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MBA or 起業?アメリカエリート層のキャリア観と人材活用の違い(全3記事)

20代でMBAに通う、アメリカのエリート層のキャリア観 在学中に挑戦するのは「リスクの少ない起業」

日本とシリコンバレーを繋ぐコンサルティング会社TOMORROW ACCESSでは、シリコンバレー発の業界エキスパートが最新情報を解説する「01 Expert Pitch」を開催しています。今回は「MBA or 起業? アメリカエリート層のキャリア観と人材活用の違い」をテーマに、元SAPシリコンバレーで現在はダートマス大学MBAプログラム在学中の坪田駆氏が登壇したピッチの模様を公開します。本記事では、MBAと起業の関係性や、注目されているMBA発のスタートアップ、アメリカのMBAに通うエリート層のキャリア観について語られました。

MBAは起業家の必須条件なのか?

坪田駆氏(以下、坪田):アメリカになぜ行きたいのかというのは、また別に話したいと思いますけど、よく言われるのがタイトルにもあるとおり、「MBAか? 起業か?」って問われるんですよ。

私も自分の学校のEntrepreneurship Club(起業クラブ)に入っていて、起業にすごく興味があるんですが、スタンフォード大学の卒業生のデータの一番右側、「ALL MBA GRADUATES」の中の、下から3つ目の数字に注目していただきたいんです。

これは何を言っているかというと、スタンフォード大学の2021年の卒業生の18パーセント、70人が起業しているということなんですね。これってけっこうすごい数字で、もちろん起業するためにMBAは必要条件ではないと思うんですけれども、やっぱりMBAを経て起業する割合は、スタンフォード大学なんかだとすごく高い。

MBA側も、先ほどのMBA的な素地とか、ネットワークを活かしたビジネスを立ち上げていこうという学生をすごく支援します。そんな背景が毎年増えてきていまして、みなさんご興味あるかもしれませんので、いくつか代表例を紹介したいと思います。

ちなみに左側は2021年の情報なんですけど、スタンフォード大学の調査で、当時のユニコーン起業521社の、創業者1,263人の学歴を調べたところ、236人がMBAを取っているということでした。

先ほど言ったように必要条件じゃないと思うんですけれども、やっぱり起業してそれなりのトラックでうまく成功していくためには、MBAが役に立つ場合もある。私の300人の同級生の中にも、卒業後は起業したいという学生が非常に多くなってきていると思っています。

MBA発の注目スタートアップ

坪田:一番上の右側、clearmetalという会社は、スタンフォード大学の名物授業でStartup Garageという起業の体験授業みたいなものがあるんですが、(創業者が)このアイデアを持っていて、その授業で友だちと中心に起業して、2021年にproject44という別のサプライチェーン系のスタートアップに売却をしたという例です。

お遊びじゃないと思うんですけど、授業で出たアイデアをもとに起業をしていくケースというのは、このclearmetalなんかを中心にけっこうあります。

もう1つは、MBA生ならではの課題。Junoという会社は、ハーバード・ビジネス・スクールで出会った2021年の卒業生の2人が創業した会社です。2人とも移民で、あまり裕福なバックグラウンドになかった。なので、どうやったら学生でもローンを借りられるかということを必死に考えたんですよ。

アメリカのローンってけっこう大変でして、留学生がお金を借りようとすると、アメリカ人の保証人が必要になってくる。これはアメリカに家族がいない学生からすると、ものすごく大きなハードルになっています。ほぼ無理ですよね。数千万円の借金をすることになるので。

この2人は非常に賢くて、同じような課題を持った学生を集めてみんなで銀行に直談判に行くというビジネスを作りました。学生側の論理としては、学生になった時点ではあんまり信用はないかもしれませんが、将来のアップサイドとしては、MBA生はアメリカの中でものすごく大きい。

(一人ひとりでは)通常の融資のチェックリストに載せていくと信用がない人に見られちゃうと思うんですけど、特にハーバードビジネススクールみたいなトップの学生が集まれば、銀行側としても長期的には貸し倒れのリスクがすごい少ない、実はいい融資になるんじゃないですか? ということを、みんなで口上しに行くんです。

今は100ミリオンぐらいでファイナンス業としてはまだまだなんですけど、非常に勢いがある、よくMBAでも話題になるスタートアップです。

大学のリソースをうまく使った起業も

最後は内輪の紹介なんですけども、実はDartmouth Tuckの外部協議会の代表をやってる人が作ったスタートアップでして。私はぜんぜんわからない(領域な)んですけど、抗体開発をしているスタートアップに、その創薬をするためのITプラットフォームを提供する会社です。

これがすごいのは、ダートマス大学にはMBA以外にも、医学部もしくはそのエンジニアリングスクールがありまして、これは医学部で出た技術を基に作った会社なんです。要は医学部生が技術を持っていても、それをビジネスにしていく過程ってやっぱりすごく難しいんです。

なので(医学部生が)隣のビジネススクールに行って、「これでなんかビジネスモデル作ってよ」って言った時に、私の先輩の創業者がうまくビジネスにしたんです。そして去年、ダートマス大学出身の会社としては4個目のユニコーンになりました。

大学の2年間でものすごく潤沢なリソースをもらって。しかも創業者自体はノーリスクで起業していくという事例が、ものすごく出てきているなと感じますね。

傍島健友氏(以下、傍島):なるほど。ありがとうございます。

アメリカのエリート層が歩むキャリア

傍島:大学を卒業して1回働いてからとか、マスターに行ってからとか、どういうタイミングでMBAに来る方が多いんですか? 実際、坪田さんの周りはどんな感じですか。

坪田:ありがとうございます。今すごくいい呼び水をしていただいたので、もう1つ次の話、実際のMBA生はどんな感じなのということをお話しします。

おもしろかった友だち6人をピックアップしてみました。1人目のペルソナAは、エリート街道まっしぐら。28歳のアメリカ人で、インベストメント・バンキング(投資銀行)を経て、次にコンサルに行って、大企業の要職につきたいという、典型的なビジネススクールのキャリア。だからキャリアとしては5年ぐらいですね。

あとは(典型的なキャリアとしては)ファイナンスの業界で、銀行からプライベートエクイティ(PE)、その後VCっていうのがなんとなくアメリカのエリート層の中であって。

そうすると、やっぱりMBAを挟んどかないと、なかなかPEのパスは拓けない。こういうことを考えているメンバーが非常に多いですね。ファイナンスのバックグラウンドを持ったアメリカ人は、確か2割ぐらいいます。みんなこんな感じです。

あと(ペルソナBは)、27歳インド人で、国有コングロマリットのITコンサル部門でバリバリ働いていた人です。テクノロジー会社のソフトウェアのプロダクトマネジメント(PM)は、いわゆるプロダクト開発のポストMBAとしては、実際よくあるキャリアなんですけど。

いわゆるプロダクトのオーナーになるようなキャリアは、だいたい部長クラスで年収1億円を超えます。MBAを出て5年ぐらいすると、1億円を超えられるという、そんなアップサイドを狙ってやっていく人もいます。

あと起業予備軍みたいな人ですね。私のすごく仲がいい友だちに、もともとトレーダー・ジョーズ(アメリカの大手有名スーパーマーケット)のオペレーションのトップとして働いていた、32歳のものすごく優秀なアメリカ人の女の子がいまして。

彼女はこのまま起業して、うまくいけば一旗上げられると。だめだったらまた元のフード系のキャリアに戻りたいということですね。

あとはシンガポール人のお偉いさん候補とか。「人生の夏休み」っていうのは半分冗談で書いたんですけど(笑)。もうマッキンゼーに行って帰国後は給料倍の約束ができているという人もいますね。

MBAに行くのは早ければ早いほうがいい

傍島:坪田さんは10年ぐらい働いてからMBAに行かれてるじゃないですか。坪田さんの私見で構わないんですが、どれぐらいのタイミングがいいなぁって感じることはあります?

坪田:そうですね。早ければ早いほうがいいなと思います。私はちょっと来れなかったので……。キャリアの初めからずっとMBAに行きたいなと思ってたんですけど、ちょっと自信がなくて、このタイミングになりました。(同級生の中では)だいぶ年上のほうなんですけど、浮いてはないと思いますね。

傍島:早いほうがいいんですね。

坪田:早いほうがやっぱりアップサイドが大きいと思いますね。私だと、正直卒業した後のキャリア的なアップサイドは、行く前とトントンです。アメリカで働けば給料が上がるので、それでなんとか......。アメリカで働く旨味に意味があるのかなって感じです。

私は今34歳になるんですけど、アメリカ人がこれぐらいの年齢で来ると、ちょっと遅いかなって感じがします。

傍島:そうなんですね。1度会社に入って事業とか経験してからのほうがいいのかななんて予想はしてたんですけど、そんなことないんですね。

坪田:そういった意味だと、在学中に貢献できる範囲は、ぶっちゃけ20代で来るよりも大きいなと思います。(同級生に)すごく頼ってもらっていると思いますので、なんとなく留学生でも、英語がネイティブじゃなくても輪の中心にちゃんと入れることができたのは、この歳で来たからかなと思うんです。

今日のお話のポイントは「キャリアを作っていくこと」だと思うんですけど、その観点では、来れるなら早いほうがいいと思います。

ただ、若いうちに来たら、日本のモノカルチャーな環境で育ってきた人はものすごく苦労するだろうなって思います。そことのトレードオフがあるかなって気がします。

ドロップアウト→起業のストーリーは、実際はマジョリティ

小川りかこ氏(以下、小川):なるほど、ありがとうございます。それでは、ここでご質問が届いておりますので、私のほうでお読みいたします。

「スタンフォード大の起業率は高いイメージだったのですが、MBA以外の学科だといかがでしょうか」というご質問なんですが、いかがでしょうか。

坪田:それはごめんなさい、まったくわからないです。1つ先ほどの話でもあったように言えるのは、ドロップアウトして起業するのがかっこいいみたいなストーリーが、よく巷を賑わせがちです。でも実際のマジョリティ、大多数のエリート層の感覚としては、そこまでのリスクテイクをする人は少ない。曖昧ですけど、僕はそういう印象を持っていますね。

すごく堅実なキャリアを歩む上で、リスクの少ない起業にチャレンジできるMBAの2年間をうまく活用して、在学中に起業する人が多いぐらいなので。そこらへんはみんな現実的に考えてるんじゃないかなっていうのが、私の肌感覚です。すみません、ちょっと数字はわからないですね。

MBAの中での日本の競争力が落ちている理由

小川:ありがとうございます。そしてもう1つご質問が届いております。「起業はおろか、卒業後VCのキャリアを目指す日本人MBAが少ないのはなぜだと思いますか」というご質問です。

坪田:そうですね、どうしようかな......。これは最後にお話ししようと思ってたんですけど、そもそもまずMBAの中での日本の競争力、もしくは「MBAを出たエリート層」っていうのを仮に定義したとして、その中の日本の競争力というのは、残念ながらものすごい落ちてると思います。

1つには、やっぱり日本からMBAに来る人が減っているということですね。これはVCに行く行かないの前に、そもそもアメリカではまだそれなりに迫力のあるMBAというキャリアを取れる、もしくは取りたいと思う日本人が少なくなってきている。

アメリカはインフレですから、(コロナと円安の)ダブルパンチで、日本人にとってMBAはこれからさらに遠くなっていくだろうなっていう感覚です。

ポストMBAのキャリアとして日本人のVCが少ないっていうのはおそらくそのとおりだと思うんですけど、そもそも供給側の枠が潤沢にないってことも、少し関係してるかなって思います。

私の感覚では、だいたい毎年アメリカのスクールに200人ぐらいの日本人が留学していると思うんですけど、VCに就職したいと考えてる人って多いと思うんです。

ただ、日本のVCの中でポストMBAを採用してる会社がそもそもそんなに多くないということもたぶんあって。ポストMBAがVCで成功したというキャリアが、なかなか目立ちにくい環境になるのかなっていうのが、私の考えです。

小川:坪田さん、ありがとうございます。ご質問いただいたみなさまもありがとうございます。

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