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日本から世界へ: イチゴ植物工場が生みだす200兆円産業(全5記事)

3つ星レストランも認めた、日本発・1パック50ドルの高級イチゴ NYでイチゴを作り続ける、日本人起業家が目指すこととは?

アメリカ・ニューヨークを拠点にする植物工場ベンチャーであるオイシイファーム(Oishi Farm)は、日本生まれの甘いイチゴを工場生産して高い注目を集めています。創業者CEOの古賀大貴氏と、オイシイファームの初期投資家の川田尚吾氏が、日本発メガベンチャーの可能性を語りました。本記事では、長らく「無理だ」と言われていた、植物工場でのイチゴ栽培に成功するまでの道のりを明かします。

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長らく「無理だ」と言われていた、植物工場でのイチゴ栽培

後藤直義氏(以下、後藤)先ほどおっしゃっていたみたいに、長らく「植物工場ではイチゴは無理だ」と。挫折も「兵どもが夢の跡」じゃないですが、みんな失敗してきた。なぜOishiiはここを突破することができたの? 何が鍵だったんですか?

古賀大貴氏(以下、古賀):やはり1つは、僕が文系人間で、かつ農業従事者でもなくエンジニアでもなかった。よくイーロン・マスクが「first principles (thinking)」と言うと思いますが、自然界でハチが飛んでいるんだから、なんとかすれば、どうやったって絶対に室内でも飛ばせられるはずだろうというところからスタートしているんです。

後藤:植物工場内でイチゴの受粉をやると。

古賀:そうなんですよ。だから外の環境を徹底的に分析して、中の環境との差を1つずつ全部潰していきながら、最初の1~2年は「どうやったらハチが飛ぶのか?」みたいなところを徹底的に研究して。

後藤:なるほど。

古賀:なんとなくハチが飛ぶようになってからは、今度はハチの受粉率がすごく重要です。普通のイチゴの農家さんだと、受粉の成功率は7割とか言われているので、要は花が10個咲いたら7個しか実にならないんですよね。なぜかと言うと、毎日ハチの数が多すぎたり少なすぎたりするので、100パーセントになかなかなりません。

それを我々は非常にロジカルに因数分解していって。今日はあそこに我々のCFOのジョンが来てますが、CFOのイニシアチブを率いて「どうやったらハチの数を毎日最適化できるのか?」みたいなことを、データサイエンスを使いながら計算して、アルゴリズムを作っていって。

先ほどお見せしたように、動いているロボットが毎日データを集めることによって、「今日はハチをもっと出せ」とか「今日はこれ以上出しちゃダメだ」ということを24時間ずっとやる。

それで今、我々は受粉の成功率が95パーセントまで来ているので、外の普通の農業よりも高い生産性が実現できているんですね。なので、ある種門外漢の人間が、愚直にロジカルに1個1個解いていったことがけっこう大きいかなと思います。

後藤:どの変数が受粉に一番大事だったんでしたっけ?

古賀:それは、申し訳ないけどちょっと言えない(笑)。

後藤:ベンツ1台分のお金を払ったら言いました?

古賀:いやいや。あ、ちょっと言ったかな?

川田尚吾氏(以下、川田):言ったっけ? あんまり覚えてないな。でも、かなりいろいろとリアルなハードウェアとかも見せてもらったので。

後藤:そうですか。その話の中で何が一番説得されましたか?

川田:さっき言ったように、ビジネスリスクがないというのが一番大きかった。あと、見せてもらった技術の積み上げの先でこういうことはできるなというのは、すごくよくわかったので。

高級イチゴが三つ星レストランの目に留まる

後藤:実際はスクラッチから作って、まずはどれぐらいで1パック50ドルの信じられないぐらい高いイチゴが出来上がったんですか?

古賀:一応、2年ぐらいでイチゴ自体はできたんですよ。ただ、ハチの受粉もまだそんなに上手にできていなくて、日本でいろんな化粧品屋さんで化粧筆を買ってきて。手でやろうと思えば、ハチの代わりに化粧筆で花の雌しべと雄しべを受粉できるんですよ。

後藤:なるほど。本当はハチが自動的に全部受粉するんだけど、最初はわからないから。

古賀:やらなきゃいけないんだけど、最初のうちはまだよくわからないから、受粉されてなさそうなやつを見つけたら手でやったりしていました。だから、本当に1日に5パックとかそういうレベルでしか生産できてなかったんです。

たった5パックしかないこの貴重なイチゴで、どうやって最大限ブランディングを作ろうかということを一生懸命考えて。50ドルという価格で、ミシュランの星付きレストランから、みなさんが知っているような超ウルトラセレブしか食べれないイチゴというかたちで、ブランディングを作っていったということですね。

後藤:アメリカで最初に食べた人たちの反応はどうだったんですか? 日本ってイチゴ大国じゃないですか。「とちおとめ」とか「あまおう」とか激甘ですが、アメリカのイチゴは酸っぱい。感動して「ヒロキ、これならいくらでも買うぜ」みたいになるのか、「ワーオ、いいね。以上」という話だったのか、実際はどうだったんですか?

古賀:本当に人によりけりですが、一番最初に僕らのお客さんになってくれたのは「Chef's Table」という、マンハッタンに5つしかない三つ星レストランのうちの1つですね。ここのシェフが「こんなおいしいイチゴは今まで食べたことがないから、明日から持ってきてくれ」ということに、いきなりなって。

有名ミュージシャンも惚れ込んだ、オイシイファームのイチゴ

古賀:(スライド)左側の写真がそうなんですが、だいたい1食10万円とか20万円するようなレストランなんですよね。フルコースでものすごい手が込んだ料理がずっと出てきて、最後の最後に、このイチゴは何もしない状態でそのまま出すと。ここでものすごく自信がつきましたよね。

後藤:なるほど。「これは価値がある」と。

古賀:それだけユニークなプロダクトとして見てもらえたんだなという。

川田:なんか、すごいセレブのミュージシャンが毎朝パックごと買っていったみたいなのあったよね。

古賀:ちょっと名前は言えませんが。

川田:言えないけど(笑)。

後藤:(笑)。

古賀:当時はまだデリバリーの人とかもいなかったので、彼らの家に僕が毎週車で届けるみたいなことをやってましたね。

後藤:話としてはいい話ですが、実は当時私はサンフランシスコのシリコンバレーにいて、ソフトバンク・ビジョン・ファンドの取材を担当していたんですよね。

100億円単位でお金をばらまく、ヘリコプターから札束をばらまくようなファンドが植物工場にめっちゃ金を入れているのを僕は知っていたんですよ。Plentyだったり、Boweryとか、いろんな(植物工場の)会社があって。

僕だったらこう思うんですよね。「おっと、日本のOishiiというのがすごいらしい。いただきだ」と。(創業当初の様子の写真を指しながら)これ、100億円あったら倒せそうじゃないですか。

川田:(笑)。

後藤:2010年代後半には、ビジョン・ファンドが応援しているユニコーン植物工場がいっぱいあったわけですが、なぜやられなかったんですか?

古賀:結論からすると、たぶんみんなやろうとしたんですよ。彼らは最初のビジョンとして、まずはレタスをやります。「レタスを黒字化することが、ここから2年間のマイルストーンです」というふうに言ってお金を調達しちゃっているので、この100億円、200億円は、レタスのコスト削減のための自動化に使いますというふうにしちゃっているんですよ。

なけなしのお金をすべてイチゴに注ぎ込んだ

古賀:(他社は)「イチゴは片手間にちょっとやります」という話なんですが、僕らは全身全霊なけなしの金をすべてここに注ぎ込んでいて。イチゴだけにフォーカスしてやっているのと、大きい会社の2~3人にちょっと予算を与えてやるのでは、さすがに負けないかなと思いますね。

後藤:川田さん。投資家としては、孫正義が“焦げついた植物工場”で、川田さんは孫正義を超えて勝とうとしている、みたいな状況なんですか?

川田:いやいや(笑)。

後藤:(笑)。

川田:それは言いませんけれども。でも、よくある話じゃないですか。何かブームがあって、お金がどーんと入って、みんな損しちゃって、その領域がすごく冷え切っている時に本当にすごいものが出てくる。検索エンジンとかもそうじゃないですか。

後藤:なるほど。じゃあ、実際に(受粉を)化粧筆でパタパタやらずに済むようになったのはいつ頃なんですか?

古賀:一応2年目ぐらいからハチは飛ばしていたんですが、組み合わせみたいな感じでやっていて。3年目、4年目ぐらいでかなり精度が上がってきて、4年目、5年目ぐらいには、ほぼ今の受粉の成功率までいっている感じですね。

後藤:特許とかも取っているんですか?

古賀:これ自体は、特許でどこまで守れるかちょっとわからないようなものなので、今はノウハウとして完全にブラックボックス化してやっていますね。

後藤:なるほど、ありがとうございます。

グリーンハウスの技術は、実は一部の国しか持っていない

後藤:次へ行かせていただきます。古賀さんは、「植物工場は世界で200兆円産業で、いろんな穀物を合わせたら巨大な新しい産業になる」と、いつもおっしゃっています。

しかもそれは、長らく新産業をどうやって作ったらいいかわからなかった日本企業にとっても、大チャンスだというお話をされているんですが、「ホンマかいな?」「本当なんですか?」と。ここを次に聞いていきたいです。

実は日本企業は、植物工場産業でも強いコンポーネントや技術がたくさんあると古賀さんはおっしゃっているんですが、ちょっとこれを説明していただいてもいいですか?

古賀:そもそも植物工場がどういう土台の上に成り立っているかというと、施設園芸というグリーンハウス農業の延長線上にあるんですね。あとは工業で、ここにあるようなLEDやロボティクスとかをかけ合わせたものの融合点が植物工場なんです。

実はグリーンハウスの技術を世界的に見ると、日本とオランダと、一部韓国、イスラエルにちょろっとあるぐらいで、アメリカやロシアや中国にはそもそもない技術なんですね。彼らは外で大量にばらまいて、お天道さまの下で量産していくというモデルでやっているので、グリーンハウスでやる技術や技術者がいないんですよ。

なのでこの時点で、日本とオランダと韓国とイスラエルが技術的に非常に有利です。そこに、自動化、空調、LEDという工業のところを組み合わせる。もちろん、ここはアメリカとかでもけっこう強い会社はあるんです。

ただ(スライドを)見ていただくと、みなさんもすぐブランド名が思い浮かぶぐらい、日本が世界に対して強い領域なので。この両方がたまたま揃っているというのは、世界中で日本しかないんですよね。

世界で一番おいしい品種は全部日本に揃っている

古賀:そこに、さらに種苗。おいしいイチゴやトマトやメロンとかって、品質でいくと世界で一番おいしい品種が全部日本に揃ってますので、このへんを全部掛け合わせて持っている国は日本しかないんですよ。

かつ日本は、サステナビリティという単語がないような、まだぜんぜん儲からない20年前から植物工場をずっとやってきたので、ものすごい貯金もあります。

ソフトウェアなどと決定的に違うのは、お金を投入したらけっこうすぐ追いつける領域とはぜんぜん違っていて、人と研究開発にめちゃくちゃ時間がかかります。イチゴのレシピを開発するのって、苗から収穫が始まるまで5~6ヶ月かかって、そこから何ヶ月かデータを集めなきゃいけないので、1回回すだけで1年かかるわけなんですよね。

なので、どんなにほかの国々が「これいいじゃん。Oishii Farmができたからうちもやろう」と思ってスタートして、100億円、1,000億円かけても、我々が7年かけてやったことを1年で達成することは物理的に不可能なんですよね。

なので今、まだ日本にはかなり貯金があるので、この貯金をうまく使いながら、いろんなインダストリーも含めてきちんとやっていく。我々だけがやっていくんじゃなくて、いろんな会社さんと組みながらオープンイノベーションをしていって、パッケージ化していくことによって、世界最先端の技術を作っていけると思ってます。

後藤:なんかやれる気がしてきました(笑)。

(一同笑)

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