2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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出川久美子氏(以下、出川):また(QWSの取り組みの)ご紹介なんですけど、会員さん以外の方も巻き込んで(「問い」を起点に)やっている事例として、「Question Storming」があります。アイデアじゃなくて「問い」を発散することによって、その問いを起点とした創発を体験できるワークショップで、法人会員を対象にやらせていただいています。
一般の方も巻き込むというところで言うと、スクランブルスクエアの下の階が商業フロアになっているんですけれども、そこにポップアップスペースの展示を定期的にさせていただいています。
会員さんのプロトタイプを展示でき、一般の方に「自分がこういった問いを持って、こういうものを作ってみたんだけどどうだろう」とフィードバックいただく、実証実験型のイベントも行っています。
こういったかたちで、QWSとして一般の方も巻き込み問いかけてみたいと思い、1年半ぐらい前からやり始めています。こういった取り組みっていかがですか?
安斎勇樹氏(以下、安斎):スタッフと会員さんの関係が提供者と受ける人じゃない、(対等で)多層的なコミュニティになっていて、それを施設で閉じずに、もう一層外側に向ける。これってすごく大事だなと思っています。
僕は場作りの参考にパリのカフェ文化の歴史を勉強したことがあるんですが、すごく好きなんです。20世紀初頭のパリのカフェでは、ヘミングウェイとかそういう人たちが育ち、いろんなムーブメントが生まれていたので、興味があったらぜひ調べてみてほしいんですけど。
それが社会的なムーブメントもあるんですけど、コミュニティ作り的にもよくできているんです。カフェって大通りにテラス席がありますよね。そこから中を覗き込めたり、ちょっとびびって中に入れない人はテラス席で飲んでいるんですよね。
そこに通ううちに、いつの間にか店内でコーヒーが飲めるようになっていって、そのカフェの奥ではめっちゃ議論がされているんです。「すげぇ人たちが議論してんな」「あれ、ヘミングウェイじゃん」みたいなことを思いながら、月に1回ぐらいはテラスで飲む人とかがいるんだろうなと。
「参加の動線」がグラデーションになっているのが、コミュニティの新陳代謝を維持する上で重要で、そこを閉じちゃうと新参が来なくなって古参だけのコミュニティになっちゃうんです。こういうのがオフラインでできるようになってよかったなと思いましたね。
出川:ありがとうございます。本当にオフラインが可能になったので、こういうこともできるようになっています。コミュニティの新陳代謝という意味だと、QWSは3ヶ月に1回、プロジェクトを公募しているので、3ヶ月おきに50人くらい、メンバーが入れ替わるような仕組みにもなっています。
そういう意味では、コミュニティの新陳代謝が自動的に行われるようにしているので、今のお話しを聞いてちょっと安心しました。石川さんは外の方と問いを深めることについて、どうお考えですか?
石川善樹氏(以下、石川):僕が中学生の頃、これと似たような場面があったなと思い出しました。中学生の頃、僕はゲームセンターにハマっていたんですが、ゲームをやっている時にいろんな疑問が浮かぶんですよね。
ゲームセンターにコミュニケーションノートみたいなのがあって、そこにその疑問を書いておくんです。そうするといろんな人が「こうじゃないか」「ああじゃないか」って意見をくれるんですね。そういうゲームセンター文化をふと思い出したというか......すみません、ノスタルジーに浸っていました(笑)。
誰が書いてくれたかわかんないんですよ。でもある時、ふっと「あっ、この人があの人なのか」ってわかる時があって、ちょっと話だしたりして、そこから未だに付き合いがある人もいます。
出川:そうなんですか。すごい(笑)。
石川:そういう雑多な感じっていいですよね。パリのカフェ文化に対して、日本にはゲームセンター文化があったぞと(笑)。
(一同笑)
昔は新宿の飲み屋とかに文化系の小説家がいたりとか、そういう時代がありましたよね。
安斎:完全匿名でもない、隣の人と絶対しゃべらなきゃいけないわけでもない、追跡されるわけでもないんだけど、どこかで会うかもしれないみたいな、その絶妙なゾーンが大事なんだろうなと思います。
出川:その雰囲気は、若干QWSにもあるような気がします。話さなきゃいけないわけではないんですけど、でもすぐ話せたり、実は誰が書いたかわかるような雰囲気はあるような気がしています。ぜひパリに学びたいなと思います。
石川:今度は続けるのが大事ですね。何度も何度もやっていると、また会う人っているんですよ。1回目会ったら偶然かもしれないけど、2回目にその人と会ったら、それはもう必然になるんですよね。3回目に会ったら、もうその人とは自然になる。だからこういうのは本当に回数をこなすことが大事だと思います。
出川:ありがとうございます。回数をたくさんやっていきたいと思います。
では、実際に問いから生まれたプロジェクトの例をいくつかご紹介したいと思います。「e-lamp.」というプロジェクトです。QWSフェスの期間中は展示スペースで実物が見られるんですが、「もしも『心』が可視化されたら社会はどう変わる?」という問いを掲げています。
イヤリングが心拍をキャッチして、それを光で表現するんですね。ドキドキしている時は色が変わったりして、感情を表現できるような商品を作っています。このプロジェクトはQWSに入った頃から試行錯誤の改良を重ねていて、SHIBUYA SKYというこの建物の屋上にある展望施設で、夜に光るイヤリングを楽しむプロモーションもやっています。
あともう1つ、「I_for ME」というプロジェクトなんですが、こちらは「女性のショーツはエロくなきゃいけないの?」という問いを掲げています。ショーツの一般的な形に疑問を持って、バイアスを乗り越えて、ショーツ一体型のリラックスウェアを作り、販売しています。
このプロジェクトは1年前ぐらいから活動していて、今はもう卒業しています。彼女たちがもともと問いとして考えているところが、「女性の声なき声をきちんとかたちにする」ことでして、その中の1つの商品として、今このプロダクトを売っています。今は生産を一旦終了して、別のその問いに向かって新たな活動をしていくところです。
出川:時間の都合もあるので2つしか紹介できていないんですけど、「問い」からいろんなプロジェクトが生まれています。
安斎:すばらしいですね。こういう具体的な新しい価値や課題解決するプロダクトが、「問い」から生まれたことがすばらしいなと思います。
1つ目のこれ(「e-lamp.」)とか、プロダクトを使うだけで素敵な体験ができると思うんですけど、これが「もしも『心』が可視化されたら社会がどう変わるのか?」という問いのもとで生まれたものであるとわかった上で使うというのが、けっこう重要だなと思っていて。
「問いからプロダクトが生まれた」というより、「プロダクトを通して問いに気づく」ことが重要な気がします。次の例も象徴的ですよね。「ショーツはエロくなきゃいけない?」って、作ったご本人の中で答えは出ているじゃないですか(笑)。「エロくなくていいだろう」って。
出川:そうですね(笑)。
安斎:もう答えは出ているんだけど、このプロダクトを広げていく過程で、共感する人が増えて、社会的に問いが広がっていく。この商品が便利で快適であることよりも、この「問い」が広がっていくことに意味があるんだろうなと思いましたね。
出川:そうですね、わかりやすい問いから商品化されている例を挙げさせていただいたんですが、やはり「問い」があることによる商品の魅力というか、背景が伝わることが大事なのかなと感じたところだったので、ご紹介させていただきました。石川さんも感想などを、ぜひお願いします。
石川:問いから生まれたものもあるし、一方で本当に問いから生まれたのか、というのもあると思うんですよ。どちらかというと、結果的に問いが必要だった。僕はそれもいいんじゃないかなと思うんですよね。
僕なんかはどちらかというと、答えが先に浮かぶタイプなんですよ。答えが浮かんだら、同時に問いも浮かぶんです。その問いをもって「答え」を正当化する、みんなに納得してもらうために、「問い」を設定しておくというタイプの人もいていいと思うんですよね。
必ずしもすべてを「問い」から始めなくてもいい。結局「問い」はみんなの入り口になるものだと思うので、逆にいきなり出口に到達する人って、どの入り口からみんなを導けばいいかわからないということがけっこうあると思うんですよ。
「自分にはこんなアイデアがあるんだ」「これはどういう問いから始めるとみんな来てくれるだろうか」という、そういうQWSの場であってもいいのかなとは思いました。
出川:ありがとうございます。まさにそのとおりで「問いと解」を行ったり来たりしますよね。先に解があってもQWSでは活動できるので、ぜひQWSで改めて問いを考えていただければと思います。
最後にクロージングということで、今回「『問い』のすゝめ」「『問い』の効能とは?」ということで進めさせていただきました。QWSの具体的な問いへの取り組みなどを通じて、これからの「問い」の未来や役割について、ぜひお考えをおうかがいできればと思います。まず石川さんからお願いできますか?
石川:僕は20代の頃までは、どちらかというと知識で武装するタイプだったんです。要は情報格差を利用するというか、情報の不均衡を利用するタイプだったんですよ。安斎さんと共通の友人で、佐渡島くんという編集者の人がいるんですけど、「善樹っていつも“あっち”の知識をうれしそうに語っているよね」って言われて、ちょっと生活態度を改めたんですよ。
知識を追い求める人生って、ずっと勉強しないといけないから大変なんです。20代のうちはいいんだけど、だんだんエネルギーも落ちてくる。「どうやったらのめり込むように自分の人生を送ることができるんだろうか?」と思った時に、やはり「自分が不思議に思ったこと」って絶対に忘れないんですよね。
それは「自分が思いついちゃった問い」なのかもしれないんですけども、僕自身は「不思議」と呼んでいます。誰から強制されるわけでもなく、自分の中で思いついちゃった不思議、勘づいちゃった不思議というのはずっと忘れないし、そこからいろんな「問い」になっていって、結果それをずっと追い求めていくと、自分らしいところにたどり着くんです。
30代以降はそういうふうに生活態度を……生活態度って言うんですかね、わからないですけど(笑)。生活態度を改めて、すごく楽しくなったんです。
人によると思います。右の知識を左に持ってくるのが向いている人も、当然いると思うので。別に僕は“問い至上主義者”ではないので、僕の場合はたまたま、不思議から問いを生んでいくのが合っていたタイプなんです。そういう人には「『問い』のすゝめ」「『不思議』のすゝめ」はしたいなと思いますね。
出川:ありがとうございます。
安斎:本日はありがとうございました。僕にとって非常に発見があったんですけど、僕にとっての今日の一番のハイライトは、自己紹介を振られて、自己紹介しちゃったあとに問い直されたあのくだり。そこにすべてが詰まっていたなと思います(笑)。「俺はなんで自己紹介を振られて、素直に自己紹介してしまったんだ」って、すごく後悔しています。
さっき石川さんが「問うほうが楽しい」ってポロッとおっしゃっていたと思うんですけど、それがすべてだなと思っていて。僕の大学生のエピソードで、他人が名前を付けた問題を生きるのではなく、自分で問題に名前を付け直すことが「問う」ことだって話をしたと思うんですけど。
やっぱり他人から与えられたゲームを、無批判に、外側や仕組みを疑わずにプレイするって、それはそれでおもしろいと思うんですけど、いったんその枠組みを自分なりに裏から見たり、問い直して、自分で意味づけをした上でプレイするほうが、きっといいんだろうなと思っています。それがたぶん「問う」ことなんですよね。
結果的に自己紹介してもいいと思うんですよ。(笑)。1回そのフレームを疑い、そのあと自分の意思で答えを出そうとするのが「問う」ことなので、問うことは「自分で答えを出そうとすること」と切り離せないんだなと、あらためて思いました。
でもどうせ同じゲームをプレイするんだったら、そっちのほうが楽しいというのが、「『問い』のすゝめ」なのかなと思いました。
出川:ありがとうございます。我々は3年間「問い」をテーマにした施設でやってきて、その中で「問いって本当に効果があるんだろうか?」と思うこともあり、このテーマでトークセッションをさせていただいたところでした。
「問い」があるから(あらゆることを)「自分ごと化」しやすくなるのかなって、お二方のお話しを聞いていて感じたところでした。よくQWSでは「問いを止めるな」と言っているんですが、これからもいろんなことをみなさんと一緒に問いながらやっていきつつ、来年以降もがんばっていきたいと思いました。
ゲストの安斎さんと石川さんに拍手を送っていただければと思います。本当にありがとうございました。
(会場拍手)
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