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西山さんと冨山和彦さんの『DXの思考法』x堀田さん・尾原『ダブルハーベスト』セッション(全7記事)

最初の3年間、売り上げ0だったGoogleが「待てた」理由 めちゃくちゃ大事なのは“抽象度を上げる白地図”の有無?

4月に新刊『DXの思考法』を上梓された西山圭太氏(著)・冨山和彦氏(解説)と、時を同じくして『ダブルハーベスト』を出された堀田創氏・尾原和啓氏の対談の模様を公開します。

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『ダブルハーベスト』には『DXの思考法』の先が書かれている?

尾原和啓氏(以下、尾原):あまりにも『DXの思考法』の話と、僕と堀田さんはアーキテクチャーの話が大好きなので、まったく『ダブルハーベスト』の話に入れていなくて。せっかく西山さんと冨山さんとお話させていただく機会なので、10分だけ『ダブルハーベスト』の話も聞かせていただきたいんですけど。

DXの思考法 日本経済復活への最強戦略

ダブルハーベスト 勝ち続ける仕組みをつくるAI時代の戦略デザイン

ぜひ逆に、西山さんが『ダブルハーベスト』を読んで、『DXの思考法』の流れの中で共通点だったりとか。そのうえで「ぜひ堀田さんにこういうことを聞いてみたいよ」みたいなこともお話しさせていただければなんですけど。

西山圭太氏(以下、西山):ありがとうございます。読ませていただいて、さっき収録が始まる前に言いましたけど。「本当にこの2冊の本はダブルハーベストになっておるな」と。いや、本当まじめに思っていて。

尾原:ありがとうございます。

西山:それこそ、それも堀田さんにも伺いたいということなんですけど。どうしても自分で書いたことを起点に考えるから、余計……。

尾原:いえ、ぜひぜひ。逆に。

西山:あの本(『DXの思考法』)に書いてあることの、ある種、先の話を書いておられるなと思ってます。私の本の中の表現で言うと、ご覧になったように「本棚にない本を探す」って書いてるんだけれども。たぶん私のイメージでは『ダブルハーベスト』で言われていることって、本棚にない本を自分で作る時に、それを1個ポツンと作るというよりは、その作り方に戦略がある。その作り方の順番とか。そのことをたぶん言っておられてるのじゃないかと思いました。

雪だるまがどんどん積み重なって増えていく「雪だるま連関性」

西山:いったん戻ると、私もそのことは、それこそ抽象度がすごく高いから、この本には書かなかったんですけど。松尾(豊)さんなんかとも議論していたりして、私も門前の小僧ですけどディープラーニングとか……。あと他の現象を見ていても、やっぱりポジティブフィードバックが働くということが、今の社会とか技術のすごく根源的なことに存在している。

つまり、みんながいろいろ勝手にやっているんだけれど、それこそレイヤーができてコンポーネントがあって。積み重ねると価値が出ちゃうという秩序が、なぜ世の中に勝手にできちゃうんだろうか? という。これは大数の法則とは違うんですよね。

つまり「いろんな人が勝手にやっていると、なんか平均値ができます」って話じゃ、たぶんなくって。どこかになんかのプロダクトができると、そこがある種の求心力を働かせて、それがまさにハーベストということだと思いますけど、雪だるま式に大きくなって。

ただそれも、単に1つの雪だるまがどんどん大きくなるんじゃなくって。その雪だるまを使った次のそれに、レイヤー的に言うと「乗っかる」。「支える」でもいいんですけど、別の雪だるまができて。

その雪だるま連関性、私の言葉で言うとレイヤー間の関係を賢く見て、次の手をどんどん打っていくと、この一つひとつの雪だるまがどんどん積み重なって増えていくということを、なおかついろんな言い方、事例で表現されているのが『ダブルハーベスト』なのかな、と……。

また、いったん逆に、元のある種の垂直統合に戻って、それ自身をつなげる別のAIという。「縦のレイヤー」みたいに使うようなお話もされていたと思うし。

あとは、本棚の例のところで触れたウォードリーっていうイギリスの方がいて。彼がなにを言っているかというと「デシタルでできたイノベーションはどんどんコモディティ化していく。なんだけども、コモディティ化することで、そのコモディティに支えられて、また次の新しいイノベーションができてくる」という、これをずっと強調しています。

たぶん『ダブルハーベスト』で書いておられるのも、そういうことなのかなと思って。私の理解が合っているかどうかわからないけど、さらにこの本を読みといて、それこそ『DXの思考法』の上に、さらに実際に数を出していくための戦略として、私なりの表現でうまく『ダブルハーベスト』の内容を広められれば、それこそダブルハーベストだなと思いました。

尾原:ありがとうございました。

大企業の経路依存性を生んでいるのはアーキテクチャー?

堀田創氏(以下、堀田):まさに「本屋にない本を探す」というところで、本の書き方の話というのは、すごく「まさに!」というポイントかなと思っていて。

『ダブルハーベスト』で一番行いたかったのは、アーキテクチャーをある程度は俯瞰していただけるような人が増えるというところ。ここがけっこう望んだ部分はあるんですよね。

エンジニアがどうやってコーディングするか? に、けっこう近い心情があるじゃないですか。エンジニアって、アーキテクチャーを作りながらアーキテクチャーに乗っかるということを同時にやるわけで。それを片方やるっていう人はあまりいなくて。普通は両方やるんですよ。

ビジネスにおいて、例えば大企業の経路依存性って、まさに経路依存性を生んでいるのはアーキテクチャーなので。アーキテクチャー自身はすばらしい、だからこそそこに没入すると、ものすごく効率が上がるんですけれども。この変化の時代においては「アーキテクチャー自体の俯瞰」と「そのアーキテクチャーの中に没入していく」ということの、行き来自体が大事で。

『ダブルハーベスト』ってなにをやっているかというと「AIっていう技術に没入する」とか、または「ビジネスに没入する」って1つのレイヤーで見るんじゃなくって、俯瞰で見るとつながりがありますよ、ということを強調して言いたかったというのがまさにありまして。

最初は大変だが、最後はちゃんと伸びる「エクスポネンシャル」

堀田:それを、じゃあ最終ゴールとして「そこになにがあるか?」というと「俯瞰したものがなんなのか?」という未来予想図をきちんと描いていくというのが一番大事だなという。だからおっしゃっていたとおり、そこがメインのメッセージかなと思っているのと、あともう1個。先ほどの中長期的に育つというところで、私が好きな言葉で「エクスポネンシャル」というのがあって。もちろん、AIの技術にたくさんのエクスポネンシャル関数が使われているわけなんですけれども。

このエクスポネンシャルの大事なところって、後半伸びるんですけど前半あまり伸びないというのがあるんですよね。なので、けっこう最初は大変なんですよ。だけど、そこをちゃんとくぐり抜けると、最後はちゃんと伸びていく。そこに対して、ちゃんと伸びるというところまで臨場感を持って3年とか過ごせるか? というのが、非常にAI戦略にも大事で。

そこって確実がないとまず無理だから。そうしないと、よく言っているのは、例えば50人の人がかかっているやつをどんどん減らしていきましょうと言うと、いきなり25人減らしていくんですけど、どんどんしぼんでいく。“逆エクスポネンシャル”みたいになっていくんですよね。

そこじゃなくて、ちゃんと育てていくという思考にしていきたいというのが『ダブルハーベスト』の大事なところで、それはやっぱり技術との相性もいいですし、それをやるにはやっぱりちゃんと、まさに「本屋にはない本を書く」ということをちゃんとやらないといけない。そこは連携したいなと思っています。

非常に重要な「白地図があるから待てる」状態

尾原:ちょうどあと2分でお時間になったので、ここで残尿感残るまとめ方になっちゃうんですけど。でも本当にそうで、やっぱりIX(インダストリアル・トランスフォーメーション)として、抽象度を上げる白地図があるから待てるし。待てるとレイヤー化が起こって、レイヤー化の先にネットワークが生まれて。ネットワークの中でそのポジティブがポジティブを生むという、そのフィードバックサイクルが生まれる。

しかもこれが前までは、いわゆるコミュニケーションとかのネットワークエフェクトだったりしたのが、AIがこれを掛け算でよくするみたいなところがあって。

でも今、堀田さんがおっしゃったように「白地図があるから待てる」ってむちゃくちゃ大事で。結局、Googleも最初の3年間ぐらい売り上げ0でしたからね。

冨山和彦氏(以下、冨山):もう、ぜんぜんぱっとしないんで(笑)。

尾原:Facebookもやっぱり同じで、モバイルが現れてテクノロジーの相性が良くなるまでぜんぜん赤字体質で。でもそこって、やっぱり投資家も起業家も将来の白地図として「絶対にそこに張ってれば、構造がどこかでよくなるに違いない。そのためにミルフィーユをどう作るんだ?」って。 

冨山:今回のメッセンジャーRNAワクチンなんかもそうなんだけど。結局、先端的な本当のトップティアのVCとか、あの人たちはなにを評価するかというと、基本的に2軸なんです。要は抽象軸と具象軸。今回、ある件である話を紹介して、また向こうのトップの連中と話をして「うーん」と思ったんだけどね。

基本的に彼らが関心を持つのは、まさにダブルハーベストな地平で「この人たちはこのベンチャー、あるいはこの技術でどれだけ大それたことをやろうとしているか」ってのを見るわけね。まさに抽象軸です。

ある意味で「アーキテクチャーで考える」のが当たり前

冨山:だからエクスポネンシャルになる可能性があるかどうかを、まず絶対条件で見るわけ。ところが日本のベンチャーコミュニティの悪い一面だと思うんだけれど、日本のVCや大企業を相手に資金調達とかやっちゃうと、なにが始まるかというと。やたら具体的な物質とかマネタイズモデルばかりをやるわけ。「これが効きます」とかどんどん矮小化……収益逓減の対数グラフになっちゃうことをやるわけね。

それを求めるようなのよ。それだから、なんか知らないけど薬になるんだったら「これは何度も何度も飲むような薬になるか?」とかって、そういう話をいきなり聞くらしいのね。

それでそっちの方向で、すごく努力していろいろ研究開発を詰めるじゃん。その詰めた内容で、要は今のバイオはアメリカのボストン周辺がトップなんだけどさ、あの辺の連中にそういうネタを持っていくと「いや、どうせこの物質がすんなりいくと思ってねーから、俺たち」って(笑)。

要するに「基本的に、君たちはエクスポネンシャルになにをやりたいんだ?」と。「そのビッグストーリーがあるでしょ?」と。ある意味「抽象度が高いレベルでも、迫力を持って語れるストーリーがあるでしょ?」と。その具体例の1つとして、具象軸によって抽象軸の説得力を高めるものとして語るんならいいけど「このプロダクトにかける」って言われたら「そんなもん、かける気ないんだバカ野郎」ってなっちゃうわけ。ここにまさに視点の違いがあって。

尾原:確かに。

冨山:だからある意味で、世界の、それこそ標準というのかな。普通はむしろダブルハーベスト的に考えるのが当たり前だし。アーキテクチャーで考えるのが当たり前なんですよ。

だからそこに僕ら自身がある意味で、これはもう日本風もアメリカ風もないんでね。普遍的な話だから。そこに僕ら自身がどこまで近づけるかという意味で、この『ダブルハーベスト』という本は僕はすごく大事です。大事な本だと思ったから、帯書き、ちゃんと受けたんだけど。

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