2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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司会者:このStartup JAPAN EXPO、折り返しとなっています。この時間は「スタートアップ冬の時代の上場のリアル」と題しまして、note株式会社取締役CFO、鹿島幸裕さんによる講義です。鹿島さん、よろしくお願いします。みなさま拍手でお迎えください。
(会場拍手)
鹿島幸裕氏(以下、鹿島):よろしくお願いします。note株式会社でCFOをしております鹿島と申します。今日はお集まりいただきありがとうございます。オンライン参加の方もいると思うんですけれども、私も今日ビッグサイトに来させていただいて、非常に会場が盛り上がっていて、たくさんの人がいるなと感じて、コロナ前の雰囲気がすごく戻ってきたなと興奮しております。
今日はStartup JAPAN EXPOということで、昨年、当社note株式会社がIPOをしたんですけれども、短い時間ではありますが、その経験を共有させていただければと思いますので、よろしくお願いいたします。それではさっそく進めさせていただきます。
今日のテーマが「スタートアップ冬の時代の上場のリアル」ということで、なかなかタイトルは刺激的です。昨年ぐらいから「スタートアップ冬の時代」と言われておりまして、noteも去年上場して、マーケットがよくない中で、どういうことを考えてIPOを決断したのかを中心にお話しできればと思います。
まず、私の簡単な紹介からです。私は今CFOですけれども、典型的なファイナンスのバックグラウンドというわけではなくて、ここに書いてあるように、大学を卒業して最初は外務省に入りました。いわゆる官僚と言われるもので、まったくファイナンスと関係ないスタートです。
そのあとアメリカのスタンフォード大学にMBA留学しまして、戦略コンサルに行って、あとカカクコムというIT企業で事業開発や経営企画などをやっていました。ここまではファイナンスとは関係ないキャリアで、どちらかというと事業面をやっていた感じです。
経営企画くらいから徐々にミドル的なところに寄ってきて、カカクコムのあとに投資ファンドが投資をしている美容室チェーンのCFOとして参画して、そこでCFOとしてのキャリアが始まっています。noteは2018年にジョインしたので、だいたい5年くらいが経ちますね。
鹿島:今日のテーマであるIPOですけれども、こちら(スライドの)左側が2022年の12月21日、年末にIPOさせていただいた時の写真です。私的にはある意味話題になったIPOかなと思っています。ご存じの方もいると思うんですけど、いわゆるダウンラウンド上場ということで、良くも悪くも話題になりました。
ダウンラウンドとは、直近の未上場での資金調達ラウンドでの企業価値、時価総額から下げてのIPOですけれども、その中でnoteが注目されました。実は去年の12月ってIPOする会社さんが多かったんですけれども、note以外にもダウンラウンドのIPOがすごく多くて、その中でも象徴的な感じだったので、良くも悪くも話題にしていただいたのかなと思っております。
(スライドの)右側に載せている、まさに私がnoteに投稿した、IPOの時の想いを書いた記事があります。そこになぜIPOしたのかについても綴っているので、よろしければご覧いただければと幸いです。
余談ですけれども、今、私が働いているnoteのプラットフォームでは、私みたいなCFOの方とか、経営者の方とか、いろんな投資家の方々も記事を書いています。スタートアップのいろんな知見や情報がたくさん集まっていますので、いろんな会社さんのものを確認いただくと、今日はスタートアップ関係者の方が多いかもしれませんが、非常に参考になるのかなと思っています。
鹿島:本題の「冬の時代のIPOのリアル」に入ります。まず外部環境から整理から。これ(スライドの折れ線グラフ)は株式指数ですね。日経平均とマザーズ指数と、あとその時のマクロ経済環境としてアメリカの政策金利をプロットしたものです。青が日経平均、赤がマザーズ指数でグロース企業の株式指数ですね。そこから黄色がアメリカの政策金利で、2021年の11月を1とした場合の動きをプロットしています。
これを見ていただくと、2021年の年末ぐらいから赤が下がり始めています。赤はグロース市場で、2021年の12月は、上場社数もメチャクチャ多いし、上場する企業も時価総額が高かったり、調達金額も大きかったりでIPOがすごく盛り上がった月でした。
一方で、株式相場は12月くらいから少し下がり始めて、公募割れする企業も出てきていて、年明けからこの赤がさらに下がり始めて、という状況だったかなと思います。
アメリカの政策金利が実際上がり始めたのは3月でしたが、インフレがかなり加速しているということで、もう年明けくらいから金利が近く上がるんじゃないかと言われていたので、どんどん株価が下がってきていた。なので2022年は、1年を通して株式相場が非常に軟調な年でした。
2022年は他にも2月にウクライナ侵攻があって、そこでもいろいろ原油高になったり、世界情勢が不安になったりで、政治面からも株式相場には逆風の1年でした。
鹿島:こういった外部環境を前提にして、noteがどういうスケジュールで何をしたかという整理がこちら(スライド)です。私がnoteに入社したのが2018年の9月、上場したのが2022年の末なので、4年くらいあります。
こちらはあくまでIPOに絞ったタイムスケジュールです。入社してだいたい半年経った頃、2019年の春頃に、主幹事証券会社を選定しました。IPOは主幹事証券会社を選定するのがまず準備への第一歩ですが、当社の場合も主幹事をここで選んで、IPOに向かおうという意思決定をしております。
結果的にIPOを申請するのは2022年の夏なので、そこから3年くらいあるんですけれども、だいたい入社した2018年から2021年までは、コロナとかで一時的にマーケットが下がったりはした時期はあるのですが、基本的には株式相場がどんどん上がっていって、コロナ禍でも金融緩和等があって株式相場が上昇していきました。
また、当社を含むなオンラインサービス全般の傾向として、コロナ禍で人々が外出できなかったりして、オンラインでの可処分時間が増えてくるので、かなり追い風になっていた。そういう時代背景があって、スタートアップのIPO市場もかなり活況を呈していました。
鹿島:その間に私がやっていたことというと、まず上場はまだまだ先ですけれども、投資家とは頻繁に会っていました。それは資金調達する目的ももちろんありますし、あとは上場後は長いお付き合いになるので、有力な投資家さんには、上場の1年前、2年前とかから会って対話をして、上場した際に注目していただけるよう、期待値を持っていろいろコミュニケーションをしていました。
この機関投資家との対話でいうと、この時期すごくマーケットが勢いがよかったので、まだ上場していないのに、様々な機関投資家の方から当社へのアプローチがありました。クロスオーバー投資家というんですけれども、上場株にも投資するし、未上場企業にも投資するような海外の機関投資家から、「話をしたい」とアプローチをしていただくことが多くて。
いろんな国……アメリカとかヨーロッパとかアジアの投資家さん、いろんな属性の方がいらっしゃったんですけれども、実際に会って、そこで「上場したらまた会いましょう」という方もいらっしゃいますし、「むしろ今投資したい」みたいな人もいる。それくらいやはり上場の株式市場がすごく好調でグロース株のValuationが高いので、未上場企業の段階から早く投資をしたい投資家さんが非常に多かった時代でもあります。
ある意味イケイケの環境があって、それが先ほど申しあげたように、2022年になると一変した状況でした。私も2022年の上場に向けて、水面下で準備を進めていましたので、去年1年、株式マーケットを睨みながら、自分たちがIPOする時にどういう市場になっているのかなとか、市場が少しでも上向いてくれとか。マーケットは、アメリカの金融政策で左右される要素が大きいので、去年1年間は毎回アメリカの金融政策が決まる会合とかを見て、どうなるかなと個人的にハラハラしながら見ておりました。
結論、マザーズ指数を見てもわかるように、去年1年間市況は上向かず、冬の時代と呼ばれました。今も足元、4月までグラフをプロットしているんですけれども、マザーズ指数を見ると冬の時代は継続している状況です。
鹿島:この状況で、2021年までにスタートアップの理想のIPOとされていたものと、冬の時代のIPOでディールの内容に変化がみられました。2021年までの理想のIPOが(スライドの)左側。去年の冬の時代のIPOが右側で、CFO目線なのでファイナンスの話になるんですけれども、対比したものがこちら(次のスライド)です。
2021年までの市況がいい時のIPOについて、簡単に先に説明します。まず「ディールサイズ」。IPOでどれだけ既存株主が株を売り出したりだとか、発行体が新規発行するかという、これがIPOのディールサイズです。2021年までは100億円以上のディールサイズ、大型のIPOが多くみられ、できるだけ多くの株を株式市場に供給して、たくさんの投資家に入ってもらおうと。
そして次の「投資家層」の項目に移ると、こうした大きなディールサイズをもとに、海外機関投資家をどんどん巻き込んでいきたいなというムーブメントがありました。
海外機関投資家を入れることの重要性については、今、東京証券取引所の取引高のマジョリティ、7割くらいを海外投資家が占めているので。スタートアップが上場して、そのあとの株価形成を良好にしていくためには、海外機関投資家に注目してもらって、株を持ってもらって成長するのが、その後の成長にとって重要なことの一つなので、こういったディールが志向されました。
鹿島:そして、「エクイティストーリー」。投資家に対して自社のどのような点、ストーリーを訴求するかで、2021年までは成長性が非常に重視されていました。売上のトップラインの成長をどんどん加速させていって、黒字を小さく出すのではなくて、多少赤字でも構わない、むしろ赤字を掘って成長性を優先させてくれという投資家からのニーズもあった。
そういう投資家の意見も多かったですし、それを受け止めたスタートアップ側としては、じゃあどんどん投資をして、赤字だけど成長性を取ろうという意思決定が多かったかなと思っております。
それが去年一変しまして、この(スライドの右側)「冬の時代のリアル」ですが。まずディールサイズでいうと、100億円以上がほぼ見られずに、去年だとおそらく100億円を超えたのが3社ぐらい。2021年は10社以上で100億円以上のディールがあったのでだいぶ減りました。
私の記憶だと100億円超のディールサイズとなった去年の3社のうち、2社がプライム市場。グロース市場で100億円以上のディールサイズになったのは、たぶん航空会社のスカイマークさんだけだったんじゃないかなと思います。
なので、いわゆるスタートアップでは、100億円以上の調達がゼロというのが去年の状況で、すべて2桁億円。しかもそれは2桁前半とか20〜30億円いけばいいかなぐらいの感じで、当社もそうですけれども、1桁億円のディールサイズも多数ありました。
そうなると、海外機関投資家はなかなか入ってきづらくて。彼らは運用資産が非常に大きいので、1桁とか2桁億円前半のディールサイズだと、投資金額が小さくなってしまい投資をしにくくなります。なので、必然的に投資家層も国内の、しかも個人投資家が中心のIPOが増えたのかなと思っています。
エクイティストーリーにも変化がありました。その前はどんどん赤字を掘って、成長してくれよという投資家の要望があったのが、いろんな投資家さんとロードショーなどでお会いして話すと、収益性について気にされている方が多い。質問としては「黒字になるのはいつ頃ですか?」が、ほぼ全員の投資家さんから聞かれたことです。やはり2021年以前とはぜんぜん違う環境だったなと思っています。
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