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マイクロツーリズムと酒蔵の可能性(全5記事)

発売当初は「なんじゃこりゃ!?」と言われたビール界の新星 ご当地ビールから全国へと羽ばたいた『よなよなエール』

日本酒ファンの増加や将来のマイクロツーリズムへ繋げるためのイベント「サケソニック」が開催されました。「マイクロツーリズムと酒蔵の可能性」をテーマに行われた基調講演には、株式会社ヤッホーブルーイング代表取締役社長の井手直行氏、株式会社KURABITO STAY 代表取締役社長の田澤麻里香氏、モデレーターに面白法人カヤック 代表取締役 CEOの柳澤大輔氏が登壇。本記事では、お酒を通して新しい事業を展開したお二人の、これまでの経歴が語られました。

元ワインインポーターがなぜ日本酒の世界に?

柳澤大輔氏(以下、柳澤):みなさん、こんばんは。カヤックの柳澤です。今日は(長野県)佐久市に非常に縁の深いお二人です。タイトルが「マイクロツーリズムと酒蔵の可能性」。これがいったいどういうことなのか、聞いていただくとわかるようになっていますし、かなり可能性を感じるテーマだなと思います。

今はコロナでこれから緊急事態宣言も延長されると聞いていますけれども。それが明けたら爆裂しそうな、すごく魅力ある佐久エリアの魅力を、より存分に感じていただければなと思っています。

僕のほうはこれくらいにしまして、さっそくお二方の自己紹介タイムにしていただければと思います。まずは田澤さん、お願いします。

田澤麻里香氏(以下、田澤):みなさん、こんばんは。サケソニックをご覧いただきまして誠にありがとうございます。今、柳澤社長からご指名いただきましたので、簡単に自己紹介をさせていただきます。

今、ご紹介いただきました、株式会社KURABITO STAYの代表取締役を務めております、田澤麻里香と申します。私は社会人になって最初に、旅行会社に勤務をしました。

そこで当初はヨーロッパの担当をしていたんですが、ヨーロッパの担当をするうちに、日本の良さにも改めて気付くような機会がありました。ただ、当時は特にワインにハマっていた時期で、まだその時は日本酒にぜんぜん目覚めていなかったです。

そして、ワインのことをよりプロフェッショナルに勉強したいと思い、旅行会社のあとにワインインポーター(ワイン輸入専門商社)に転職をした、そんな経験もあります。

そんな私が、日本酒とご縁をいただくようになったきっかけは、2016年に小諸市で観光局を立ち上げるというお話があった時です。「これまでの自分の経験を活かしてふるさとの役に立てることがしたい」と思っていた私は、こちらに応募しました。夫を埼玉に残して、当時2歳だった息子と2人で、実家に居候するかたちで単身赴任をしました。

小諸で1年間、この観光局の立ち上げに携わりました。以前は、お客さまを旅行会社側ですでにできあがったものへと送客する仕事だったんですが、今度は地域側に身を置いて、0から1に変える仕事。

「すでにあるものを磨き上げること」から、「地域を元気にすること」にとても興味を持ちましたし、やりがいも感じました。Uターンをしたまま、平日は埼玉で週末は小諸の2拠点で生活をするようになりました。

世界初の「酒蔵ツーリズム」ができるホテル

田澤:そんなことをしているうちに、柳澤社長の面白法人カヤックさまも協賛企業になっておられる、ソーシャルビジネスのプレゼンテーション大会があったんですけれども、そちらに参加させていただく機会がありました。本当に自分でもビックリなんですが、その全国大会でグランプリを頂戴したことがきっかけになりまして、2019年に会社を設立しました。

13蔵の酒蔵がある酒処、ふるさとの佐久を「世界で一番楽しい酒蔵ツーリズムができる場所にしたい」と思って、現役の酒蔵の敷地内に蔵人となって寝泊まりしながら日本酒作り体験ができる、世界で初めての宿をオープンすることになりました。

私たちの会社は、一般的なホテルのように、お客さまを囲い込むビジネスモデルではございません。のちほど詳しくご紹介いたしますが、朝ご飯以外、お昼と夕ご飯は「橘倉酒造さん(江戸・元禄より三百数十年の歴史を持つ蔵元)のある、臼田の商店街に召し上がりに行ってくださいね」と、積極的に地域周遊を促しております。

また、バスツアーなどの企画もしております。13蔵の酒蔵を巡ったり、時にはワインと日本酒を比較するようなツアーも企画しながら、(長野県の)東信エリア一帯を楽しんでいただけるような取り組みを行っております。さまざまなソーシャルビジネスの大会でも、この取り組みが評価をいただいております。

のちほどご紹介しますが、こちらが酒蔵ホテルの外観です。地元のデザイナーさんと設計士さんが、築100年の古民家をこんなに格好よくリデザインしてくださいました。

本格的な日本酒作り体験と、快適な滞在ができる宿泊施設。さらにバスツアーなどを組み合わせた3つが(体験)できるのが、KURABITO STAYです。現在、国内外の日本酒ファンの方々にご注目いただいております。

2020年7月から宿の再開をしまして、約110名さまのお客さまに蔵人となって橘倉さんの大切なお酒を仕込むという、本当に神聖で神秘的な作業に携わっていただきました。実は、柳澤さんにも2ヶ月ほど前にお越しいただいて(笑)。大変一生懸命に日本酒を仕込んでいただきました。のちほどこの館内もご案内させていただきたいと思います。今日はよろしくお願いします。

柳澤:よろしくお願いします。ありがとうございます。最初のアイデアをしっかりとかたちにされて、現在は経営者として手腕を指揮されているのがとても印象深いです。続いて井手さんです。お願いします。

数々の賞を受賞したビールメーカー「ヤッホーブルーイング」

井手直行氏(以下、井手):こんばんは、みなさん。自己紹介は簡単に。私、井手と申しまして、ニックネームが「てんちょ」と言います。インターネットショップの店長をずっとやっていた名残で「てんちょ」と呼ばれているので、そんなふうに気軽に呼んでいただければと思います。

私、実は福岡の久留米市出身で、高専という工業の学校を出ました。今の会社に入る前に3回転職して、3社を経験しているんです。1回会社をクビになりましたが、経営者と仲良くなってまた同じ会社に入ったことがあるので、入社4回というとちょっと数字が合わないですよね(笑)。

1997年にうちの会社の創業時に営業として入って、2008年から社長になりました。今、500社近くあるクラフトビールの日本のシェアの中ではナンバー1の位置づけです。

いろいろと賞をいただいていて、長野県の「地域未来牽引企業」という、地域の中で今後成長を期待される企業ということで賞をいただいていたり、Great Place to Work®という、働き甲斐のある会社のベストカンパニーに4年連続で選んでいただいております。

あと、フィリップ・コトラーさんというマーケティングの神さまの名前を冠にしたマーケティングの最高峰の賞、KOTLER AWARD JAPAN。2年前、1社だけ選ばれる最優秀賞に選んでいただいたり。マイケル・ポーターさんという戦略論の大御所の名前を冠にした、ポーター賞という戦略の最高峰の賞なんですけど、昨年はこちらもいただきました。

地域で比較的期待され、いい組織もまあまあでき、マーケティングもそこそこでき、戦略もまあやるじゃないといった感じで、小さい会社ながらがんばっております。

コロナ禍でビール業界が不振でも、18年連続増収

井手:看板ビールが「よなよなエール」で、ご存じない方もいらっしゃるかもしれないんですけど、これは1997年に我々がビール作りを始めて一番最初に作ったビールなんですね。今年でなんと24年目と、競争が激しいビール業界の中でがんばって生き延びております。

コンセプトは「家庭で飲める手頃な本格エールビール」。ブランドキャラクターは「知的な変わり者」。この“知的”というのを大事にしています。ただの変わり者だとお馬鹿さんになっちゃってあまり格好よくないんで、知的さを入れるようにしています。

斬新なデザインやネーミングは今でも珍しいんですけど、24年前に発売した当時は「なんじゃこりゃ!?」というふうにけっこう言われました。飲んでいただくとわかるんですが、すごく個性的な味で、あきらかに大手ビールメーカーさんと飲み比べると違う。「これは何だ?」というものを世に出しました。

一時期、発売してしばらくはちょっと苦戦をした時期もあったんですけど、その後なんとかがんばって売上の業績を出して、今は18年連続増収中です。コロナでビール業界もかなり厳しいんですけれども、おかげさまで昨年もかなり増収を上乗せしました。

製造業、特にお酒の業界はなかなか市場がシュリンク(収縮)して、みなさん困っている業界なんですが、そんな中でもIT企業みたいな成長を遂げている。たぶん、日本で唯一ビールでこういう成長を遂げている会社なんですね。

完売続きの「大人の醸造所見学ツアー」

井手:今日の話題に少し近いところでいくと、橘倉さんの酒蔵から近い、同じ佐久市に我々の醸造所がありまして、「大人の醸造所見学ツアー」というのを毎年やっております。ただ、去年はコロナで醸造所に人をいっぱい呼ぶのは難しかったので、初めて中止しました。

一昨年までは、毎年7月から10月の土日祝日に、一般の方に向けてツアーを開催していて、非常にこれが人気でした。完全予約制、だいたいお一人1,000円でひと夏(動員が)3,000名と、こういうツアーを毎年やっておりました。

1回のツアー人数を制限していまして、3,000名がマックスなんですが、毎年毎年あっという間にチケットが完売します。(他社の)酒蔵にも見学できるところはたくさんあるんですけど、我々がちょっとひと味違うのは、いろんなスタッフが自ら案内をするところなんですね。

受注・製造・営業の人間も、いろんな社員が総出で、日替わりで毎回交代で現場に出る。ガラス越しじゃなくて、(ビールを)作っている近くまで行って、しかもホスピタリティ豊かに自分の言葉で説明をします。原料を食べたり、原料の説明をしたり。何種類かビールを作っているので、お客さんにテイスティングをして、「この味はこういう特徴があって」なんていうのを、いろいろと間近でやって。

トップ2ボックスっていう、「満足」「非常に満足」という満足度の指標を毎回アンケートで採っているんですけど、これがなんと95パーセントと、普通の見学では考えられないような満足度を出しています。

ただ見学するだけじゃなくて、スタッフがいろんなコンテンツを見学の間に盛り込む。お客さまが感動するような、コンテンツ事業みたいな感じですね。

パッと回れば5分くらいで見終わるような小さな醸造所を、100分ぐらいかけて見学をする。今回の企画(マイクロツーリズム)とちょっと似ているので紹介させていただきました。今日はよろしくお願いします。

柳澤:ありがとうございます。お二方の自己紹介の中に、今日のテーマにある「マイクロツーリズム」のキーワードがすでにもう入っていたかなと思います。

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