CLOSE

「地方×モノづくり×起業家」という選択 DAY1- 和歌山発glafit 「ペダル付き電動バイク”GFR”」の開発から、普及に向けた挑戦-(全3記事)

“縦割り省庁”の壁を乗り越えた、モビリティ業界初の試み 「前例」を作ることで生まれる可能性の意味

起業を志す人々に向け、起業に必要な知識や情報を、さまざまなコンテンツを通じて提供する「スタートアップカフェ大阪」。本セッションは、そんなスタートアップカフェ大阪主催で行われた、glafit・鳴海禎造氏の講演の模様をお届けします。和歌山県発の電動モビリティベンチャーはどのように誕生したのか。本記事では、2連続1億円突破を達成したクラウドファンディングの裏話や、「ハイブリッドバイク」というジャンルを切り拓いた取り組み、鳴海氏が考える経営者にとって大切なことなどが語られました。

新規事業で目を付けたのがクラウドファンディング

鳴海禎造氏:大久保秀夫さんにも合格をいただきましたので、自信を持って進めていこうと、次のステップに行きます。ここから「新世界編」と呼んでおりますが、次の次元に行くんですね。

とはいえ、この新規事業をやるかやらないかの議論は出てきます。なにせ、これまでの中で一番大きなチャレンジになるからです。例え四輪よりもはるかに部品点数の少ない二輪であっても、やることのリスクはいっぱいある。話し合った結果、シンプルに考えました。

絶対売れると思って全力集中で作ったものがまったく売れずに、不良在庫の山が残って、どうしようみたいな光景だけは避けないといけないので。どうしたらいいか話し合った結果、クラウドファンディングを使って事前に量産可否を確認することにいたしました。

当時、まだクラウドファンディングは一般化していなかったんですが、たまたま僕は知っていたので、こういうやり方もありじゃないかと目を付けました。2015年から2016年にかけて試作品に着手しまして、2016年にプロトタイプ1号ができます。そのプロトタイプを用いて、クラウドファンディングの準備をすることになりました。その時に選んだのが、Makuakeというサービスでした。

2016年の夏以降は、2台の試作機を使って、クラウドファンディングの準備にすごく時間をかけました。どういうタイトルとかキャッチフレーズにするか、写真撮影、動画撮影。半年以上そのことばかりやって、さまざまな準備をこれでもかというくらいして、最後の最後に全部でき上がったんで、2017年3月、ネットから申し込みをします。

目標1億円は無謀と思われた

無事開始と思うじゃないですか。ところが、予期せぬことが起きました。これちょっとオフレコなんですが、実は審査に落ちまして。クラウドファンディングができないという結果が来ました。その当時、僕はクラウドファンディングのことなにも知らないんです。この申し込みの流れできて、サービスをただ使うだけと思うじゃないですか。

申し込みの時の目標は、1,000台以上作りたい。計算したら、1台仮に10万円でも、1,000台で1億円になるんです。つまり、目標1億円以上ということですよね。

目標1億円以上で、しかも1台10万円以上の商品をやると。免許がいる乗り物だ。もうあまりにも無謀に見えたらしくて、とても真剣かどうかもわからないし、危ないやつだと思われたみたいで、却下されました。

でも、こっちは完全に本気なので、納得が行かなくて、大阪支社に乗り込んで行きました。「上の決定です。ダメだ」と言われまして、「上ってどこですか?」と聞いたら、「東京の渋谷にある」ということで、場所を聞いて、試作機の車両をカバンに詰めて、新幹線で東京渋谷に行くわけです。

渋谷のビルの13階に行って、エレベーターから降りてからバイクを組み立てて、そのビルの中で乗りまわすんです。その結果、(Makuakeの)みなさまに搭乗いただきまして。もう一度真剣に検討していただきたいと掛け合いました。

この思いが通じまして、「1,000台はやりすぎだけど、100台だけチャレンジしてみたら?」とに言われたんです。ところが、1,000台には理由があって、製造上の部品調達最低ロットがどうしてもあるので、そんな中途半端には無理なんですよね。

当時のクラウドファンディングってだいたい数百万円からで、1,000万円いったらもう上出来みたいなレベルで、単価が数万円のものを小さくチャレンジするプラットフォームだったらしいんです。そんな乗り物で十何万円のものを1億円というのが無謀に思われたようです。

交渉した結果、1色100台、4色出そうとしていたので計400台で決着が着きました。目標は低くしておかないと、1億円とか嘘っぽいので、300万円というものすごく低い金額設定にしました。

Makuakeで日本一を獲得、glafitを設立

2017年5月30日、なにはともあれ東京でクラウドファンディングのスタート、記者会見を行いました。

開始後、実は3時間で300万円を突破して、3日足らずで400台全部なくなったんですよ。僕が和歌山から帰った時はなくなってて、「あれ、どうしよう」って、逆にちょっと動揺していたんです。

また(Makuakeの)本部からお呼びがかりまして、会いに行って打ち合わせしたんですね。「すごいことになりましたね。追加しましょうか」みたいな話になって、そもそも1,000台作ることになっていたので、当然できますよと。残り600台を追加した結果、全部なくなって、合計1億2,800万円を超えた。これがたまたま、どうも当時の日本一だったので話題になりました。日本一になったというのはあとから知ったんですね。

これを受けて、(FINE TRADING JAPANと)同じパターンなんですけど、glafit事業をスピンアウトして、新会社として設立することになりました。これがglafit株式会社で、一番最近作った会社になります。この会社の理念は、「移動をエンターテイメントに変え、人々の生活を豊かにすること」。スローガンは「移動を、タノシメ!」です。

「メイドイン和歌山」を実現

クラウドファンディング後の一般販売経路はオートバックスさんにお願いしました。やはりずっと前の会社からカー用品事業を展開してきて関係もあったし、よく知っていたので目を付けました。

うまく提携ができ、その後、ありがたいことにヤマハさんからお声がけいただいて、発動機と資本業務提携を行ったり、パナソニックさんからご連絡をいただいて、リチウム電池分野における取り組みをスタートするということで、最近では共同開発した電池パックを出させていただいたり。和歌山にある、ノーリツ鋼機の後継になるノーリツプレシジョンと資本業務提携させていただいて、ここの工場の中で生産をさせていただいたりと。

冒頭の和歌山の紹介を思い出していただくと、ヤマハもパナソニックもノーリツも、全部和歌山にゆかりがありまして、すごくご縁を感じております。和歌山県や和歌山市からも「全面的にバックアップしますよ」と応援をいただくこととなりました。この時3億円ほどの資金調達もしました。

ノーリツさんの(工場の)中で作っている様子です。これでおかげさまでメイドイン和歌山。和歌山フィニッシュと言ったらいいのか、和歌山製みたいなかたちの意味合いもしっかりと出せるようになりまして、クラウドファンディング後もいろいろ紆余曲折はあったものの、おかげさまで、気が付くと約3年で5,000台を超えるハイブリッドバイクを出荷しました。

クラウドファンディング史上初の2連続1億円超えを達成

去年の4月で在庫がもうなくなりまして、その後生産はしておりませんので、5,000台を一旦売り切りました。生産していないのは、GFR-01をiPhoneみたいにアップデートして、02という次のモデルを去年の10月に発表させていただいたんです。ちょっとタイムラグが空いちゃったんですけど、その間は在庫がずっとない状況でした。

実は去年の5月末、(最初のクラウドファンディングをスタートした)2017年5月30日からほぼ丸3年経って、またまたMakuakeを使いました。それは、ハイブリッドバイクシリーズとは別の新規ラインナップ。これもずっと2年がかりで水面下で進めてきた、新規のモビリティをモデル追加してクラウドファンディングしました。またまた記者会見のかたちで発表したんです。これがどうなったか。

(動画再生)

動画があるんですけど、これもホームページのglafit.comで見といてください。1つ目の製品は「漕がなくても進む自転車」。もはや自転車じゃないということで、ハイブリッドバイクとしました。今回は立ち乗りの、いわゆるキックボードのようなかたちなんですけど、キックしないで進むキックボードなので、もはやキックボードじゃないということで、「X-SCOOTER LOM」という名前で発表しました。

ありがたいことに、前回を超える1億5,500万円ほどが集まりまして、またまた大きな反響をいただきました。2連続で1億円超えも、この時史上初だったんですね。

乗り物だけでなくすべてをアップデートする

私たちの取り組みなんですけど、別にモビリティを作って終わりとは思ってはおりません。単に乗り物を作っても、それを走らせるための環境やサービス、すべてをアップデートしないと、本当に自分たちの理念を遂行できないと思っております。

1つの事例がこれです。自転車のようなバイクなのでややこしいんですけれども、かたちは自転車で、手元のアクセルスロットルを回すと、漕がずに一瞬で30キロ(ものスピードが)出てしまうんですね。これは法律上の区分上で完全に50ccの原付バイクになります。

別にアクセルで進む時は原付バイクでもいいんですけど、せっかく自転車と同じ機構が付いているので、いわゆるアクセル使わずにペダルを漕ぐ時は自転車になりたい。みんなだいたいできると思うんですけど、すでに警察庁がこういう発表をかなり前からしています。

「いかなる場合も、電源オフしようがバッテリーを抜こうが、どんなことをしてももうこれは原付です」と。上位互換というか、上位の機能に引っ張られて法律を判断するので、その時たまたまアクセルを使わなかったとしても、電池がないとしても、それは一番最高性能である原付として見なしますということです。

これ、便利なようでちょっと不便だなと。なんとかしたいと思いました。約2年前にある新しい法律を発見しました。サンドボックスという、当時の時限立法だったんです。

規制改革の一環として、もともとグレーゾーン解消とかさまざまな制度があったんです。けっこう大変なのが、省庁って縦割りなんですけど、省庁が縦割りでも世の中いろんなことが全部横軸でつながっているんですね。

となると、ある省庁に相談に行っても、あっちこっちたらい回しにされてしまい、なかなか規制改革がうまく進まないので、一元化した窓口を作りますと。2年ちょっと前に初めて新しい試みとして国が用意してくれたのが、サンドボックス制度。その窓口が、内閣府の中に設置されました。

これに申し込みをしましました。しかもその申し込みする時に、さっき和歌山県と和歌山市が全面バックアップってあったと思いますけど、この時は和歌山市長に「よかったら共同で申請しませんか」と声をかけて、和歌山市と連名で出しました。

これが初めて行政と共同申請した事例で、今もうちしかないと思います。かつ、この申請自体を正式受理されたのが、モビリティ分野として初めてでした。

5つの省庁を横断した「機構」を開発

受理されたところで、法律が変わるわけではありません。なので、ここから実証実験を行っていきました。これが実証実験の事例です。

この実証実験とさまざまなやりとりを経て、結論、昨年10月の革新的事業活動評価委員会で、私たちの思いが通じまして、国から認めていただくことになりました。

どういうことかといいますと、新しい機構を私たちが開発しました。ナンバープレートにカバーを掛けて見えなくなった時は、自転車の扱いを受ける。ナンバープレートが見えている時はバイクの扱いを受ける。嘘のような本当の話なんです。

ちょっと注意点がありまして、勘違いされている方がいるんですけど、単なるカバーではございません。このカバーとシステムがリンクしていて、ちゃんとカバーを被せた時は「自転車ですよ」という表示とともに、アクセルが使えなくなるようになっております。そういった機構の全般をすべて網羅して認めていただいて、私たちが特許も取りました。

この結果、なにができるようになったかというと、なんと、ある時は原付、ある時は自転車になります。この横断って、実はけっこうすごいことで、原付の所管は国土交通省なんですよ。縛られている法律は「道路運送車両法」。軽車両は、経済産業省なんですよ。しかも、この軽車両に関する法令もあります。

さらに道路で走らせた時は、「道路交通法」という警察庁の管轄になります。これだけじゃないんですね。ナンバープレートは、実は総務省の管轄です。さらに道路交通法違反があって捕まった場合は、法務省が関係してくるんですね。今登場したすべての省庁から了解を得ることで、なんとか認められました。

「乗り物の形が変われば法律も変わる」という前例をつくった

私たちglafitは普通自転車として、言っちゃえば歩道も走れるような、そして電動バイクとして車道も走れるような、本当の意味での「ハイブリッドバイク」というジャンルを切り拓くことができました。

ちょっと戻ってこれも覚えておいてほしいんですけど、たまたまバイクと自転車が行き来できるからいいだけじゃなくて。これが前例となってすべてに適用される可能性があるんです。

つまり、どこがチャンジしてもいいんです。ここで認められたのは自転車、バイクとかっていう話じゃなくて、「1つのものが変形して法律も変わる」という前例なんですよ。今後、例えば車が飛行機になったり、ある時はロボットなんだけど、人間が乗れるかたちに変形するかもしれないじゃないですか。僕の好きなアニメでもそういうのがあるんですよ。

人も乗れるけど単体でも動くとか。全部、法律の区分が切り替わらないと無理ですよね。こういったことをどうしていくか、という「前例」と見ています。

「体験の積み上げ」が、失敗を恐れずに乗り越えていく力になる

最終のまとめなんですけど、ご覧いただいたように私は本当に失敗の連続で、今も現在進行形で失敗の紹介はまだ足りてなくて、いろいろあります。

ただ、まぐれかもしれないんですけど、起業して25年ほど、会社設立から18年ほど、ギリギリ続いてきています。ほぼなくなりかけていましたけど。今も危ないかもしれないですけど、ずっと続いてきた事実と、国内外で約40名の仲間ができた事実は、すごく自信をもっています。

最近いろんなところに呼んでいただいて、勉強される方が非常に多いんだなって感心するんですけど、失敗を恐れず、乗り越えていく力は、最後は知識ではなくて、自分自身の体験の積み上げが重要だとはっきり言います。

知識でたくさん情報を得ていても、本気でしないといけない大きい決断の時に「ネットに書いていたから」とか、「人から聞いたから」ということで、自分の人生を大きく左右する決断を下すのは、ものすごく難しいんじゃないかなと思うんです。

やはりその時、自分が過去に失敗したことや、小さくてもうまくいったこと。ジャンルが違ってもいいんですよ。「あの時ああやってうまくいったから、ぜんぜん違う状況だけども、こうやったらうまくいくじゃないか」みたいなことを、自分の中で読み替えて変換して、いつか来た道というかたちで、最後は自信を持って決断できるかにかかっているのかなと思います。 

ビジョンがあればどんなことも実現できる

僕の好きな言葉で、(『ワンピース』の)ルフィの「おれは助けてもらわねェと生きていけねェ自信がある!」というセリフがあるんですけど、僕も本当にできることはありません。まともに大学とか出ていないし、専門の知識もないです。就職経験もございませんので、社内でも本当にできることは少なくて、ほぼほぼ現場に出ても役立たずな状態なんですけど。

1点、「どうしても仕事を通じてこれを実現したいな」というビジョンだけはある。これしかないんです。なので、経営者は簡単に諦めない強い想い、ビジョンを自分の中で育てることが、最後まで向き合うべきことなんだろうなと強く思っています。

ビジョンを持って多くの仲間と共有することができたら、どんなことでも実現できるんじゃないかと、僕自身本当に強く確信を持っています。これを最後の言葉とします。ありがとうございました。

(会場拍手)

続きを読むには会員登録
(無料)が必要です。

会員登録していただくと、すべての記事が制限なく閲覧でき、
著者フォローや記事の保存機能など、便利な機能がご利用いただけます。

無料会員登録

会員の方はこちら

関連タグ:

この記事のスピーカー

同じログの記事

コミュニティ情報

Brand Topics

Brand Topics

  • 各地方の豪族的な企業とインパクトスタートアップの相性 ファミリーオフィスの跡継ぎにささる理由

人気の記事

人気の記事

新着イベント

ログミーBusinessに
記事掲載しませんか?

イベント・インタビュー・対談 etc.

“編集しない編集”で、
スピーカーの「意図をそのまま」お届け!