2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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ディープテック領域への投資などに注力するベンチャーキャピタルのBeyond Next Venturesが、ディープテック業界における多様性の推進と、女性参画の増加を目指して開催したイベント「多様性がつくる、ディープテックの未来」。新薬開発や特定疾患の治療などの医療分野で最前線を走るディープテックスタートアップで活躍する3人の女性が、キャリアにおける不安の乗り越え方などが語られました。
鈴木絵里子氏(以下、鈴木):参加者からご質問をいただいていますので、ぜひお話しできればと思います。ディープテックに初めて触れる方もいらっしゃるかもしれないですが、ぜひ気兼ねなく聞いていただければと思います。
スタートアップ環境で働く中で、家族の理解をどう得るか、また、そのバランスをどう工夫されているかというご質問をいただいています。多様なお答えがあっていいと思いますので、みなさまのご経験をシェアしていただけますでしょうか。岡田さんはどうですか?
岡田由佳氏(以下、岡田):私は、夫がものすごく多忙で、夫のキャリアを優先するかたちで私が勤務を抑えているところがあります。理解というよりは家庭の全体最適を考えて、お互いのやりたいこと、子どもから見た親の忙しさの影響を多面的に、夫婦で納得いくまで話し合いました。
私も目いっぱい仕事をしたいところはありますが、子どもの特徴や経済的な面など、いろいろと考え合わせて、夫には制約なく働いてもらう。一方の私は6時間勤務で、なるべく家にいる環境だけど、その中でマックスの成果を出す気持ちで働くというところに落ち着いています。
これは、いろいろな夫婦のかたちがあり、会社の方に聞くと逆のパターンもあるのかなと思います。業界によって忙しさも違うし、夫婦のありたいかたちや価値観も違うので。バランスが崩れてきたとか、「この1ヶ月は忙しいからあなたが抑えて」「自分は今これをやりたい」というような、状況の変化に応じたコミュニケーションは、かなりこまめに取るようにはしています。
ただ、バランスが完璧に取れて、いつも自己肯定感が高い状況はぜんぜん目指せていません。喧嘩もしょっちゅうしていますし、不平等感は拭えないまま走っているところもあります。本当は「理解のある夫と……」という感じでお話ししたかったんですけど(笑)、そういう感じにはならずですね。悩みながら都度調整をしているというのが正しいです。
鈴木:とても共感する内容で、みなさま本当に試行錯誤されているのかなと思います。徹底的にお話しされるとおっしゃっていましたが、話し合う時のコツは何かありますか? 論理的に話すのがいいのか、それとも気分が良い時に話すのがいいのか。小さなことでもいいんですが。
岡田:両方がパツパツの時はやるべきことに淡々と集中して、相手がパツっていない時に自分の言いたいことをワーっと言うようなかたちで、戦略を立てるようにしています。結婚生活の中で相手の性格とかタイミングを見極めながら、要望を通すにはどうしたらいいかを。例えば「ジムが好きだから、ジムに行った後に」とか「今週は忙しくなさそうだ」とか「二日酔いで頭が回っていないから、今だ」とかですね。
鈴木:(笑)。
岡田:そういうのは考えています。感情的になったら、夫婦ってどんどん落ちてしまう時期もあると思うので。そうではなく、上下がありながらも、あるべく平坦に近いかたちを保てるように工夫はしています。
鈴木:すごい。
岡田:解決しきっていない問題なので「一緒にがんばりましょう」という感じになってしまって、すみません(笑)。
鈴木:みなさま、ぜひ一緒にがんばりましょう。とても参考になります。松村さんもここについてはいかがですか?
松村雅代氏(以下、松村):私の場合は、パートナーがむしろ「起業したほうがいいんじゃないの?」というように応援はしてくれています。でも衝突はしょっちゅうあります(笑)。岡田さんの非常に戦略的なお話を聞いて「なるほど、そうやってやるといいのかな」と思ったんですけど。
私は感情を*ぶつけてしまうことがあって、「ガッシャ―ン!」「またやってしまった……」みたいなことになるんですけど(笑)。自分が悪いなと思ったらお互い謝るのは、1つのコツかなとは思っています。
子どもがいないので、そこらへんは自由度もあるのかなと思っていますけど、いろんな価値観があると思います。
鈴木:菅さんもいろんなことをバランスを取ってされていると思うんですけど、何かありますか?
菅愛子氏(以下、菅):私の場合は、「スタートアップに転職する」と言うとけっこう親が心配しまして。昔ながらの堅い親だったので「女の子は薬剤師免許を取って、長く働けばよろしい」みたいな考えで(笑)。「そういえば大学とかも勧められたな」と思ったりして。
せっかく製薬会社のようないわゆる大手に入ったのに「なんでスタートアップに行くの?」と言われるのは容易に想像できたので、2年間ぐらいは黙っていました(笑)。2年ぐらい経って、ちゃんと働いているという自負もあったので「転職してたんですよね、てへぺろ」みたいな感じで報告しました(笑)。満足しているかはあまり知らないんですけれども。
もちろん周りの調整は必要だと思うんですが、調整をすることも自分の責任だと思うので。調整できないからといって私たちの価値が否定されているわけでもないと思うので、できる中で自分のキャリアを実現していく。過度にネガティブになる必要もないのかなと思っています。
鈴木:ありがとうございます。とても冷静に、少し待たれて行動でお示しされるのもすごく参考になるなと思いました。
鈴木:最後にとても重要なご質問をいただいています。ディープテックだけではないと思うんですが、ダイナミックに変わっていく、挑戦されていく環境の中で「自信がなくなったことはありますか?」と。その乗り越え方をぜひ教えていただきたいということです。ここはメンタルのご専門の松村さんに、ぜひ教えていただければと思います。
松村:私もそういう経験はあります。特に留学から帰ってきて、「私、MBA取ったし」と、医療コンサルティングをやりたいと思ったんですけど。何も考えずに留学したものですから、医学的バックグラウンドがないとなかなか難しく、「留学までしたのに、何やってんだろう」という挫折がありましたね。
けっこう落ち込むこともありますが、打開するには、しっかり落ち込むのも1つかなと思います(笑)。さんざん落ち込んだ後に「でも、何もしていないのもなぁ」と情報を集め始めて、スタートアップに挑戦するというかたちで……打開したというか、そこでもいろいろぶつかってばかりだったんですけど。
止まったり動いたりを繰り返しながら、今に至るという感じです。けっこう凹むことはあって、今でも頻繁に凹んでおりますので(笑)。
鈴木:岡田さんはどうですか?
岡田:20代前半で商社に入った時、言うのも恥ずかしいぐらいなんですけど……その年に私の当時配属された部署では女性初の総合職(採用)があって、「絶対社長になるぞ」ぐらいのノリで思っていました。
中に入ってみると、悪く言うつもりはないんですが、当時はまだすごい男尊女卑が残っていて、セクハラやパワハラの嵐でした。今はすごく良くなっていると思います。
そこで5年ぐらい経って、「ここじゃないかもしれない」「ここじゃ上に行けないかもしれない」という「女性ならではの壁」を感じました。その後、別の会社に行って、そこはそこで激務で、3時間睡眠の夫と4時間睡眠の私で、どっちが家事をするかで毎日のように喧嘩していました。
それでまた別の会社に行って、今度は「キャリアダウンをしたら、私はもう上に行けないかもしれない」とか。行った環境、行った環境で壁にぶつかって、凹みまくりでしたね。20代はそういう感じでした。
それでも諦めたくないと思って「今度はこうやってみるのがいいかもしれない」「今度はこっちの環境に行ってみたらいいかもしれない」といろいろ挑戦した結果、30代でけっこうバランスが取れるようになってきたかなと思います。
その時は情報が少ないし、人生経験も少ないので、「やってみないとわからないのが当たり前だ」と、最近になってやっと腹落ちしたところです。最大限情報を集めて、「今はこれがいい」と自分で納得した選択であれば、その結果壁があったり「うまくいっていない」と自分で思ったり人から見えたとしても、すごく大きな糧になると感じています。
先ほど松村さんが「動いたり止まったり」とおっしゃっていましたが、同じような感じだと思います。動いて止まって、どっちの方向に動くのかまた考えて動いてを繰り返していけば、それはもう十分挑戦になっていると思います。諦めてしまって人生が「ほげー……」というような感じにはならないので、ぜんぜん大丈夫だと思います。
鈴木:菅さんもいかがですか?
菅:私も日々自信がなくなっていると言うと変ですけど(笑)、いろいろ壁にぶち当たっています。
大学を卒業して製薬会社に入りました。もしかしたら、製薬会社の研究職は理系の中ではキラキラした感じもあるかもしれないんですけど、入ってみると優秀な人はいくらでもいるし、別に自分が特別だとはとてもじゃないけど思えない環境でした。そういうのは鼻をへし折られた経験になるのかもしれないです。
今も決して自信があってこの職に就いているわけでもないんですけど、人から見える自信と自分が感じている自信って、ちょっと違うかなと思っています。ちょっと凹んだ時には、自分の能力を発揮しやすい環境は「ここじゃないどこかにあるかもしれない」と思ってみたほうが、自分のメンタルの安定にはいいのかなと思ったりして。
その上で、今の所で最善を尽くす。そして次につながるように自分を育てていくことが、日々やっているところになります。
鈴木:ありがとうございます。最後の質問がもしかしたらテーマ的にもフィットしていたかもしれませんが、みなさまがインポスターシンドローム(自分の能力や実績を認められない状態)と言われるようなチャレンジにも立ち向かわれているんだなと、お話をあらためてお聞きすることができました。
鈴木:私個人の話になってしまって恐縮ですが、こういう情報交換の場とか「1人じゃない、みんながんばってる」って思えることはすごく大事だと思って、インパクト投資や女性キャピタリストのグループを作ったりしてきました。
ですので、今日のようなイベントに参加してくださったみなさまにもすごく感謝いたしますし、今後もBeyond Next Venturesさまがこういうイベントをされるのではないかと思いますので、興味のある方はぜひ見ていていただければと思います。
最後に、今日のすばらしいご登壇者の方々から一言ずついただければと思います。伝えたいことや、ディープテックに興味がある方に「こうしたほうがいいよ」というアドバイスでもいいんですが、みなさまが今日気づいたことや、みなさまにとってのテイクアウェイがあればシェアしていただくのもいいかなと思いますので。では、岡田さんからお願いします。
岡田:お伝えしたいこととしては、私は複数社を経験しているんですけど、繰り返し申し上げているとおり、プロダクトに一番ワクワクしているのは今だろうなと思っています。技術が業界を変えていくとか、今の当たり前にある状況を変えていく、人間社会の生活を変えていくような感覚は、弊社ですごく感じています。
他社でもそのように感じるプロダクトがいっぱい眠っていると思うので、ぜひワクワクするようなプロダクトがある所を探してみていただけたらなと思います。
鈴木:ありがとうございます。松村さんも一言お願いします。
松村:日本だと理系・文系のようなかたちで「私はちょっと理系の分野は……」となってしまう場合もあると思うんですけど、後からついてくるものがすごくあると思いますので、「おもしろいな」とか「これやってみたい」という気持ちがあったら、ご自分の気持ちに正直になって、そこを大事にするといいんじゃないかと思います。
鈴木:ありがとうございます。最後に菅さん、一言お願いします。
菅:私もみなさまからいろんな働き方や考え方、可能性を聞けて、またワクワクしてきました。自分と仕事の距離感は人それぞれで、今はそういった多様な距離感が認められる状況があると思うので、願わくばそういうものが、ディープテックやスタートアップに向けられるとすごくうれしいなと思いました。
鈴木:ありがとうございます。では時間になりましたので、今日のイベントを終了したいと思います。参加者のみなさま、Beyond Next Venturesさま、そして登壇者のみなさま、ありがとうございました。
松村、岡田、菅:ありがとうございました。
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