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『スタートアップで働く』 ~トップヘッドハンターが考える魅力的なキャリアとは~(全4記事)

エリートが社会課題・未来課題の解決に挑戦する社会にする 日本の未来に不安を覚えた「窓際族のおじさん」が始めた挑戦

グロービス経営大学院が開催したオンラインイベントに8月に『スタートアップで働く』を出版したフォースタートアップス株式会社の代表・志水雄一郎氏が登壇。グロービス経営大学院の田久保善彦氏との対談形式で、スタートアップ支援に駆り立てられた志水氏のモチベーションの原点が語りました。

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リーダーは「長」を目指さなければいけない

田久保善彦氏(以下、田久保):その(スタートアップの見極め方の)延長線上なのかもしれませんが、スタートアップというものを考えた時に、日本人の場合、今までの概念だと学校を出て大手町とか丸の内にあるような、今であればプライム市場の上場企業で数千億円とか1兆円という売上があるいわゆる大企業に入るのが、みんなが行きたがるキャリアです。

少なくとも10年か15年ぐらい前までは、スタートアップってちょっと変わった人が行くような感じだったのかもしれませんよね。それが、志水さんの本の内容としては、逆三角形になっているという論調もあると思うんです。

そういう日本のスタートアップに対する見方と、海外のスタートアップに対する見方は、働く場所としてどんなふうに違うのかを教えていただきたいと思います。

志水:今、私たちの社会が荒廃していたとします。その時にどういう行動が起きるか。たぶんリーダーが御旗を立てるんですよ。「私のもとに集いなさい」と。

「労働を対価に給料をもらう、もしくはご飯を一緒に食べよう」と。それだけでなく「路頭に迷うな、私たちがこの社会システムを復興させていくんだよ」「私たち自身が未来を作るんだ」と。「だから一緒に社会を良くしよう」「未来を良くしよう」と、リーダーが言い始めるんですよ。そこに人が集うんです。

純粋に経済が成立していない場合、私はリーダーはそういう選択をすると思います。今、高校、大学から社会に出て「リーダーだよね」「エリートだよね」と言われる人は、本当にその選択をしているのでしょうか?

自らが長となって課題解決ができるはずなのに、なっていない可能性がある。私は、当たり前のように、リーダーたる人間はなんらかで長となれるはずだと思う。長を目指さなければいけない。少なからず経営陣として未来をともに作る役回りには立っていただきたいと思っています。

純粋に何の制約もなく考えれば、自らが長となってスタートアップを作りますよ。だから世界には起業家が生まれるんです。制限がなく、自由にイノベーションを起こせる。さらにそこには株式報酬も連動している。世界のトップTierのスタートアップ群からメガベンチャーになっていった起業家の個人資産は、今や数十兆円です。

やりがいと経済合理性の両立は、給与だけではないんです。株式報酬なんですよ。ですので、エリートが目指すキャリア、リーダーが目指すキャリアは起業家です。

日本ではそういう教育が学校教育、親の教育、もっといえばグロービスの教育で行われているのだろうか。私は、これはとても重要なテーマだと思っています。

新しい企業やプロダクトが既存産業を凌駕するのは世界の常識

田久保:それが日本は逆三角形になってしまっていて、そういう能力があったりそういうことをできそうな人が、最初に逆三角形のこっち側(上側)に行ってしまうような状況になっている。

志水:そうですね。私はかつてソニーやトヨタを作った人たち、そして今の日本を牽引する大企業を作った人たち、そこで働いた人たちのメッセージが、違うメッセージとして伝わっていればまた変わったんだと思うんです。

どういうメッセージかというと、「私たちは時代を作ったんだ」と。「その時の国を作ったんだ」「だから次の世代にお願いしたいのは、私たちと同じように挑戦してくれ」「新しい新産業、新基軸の産業を作ってほしいんだ」と伝えていればよかったんです。実際には「私たちのように、大きな会社で安定的に働きなさい」と言ったんです。

企業やプロダクトには旬やライフサイクルがあります。それは世界が証明している。(今も)ゼネラル・エレクトリックやゼネラルモーターズが世界のトップだったら、日本も大企業に勤め、そこでイノベーションを起こせばいい。

でも、グローバルを見たら明白です。新たに作る企業やプロダクトが、既存産業を凌駕していくんです。その凌駕する社会構造をどう作るかは、私たち、そして次世代にとってとても重要なポイントだと思います。

スタートアップ支援に駆り立てられたモチベーションの原点

田久保:冒頭にお話しいただいたように、今この国の競争力が落ちてきている。国という観点から見ても、やはりスタートアップを作っていくことが極めて重要であるというのが、志水さんの本の大きなメッセージの1つだと思うのですが。

その国ということから考えた時に、スタートアップを作る意味や意義は何か。そんなところを語っていただきつつ、「なぜ普通の会社員だった志水さんが、そんな大きなことをやろうというモチベーションを駆り立てられたのか。どうしてそういう課題認識を持つことができたのか」という点にすごく興味があるというお声があります。そのへんを絡めてお話しいただけたらと思います。

志水:私は転職サイト「doda」を生み出しましたが、そこでの重要顧客は外資ITや大企業でした。なぜなら、そこで大きな雇用が創出され、予算が存在し、そこに営業を仕掛ければ自分たちの事業が成長するからです。日本の当たり前の論理からすれば、それは当たり前の経済活動なわけですよね。

それまでは、日本の未来の課題解決をするとかではなく、前提が素敵な社会や競争力のある社会だから、今の自分の経済活動が正しいと思って生きていた。けれども、11年前に気がついたのは、どうやら少子高齢化により労働力が下がり、競争力がなくなり、生産性も低いから日本の未来はどんどん暗くなるんだということです。

日本で良い生活水準で生きていて、自分は世界の中でもまぁまぁだと思っていたら、どうやら日本人のエリートと言われている給与水準は海外だと新卒初任給程度なんだと。もちろん物価の違いもあるので、可処分所得でいえば見解は変わってきますが、それでも日本がもっと競争力のある産業や、もっと大きな外貨を獲得できるシステムを作れていれば、もっと享受できた今と未来があったのではないか。

でも、その課題に向き合っているかと言ったら自分は向き合っていなかった。それで私は友人であるJTC(Japanese Traditional Company)と呼ばれる人たちに聞いてみたんです。

「君がもらっている給与は世界の中だと低いんだけど、知っている?」「私たちの未来は暗いんだけど、知っている?」と聞いたら、正しく「知っているよ。それに対して課題解決しようと思って俺は生きているよ」というメッセージを出してくれた人はほとんどいなかった。

エリートが社会課題・未来課題の解決に挑戦する社会へ

志水:私はこの状況を見て、「本当にやばい」と思ったんです。当時、私は窓際族です。でも、たとえ窓際族のおじさんであっても、人生の後半戦で自らが生きている理由を取り戻すためには、この課題に向き合って生きないといけない。

知らなければ向き合わなくてもいいんですよ。でも知ってしまったからには、自分が課題解決をしなくてはいけないと思ったんです。

人が生きるということは、自分のために生きる、家族のために生きるだけじゃなくて、社会を良くするために生きていかないといけない。そうしないと、自分も家族も幸せにならないんですよ。

エリートが社会課題の解決、未来課題の解決に向けて生きていないならば、私はそれは間違いだと思う。何のために生を受け、何を果たすために生きているのか、そして何を残すのか。それはとても崇高なテーマだけれども、自由にデザインできるんですよ。

この自由なデザインは何に基づくかというと、きっとインプットです。グロービス経営大学院で学ぶ人たちは学びの力があるからこそ、どんな視野・視座・視点を持ってその人生を歩んでいくのかを見つけに行く人生を歩んでいると思うんです。

だとしたら見つけてほしいんですよ。私たちはチャンスと可能性にあふれている。どんな自分にもなれる。マーク・ザッカーバーグの本を読んで「あれはフィクションかもしれない」とか普通に考えてしまうけれども、同じ人ですよ。

もちろん、先天的な違いが後天的な人生に違いを生むという教育や研究もある。ただ、先天的なものが同じなんだったら、すべてはその後のインプットで変わるんだと思います。

環境・経験・情報に基づいて、どんな世界・社会の物差しを作り、その中でプロットした時に自分がちっぽけだと思うのか、それとも余白をチャンスだと思って、モチベーション高く高回転でアウトプットを出していくのか。

マーク・ザッカーバーグやイーロン・マスク、今やサム・アルトマンまで出てきて、それを体現している人たちがいっぱいいる。そしてなれていないとしたら、私たちが日常的に怠惰なんですよね。

そう認識した時に、少なくとも私たちが生きているこの日本を少しでも良くしようじゃないか。自分の残していく子どもが日本で育つ確率が8割や9割あるのならば、日本の未来を良くしていくことも親の役回り、先輩の役回りですよ。

1人でも多くの人にスタートアップへの挑戦を望む理由

志水:そこに自分の力をかけようとしない生き方をするのなら、子どもに「不幸せになりなさい」と言っていることと同義ではないかと思っていて。私は水は上から下にしか流れないと思っているから、影響力のあるリーダーたる人たちが、1人でも多くその生き方をした時に、課題解決をした時に、きっと良くなると思うんですよね。

私は人が選択できるとても素敵な行動の1つが挑戦だと思っていて、その挑戦のビジネスにおける表現の仕方の1つがスタートアップだと思っているんですよ。

自らの言霊で、ミッション・ビジョン・バリューを策定してそれを話すさまを見て、仲間が集うんですよ。自分が仕事ができなくても、そこに自分と違う能力のある人やミッション・ビジョン・バリューを達成するための仲間が集う。集って、その仲間とともに必死にプロダクトやソリューションを生み出すんですよ。

さらに、生み出そうというそのさまを見て、「ともに未来を作ろう」と投資家が出資する。それが成長していけば1つの上場会社になり、世界を代表する会社になって、雇用を創出し、税金を納め、社会システムになっていくんです。こんなすばらしいキャリアの選択がほかにありますか?

だったら1人でも多く挑戦してほしいし、それを支えるエコシステム側に1人でも多く回ってほしい。私が挑戦しているのは、そのエコシステムにおける最大のプレイヤーです。

インフラになるぐらいのチームが作られないと未来は変わらないと思っているから、私はこのために生きようと思う。窓際族のおじさんでも、気づけばそういう選択をする。私はそう思っています。

田久保:知らないことの罪を感じて、知ったからにはその責務を果たすと。ありがとうございます。

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