2024.10.10
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グロービス経営大学院が開催したオンラインイベントに8月に『スタートアップで働く』を出版したフォースタートアップス株式会社の代表・志水雄一郎氏が登壇。グロービス経営大学院の田久保善彦氏との対談形式で、スタートアップに向いている人・向いていない人や、大企業のオープンイノベーション推進のポイントなどを語りました。
田久保善彦氏(以下、田久保):私からの質問は次で最後にしようと思うのですが、志水さんに教えていただいた記事で、アメリカの、特にディープテック周りは起業家の平均年齢が40歳を超えているという統計があると読みました。
日本ではスタートアップというと西海岸の話ばかりしていて、若い人たちのものであるというイメージがある。でも、志水さんご自身も起業したのは40歳半ばで、あっという間にIPOされて、今のこのフォースタートアップスがある。
例えば、スタートアップの社外取締役をやらせていただいていると、ものすごい経験があってBtoBの営業をきちんとやってくださるミドルの方が、喉から手が出るほど欲しいと思うわけです。
だから、別にスタートアップって若い人たちだけのものではないし、いろんな方がいろんなところで働けるはずなのに、「もう30代後半だから」とか、「40歳になったからスタートアップなんて自分には関係ない」というモードになっている人がけっこういるんじゃないかなと思っていて。
自分がスタートアップに向いているのか向いていないのかという判断軸もよくわからないままに、時間だけが経ってしまう。そんな方々へむけて、志水さんからメッセージがあればぜひお願いしたいです。
志水雄一郎氏(以下、志水):たぶん、お伝えすべきことは3つあると思います。1つ目は、世界で成功する起業家の平均創業年齢は45歳なんです。これは創業5年での成長率がトップ0.1パーセントに入る会社を創業された方々の創業時の年齢に関するリサーチのデータです。
このデータを見ていくと、40代・50代は成功確率が高くて、20代で創業した人と60代で創業した人の結果的な成功数はそれほど変わらない。ということは、起業は再現性を持ってから、勝ち筋が見えてから勝負するものだといえるのです。
志水:もう1つは、人生のカウントダウンで自分がピンピンで生きられる、社会課題・未来課題を解決できるのはあと何年だろうと考えた時に、「今しかない」と思ってやることなんだと思うんです。
日本人は「スタートアップって20代でやるもんだ」というイメージを持っているかもしれませんが、違うんですよ。より高い視座と視野と視点を持てるタイミングは人によって違うけれども、一定の経験やいろんなものが必要なんです。世界では「勝負しよう」というタイミングが45歳なんです。
日本は平均年齢48.6歳の国家ですよ。そう考えると45歳は若手ですよね。今後「まだピンピンしていて、社会課題の解決ができるよね」というメッセージが伝わる人たちは50代や60代かもしれない。だって、ライフシフトして90歳や100歳まで生きるんでしょう。私は今51歳ですけど、気力も体力も今が一番です。私はまだまだ進化できると思う。
いろんなところで「挑戦は最高のアンチエイジングですよ」とみんなに伝えていますが、私は本当にそう思う。だって、それ(挑戦)で自分が生きる理由を見つけようとしていますから。生きるということは、社会や未来をアップデートすること。そのために生きるんだって自分で決めたから生きられるんですよね。
そういう人たちは、もちろん20代・30代からも青田買いっぽく生まれるけれども、私はやはり人生経験を積んだ人たちの中から生まれると思う。それは別に起業家のみではない。それぞれのファンクションにおいてベテランは必要です。
さらに、スタートアップって早く成長しなければいけないんですよ。競争は激しい。全世代の一番優秀な人たちが集ってビッグゲームを起こすんですよ。そしてそれに対応できる人事システムを作らなければいけない。
多様な人事システムがないとリードできる企業にはならない。「若い人たちだけで構成していくんだ」というのも競争戦略かもしれませんが、今のこの日本、もしくは世界においてそれは難しい。
小さな会社を作るのなら、少数精鋭でやろうとするならばそれでいいかもしれないけど、将来のインフラとなるような社会をリードする会社を作るためには、さまざまな年代、さまざまな能力、さまざまな価値観を持つ人たちを集めてでも前に進む会社を作ろうとしなければいけない。
そんな中で、BtoBのエンタープライズセールスができる人は、今やザ・モデルのSaaSのようなところでご活躍いただける方は多分にいるんだと思います。
田久保:勝手に年齢とかそういうことで自分の可能性に蓋をして、「もう自分には関係ない」と思う前に一歩踏み出してみたらって本当に思いますね。ありがとうございます。
田久保:ここからはみなさんからいただいた質問がたくさんあるので、いくつかピックアップしてみたいと思います。これはやはりみんな聞きたいよねと思うのですが、「スタートアップに向いている人、向いていない人」は一言でいうとどんな感じでしょうか?
志水:一般論で言えば「挑戦できる人」とか「主体的な人」とか、「環境が揃っていなくても環境の整備から我がことのように進められる人」とか、いろいろと言われますが、実は、私はこのメッセージが嫌いなんですよ。
なぜかというと、この一般論は過去の話で、これから作る時代は変わると思っているからです。私はスタートアップは前提がオールインだと思っています。今、日本のスタートアップで働いている人の人数をリサーチすると、日本全国で労働人口中の約1パーセント、東京で見ても約7パーセントにすぎない。
一方で、アメリカのデータを見てください。新産業と既存産業が同数で雇用を争っているんです。日本もそれぐらい強力な社会システムに切り替えていく、産業に切り替えていく必要性があるから、前提はオールインです。
「でも、それは残酷ですよ」「向く、向かない人が出ますよね」と。それは出ますよ。だって東大でも序列があって、たとえグロービス経営大学院を出ようとも、競争はある。
でも日本はいま少子高齢化です。特に若年を中心として労働力はまったく足りない。職にあぶれることはない。その人に生きる能力があれば、そして変われる意思があれば、しっかりと飯が食える。だから私の前提はオールインです。勝負して駄目だったら大企業に帰ってきなさい、ということですね。
田久保:これは一番「いいね」がついている質問でしたけれども、みなさんご理解いただけましたでしょうか。ありがとうございます。
田久保:次は、「著書に『口説いて起業を後押しする人がいる』と書かれていましたが、志水さんは具体的にどのような視点で後押しする方を選ばれているのですか」というご質問です。
志水:きれいな言葉ではありませんが、私は「人たらし」の人を口説いています。そこに集う理由を作れる人です。本当の意味での人たらしでないのであれば、COOにいわゆるザ・人たらしの人を組み合わせて、事業を作る組織を作ればいい。
先ほどからお話ししていますけど、自らの言霊でミッション・ビジョン・バリューを語り、その人の生きざまに、生きていく過程に、何か課題解決に取り組めるペインがあるなら、そのペインに向き合った時にふさわしい人の背中を押したほうがいいですよ。「あなたはそのペインに長として取り組んだほうがいい」と。
私はそういう人に機会を提供したい。なぜなら、日本の教育では、長として産業を作る教育がされていないですから。だから私は、1人でも多くのリーダーの背中を押したい。
そして、今や国策としてその人を支えるための仕組みがあるのですから。民だけで勝負する社会ではなく、産学官民が連携してその人の未来を支える、国家の競争力まで引き上げていくと言っているんですから、私は「リーダーはやらずにどうする」と思います。
田久保:次も非常に興味深い質問です。スタートアップ vs. 大企業の中の新規事業という可能性もあると思うのですが、スタートアップをあえて強調される志水さんのベースにはどんなお考えがあるのでしょうか?
志水:これはまったく大企業の新規事業を否定するものではありません。もちろん大企業が生きていくためには、ポートフォリオを拡張していく中で、既存ビジネスだけではリスク分散もできませんから、新しいものを作っていく経済活動はとても重要であると思っています。
田久保:実際に、フォースタートアップスの中でも、大企業とベンチャーをくっつけてオープンイノベーションを促進する事業をやってらっしゃいますもんね。
志水:はい。まさに日本のスタートアップの政策を進めていく上でも、5か年計画で3本の柱として人・お金・オープンイノベーションと言っているわけですから。
大企業の中には人もいて、知財もあって、内部留保もたくさんあって、という状態で新規事業を進めていかなければいけないと思いますが、オープンイノベーション分野については、ポイントは1つだけだと思っています。
マネージャーって会社の中でメンバーを育成したりするじゃないですか。あの世界に近いのではないかと思っているんですよ。産業界におけるマネージャーは大企業です。だから大企業はメンバーを育成し、サポートしなくてはいけないんですよ。
女性活躍のために役員比率を高めるという話があるじゃないですか。それと同じように、すべての会社にオープンイノベーション担当役員を作ってほしい。そうすれば変わると思うんですよね。私が経産省や内閣府、経団連などの人たちと話したいと思い始めているのは、それを置かないと変わらないと思うからです。
志水:その上で、大企業の新規事業における1つの課題を挙げると、もちろんその新規事業はそこにいる人やブランド、証券などによってより早くグロースする可能性が存分にあると思います。1つだけ欠けていることは、インセンティブですよね。
スタートアップで苦労しながら同規模のものを作った人と、大企業の中で少しだけリードしながらそのプロダクトや事業を作った人。結果的に長、もしくは中核メンバーに見返りとしてどんなインセンティブがありますか? 大企業がストック・オプション制度を設けて、経営陣よりも高い報酬や資産を与えるつもりがあるのなら、新規事業という形態は成立すると思うんです。
それがない場合は、みなさんにこういうテーマがくるんです。スタートアップがどんどん育成される社会になった時、こういう事業に取り組んだから、あの人はやりがいと給与報酬や株式報酬でこれだけの資産を形成したんだという経済合理性の情報が当たり前のように流れてくる。
それに対して自分は株も持たず、新規事業をこれだけ作ったことが何のメリットにつながったのかと、顧みなければいけない時がくる。たぶん、インセンティブ制度のようなものが大企業側にできた時に、社会システムが変わると思うんですよ。
田久保:なるほど。
志水:私がMBOした時には、メガバンクはMBO融資をやっていなかったので苦労しましたが、今はMBO融資制度がいろいろ備わってきています。さらに大企業の経営陣もいろいろ考え始めたでしょう。
100パーセント社員で、100パーセント新規事業でやるのではなく、外部資金も入れてバリューアップしたほうがいい。その時にはインセンティブを加えたほうがいい。そのほうが早く伸びるし、結果的に自分たちに返ってくるものも大きいんだと考えられる経営陣は、今後増えていくと思います。
ですので、私は一概に大企業の新規事業には反対していません。インセンティブを加えてくれるという条件があり、それをディシジョンできる経営ボードが大企業側にないと進まない。これをどう作るかは、私も関わりながら考えていきたいと思います。
田久保:では最後の質問と、その後に志水さんからのメッセージという流れにしたいと思います。これは、私も聞いてみたい。「学生時代の堀江(貴文)さん、孫(泰蔵)さんからどのような影響がありましたか? また、今受けている影響があればぜひ教えてください」というご質問がきています。
志水:40歳までは、もう関わりたくなかった。なぜならば、キラキラしている彼らと自分の乖離がすごすぎた。だって机を並べていた人たちだから。でも彼らは努力したし挑戦したからなんですよ。
自分は挑戦していないから、さらに40歳の時は窓際族だったから、あまりの違いに関わりたくなかった。だってダボス会議に行っていないですもん。何社も上場させて、個人資産数百億円とかないですもん。「著名人とご飯を食べたけど、彼らはあんなことを言っているけど、俺はそう思わないんだよね」ってSNSに書き込めないですよ。普通の一般ピープルになっている身としたならば。
だから私は、40歳までは関わらないように生きていました。でもそれ以降は、変わります。社会や未来を変えるためには、関わったほうがいい人たちなんですよね。もしくは、少しでも近づかなければいけない。だって、自らが社会や未来を変えるためのアップデーターになるとしたら、やはり彼らを見て、彼らとともに生きる。もしくは参考にする。
そんな自分にどう成長できるのか。挑戦しないと未来は変えられないんですよね。だからまったく違う捉え方をして、まったく違う関わり方をし始めた。今、私は51歳ですけど、それが40歳以降の生き方につながっています。
田久保:今日は志水さんのお書きになられた本の中身と、VCやスタートアップの現状も含めていろいろお話をいただきました。最後に聞いてくださっているみなさんに一言メッセージをいただけたらと思います。
志水:私たちはチャンスと可能性にあふれています。そして社会や未来を変える責任がある。積極的に撤退することもできる。
でも、その自分の可能性や社会がどうなっているかを知らないまま、挑戦もしない、課題解決もしないというのは、私は悪だと思っている。知らないという悪です。
でも、知ったからにはどうするか? 1人でも多くのリーダーがここにおられるなら、私も必ず今ある社会課題と、未来課題を解決しようと万力で生きるつもりなので、ともに未来を変えにいきたい。
社会課題は我がことのように思い、我がこととして課題解決に向き合う。そんなリーダーが1人でも多く生まれることは、自分にとっても社会にとってもすばらしいことだと思うので、そんなリーダーが生まれることを期待したいと思います。
田久保:ありがとうございました。熱い熱い、スピーカーから出てくる音が割れるぐらい熱のこもった志水さんの今日のお話に、みなさんもたくさんのことを感じてくださったのではないかと思います。
ウェビナー形式なので拍手の音は届きませんけれども、みなさん、盛大な拍手を送って志水さんにお礼をお伝えいただければと思います。志水さん、今日は本当にありがとうございました。またこれからもよろしくお願いいたします。
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