言ずつお願いします。
奥西:じゃあ僕から。僕もリクルートで新規事業をやった時、最初の1個目が全然うまくいかなくて、そこから立て直すことからスタートしました。最初は絶対に当たると思っても、一定確率で外れるのがPMFだと思います。
そのためにはひたすら数をやるしかないです。仮説の深さと、仮説に対して何を学んで次に活かすか、この速度と数をどれだけやれるかが一番の近道だと思います。
大塚:私はPMFに限れば、基本全部自分でやることが重要だと思います。スケールしなくてもいいと思っていて、最初にやる時に仮説は立てるけれど「たぶん8割は間違っている」と思ってやります。自分でやる中でその8割の解像度が上がり、センターピンを見つけることが重要だと思います。
原:じゃあ小澤さん、お願いします。
小澤:お二方が言ったとおり、基本うまくいかないことが多いです。絶対うまくいくと思っていても、うまくいかなかった時の失敗のさせ方、失敗力は繰り返し申し上げておきます。その上で、次に何を考えなきゃいけないかというと、バッターボックスに立つ回数とスピード感です。この高速回転が重要です。
孫(正義)さんや三木谷(浩史)さんを見ていても、あのレベルの方々が全速で走っていると、我々はその10倍で走らないと追いつけません。近くで見ていてそれを一番感じます。この人たちにこのスピードで走られたら、そもそも3周リードしているのに、まだ100メートルを3秒ぐらいで走っている感じです(笑)。
(一同笑)
小澤:だから、けっこう研ぎ澄ませた角度で、すごいスピードとすごい角度で走り続けなければならない。回数も増やさなければならない。彼らはM&Aもやりまくっているので、どんどんうまくなっています。引退待ちとかできないです。
だから、それを超えるぐらい、みなさんはスピード感を持って、バッターボックスに立ち続けなければならない。三木谷さんに9年仕えて、孫さんに11年仕えて思ったのは、その恐ろしさです。先行者があのスピードで走るんだと。一緒に走りましょう! 以上です(笑)。
(一同笑)
原:ありがとうございます。まさにスピードという点で、スタートアップの強みはスピードでしかないですね。僕らも過去何十件、何百件、アメリカでも中国でも何兆円の企業に投資してきましたが、唯一の共通点は本当にスピードです。頭の良さとかではなく、とにかくスピードが重要です。どのマーケットでも、どんなプロダクトでも、何をやるにしても変わりません。
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