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スタートアップのメンタリング(全6記事)

「ディープテック増」だけではスタートアップの振興は片手落ち 「多産多死」の起業・新規事業を活性化するために必要なこと

中小ベンチャー企業での社外No.2、パートナーCFO®を広く一般に普及することを目的とする、一般社団法人日本パートナーCFO協会が主催するイベントに、ベストセラー『起業の科学』の著者で、スタートアップアドバイザーアカデミーを創設した田所雅之氏が登壇。「スタートアップのメンタリング」をテーマに、田所氏の考える、スタートアップ・新規事業における一番の要諦や、メンタリングとティーチングの違いなどが語られました。

メンタリングやアドバイスの型化

田所雅之氏(以下、田所):ご紹介にあずかりました田所と申します。今日はスタートアップメンタリングで1時間ほどお話しします。人数も少ないのでインタラクティブに、ぜひみなさんの個別の質問なども、うかがいながらやりたいなと思っています。

僕は2022年から、(主催の日本パートナーCFO協会代表理事の)高森(厚太郎)さんにも講師をやっていただいている、スタートアップアドバイザーアカデミーを始めて、今batch3で53名ほどのベンチャーキャピタルの方やスタートアップCxOの方、あとはいわゆる事業会社や新規事業を支援されている方々の養成を行っています。

実は2023年12月に『起業参謀』という本を出す予定ですが、これまでメンタリングやアドバイスはぜんぜん型化されていなかったところがありました。

大前研一さんが50年近く前の1975年に書かれた『企業参謀』。彼はマッキンゼー(・アンド・カンパニー)の初期のアジア・ディレクターかつ日本の社長でした。ある意味、パートナーCFOⓇのみなさんにとっても非常に重要な立場(の人で)、大前さんがその(パートナーCFOの)市民権を与えたと思っていて。

大前さんのおかげで、BCG(ボストン コンサルティング グループ)やベイン(・アンド・カンパニー)の方々が今世の中で活躍していると思っています。

ただ、僕の領域、専門は企てるほうの「企業」ではなく、まさに起こすほうの「起業」ですね。『起業の科学』という本を書かせていただいて、累計20万部ほど売れているんですが、あれはどちらかと言うと、本当に実行者向けに作りました。

スタートアップを見てきた田所氏の課題意識

一方で、みなさんご存じかどうかわからないですが、岸田政権のもと、5年間でスタートアップの数を10倍に増やすという「スタートアップ育成5か年計画」が打ち出され、2年目に入っています。

2022年の投資額は、ユーザーベースが作ったデータベースによるとイニシャルで8,700億円です。これはけっこう隔世の感があって、僕がスタートアップ業界に入った2010年頃はリーマン・ショックの直後だったので、だいたい600億円。15Xになりました。

さらにアメリカや中国のピークレベルですね。このクオーターだとアメリカは1.5兆円だったので、かなり下がってはいます。良し悪しはあると思うんですが、だいたい5兆円以上と。

僕もこれまで数千社のスタートアップを見たり、数百事業、数千事業をメンタリングしてきましたが、僕の課題意識としては、残念ながら量が増えても質が上がってないという問題があります。量に伴って質も上がるかどうかが、非常に大事かなと思っています。

そのミッシングピース(社内の既存事業をグロースさせる上で必要な技術やビジネスモデル)として、高森さんはパートナーCFOという軸で、僕はアドバイザーという軸で、課題意識を持ってアカデミーをやっているところです。

実は僕、スタートアップアドバイザーマニュアルをスライドで3,600枚作ったんですね。これを全部話すと25時間分もあるんですよ。

たぶんスタートアップメンタリング、アドバイザーを世界で一番体系化した資料が、今手元にあるんです。今日はこの中でも一番重要な「そもそもメンタリングとは何ぞや?」をロジカルに説明した後に、実際に僕がメンタリングしている演習をなぞりながら説明したいと思います。

その手前で、みなさんに実際に起業家のピッチを見ていただいて、自分だったらどう整理をするかを追体験していただこうと思っています。高森さんから「みなさんの地頭がいい」という前提を聞いていますので、1時間弱ですがそのあたりをやりたいなと思っています。

スタートアップへのメンタリングで大切なこと

最初にみなさんに聞きたいと思います。どういうお仕事をされていて、スタートアップやメンタリングの経験はどれぐらいあるか、どういった課題があるかを、チャット欄に入れていただきたいんですが。特に課題ですね。やっていく中でどのあたりを課題に思っているか。

はい、ありがとうございます。「動きが鈍い先方をどうアクセラレート(加速する)していくか」。なるほど。これはなかなか難しいところがありますね。レベルによるところもあったり。

他の方はいかがですかね? 「モチベーション」。これは誰のモチベーションですか? スタートアップ側のモチベーションですか? 自分自身のモチベーションですか?

参加者1:これは、相手のことを想定しています。

田所:なるほど。内発的動機がない人たちは、そもそも僕は起業すべきじゃないと思っています。それなりのアプローチの仕方はあるんですけど、これはメンタリングの手前の、わりとティーチングやコーチングに近い内容かもしれないですね。

参加者1:ありがとうございます。

田所:みなさん、監査役やパートナーCFOで、ある程度課題やアジェンダが決まった中でやられているようですね。

当然、監査などでちゃんとガバナンスを効かせるのは非常に大事だと思うんです。ただスタートアップや新規事業を考えた時に、当然ファイナンスやガバナンスの側面は大事ですが、やはり大切なのは全体最適だと思うんですよ。

バリュエーションが付くとか売上が上がるのかは、基本的に結果です。何の結果かと言うと、これぐらいの数のお客さんがいて、お客さん一人ひとりがエンゲージしていて売上が上がっていると。なぜ売上が上がるかと言うと、当然そこにはプロダクトやプロセスがあるわけです。

なぜこのプロダクト、プロセスができるかと言うと、プロダクトを作ることができたり、インターナルプロセスでセールスができたり、カスタマーサクセスができたりすると。でもなぜそれができるかと言うと、当然対応できる人がいたり、人を採用できていたりするから。

なぜその人を採用する意思決定をするかと言うと、当然そこに戦略があるからですよね。なぜその戦略をやるかと言うと、解くべき課題があって、現状とビジョンが達成された世界の間にギャップがあるからです。

(ロバート・スティーヴン・)キャプランたちが作ったバランス・スコアカードでいえば、いわゆるファイナンスのような結果指標だと思っています。

スタートアップ・新規事業における一番の要諦

僕は「トンカチしか持っていない人というのは釘しか見えない」と表現するんですが、メンターやアドバイザーとしてみなさんがどこを目指しているかもあると思います。立てた問いに対して答えるだけだったら、ChatGPT-4でできてしまう。100点満点に対して99点の解答を出すことはできる。

やはり全体最適が大事。先ほど大前研一さんの話もあったんですが、僕が『起業参謀』を書こうと思った理由はこれです。スタートアップ、新規事業における一番の要諦って、実はフェーズです。

僕は『起業の科学』の中で「プロダクトマーケットフィット(顧客を満足される最適なプロダクトを最適な市場に提供している状態)」という概念を説明しています。その前後においてやるべきことがめちゃめちゃ変わります。

僕はMBAの教授もやっていますが、MBAだと、基本的にターンアラウンドやPPM、プロダクトごとのトータルマネジメントのような感じで、市場成長率を縦軸、市場シェア率を横軸で整理しますが、残念ながら、事業会社そのもののフェーズについてはそんなに考えないんですよね。

でもスタートアップって、0→1、1→10、10→100のフェーズがあって、それぞれにおいて、前提条件やコンテクスト(状況)がぜんぜん違うので、そこを踏まえた上でやっていかないといけない。(そうしないと)プレマチュア・スケーリングといって時期尚早の拡大になってしまうんですよ。

スタートアップメンタリング、アドバイスに必要なことは、文法として、縦軸にヒト・モノ・カネ戦略やオペレーションだけではなくて、横軸としてのフェーズです。『起業の科学』でも紹介したんですが、CPF、PSF、PMF、スケールという感じで、そこをメッシュ(網目)で理解していくのが非常に大事かなと思っています。

もし自分のうまいラーメンができる前に、ラーメンのフランチャイズ展開しかできない人に相談に行ったら、まずいラーメンの状態で横展開してしまう。そうしたら、ひたすらまずいという評価が食べログに書き込まれてしまって、もうボツになっちゃいますよね。

冗談みたいな話ですけど、こういうことがめちゃめちゃ行われているんですよ。スタートアップにはフェーズ感が非常に大事です。

「多産多死」のスタートアップを活性化するために必要なこと

では、さっそく始めたいと思います。「スタートアップ育成5か年計画」を見られた方も多いと思いますが、政府は1番目にディープテック(革新的な技術)的な話をしています。

日本政府は、モデルナとファイザーはワクチンを作れたけれど、国産ワクチンが作れなかったという課題意識がすごく高いんです。わりとディープテック寄りの話が多いんですが、一方でやはり、ネットワークや育成人材が重要な論点になっていると思います。

歩留まりとして(スライドの)これぐらいかなと思うんですが、INITIALのレポートを見ると、スタートアップのIPOはだいたい60社ぐらいなんですよ。IPO全体で見ると100社です。ただスタートアップではない、コメダ珈琲さんとかも上場しています。

僕の見立てだとたぶん(スライドの)こんな感じかなと思うんですね。

要はプレシード、シードとあって、シードだと1,200社ぐらい調達していて、シリーズになるとプレスリリースが出ているので400社ぐらいです。

ただ、やはり歩留まりが非常に良くない。しょうがないんですが、スタートアップってけっこう多産多死で、これが10倍に増えたとしても、本当に活性化するかどうかは疑問かなと思っています。

僕の課題意識では、まさに起業参謀としてメンタリングやアドバイスを行う人材が非常に大事じゃないかなと思っています。

メンタリングとティーチングの違い

では、あらためて「メンタリングとは何ぞや?」というところです。みなさんは何だと思います? 「メンタリングは何か?」ということを、それぞれチャットに書き込んでもらえますか?

「解像度を上げる」「温度感を上げる」は、いいですね。僕は「モメンタム(勢い)」とも言いますけどね。「成長できるように伴走する」「温度感」。はい、ありがとうございます。

僕もこれまで思いつかなかったんですけど、「温度感」という表現は確かにいいかもしれないです。モメンタム(勢い)というか「モチベーション」という言葉もあったんですが、話していくとある意味霧が晴れて、前に進めるような気分になることかなと思っています。

ティーチングとメンタリングの違いは、「他人が問いを立てて、答えは自分が出す」ことかなと思っています。そういった意味で、メンティーのレベルもあるんですが、明らかに社会人経験や事業経験がまったくない人は、そもそも守破離の「守」の部分がない。

僕、2022年にとある企業からお願いされて、高専5校で19歳や20歳の方々のメンタリングをやったんですが、明らかに知見が低すぎたので、ほぼティーチングでした。他人が答えも出してあげないと仮説すら立てられない状況だと、なかなかメンタリングは難しいのかなと思います。

ただ新規事業などのメンタリングで大事なことは、やはり事業のオーナーシップだと思うんですよ。当然メンター・アドバイス側は、事業のオーナーシップは持てないですよね。そうなった時に、あくまで伴走してあげて、その上で成果を上げることが大事かなと思います。

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