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COTEN 深井氏に学ぶ、現状をブレイクスルーするための「歴史思考」(全3記事)

崖っぷちに立たされた時、「やりたいこと」を選ぶ覚悟ができた 大手企業とベンチャーを経て、「歴史」ビジネスで起業した理由

リスナー17万人以上の音声コンテンツ『歴史を面白く学ぶコテンラジオ(COTEN RADIO)』が話題となっている、株式会社COTENの代表取締役CEO 深井龍之介氏が、初の著書となる『世界史を俯瞰して、思い込みから自分を解放する 歴史思考』を刊行しました。新規事業の創出や起業アイデアを考える際など、現状突破する際に必要な「俯瞰的」な物事の捉え方と視点について、書籍の内容をもとに学びます。本記事では、深井氏が大手電機メーカーから起業を決意した際のエピソードなどを語っています。

歴史的に見る、「成功する人」の条件は?

財前英司氏(以下、財前):次の質問です。さっきも「(成功者が)成功したのは、たまたまだ」というお話がありましたとおり、本の中でも「偶然」や「たまたま」というワードがけっこう書かれているんですよね。歴史的に見て、偶然性を引き起こす人の資質はあったりするんですか?

深井龍之介氏(以下、深井):やっぱり、諦めていないことですね。自分で決めたことをちゃんと目指していること。目指していない人は、偶然良いチャンスを掴むことは絶対にできないので。

チャンスをつかめるかどうかも運なので、一生掴めないかもしれないです。歴史を見ていたらそれがよくわかります。「チャンスを掴めなかったな」とか「チャンスを掴んだけど失敗したな」という人も腐るほどいます。

成功している人たちは、たまたまあったチャンスをちゃんと掴んで、たまたま成功しているんですね。だけど、ずっと目指していないと絶対にチャンスは掴めない。でも、チャンスを掴めた、もしくは諦めていないからといって、成功するかどうかはわからないというのが、歴史を見ているとよくわかりますね。

財前:(偶然のチャンスを掴む人の)条件が1つあるとしたら、「ちゃんと目指すところがある」。

深井:そうです。

財前:「天下統一」とかですね(笑)

深井:究極はそうですよね。天下統一を目指していない限り、天下統一はできないから。ただ、すごく歴史に名を残している人で、「この人だから成功したんだ」という語られ方をよくするんですが、僕はあんまりその見方をしていなくて。「ここでちょっとズレていたら死んでいたよね」とか思うわけですよ。それはたぶん、運がいいだけなんです。

財前:たまたまうまくいったんですね。

深井:たまたまですよね。運がいいだけなんだけど、もしこの人がそもそも前段階で諦めていたら、「運がいい」ということも起こらないだろうとは思うので、とにかく目指し続ける。

財前:「やり続ける」というのが、前提条件としてはあるということですね。

深井:そうです。

時代が変わっても使える、普遍的な「How to」はない

深井:でも、「結果的に成功できる」と思っているからやり続けている人は、絶対に途中で諦めるんですよ。だって、形勢が悪くなってきたら成功しなさそうだから、やる気が落ちるじゃないですか。だけど、さっき言った覚悟の仕方をしていると、形勢がどうであろうが「やるしかない」とわかっているわけだから、やるじゃないですか。

どこかのタイミングで、例えば成功率が20パーセントぐらいのチャンスが5回来たら、20パーセントの確率で、もしかしたら1回は成功するかもしれない。世界史を見ていると、どうやらそういうことが起こっているっぽいんです。

財前:ありがとうございます。偶然のチャンスを掴むことを条件でいえば、「目指すところがあって、やり続けていくこと」ですかね。

深井:そうですね。

財前:ありがとうございます。では質問をもう1個ぐらい。今は世の中の流れがすごく早いので、How Toを学んでもすぐに陳腐化されていくというか、置き換わって新しいことがどんどん入ってきますよね。

(時代の流れが早いので)そもそもの問題設定をし直したり、俯瞰的に見直して前提を変える場合に歴史思考ができることはいいんですが、解決方法として時代に影響されないHow Toはないんですか?

深井:これは「ない」とわかるのがすごく大事で、普遍的なHowtoはないんです(笑)。時代と環境が変われば「How」は必ず変わるので、絶対的な「How」は1つもないと思いますね。

財前:その時々の状況や必要性に応じて「How」を身に付けたりはしますが、時代を越えて使い続けられる「How」はなかなかないんですね。

「追い込みすぎると反撃に出る」のは、いつの時代も変わらない

深井:基本的にはないですが、再現性が最も高いのは人間関係の「How」です。「どうやったら信頼関係が結べるか?」というのはホモサピエンスの前提から来ているから、確かに、時代に左右されないものもあります。だけど、「社会的成功はどうやってやるか?」という「How」は、時代によって完全に違います。

財前:潮目が変わると、まったく使えないものになってしまう。

深井:そうですね。だから、信頼関係がなくても成功している人はしているし(笑)。だけど、人間関係はすごく再現性があります。人間は時代が変わってもまったく変わらないんですよね。

財前:それは、考え方とか?

深井:考え方は変わるんですよ。ただ、「攻撃しようとすると反撃する」とか、そういうことは変わらない。

財前:本質的なところですね。

深井:「恐怖感を与えると攻撃的になる」とか、「心理的安全性がなさすぎるとチームが壊れる」というのは、昔からあまり変わらない。喜怒哀楽が変わらないということですね。

財前:ロシアとウクライナの話で言えば、周囲があまりにロシアを追い込みすぎちゃうと「(最悪の場合、核を使うなど)反撃に出るよ」とかいうことですかね。

深井:そうですね。追い込みすぎると反撃に出るのは鎌倉時代でもそうだし、今のロシアでもそうだし、どこでもそうなんですね。

財前:なるほど、そうですね。本質は変わらないから、人間関係の「How」は基本的には変わらないということですね。

深井:そうですね。Howじゃないですが、そこはあんまり変わらないですね。それ以外は全部変わっちゃいます。

他者の考えがあるからこそ、自分の考えを認識できる

財前:ありがとうございます。次で本(『世界史を俯瞰して、思い込みから自分を解放する 歴史思考』)の話は最後にしたいのですが、「歴史を学ぶことを『教養』としてどう活かしていくか?」という質問です。「はじめてのこと、経験したことがないことについて、これはどう対応していけばいいんだろう?」とか、どうしていいかわからないことってありますよね。

その時に、知らないことなので、自分が持っている知識で対応するというよりは、多様なところから持ってくる「教養」を駆使して対応していくと思うのですが、その中で「歴史を学ぶ」というのはどのように位置付けられるのでしょうか?

深井:一番わかりやすい説明をすると、相対的に捉えられるようになること。……そんなにわかりやすくないですけど(笑)。

財前:「相対的」ですね。

深井:基本的に人間の脳は、「なにか」と「なにか」を比べることでしか認識できないんです。「なにか」と「なにか」がないと、「なにか」は存在できないじゃないですか。

財前:その関係性の中で存在する、ということですよね。

深井:そうです。なので、「自分の考えだけがあります」というのは絶対に無理なんです。自分の考えと他者の考えがあるから、「自分の考えとはこういうものだ」とわかってくるわけです。

財前:差分が出ますよね。

深井:差分が出ます。ただ、現代の思想にしか触れていないと、「日本でしか暮らしたことありません」みたいなことが起こります。そうすると、「日本って結局、どんな国かよくわかりません」ということになるんです。

でも、「韓国、中国、ヨーロッパ、アフリカに行ったことがあるし、南米にもアメリカにも行ったことがあります」だと、それらの国と比べて日本がどのような特徴を持った国なのかがわかってきますよね。歴史を勉強すると、自分の思想や自分の人格などに対して、これとまったく同じことが起こるんですよ。

現代社会は、「自分がどうするのか」を決めさせられる時代

財前:なるほど。自分の考えや行動も含めて、何かと比較することによって相対的に捉えられるようになってくるということですか。

深井:そうです。韓国と中国とヨーロッパに行ったことがあると、「東アジアってこんな感じだけど、ヨーロッパはここがぜんぜん違うわ」と、わかるわけです。そうすると、「何が東アジア的特徴で、何がヨーロッパ的特徴だったか」「これをすごく大事にしているけど、これって何だったのか?」「ルーツは何か?」とか、自分の思想の中がどんどんわかってくるんです。

ルーツがわかると実態がわかるので、それが相対化されて、目の前にボンと出せるようになる。そうなるまでは、自分の目の前にあるので見えないんですよ。

財前:ちょっと引いて見る、という感じですよね。

深井:そうですね。俯瞰してみて、初めて自分で決められるようになるんです。実は、そうならない限りは決められないんですね。でも今は、「自分がどうするのか」を決めさせられる時代だから、みんな困るんですよ。目の前にあるものだけで「決めろ」と言われているから。

歴史を勉強すると、俯瞰で見えるようになってくるので、そこでやっと初めて決められるようになるんです。それは、歴史を勉強してない人には絶対にわからないですね。時間軸を変えないと。

財前:そうですね。1つは「時間軸」というところですよね。やっぱり、歴史を学ぶことが大事ですね。

深井:大事ですけど、時間がかかりますからね。だからデータベースを作っています。

財前:今、一生懸命(深井さんが)されているところですね。ありがとうございます。

大手電機メーカーから、ベンチャー企業に転職した理由

財前:まだ本を読まれていない方もいらっしゃって、もしかしたら話していた内容が「ちょっと難しいな」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。

今お話ししたようなことが、本の中でめちゃめちゃわかりやすく書いていただいています。なので、また家に帰って読んで振り返っていただくと、「もしかしたらあの話ってそういうことなのかな?」と、つながってくるかと思います。ですので、ぜひ本を読んで復習していただければと思います。

当初お話ししていたとおり、次は起業に関してお話を聞いていきたいなと思います。まずは起業のきっかけということで、大学を卒業して就職されて、転職してから今の株式会社COTENを始めたかと思うのですが、そのきっかけを教えていただきたいと思います。

そしてさっきのお話にもつながると思いますが、「世界史のデータベースが作りたい」と決めているのは、事業としては完全にプロダクトアウトですよね。しかも「歴史」という、仮説検証がなかなか難しい分野でやっていくことに、そもそも勝算というか、持続していく道筋は始めた時にあったのかどうか。そのあたりをお聞きかせいただけますか?

深井:そうですね。まず、株式会社COTENという会社を作ったきっかけとしては、最初に大手電機メーカーに入った時にびっくりするぐらい組織が向いてなくて。「向いてないな」と思って2年で辞めたんですよ。

そのあとにベンチャー領域に入ったら、ベンチャー企業はすごく向いていたんです。ただ、楽しく働いてはいるのですが、80パーセントぐらい出したらあとの20パーセントはめっちゃ力を抜いている感覚があって、100パーセントの力を出している感覚がなくて。僕は出し切りたいタイプだったので、それが気持ち悪かったんですよね。

ベンチャーのナンバー2とかいろいろやってみたんだけど、どの会社でも100パーセントの力を出してないんですよね。

事業をめぐり、取締役とケンカに発展

深井:「まだいけるはずなんだろうな」という感覚があったので、「じゃあ、僕は何に興味があるんだろう?」と考えた時に、人文学や哲学や歴史や倫理学とか、そういう全然お金にならなさそうなことにしか、興味がなかったんです。

ベンチャーで何度も資金調達をしていたし、スタートアップでゴリゴリ働いていたから、「人文系で資金調達とかはまず無理だし、そもそもどうやって仲間を集めるべきかまったくわからんし、ハードルが高すぎるわ」と思っていたんです。

だけど、「今やっている仕事は得意だけど、100パーセントの力は注げないから辞めるしかないな」と思って、辞めて起業をしたんです。それが2016年なので、6年ぐらい前にCOTENを作りました。

最初はビビっていて。人文系でサービスを作る自信がなかったし、作ったところでマネタイズする自信がなかったので、教育系のSaaSビジネスをやっていたんです。それを取締役と2人で、開発会社で外注をしながら作っていたんです。

しかも、作ってからけっこう大きい会社に売れ始めたんですよ。売れ始めたんだけど、人文学の領域じゃないから、僕はそんなにやる気がないんですよね(笑)。

(会場笑)

深井:取締役はやる気があって、社長の僕のほうがやる気がないから、取締役に「もうこれは俺がやる!」と言われてケンカになったんですよ。

僕も一応(会社のために)借金もしているし、リスクも犯してきたし、「やる気がない」とは言っていても、やる気があるからがんばっているんだけど、「確かに彼のほうがやる気がある。怒る気持ちも正直わかる」と思ったんです。彼から引き剥がしてまで、その事業をやりたいかと言ったら、やっぱりやりたくないなと思って。

財前:「そこまでじゃない」と。

深井:「じゃあ、もうきれいさっぱり渡してしまって辞めよう」と思って辞めたんです。

崖っぷちで覚悟が決まり、自分の「やりたいこと」で起業

深井:完全に売上がゼロになって、自分の人件費も払えなくなって、「普通に倒産するけどどうしよう?」となった時に、逆に覚悟が決まって。ずっとやりたいことを探していて、それが人文学だとわかっていたんですが、ビビってやれていなくて。「もうしょうがない」と思って覚悟を決めました。

ベンチャーのスタートアップの経営はずっとやってきたので、福岡や東京のベンチャーをコンサルタントみたいな感じで助けながらコンサルフィ(費用)を貰い、そのお金を全部会社に流していました。会社でちょっとだけ人を雇って、ちょっとずつ作り始めたのが2018年ぐらいです。

2018年の5月ぐらいからそういうことをやっていて、2018年の夏に『COTEN RADIO』を始めました。

財前:そうなんですね。ついに、やりたかったことにいっちゃうんですね。

深井:やるしかないというか。いろいろ試して、ちょっとずつ成功もするんだけど失敗もするから、「どうにもなんねぇな」と思って(笑)。集中するしかなくなったという感じですかね。

財前:勝算があるとかないとか、そういうことじゃなかったんですね。

深井:そうですね。僕はITも好きで、それまではベンチャーで取締役をやっていて、社長じゃない時もベンチャーでAIを使ってたし、エンジニアも雇ってたりしたから、けっこう知っているわけですよね。

財前:そこは知見がおありだったんですね。

深井:ITの知見と歴史を使ったら、僕がやりたい人文領域が明らかに前に進むという感覚はあるわけですよ。

財前:あったんですね。

歴史を勉強することで、ビジョンが描きやすくなる

深井:当たるかどうかはわからないけど、歴史を勉強しているから、「これから世界はどうなるんだろう」というビジョンをなんとなく持っているんですよ。それを考えると、どう考えても歴史を勉強したほうがいいんだろうなと思っているわけです。

みんなは(歴史の勉強の重要性を)わかってないですが、目の前で働いている人たちを見ていると、「この人たちが僕と同じぐらい歴史を知っていたら、明らかにパワーアップするのにな」と感じていたんです。

財前:深井さんだけが気付いていた真実、みたいなところですね。

深井:実は、歴史を知っているとすごく強いんですよね。でも、彼らがその時点から歴史を勉強するのは非常に時間がかかるし、現実的ではない。なので、データベース化してGoogleみたいに引き出せるようにしたら、もっとアクセスできるかもと思って。今は需要がないけど、何年後かの世界では歴史の重要性が認識されるかもと思って始めました。

財前:なるほど。おもしろいですね。

深井:勝算はあったと言えばあったけど、そもそも今、勝っていないから(笑)。これからわかる(笑)。

財前:今、法人会員の方への新たなサービスができていますよね。

深井:そうですね。「COTEN CREW」という制度で、ちょっとずつ売上を上げているんですが、今は作っている最中なのでプロダクトはちゃんと出せてません。僕は起業家としては、「ちゃんと成功するかどうか」「プロダクトが成功するか」だけなので、COTEN RADIOは(採算は)どうでもいいんですよ。

財前:実はそうだったんですね(笑)。

深井:(COTEN RADIOは)起業家としてのやつじゃないですからね。一応、人やお金を集めるには機能しているけど。

財前:ああ、そうか。プロダクトとしてはまだ出していないですもんね。

深井:そうです。僕がプロダクトを出して、それが社会にどう影響を与えるのかが、これからの起業家としてのチャレンジです。それは今からなので、まだ何も成功していないです(笑)。

財前:社会にどう変化を及ぼすのか、そこのインパクトを見てみたいなと思いますね。

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