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スタートアップのメンタリング(全6記事)

ヒットの源泉は、ユーザーの「諦め」や「ちょっと面倒」の解消 気持ちの「下げ」を見つける、モチベーショングラフの活用法

中小ベンチャー企業での社外No.2、パートナーCFO®を広く一般に普及することを目的とする、一般社団法人日本パートナーCFO協会が主催するイベントに、ベストセラー『起業の科学』の著者で、スタートアップアドバイザーアカデミーを創設した田所雅之氏が登壇。「スタートアップのメンタリング」をテーマに、スタートアップ活性化のボトルネックや、「ちょっと気分が下がったところ」を解消したニトリのヒット商品などが語られました。

身体のメンテナンスの重要性

質問者4:初歩的な質問になってしまうかもしれませんが、田所さんはその熱い熱量を維持するための気分転換とか、エネルギーをチャージするためにどんなことをされているのでしょうか。私も熱量を高めるためにアドバイスをいただけたらありがたいです。

田所雅之氏(以下、田所):基本的に僕は生きがいというフレームワークを信じています。自分が得意で、かつ、人から必要とされて、かつ自分がやりたいと思い、かつ、ちゃんと儲かること。自分がやっていることはまさにそこかなと思っているので、メンタル的なストレスはまったくないです。

ただ、僕も年間150回くらい講演をしたり、自分で会社もやっているので20名くらいいる社員のマネジメントをしたり、本も2冊書いているので、けっこうタイムマネジメントは大変です。このあとも行くんですけど、サウナに行ったりジムに行ったりとか、そういう身体のメンテナンスはすごくやっています。

人間は身体的に不調になると、何事も暗く見えてしまうところがあると思うんですね。身体とマインドは密接に関わっていると僕は思うので、健康でいることはすごく意識しています。

自分という「強烈なN1」をターゲットした効果

田所:僕はスタートアップと新規事業が、次のいい世界を作ると真剣に信じているんですね。あまりプロフィールについて話さなかったんですけど、僕は12年前にシリコンバレーで起業して大失敗しています。

なぜか。『起業の科学』という本がなかったからだと本気で思っています。12年前に失敗して3,000万円くらい金を失って、しかも共同者が金を持って夜逃げするみたいなことが起きて、人生の奈落の底に突き落とされたんですよ。

スタートアップのスの字も知らなかったんですね。いろんな人にアドバイスを求め、メンターからも聞いたんですけど、今考えるとそのメンターの方々もちゃんと整理されていなかった。でも一部すごい人もいました。

僕はシリコンバレーで4年間ほどベンチャーキャピタルでベンチャーパートナーをやったんですけど、例えばマネーフォワードさんとかメタップスさんとか、ZUUとかジーニーとかのプレIPOのディールもやっていたんですね。

僕はスタートアップが次の世界を作るという信念があったんですけど、その時に気づいたのが、起業家の方で、2回目の起業じゃない方々はけっこう適当にやっているんですよね。日本だけではなく、東南アジアも見たし、アメリカも見ましたし、ヨーロッパも見たんですけど。

シリコンバレーがすごいかというと、別にそんなに……例えばYコンビネーター(起業家養成スクール)みたいなところでも、バンバン潰れていくんですね。

なんでだろうと思ったら、結局「みんな知らないだけ」というのがけっこうあったんですよね。先ほどのうまいラーメンができる前に、ラーメン屋を作ってしまう問題みたいな。平気でそんなことをやってしまうんですよ。

どうにか防げる失敗を減らしたいという思いがあって、『起業の科学』を書いたんですけど、起業しながら書いたので、自分のために書いたんですよね。一番のペルソナは自分のために作ったというのがあるんですよ。

なので、強烈なN1として自分があった。自分の課題解決のために書いたら、他にもそういう課題を抱えている方がいっぱいいて、本がわりと売れました。

スタートアップ活性化のボトルネック

田所:メンター、アドバイザーの課題としては、ピッチのクオリティがめっちゃ低いんですね。4ヶ月間プログラムなどで、デモデーとかピッチの審査員をやったことも数多くあるんですけど、「え、この程度なのか」と思うことがけっこうあります。

メンターする側が適当にやってしまったり、ぜんぜんわかっていない方が非常に多くて、パートナーになれていないんですよ。スタートアップは盛り上がっているんですけど、ここがすごくボトルネックになると思ったんです。

なので、スタートアップアドバイザーアカデミーという、起業の右腕になる、参謀になる存在。起業家のノウハウはあっても、参謀になるノウハウはこれまで誰も体系化してこなかったので、そこを僕は重要だと思って作ったんですね。

重要なんだけれどもまだ誰も解決していない課題を、自分のケイパビリティを使って解くというところにパッションがあるのかなと思っていて、その一環としてやるということですかね。回答になっているかどうかわからないですけれども。

質問者4:ありがとうございます。

田所:スタートアップアドバイザーアカデミーも9月からやっていますので、ぜひご興味があれば。(イベントを主催した日本パートナーCFO協会代表理事の)高森(厚太郎)さんも次回また講師やっていだきますんで。

高森厚太郎氏(以下、高森):前回講師として参加させてもらって、けっこうパートナーCFO養成塾とノリは似ているかなと思いました。もう少し起業のほうに寄っているけど、たぶんみなさんと親和性が高いと思います。

人の軽い「落胆」を見つけるモチベーショングラフ

田所:次の質問ですね。「顧客ペインの特定、ペルソナレベル」。

質問者1:顧客をどんどん掘っていって、この年齢の人のこのペインを助けるという話と、スケールさせるところが、イマイチしっくりきていないところが僕自身あります。

田所:よく言うのは、N1をやってしまうと、ニッチ化するのではないかということですよね。

質問者1:そうです。そうです。

田所:そもそも顧客解像度って何かという問いが大事だと思うんですよね。

僕は(スライドのように)、顧客解像度は「定量・定性」「思考・行動」だと思っています。

「定性の思考」だとインタビュー、「定性の行動」だと観察、「定量の思考」だとアンケート、「定量の行動」としてはログを取ることかなと思っていて、大事なことはこれらを複合的に理解することだと思っています。

どういうことかと言うと、僕が使うフレームワークに、モチベーショングラフがあるんですけど、顧客の現状の負ですよね。

イノベーションは発明にはなくて、「顧客が諦めていることにある」と、ネスレの前社長の高岡(浩三)さんがおっしゃっていて、僕はすごく腹落ちしたんですよ。

例えば、(スライドのように)カスタマーにモチベーショングラフを書いてもらうんですね。

「今こういう行動がありますが、気分はどうですか。上がりますか? 下がりますか?」と聞いた時に、人間ってズコンと気分が下がったことに対しては手当をするんですよ。

ただ、ちょっと下がったところは放置しているんですね。ここがすごく大事で。顧客の解像度は、前提として定義を見つけることかもしれないんですけど、そこだけじゃなく、「まあこんなもんか」と諦めていることに、頭の中で電気を光らせることが大事なのかなと思っています。それがまさに行動と思考を両方理解することです。

「ちょっと気分が下がったところ」を解消したニトリのヒット商品

田所先ほどのDFreeもそうですよ。オムツをするのは嫌だけど、「まあこんなもんか」と。(グラフはちょっと下がっているけど)誰もフォーカスしてなかった下がったところに、対策をしたのかなと思っています。

(スライドの)ユーザーのこの時間軸。(クレイトン・)クリステンセンの『ジョブ理論』ではないですけど、すべてのユーザーは時間軸の中で動いていて、機能価値プラス、感情価値や情緒価値が非常に大事ですね。そこのドライバーを考えてきたのかなと思います。

余談かもしれませんが、去年ニトリで発売されて一番売れた商品、何か知っていますか? 「スマホ毛布」です。これがめちゃめちゃ売れている。

質問者1:ああ。

田所:「冬布団に入ってスマホを操作すると手が寒い問題」です。誰もこれをラベル化していなかったんですね。でも、手が寒いことで、モチベーショングラフがちょっと下がっているんですよ。めちゃめちゃ下がっていると湯たんぽ的なものかもしれないですけど、ちょっと下がっているところを、ちょっと上げたという話です。

毛布を被ってスマホを見ると目が悪くなるし、手が出ると寒いみたいな、ちょっとした負ですよね。ユーザーの中でピカッと頭に電気が光ったのかなと思います。虫の眼ではないですけど、常にこういうことを見つけ続けることかなと思います。

これは別にニッチではなく、この部分にお金を払える人がいて、これがどんどんよくなっていくとマスアダプションできると思うんですよ。ここをファンクションとして捉えていくのが、非常に大事だと思います。

ユーザーの諦めを言語化する

もう1つの事例として、去年の日経トレンディ大賞の「コンビニジム」ですね。チョコザップというのが東京でもできてきています。僕はエニタイムフィットネスに行っていて、エニタイムもいいんですが、エニタイムの嫌なところはワークアウト前に着替えることです。

エニタイムもジョイフィットもシャワーもできるのでかなり便利なんですけど、「着替える」という1つのヨッコラショ感ですよね。この行動があることで、「ちょっと面倒くさいよね」みたいなことが起きるんですよ。でも、こんなことは誰も言語化していなかった。

そこに「チョコザップ」。ライザップがやったんですけど、(スライドのモチベーショングラフのように)そんなめちゃめちゃ上がっていないですよね。2,980円で「ちょっとうれしいわ」なんですよ。

私服でトレーニングしている絵がありますけど、「こういうことはできない」とユーザーは諦めていたんですよね。諦めているということは言語化していないということです。

先ほどの落合さんの話ではないですけど、言語化しておらずデータ化されていないので、ChatGPTでは出てきません。ちょうどこの前決算資料が出ていましたが、これがライザップの中で一番伸びているんですね。めっちゃスケールしている。

かつ、チョコザップのブランドとしてここ(コンビニジム)の第一想起を取って、魚の眼でやっていったら勝ち抜けるかもしれないと思うんですよね。

なので、大事なことは、虫の眼だけではなく、魚の眼と他の鳥の眼などを掛け合わせることだと思うんですよね。魚の眼だけだとひたすらオタクになってしまうので。

僕は5つの眼とは視点を狭めてから広げることだと言ったんですけど、そういった複眼的な視点を常に持つことが大事だと思います。

質問者1:ああ、よくわかりました。なるほど。狭めることだけの思考になっていました。ありがとうございます。

田所:ありがとうございます。

高森:そろそろお時間ですね。田所さんの3,600枚のスライドから選りすぐりのスライドと、他の人がどういうメンタリングをしているかもなかなか見る機会がないので、非常に貴重なものを公開してもらったなと思っています。みなさん、田所さんに拍手をお願いします。

(一同拍手)

田所さん、本日はどうもありがとうございました。

田所;ありがとうございました。

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