2024.10.10
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昨今では、新規事業に加えて既存事業における事業変革、DXによる組織改革など、企業のさまざまな領域でイノベーション人材の必要性が高まっています。本イベントでは、人事担当者や新規事業担当者に向けて、イノベーション人材の育成のヒントをお伝えします。本記事では、ベンチャーキャピタリストの中垣徹二郎氏と株式会社ローンディールの原田未来氏が、事業会社におけるイノベーションの最適解について語りました。
司会者:中垣さん、ご講演ありがとうございます。ご視聴のみなさんは、大企業の方が多いと思うんですけど、きっと部門ごとにリズムが違うとか価値観が違うところなどは激しく頷かれているのかなぁなんて思いながら、聞いておりました。
ここから原田さんとのパネルセッションに入っていきます。Q&Aということで、今、投影しているこちらのテーマで、お話をうかがっていきます。実際にポリネーターを見極める方法だったりとか、どうやって育てていったらいいかなど聞いていきたいと思います。
原田未来氏(以下、原田):発言の機会がなくここまで来ましたが、ローンディール代表の原田でございます。中垣さんには本当に20年以上お世話になっておりまして、ありがとうございます。今日は、そういったオープンイノベーションを加速する人材のことを中心に話をしていければと思います。
まずあらためて、イノベーションとかオープンイノベーションから整理をしていければと思ってます。そもそもイノベーション人材というと、いろんな捉え方があるなと思っています。具体的に言うと、新規事業とか既存事業だったり組織、いろんな領域でイノベーション人材が必要だと最近言われているなと思っています。
特にこの新規事業で言うと、自分たちの会社から起案していく。さらにはそれが経営者なり経営企画みたいな部分から、「この領域で新規事業をやりましょう」という前提が縛られてくるケースがあったりとか。いわゆる新規事業提案制度みたいなものの中でボトムアップで出てくるケースもあったりする。
一方で、今回中垣さんがおっしゃっていたオープンイノベーションの中にも、それこそVCさんにLPで出資(VCを通して複数の企業に投資できる分散投資)をされて、そこから探索をしていくケースもある。
またはアクセラレーションプログラムみたいなかたちで、我々はこんなアセットがあるので、ベンチャー企業のみなさんはいろいろ提案してください、と受動的に集めていくパターンがあって。そこから協業にいってM&Aにいったりするサイクルもあるかなと思います。
原田:加えて言うと既存事業の中でも、既存の事業領域から派生して染み出して新規事業に移っていくケースがあったりとか。プロセスを変えていく中で、ここからベンチャーの技術を使ってオープンイノベーションに移っていくケースがあったり、いわゆる社内で言うDXが走っていったりとか。組織変革の中でもDXみたいな話があったりと、イノベーションにもいろいろありますよね。
その中でも、今回はこのオープンイノベーションでの中垣さん、ポリネーターのお話かなという。全体像としてはこんな感じかなぁと思ったんですけど、中垣さんからすると、この(スライドの)図は違うぞというご指摘もあります。そのへんからお話をうかがっていければと思います。
中垣徹二郎氏(以下、中垣):プロセス変革からオープンイノベーションにいく場合もあるから、これでもいいのかもしれないけど。たぶんイノベーション自体の定義よりも、事業会社さんがイノベーションを起こしていこうという時に、まずわかりやすいものはクローズドイノベーションとオープンイノベーションがあるという話です。
クローズドイノベーションは、社内でラボを持たれていたり、研究所を持っている会社もたくさんあると思います。あとは研究開発本部があって、そこを中心にやっていくイノベーションが典型的なクローズドイノベーションです。
オープンイノベーションは、外部のリソースも上手に活用しながらやっていく。もしくは、中にあるものを外に出していく場合もある。たぶんその対比になったほうがわかりやすくて。新規事業にこだわってしまって、新規事業の中にオープンイノベーションがある、になってしまっていると、それはそれで狭くしてしまっている感じがするんですよね。
原田:なるほど。
中垣:自動車メーカーが車を作り続けているのは、まだこの時点では何も変わっていないけど、オープンイノベーションを一切やってないかと言うと……例えばガソリン車においても、たぶんいろんな新しい技術を取り込んでいるはずです。じゃあそれはオープンイノベーションではないかと言うと、オープンイノベーションなので。
プロセス変革からいっているからという言い方もできるかもしれないですけど、イノベーションのところで、そこは分けておいたほうがいいのかもしれないなとは1つ思います。
受動か探索かも、来てもらうテーマ設定を上手にできていれば、もちろんわかりやすいからそれでも(人は)集まると思うんですけど。
なんかやっぱりイノベーションを起こしていく時は、もうちょっと曖昧なことも多いので。ふわっとしたというか、ある程度ゴールはクリアにあるんだけれども、そこを成し遂げるためにスタートアップはまさにピボットをしながら最終的にゴールにいくじゃないですか。
同じように新規事業は、ある程度ゴールはあるんだけどプロセスが見えないみたいな話がある。受動と探索がきれいに分かれているとも思えない。結果的に全部探索で動いていくみたいなこともあるので。
これもイメージとしては分けやすいんですけど、実際にやっている人たちは結局どっちでもいいみたいなかたちで動いていくので。単純に受動で成し遂げられるもの、それで完結してしまうものは、イノベーションにはたぶんならない。
ニーズが明確にあるのでこれを埋めてくださいと言っているだけなので、本当に取引先を探しているみたいな話になってしまうんじゃないかな。まさに協業。協業がイノベーションなのかという話です。それは別に普通に取引してるだけだよねと、これを見て思いました。
原田:ありがとうございます。加えて言うと、クローズドイノベーションから始まっているんだけれども、オープンイノベーションに移行していくというか、そういうことも選択肢としてはあり得る。
中垣:めちゃくちゃあります。実際にチェスブロウ(オープンイノベーションの提唱者)の図を見た時に、社内でやっていた研究ソースを途中で外に出していく。自分たちでものすごくいい技術を生んだのだけど、これはうちでは使えないから、外に出してスピンアウトしていくというのもオープンイノベーションの典型的なかたちです。そこは実は初めに分かれているとも言えないんですよね。
原田:そうですね。
中垣:クローズドから始まって、途中でそれを外に出してビジネスをしていくものもあるので。頭の整理としてはすごくいいと思うんですけど、必ずしもこれが本当にいいかと言うと、なんとも言えない感じがしました。
原田:60点ぐらいですよね。
中垣:いや、わからないですけど……(笑)。
原田:受け止めたいと思います。
中垣:いっぱい突っ込んでしまってすみません。
原田:いえいえ、ありがとうございます。そんな中で、中垣さん。日本企業においてもスタートアップはかなり脅威になっている。大企業側がうまくこの状況を乗り越えていくためには、オープンイノベーションが、ある種「最適解」という言い方がいいんですかね。やっていかないといけないテーマだと思うんです。
オープンイノベーションはもう常に選択肢として入れ続けていないといけないんですかね。
中垣:結局これって、もしかしたらDXの話とつながるかもしれないです。ビジネスモデル自体が今、世の中でよく言われる、「モノからコト」、物売りからサービス売りになっているから、ビジネスモデルのあり方がすごく変わってきています。
社内でのプロダクトの延長線上が、実はもうさっき言ったIncremental(漸進的な、徐々に進展するもの)ではないんですよね。売り方が劇的に変わってきているので。
中垣:まさに物を届ける、課題を届ける。物が欲しい人に対して的確な物を売りますという流通業が、この20年間で、突然お店を持たなくていいかたちに変わってきたわけじゃないですか。(プロダクトの)延長線上にないものが非常に増えてきています。
そういう意味では、まさにホテル業は、立派なホテルだって、(お客様に)来てもらおうと思う。でも、居心地のいい滞在場所を提供する、その体験を提供するのが根本的な課題としてあった場合に、「そもそも箱を建てる意味があったんだっけ」とAirbnbが提示する。
その意味では、いいホテルを作っていこうということで解決できるんだけど、根本的な課題を解決しきれないことになってしまうわけですね。それを社内で本当にスムーズに生み出せるか、という話だと思うんですよ。
原田:なるほど。
中垣:そういう時代が来ている中で、中だけで答えが全部出せるかという意味では、結果的に……不可能はすべてにおいてあり得ないんですけど、それって非常に非効率だし、逆に難しいことにチャレンジしているのではないかと思うんです。
だから結果的に、オープンに同じ課題を解決している、別のアプローチをしている人を見つけ出して組んでしまうこともオープンイノベーションの一つのかたちだと思います。やり続けないと、新しい価値を提供し続けるには弱いのではないかと思います。
原田:なるほど。ありがとうございます。そういう意味では、まさにその次に書かせていただいた、ポリネーターは生え抜き人材、中途採用人材、どっちが適してるんでしょうか、というテーマ。
社内だけではなかなか進まない時に、ある種大企業さんも、最近中途採用も増やしてきている気がするんです。この優劣というか、ここらへんのお考えはありますか。
中垣:そういう意味では、やっぱり融合することが僕は大事だと思っています。どちらかだけでも難しいと思うんですよね。
例えば、すごくわかりやすいのはオープンイノベーションを担っていくうえで、コーポレートベンチャーキャピタル(CVC:事業会社が自己資金でファンドを組成し、主に未上場のベンチャー企業に出資や支援を行う活動組織)も一つの大事な役割として出てくるわけです。
「投資そのものをやる」と手段で考えると、プロだけを雇うとか、VCさんに任せてしまうとかも、やり方としてはあるかもしれないんですけど。
CVCはある意味R&D(研究開発)の新しいラインを作っていくと考えるといいと思っています。「うちの弱みとか足りないものを補完してる」とわかりながらスタートアップと付き合っていくことを、CVCを通じてやるわけです。
そこまで社内のことを本当にわかっていたり、最終的に巻き込めるのかが肝ですよね。そう考えた時に、社内のことをよくわかっている人と、投資のプロが融合しているチームであるかどうかはすごく大事で。
まさに『両利きの組織を作る』の加藤さんから僕もいろんなことを教えていただいて、オライリーさんの話も聞く機会があったんです。よくこんがらがってる方がいるんですけど、実は両利きの経営と、よく言う出島(本体とは離れて新しいことを生み出すための組織やチーム)みたいなものが……別に出島を否定してるわけではないです。
初めは出島的に壁を作って新しいことをやるんですけど、最後のキーはつなぐこと。最後にそこで、大企業側が持っているリソースとのシナジーが出なければ、最終的にぜんぜん相乗効果にならないんですよね。つなぎが大事ですよと。
つなぎをやるのはある意味ポリネーターだったりするわけです。そこがなければただの出島でちっちゃく終わってしまう。会社と関係ないことをやっているだけになってしまうので。
中垣:そういう意味では、そこをうまく巻き込める人だったり、理解している人とやる。あと僕は、社内で信用の貯金がある人がやるのがすごく大事です、とよく言うんですよ。
「お前が言うなら、ちょっとは付き合うわ」と言ってくれる、そういう信用を持っている人はすごく大事ですね。トップにあるべきかナンバー2かは別にしても、中心にいる人でないと、オープンイノベーションを担うチームにならないでしょう。
ただその人たちだけでは、伝統企業的な考え方だけでしか動かない癖が強い。そういう意味で、さっき言ったようにAmazonがJet.comを買収しましたとか、Unileverがダラーシェイブクラブ(Dollar Shave Club)を買いましたみたいな、もうゴリゴリにスタートアップでやってきた人をうまく巻き込んでいくことが大事なので。やっぱり融合が何よりも大事です。
原田:なるほど。そういう意味では、信用されるには、生え抜き側で信用を持っていた人であることが大事、ということですけれども。これってどちらかというと、既存事業の中で信用を蓄積していって、どこかのタイミングでオープンイノベーション側に移動してもらう感じになるんですか。
中垣:そういう人がいると、すごく動きやすくなると思いますね。ただその人自身が、今までのやり方に非常に課題感を持っていて、自分自身も新しいものが欲しい。あと会社にとってもそういうのが必要だという課題意識を持って、こういうチームにいらっしゃると、非常に機能しやすい気がします。
原田:なるほど。
中垣:こんな方は既存事業の中でもたぶんチャレンジしてきているんですよ。変えられる範囲で変えることをちゃんとやっていたりして。本当はもっと抜本的に変えたいけど、なかなかそれはこのチームではできないな、ということはあると思うんですね。そうした方がいると、非常に機能しやすい気がします。
原田:なるほど。ということは、そういう課題意識を持っている方からすると、意識変革みたいなものは必要ない人が多いんですか。中垣さんがふだんお付き合いされているポリネーターと言われる人たちは、最初からポリネーター的な資質を持っておられたということでいいんですかね。
中垣:けっこう、すっと来られてる方もいらっしゃることはいらっしゃるんですね。「こうやって会社変えましょうよ」と言っていた人が、「じゃあ、お前やれ」と言われて「あぁ、なっちゃった。まあでも言ったからにはやるか」という人もいるんです。
ただ、後天的に「お前これやってみな」とアサインされて始まっている方も当然います。例えば僕がやってるDNXのシリコンバレーオフィスは、ある意味突然アサインされて派遣されている方もいらっしゃるんですよ。初めはやっぱりきょとんとされていたりする。正直言うと、完全にラインから外れた感があるんですよね。だけど、そのアサインした人たちから役割を言われると「確かにこれは大事だよな」と感じるとか。
あとはスタートアップと触れ合って、そこで「おもしろいな」「何か自分たちにないものを持っているな」と後天的に開花する人。「これはうちの会社にとってすごく価値があるものだ」「これをなんとかして生かしたい」。そうなっていって、後天的に開花している方もいらっしゃいます。
ただ、すっと入れている方も確かに多い。特に僕がこういう活動を始めた12年前ぐらいから、そういう活動をしている人は、なんだかちょっととがっていて、変わった人が多かったんですけど。一目は置かれてるけど、必ずしもそのまま社長候補になっていくかというと、そうでもなさそうな人。なんとなく言いたいことはわかると思います。こう、天邪鬼な人というか。
原田:はい。いらっしゃいますね。
中垣:ただ、けっこうわかりやすく評価をされていた人が、新しいチャレンジとして「これをやってくれ」と言われると、初めはけっこう混乱していますね。会社から何を求められるかがちょっと漠然としているので。そこをご自身で苦労されたり、僕らと対話しながら変わっていって機能し始めている方もいらっしゃいます。
原田:中垣さんが見てこられた中で、後天的に変わっていくきっかけはどんなことがありますか。
中垣:僕も実際に思うんですけれど、スタートアップっておもしろいことをやっているんですよね。例えば、事業会社って業界のプロフェッショナルの方々がいるじゃないですか。会社が何をやろうとしてるかとか、どういうアイデアでこれから進んでいこうかとか、それなりに知っているわけですよ。
もちろんぜんぜんだめだなという会社もスタートアップにはあるんですよ。ただ中には、クオリティはまだ伴っていないんですけど、「うわ、この社長が言っていることができたら本当にすごいな」と。うちだって欲しいけど、まだぜんぜんそこまでいってないような発想と、一歩先に向けてとにかく一直線に突っ走っている会社があるんですよね。
そういう出会いで変わるんだと思います。だから、体感としてスタートアップのすごさを知らないと、いくらユニコーン(評価額が10億ドル以上、設立10年以内の非上場のベンチャー企業)がすごいだなんだといっても、小さい会社であるのは事実なので。
ご自身が、自分の持っている体験だったり知識に対して「うわ、これすごい」と驚かされる機会がないと、人間は変わらないと思う。そういう意味でも、実際にたくさんのスタートアップに会う機会がないとわからないですよね。
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