2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
関西ベンチャー学会 第2回女性起業家研究部会「苦難の連続、でも諦めない。」ウクライナ特別編〜女性×学生×外国人×社会起業のリアル〜(全6記事)
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湯川:ではみなさん、本当に最初も言いましたけど、アンナさんは学生起業家であり、女性起業家であり、まだ日本でも少ない社会起業家であって、かつ外国人の起業家というマイノリティカルテットなんですね(笑)。
そこから実際にどう起業されてきたのか、ものすごく貴重な「こういう失敗でした」というお話をたくさんうかがったのでそれに沿って気になったところをもう少しうかがっていきます。
最初に「友だちと一緒に起業したのは間違いでした」というのは大きな気づきのある言葉だと思うんですね。私も学生起業をサポートしていたりするんですけど、必ず言うのは「友だちとはやらないほうがいい」ということです。
アンナ:そうなんですね。
湯川:そうそう。今聞いている方にはたぶん学生さんも多くて、学生さんは今から何かやってみようかという時に、友だちに「やろうよ」と言いがちなんですよね。具体的にアンナさんは「効率的ではない」と言っていましたけど、どんなところでどういう問題が起きるんでしょう。実際にどこが一番大変でした?
アンナ:そうですね。友だちですと、ちゃんと上下関係がないのは当たり前ですし、役割分担とか労働時間の分担とかがない時がすごくありますので、結局失敗が起こったら、「それは誰の責任なのか」が明確ではないんですね。
湯川:この時、事業を一番やりたかったのはアンナさんですよね。
アンナ:そうですね。でも応募をするためにチームが必要だったので(笑)。
湯川:これは本当に行政の大きな間違いですよね。
アンナ:かもしれません。ずっとそう思っています。
湯川:起業なんてみんな1人でやるから、一緒に連れションしているみたいで……「連れション」ってわかんないね(笑)。
(会場笑)
湯川:日本ってね、小学生や中学生の時に、女の子は1人でトイレに行かないの。
アンナ:(笑)。
湯川:「一緒にトイレ行こう」「行く行く~」って言って行くんですよ。だいたい周りに聞いたら、起業している女の人は連れション嫌いだった人たちです(笑)。仲間と一緒にやるのが苦手だから、自分でやっていく。
アンナさんが法学部の時に「自分は新しいものをどんどん作っていくのが好きだ」と思ったのが起業のきっかけだとしたら、「友だちと一緒にやろう」というよりも、1人でガーンと突破して、責任を持ってやっていくというのが良い方法だったかもしれません。
アンナ:そうですね。せめてメンバーを厳選しないといけなかったですね。とりあえずちゃんと信じている方が周りにいなければ、もう1人でやったほうがいいと個人的には思っています。
湯川:そうですね。そのあと1人でスタートするように変えて、そのあと出会いがあったという話がありましたけど、(共同創立者のメンバーとは)どう出会ったんですか?
アンナ:現在コアメンバーが3人いますが、その2人との出会いは偶然でした。とりあえず熱意を持っていろいろ活動していたら、1人からFacebookのメッセージが来て、「アンナさんがおもしろいことをやっているので、少し詳しい話を聞いてもいいですか?」という、たまたまの出会いです。
共同創業者も外国人ですので、外国人の交流会で会ったんです。彼の専門は生体データ解析ですので、私がやりたいこととバッチリでした。「じゃあ一緒に何かをやってみないか」と私が提案して、すごくよかったですね。
湯川:なるほど。生体データ解析という違う専門性を持った人がいて、その専門性を使って何かできないかということで、アンナさんもやりたいことがあって、それがガッチリはまったんですね。
アンナ:そうですね。やりたいことがあって、ちゃんと組織のイメージができていると、「あなたが入るのであれば、この役割を占めてください。こういう働きをしてください」というイメージに沿って人が入ってくるんですね。だから何らかのフォームとかかたちがなっていないままに、チームを作って法人化するのがよくないですね。
湯川:私も泣くほどわかるんですけど、最初は自分もちょっと「仲良く一緒にやりたいね」という思いがあるから、「みんなで話しながらやっていこうよ」とか言うんですけど、結局誰も責任を取らないという問題が出てきて、「じゃあ、何なの?」ってグチャグチャになっていくんですよね。
自分がトップに立って役割も組織も作るんだという覚悟がいる。「1人でやっていくわ」という決断だと思うんですよね。そこにどうやってマインドチェンジをしたんでしょう。
アンナ:そうしないと何もならないと思って。結局チームで半年で何も成果が出なかったので。
湯川:クラウドファンディングだけだった。
アンナ:そうですね。この状態がそのまま続くとちゃんとしたスタートアップではないし、法人化できない。じゃあとりあえず思い切って自分でやりましょうと。他の選択肢がなかったですね。
アメリカのシリコンバレーでソーシャルベンチャーという概念に出会った時に、継続性を持ちながらちゃんと社会に貢献していくという、そういうすごいやり方があるんだと知って、それを実現しようというということでしたよね。なのでちゃんと社会に貢献する持続性、継続性がある組織を作らないと意味がなかったんですよね。
湯川:今クラウドファンディングがメチャメチャ流行っているでしょ。わりと「やったー! やりました! これが成果です」というプロジェクトが多いけど、アンナさんにとってはどんな体験でした?
アンナ:逆にやったのが早すぎました。結局もらった資金を使って成果を出せるかどうかわからなくなってしまって、すごく恥ずかしかったです。
湯川:募集する時には当然「このお金でこのアプリを使って、こういうことをやります」と。その時はクリアなビジョンだったんですよね。
アンナ:もちろんそうです。クリアかどうかちょっとわからないんですけど、自信がありました。
湯川:だけど......。
アンナ:うまくいかずに、責任をすごく感じ始めましたね。ただただやっていることの建前ではなくて、本当に何かをやらなきゃいけないと痛感しました。そこでわかって、思い切って1人でやり始めました。
湯川:ここ、でも「お金集まっちゃったし、でも私は学生で、女性起業家だし、ウェーイ!」って(途中で投げやりに)やることもできたじゃない。アンナさんは、何で思い上がった女子大生にならなかったんだろうね。
アンナ:何ですかね(笑)。先生とかインキュベーションの上側の方々とか、アメリカに行かせてくれた方とか、本当にお世話になった方からの資金を集めましたので、人生を懸けて何らかの成果を出さないといけないという意識でした。
湯川:私はもともとヤフージャパンとかいろいろ立ち上げに関わって、そのあとスペインに行って10年間「何のために人は生きているんだろう」と考えながら、日本に帰ってきてちょっと学びの場を作りたいと思ってスタートしたんです。
でも元フリーランスのフリーライターだったので、なんの知識も経験もなくて、1年で経営破綻させたんです。そこまで同じなんですよね。一番お世話になった人たちに一番迷惑をかけちゃった(笑)。
それで「このまま死ねない」「(恩を)返さなきゃ」と。私もそれがすごく大きなモチベーションでした。本当に生きているのが恥ずかしい、申し訳ないぐらいだったので、そこから「どうやったらちゃんとした事業になるのか」を考えてやってきたんです。一番お世話してもらったからこそというのはありますよね。
アンナ:そうですね。でも若い起業家に向けて「とりあえず自分を信じてやってください」とすごく言われるじゃないですか。あまりよくないと思っています。
湯川:よく言いますよね(笑)。
アンナ:自分を信じるよりかは、現実を見たほうがいいかもしれないですね。自分の夢と現実が本当に紐づいているかどうか。本当に数値計画を立ててうまく行くかどうか。とりあえず夢見て法人化するのもよくないと思っています。
それも実はインキュベーション施設の責任だと思っているんですけど。
湯川:インキュベーション施設のみなさん、関係のみなさん、ちゃんと聞いておいてくださいね。
アンナ:若い人たちに単に「自分を信じて夢を追いかけてください」ではなくて、ちゃんと具体的な計画を教える。何の計画を立てればそれはうまくいくだろうか。それがなければ、もう率直に「こういう計画だとたぶん失敗するだろう」と言ったほうがいいですね。長期的に見ても。
湯川:やっぱり学生時代、さまざまな起業支援団体にチヤホヤされ過ぎたと感じました?
アンナ:はい(笑)。
湯川:私も学生支援の場所によくいるんだけど、肝に銘じているのが「大学生をチヤホヤしない」ことなんです。社会に出たらマーケットでしょ。マーケットはすごく厳しくて、大学生の間は下駄を履かせてくれるから......ごめん。考えたら外国の人に「下駄履かせてくれるんですよ」って、どんな文脈やねん(笑)。
アンナ:(笑)。
湯川:(「下駄を履かせる」というのは、要は)大学生だからガードしてくれるというか。だけどマーケットの中で生き抜いていかないと事業にならないので、本当に難しいんですよ。学生時代にチヤホヤするのは、まったくいいことではないと思います。
湯川:アンナさんは「学生の時に計画を立てたらいいね」と言われていました。ただ計画と言っても「Do the right thing(正しいことを行う)」であって「Do the things right(正しく行う)」じゃないというところで、「あまりベンチャーの段階で詳細な計画を立てるのはまた違うね」ともおっしゃっていましたよね。そのあたりを詳しくうかがっていいですか?
アンナ:別にメチャクチャ詳しい計画ではなくて、せめて売上がコストを上回ることができるような計画が......。
湯川:大事ですよね(笑)。
アンナ:それくらいのシミュレーションができたら、起業していいと思っているんですけど、その数字もなければ起業しないほうがいいと思います。あと競合分析ですね。ただ文書の言葉だけではなくて、本当の意味での競合分析です。私も実はインキュベーション施設でそういう計画とか競合分析を何回もやったことがあるんですね。
湯川:ダブルクオーテーションありますよね。いわゆる「計画」とかね。
アンナ:今、振り返ってみると、まったく現実性を欠けているようなものだったんですけど、誰もそう言わなかった。
湯川:(笑)。
アンナ:なぜか誰もそう言わなくて。
湯川:「すごいね」と言われた?
アンナ:「いいですね」「がんばってください」と(笑)。
湯川:(笑)。それは本当の競合分析ではなかった。
アンナ:そうですね。
アンナ:例えば当時やっていたのは妊婦さん向けのアプリだったんですけど、妊婦さん向けのアプリだと「どうしたって広告を流さなきゃいけないでしょ」とか、「広告だとCPMとかCPCがどうなるか」とか、何も言わなかったんですね。自分も「とりあえずApp Storeに出したら、ダウンロード数が無茶苦茶伸びるだろう」と思って、あまり考えなかったんですね。
でもそれも問題かもしれないですね。アプリ事業を理解している方々もそんなに多くないですね。
湯川:インキュベーション施設に。
アンナ:(事業が違えば)マーケティング方法とか普及方法がぜんぜん違う。ハードウェアの会社とか法人向けのサービスを提供している会社が違いますので、それについて専門性がなければたぶん計画も立てられないと思います。
湯川:いわゆるちゃんとしたメンターになるような方がいないんですよね。私もよく言うんですけど、例えば「北極に行きたい」と思ったとするじゃないですか。普通の人に「北極に行きたいんですけど」と言っても、「寒いからやめとけよ」とか「大変だからやめとけよ」って言われると思うんですけど、本当に北極に行きたかったら、北極に行った人に聞かなきゃ駄目だと思うんですよね。
アンナ:そのとおりだと思います。
湯川:例えばアンナさんの場合だったら、アプリであるとか、ママ向け・妊婦さん向けの事業をしているとか。
アンナ:そうですね。でも逆にメンターさんにも率直に言ってほしいですね。自分の専門分野ではないので。
湯川:みなさんの中には大学生をサポートされている先生も多いと思うんですけども、これだけダイバーシティな世の中でもありますし、いろんなものが多様化してくる中なので、自分が全部教えてしまおうとするよりも、その学生とか起業している人たちが求めているような人を連れてくる、つなげるという役割になったほうがい)。ひょっとしたら今「より連携させること」が求められているかもしれない。
アンナ:大事だと思います。
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