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AI時代のリーダーが知るべき「アート 思考と デザイン思考」~創造性とイノベーションを育むクリエイティブ・マネジメント 入門編~(全5記事)

型を知らない新規事業は、受け身を知らない“道場破り”と同じ 事業開発の専門家が語る、自分の引き出しを増やす習慣術

AI技術の発達により「AIが多くの仕事を担う時代」が予測される今、ライフスタイルやビジネスに『アート×デザイン思考』を取り入れることが注目されています。本イベントでは、今後AIに仕事を奪われないための価値創造のコツを、ロジカル思考・デザイン思考・アート思考を横断しながら語ります。本記事では、一般社団法人i-ba代表理事/クリエイティブ・マネージャーの柴田雄一郎氏が、アーティストと起業家の共通点について解き明かしました。

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理屈ではなく衝動で動くアーティスト

柴田雄一郎氏:じゃあアーティストってどんな考え方をしているのかと言うと、自分軸から物事の本質を問います。「他人がどう思うか」とか「顧客が欲しいから」じゃなくて「自分がどう思うか」を起点にしていて、基本的にはお金儲けから始まらないんですよね。

あとで「これを何枚売ったらいくら売れるだろうか」と考えるかもしれませんが。この間も美大に行って講義してきたんですけど、「なんでアートをやっているの?」と言ったら、だいたい口をそろえて言うのは「描きたいから」なんですよね。理屈なんてなくて、衝動的に描いちゃうということです。

それから前と同じ作品を何個も作ったら、クラフトの世界になっちゃうので、唯一無二の違うものを常に作り続ける。これがアーティストがやっていることなんですよね。このマインドは何かと言うと、洞察力・探究力を持って、内発的な動機で創造性・独創性を生み出していく。これがビジネスに必要になってきたと。

例えば私も高校から大学に行く時に「美大に行きたい」みたいなことを父親に言ったら、「絵描きになって食っていけると思うのか?」と言われたんですね。大半の親はそう言うと思います。

サラリーマンのお父さんに、突然息子が「絵描きになりたい」とか「ミュージシャンになりたい」って言ったら、「音楽家なんて食っていけると思うのか?」と言われると思うんですけども。「それでも絵を描きたい」「音楽を作りたい」と思ってそれを続ければアーティストなんですね。

同様に、起業すると言うと「そんなものが売れると思っているのか?」と頭の固いいろんな周りの経営者は言うと思います。

実践編でもお話ししますけど、人の家に泊まるAirbnbというサービスは立ち上げ当初は本当に大反対されたんですね。「人の家なんか誰も泊まりたいやついないじゃないか」「こんなに素敵なホテルがたくさんあるのに、誰が人の家に泊まるんですか?」と。ところが今大ブレイクしていますよね。

やはりみんながやっている「そうだよね。売れそうだよね」というものは競合もたくさんいるし、限界があるわけですよ。でも「そんな商品が売れると思っているのか?」と言われるものじゃないと、新しい価値は生まれないですよね。「それでも起業したい」と言ったら、これは起業家だと。スタートアップの概念はこれだと思うんですけど。

「儲かるから」ではなく「本当にやりたいから」が起点になる

ここで共通しているのは「経済合理性を超えた内発的動機」だと思うんですよ。つまり儲かるからやりたいのか、それとも「この商品を作ったら、こんな良くなるじゃないか」とか「この人がもっと楽になるじゃないか」とか、「もっと世界が楽しくなるじゃないか」。このワクワクですよね。

「儲かるから」じゃなくて「本当にやりたいから」というところが起点になる。これがアーティストが絵を描きたい、音楽をやりたいのと同じようなモチベーションだったりとか、起点になると思われるわけです。自分軸、自分ごととして創造性・独創性を発揮しているところを、企業のビジネスパーソンが起業する中で意識する必要があるんですね。

ここまでをまとめると、モノとかサービスが飽和しちゃった社会の中で新しい価値を生み出すためには、自分が本当に好きで没頭できるモノ・コトでないと、本当の価値は生み出せないと。これは私もいろんな新規事業の現場に立ち会ってきたんですけど、やはりかなりハードなんですね。商品自体を作るって新しい価値(を作ること)なので、普通の商品を普通に売るよりも、ものすごく大変なんです。

とすると、本気でやりたいとか、仲間が本当にワクワクして、本当に折れない仲間とじゃないと作れないわけです。そこでアーティストも起業家も自分軸、自分のやりたいことからやっていくことが大きな接点というか共通項になると。

これはマイクロソフトの創設者であるビル・ゲイツが言ったんですけども、「少なくとも一度は人に笑われるようなアイデアでなければ、独創的な発想とは言えない」と。

「そんなの無理だよ」とか「そんなこと誰も考えないじゃないか」ということを考えて発言して実行するわけですから、それは「え?」と思われるぐらいのものじゃないと、価値創造とは言えないんですよね。いろいろイノベーティブなことをやっている人は、やはり最初はすごく否定されることが非常に多いわけです。

本当に短い時間なのでざっくりまとめますけど、デザイン思考は他人・顧客の求めるもので、どうやって改善するか、頭で考えながら誰かのためにやる。正解を求めて、すでにあるものを適合させて、人のニーズを満たす正解を生み出すことがデザイン思考の考え方です。

新規事業は、1,000に3つぐらいの確率しか成功しない

アート思考は、自分が主人公になっていくということなんですね。物語には「ストーリー」と「ナラティブ」という2つがあるんです。ストーリーというのは、例えばイチロー選手の物語を読んで「イチロー選手のように有名な野球選手になりたい」と。

ナラティブというのは「私」なんですね。「私は小学校の時にお父さんとキャッチボールをして、その時の思い出がすごくあった。でもお父さんは亡くなった。あの時のお父さんとの思い出から私は野球選手になろうと思い、高校野球からプロになって大リーグに行きました」。これは「私が」と語っている自分の物語ですね。

自分が「Why(なぜだろう?)」と思ったことから妄想して、心で感じた本当にやりたい新しい正解を創造していく。正解を超えた未知の感動とか刺激を生み出すことが、いわゆるアート思考の考え方なんですね。

そういったアート思考を1つにくくって「アイデア」としましょう。じゃあ「アイデアってどうやって生み出すんですか?」と。私も含めてですけど、今までみなさんは事業とか仕事の中で「アイデアの生み出し方」なんて学んだことないですよね。実はアイデアを生み出すための思考の型があるんです。

コンサルじゃないですけど、最近もいろいろ新規事業の伴走をやっている中で出くわすことがあって。型を知らずにいわゆる新規事業を始めると、受け身を知らないのに道場破りに行くようなもので。「とにかく新規事業だ」とダーッと行ってみるんですけど、ことごとく投げ倒されるんですよね。

新規事業が生まれる成功確率は「千三つ」と言われています。1,000に3つぐらいの確率しかないと。新しいものを生み出す発想はいいんだけど、実現させる能力も必要になってくるし、大変なんですよね。

いいアイデアを生み出すために必要なこと

「どれだけいいアイデアか」と、それから「実現する力」があるんですけど、まずここではいいアイデアを生み出すために必要なことをいくつかお話しします。

まず重要なことは、多くの経験とか知識、引き出しがないとダメです。圧倒的に引き出しがないと新しいアイデアは生まれません。その生み出す方法を習慣化するんですね。そして実際に考えたアイデアを検証して研磨して、時にそれを忘れて蓄積、発酵させたりする。これを繰り返しやっています。

まずアイデアを生み出す方法の1つ目は、失敗の経験とか知識とか調査とかアセット、自分たちの持っているもの。これを全部自分の中の引き出しにしまっておいて結びつけます。これも方程式と全部一緒で新結合させます。

自分の持っているいろんな引き出しから妄想で結びつけて、論理的・多面的・批判的に考えて、これをぐるぐる回していきます。そしてさんざん考え抜いた挙げ句、ぼうっとしている時にひらめきが訪れてくると。

こう言ったことは自分の経験でもそうですし、いろんな本を読んでも書いてあります。多くの引き出し、アイデアの圧倒的なインプットが必要なので、日常に興味関心を向けて、とにかくメモを取る習慣をつける。これは必須条件だと思ってください。

『芸能人格付けチェック』で71連勝したGACKT氏

ちなみにちょっと話はずれますが、『芸能人格付けチェック』という番組をご覧になったことがあるかもしれないですけど、GACKTさんは71連勝ですね。

格付けは、安いバイオリンとストラディバリウス(3億円のバイオリン)で「どっちがストラディバリウスか」とか、A5ランクの黒毛和牛とコンビニで買った牛丼で「どっちが黒毛和牛か」みたいな話で、すごくシンプルなんですけど。GACKTさんがなぜ71連勝しているのかを調べてみたんですね。

『GACKT 超思考術』という本を読んだ時に書いてあったのは、「僕はワインを飲む時にでも、ただ味わうのではなく、いつ、どこで造られたのか、品種は何なのか、造り手の理念は、などさまざまな観点で愉しむ。そこに知る愉しさ(学び)がある」ということです。要するに積極的に学びを持っていて、学び癖があるんです。

「小さい事柄からたくさんの学びを得ている」。これが発明をする時にすごく重要なんですね。とにかく格付けに出ているのはそこそこのタレントさんなので、A5ランクの黒毛和牛ぐらいみんな食べているんですよ。でも、ただ食べて「おいしい」と言っているだけなんです。

そうじゃなくて「なぜおいしいか」なんですね。ただ味わうんじゃなくて、「どこで作られて品種は何なの?」という引き出しをちゃんと持って、しっかり自分の中にインプットすることによって、自分の中でファイリングされ、蓄積されていくんですね。それが結びつけるということなんです。

ちなみに、同じようにレオナルド・ダ・ヴィンチは1万ページにわたるノートを残しています。このノートは発明が書いてあるんじゃなくて、「なんでだろう?」と疑問に思ったことのメモ帳なんですね。ダ・ヴィンチが言うには、「みんな注意散漫に眺めて、聞くとはなしに聞いて、感じるとはなく触れ、味わうこともなく食べ、体を意識せずに動き、香りに気づくことなく呼吸し」と。

つまり、みんな「ただおいしい」「ただ楽しい」「ただおもしろい」で生きているんじゃないんですかと。「なんでおいしいのか」「何が楽しいのか」「何がおもしろいのか」をちゃんと自分で意識してメモすることで、記憶にとどめ、ファイリングできるんです。これが多くの経験の引き出しになり、アイデアの基礎になってきます。

気づきを定着化させる習慣術

私事なんですけども、僕も常にメモを取るようにしています。これはiPhoneのメモなんですが、思いついたら単語だけでもメモを書いて文章化してTwitterで流しています。これによっていろんな気づきとか思ったことを定着化させることを意識してやっています。

「じゃあ実際どうやったら会社の中でできるの?」とよく聞かれるので、例えばこういうことをやってもらっています。ある企業さんの中で習慣的に毎週やってもらっているんですけども、興味関心を共有化する。みんなで集合知にするために、トレンドレポートと言って、Twitter(現X)のトレンドで気になったワードを調べると。

ある日のトレンドを見ただけでも全部わからないですよね。「ポケモン化する」とか「保護猫ビフォーアフター展」ってどんなのだろうとか。「ツノ太郎」って何者だ、「魔法禁止フェス」ってどこで何をやっているんだみたいなことを興味関心を持って調べる。

それからもっとビジネスに寄った話だと、番組で紹介されて「おもしろい」「興味深い」と思ったらレポートをしてもらっています。『ワールドビジネスサテライト』とか『カンブリア宮殿』とか『ガイアの夜明け』。みんなこれをただ見ているだけなので何にも気が付かないんですけど。

私がサポートしている会社では週1回、番組とか新聞でもどれでもいいんですけど、気になったことやどこがおもしろいのか、どこがすごいのかを、みなさんが「これがおもしろかった」と発表しています。これが引き出しになっていくんですね。

つまり、いろんなことに興味を向けて、毎週メモを取って話すことによって、それがみんなの中でファイリングされて共有知になっていくということをやっています。

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