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CBcloud株式会社 代表取締役CEO 松本隆一氏(全1記事)

パイロット志望の若者が、国交省職員を経て起業 物流業界の改革を志すベンチャー企業の哲学

物流クライシスと言われる社会的課題を抱える物流業界で改革に取り組むCBcloud株式会社。創業社長である代表取締役CEO・松本隆一氏のインタビューです。創業時から現在までの道のりや、今後の展望などが語られました。※このログは(アマテラスの起業家対談の記事)を転載したものに、ログミー編集部で見出しなどを追加して作成しています。

沖縄生まれ沖縄育ち、野球とインターネットに夢中だった子ども時代

藤岡清高氏(以下、藤岡):まず、松本さんの生い立ちや家族構成についてお聞かせいただけますか?

松本隆一氏(以下、松本):私は沖縄生まれ沖縄育ちで、両親と妹が3人の6人家族です。父は当時まだ米国領だった時代の沖縄の大学出身なのですが、沖縄の教育環境が整っていないことに問題意識を持ち、教育事業を興しました。沖縄の子どもたちの学力のボトムアップを目指し、学習塾を30校ほど経営しています。

父は夕方から塾に出社して夜遅くまで仕事をしていたため接する時間は短く、主には母に育てられましたが、父のことは経営者として子どもの頃から非常に尊敬していました。

藤岡:幼少期について、とくに覚えていらっしゃることはありますか?

松本:とにかく負けず嫌いで真っ直ぐな性格でした。小中高はずっと野球部で、体育会系です。その一方で小学生時代からパソコンも大好きで、インターネットに繋いでゲームなどを楽しんでいました。中学入学後すぐに携帯電話を持ち始めましたから、当時にしてはITリテラシーの高い子どもでした。

パイロットへの憧れから航空管制官を目指し、航空保安大学校に進学

藤岡:地元の進学校であった中高一貫校卒業後、航空保安大学校に進学されたとのことですが、どういった理由で選ばれたのでしょうか?

松本:子どもの頃の夢はパイロットでした。視力が悪いので諦めていたのですが、ふとした時に航空管制官という仕事を見つけました。調べてみると9月に航空保安大学校の試験があることが分かり、高3の9月に受験したところ合格したので、進学することにしました。

藤岡:航空保安大学校はどのような学校なのでしょうか。

松本:航空管制官になる人は必ず通らないといけない道です。非常に特殊な学校で、入学と同時に国交省職員の肩書きを持ち、給与をもらいながら2年間勉強します。

1学年20名前後の小所帯、しかも在学中は寮生活でしたので、非常に密度の濃い生活でした。仲間意識は強かった反面、外界との接触はほぼ皆無でしたので、私の中ではある意味で「失われた2年」という後悔も少しあります。

藤岡:卒業後はどちらに勤務されたのですか?

松本:卒業後は各地の空港にそれぞれ配属されます。私は元来の負けず嫌いもあり、最も発着量が多くてやり甲斐のありそうな羽田への配属を希望し、配属されました。

航空管制官は航空機の離発着の許可をはじめ、他の航空機の情報や様々な指示をパイロットに伝え、安全にフライトができるよう空の交通整理を行っています。私は常に同時に20機ほどを担当していましたが、瞬時の判断が求められる、非常に頭脳を使う仕事でした。

航空管制官経験で得たものは、コミュニケーション力と決断力

藤岡:航空管制官の経験から得たものが現在の仕事に繋がっていると感じることはありますか?

松本:2つあります。1つはコミュニケーション能力です。18歳で国交省職員となり、20歳で羽田に赴任したので、教官を含めて社会人と日々対話していました。また、空港の航空管制官は『レーティング』というもので評価されるのですが、その試験はチーム全員の賛成がないと受けられないというルールなのです。どんなにスキルがあっても他スタッフから嫌われたらダメですから、人とのコミュニケーション力は非常に鍛えられました。

物流業界の中で私はまだ若手ですが、ステークホルダーや経営者の集まり等で一経営者として扱っていただき、可愛がっていただけるのは、対話やアライアンスの中で常に相手の求めていること、喜ぶことを用意することを心掛け、それを評価いただいているからだと思っています。

もう1つは決断力です。航空管制官は、飛行機がどんどん飛んでくる状況下で迅速に責任ある決断を行うための思考力や危機意識、そして、何か起こった際のリカバリー策を3手4手は持っている必要があります。

それはビジネスにおいても活きていて、仮に自分の意思決定が誤っていた際にもリカバリーして成功に持っていけるよう、スピードを持って決断する癖がついていると思います。

国交省を退職。義父の急逝により配車サービス事業を引き継ぐ

藤岡:起業の経緯についてお聞かせ下さい。

松本:2012年に義父が配車サービス事業を始めたのですが、プログラミング知識のある私が配車の流れをデジタル化するシステムを作ったのがきっかけです。

義父はもともと軽自動車の販売会社を経営していたのですが、仕事を通じてドライバーが置かれている理不尽な状況を知り、義憤を感じていました。

彼らは軽トラックなどを利用して荷物を配送する「軽貨物運送」に従事していますが、往々にして条件の悪いスポット配送を半ば強引に依頼されることも多く、過酷な環境下で働いています。

この理不尽な構造を改善するために配車サービス事業を開始した後、義父から「一緒に起業しよう」という誘いを受けたのですが、システムが完成しこれから一緒に事業を進めていこうとした矢先の2013年に急逝してしまいました。私が国土交通省を退職した翌月のことです。そこから私が事業を丸ごと引き継ぎ、会社経営をしながらドライバーなどの実務を行うこととなりました。

そして、日々ドライバーの方々と接する中で、彼らの持つ高い配送技術に反して待遇面で過小評価されている現実を目の当たりにしました。全国のドライバーの環境を根本的に変えたいという思いが徐々に募り、2015年末にそれまでの事業を全てリセットし、ベンチャー企業として現在の『PickGo』の構築に乗り出したのです。

藤岡:PickGoとはどのようなサービスなのでしょうか?

松本:フリーランスドライバーと荷主を即時につなぐマッチングプラットフォームです。登録ドライバーは荷主とドライバーをマッチングするサービスにおいて日本最大の15,000名を超えています(2019年10月現在)。最近では「一般貨物車」と呼ばれる軽貨物だけでない大型の荷物まで対応できるようになりました。

PickGoの大きな特徴は、ドライバーの評価制度を導入していることです。ドライバーの評価がシステム上にプロフィールとして反映されるため、努力した評価の高いドライバーほど仕事を獲得しやすくなります。また、PickGoのマッチング率は99%を超えており、荷主は依頼してから1分以内で配送可能なドライバーを見つけることができます。

法人の荷主向けの配送だけでなく、自社物流網の構築を検討している企業からの要望が強い、複雑な宅配現場を効率化するための宅配ソリューション「LAMS」についても現在ローンチ準備を進めています。

私たちの役割は、これまで仕事を選ぶ自由もなかったドライバーたちに、弊社のサービスを使ってもらうことによって自分のやりたい仕事を選択できる仕組みを整えることだと考えています。

例えば、ドライバーは空いた時間にエントリーができるので、緊急配送と宅配などを自由に組み合わせて柔軟な働き方が可能になります。下請け時代と違って自由度の高い仕事として認識されれば、ドライバーのなり手も徐々に増えていくことが期待できます。

実際「ドライバーになりたいが車がない」という声から2018年7月から軽貨物車両のリース事業も開始しました。こちらも反響が大きく、現在は100名程の方にお待ちいただいており、着実に新しいドライバーが誕生していることを実感しています。

強い思いと信頼関係で人材を集める

藤岡:起業されて6年ほど経過していますが、その間に様々な壁にぶつかることもあったと思います。松本さんがそれらをどのように乗り越えたのでしょうか? まずは、当初の人集めはいかがでしたか?

松本:先にお話しした通り大学の同級生も少なく、ネットワークが乏しかったので、客観的には大変だったのかも知れません。そんな中でも、義父への思いやドライバーたちを助けなければという思いは私の中でとても強いものでしたので、あらゆるツテを辿り、できる限りの努力をしました。その結果、人が集まってくれたと感じています。最初に入ってくれたのは航空管制官の同期でした。次は高校時代の同級生です。

藤岡:彼らをどのように口説いたのですか?松本さんの熱い思いを伝えたのでしょうか?

松本:彼らは私が昔から負けず嫌いでいつでも1番を目指していたことを知っていますから、事業内容うんぬんは何であれ、私がやると決めたらやるだろうと思ってくれたのだと思います。そういう意味では、この事業に深く共感したことに加えて、私とのこれまでの付き合いから私個人を信頼して参画してくれたのだと思います。

義父の会社を営業譲渡し、新事業に全力を注ぐ

藤岡:資金面はいかがでしたか?最初の頃は、人を雇うお金にも苦労する経営者が多いのですが。

松本:資金は全くありませんでしたので、義父の住んでいた家に家賃ゼロで住み、事業もそこでやっていました。お給料もあまり出せなかったので、妻の作ったご飯を朝昼晩みんなで食べていました。

藤岡:そういう苦しい時期から拡大フェーズに乗っていくきっかけはどこにあったのでしょうか。

松本:義父の残した会社を営業譲渡したことがきっかけです。ドライバーの環境改善のために頑張っていましたが、義父の残した会社を維持しながら事業を大きくすることは難しいと判断しました。旧態依然とした運送会社の形態と新しいプラットフォームサービスを融合させることが困難だったこと、当時2名体制だった私たちには両方を続ける体力がなかったことなどが主な理由です。

2015年末に義父の会社を他の運送会社に営業譲渡し、私たちは新しい事業に集中することにしました。24時間体制で行っていた配車サービスから解放されたものの、売上はゼロになりました。

しかし、これが奏功してプラットフォームや新サービス作りに集中できるようになり、半年後の2016年6月には最初のプラットフォームをリリースしました。

貴重な出会いが資金調達や支援に繋がる

松本:サービスリリースに向けて注力する中、貴重な出会いにも恵まれました。リリース前のテストでドライバーやネット上で募集した一般の方などに新サービスのフィードバックをお願いしていたのですが、ある個人荷主の方から非常に多くのアドバイスをいただきました。

そこで、最後にお礼も兼ねてその方に会いに行ったところ、福岡で有名なベンチャーキャピタルF Ventures LLP有限責任事業組合の代表である両角氏であったことが分かりました。両角氏とのご縁からベンチャー業界との接点が生まれました。資金調達等の具体的な知識もないまま動いていましたから、本当に助かりました。

そんな折にKDDI株式会社の『∞Labo』というベンチャー支援プログラムに採択していただき、そこでも多くの出会いがありました。弊社執行役員の皆川は当時のKDDI株式会社側の運営責任者ですし、メンターだったGoogle LLCの方が社外取締役として参画してくれました。このように、要所要所でタイミング良く人に助けられてここまで来られたと感じています。

藤岡:最初の資金調達はその頃ですか?

松本:はい、2016年の秋に株式会社KVPから調達しました。

資金調達の流儀も分からず、資料もできていない状態で株式会社KVPの代表取締役社長である長野氏に会いに行きましたが、ひたすら説明を聞いていただき、その熱量で投資を決定していただいたようです。チャンスがあればどんな手段を使ってもやり切る姿勢を評価していただけたのではないでしょうか。起業当初の資金的な壁はここでいったん乗り越えることができました。

「ボトムアップで運送業界を変える」という強い思いがクライアントに浸透

藤岡:プロダクトについてはまだ成長過程とは思いますが、最近はメディアに取り上げられることも多くなり、かなり認知度が高まってきたように感じます。松本さんは、ユーザからの評価が得られ始めたと実感するタイミングはありましたか?

松本:起業以来、本当にひたすら前だけを見て突き進んで来ましたが、明確にここだというタイミングは思い浮かびません。我々のプロダクトが大きく運送業界の人たちに刺さるものだという信念が通じたのだと思っています。

現場サイドを経験してきたからこそボトムアップでこの業界を変えていきたい、ドライバーの存在があるからこその運送会社、物流業界であるという考え方でプロダクトを作っているという思いを商談のたびに伝えて来ました。

運送に従事している誰もがドライバーの重要性や大変さ、そして明るい未来が見えない現状を感じています。その核心を我々が突き、代弁していることに共感していただけて、徐々にクライアントに浸透したのだろうと分析しています。

プロダクトができたばかりの時から付き合いのある、誰もが知っている企業に認められたことも、その後のドライブのきっかけになったのかもしれません。

「使えるプロダクトの開発」への強いこだわりで、事業開発の壁を越える

藤岡:現在はPickGoの登録ドライバー数が15,000名以上、そして配送マッチング率は99%を超えているということですが、システム的な使いやすさがないとここまで来られないと思います。どこかのタイミングでユーザのブレイクスルーや、サービスの質をグッと上げる改善などがあったのでしょうか。

松本:プロダクトにはすごくこだわっています。利用者に使ってもらえなければプロダクトの意味をなさないという思いが強いので、UI/UXや文字サイズ等プロダクトの細部もぎりぎりまで検討し、仮にリリースが明日でも、文字サイズ1つ、ボタン1つがそれを使用する現場の人たちにマッチしないと思えば、私の判断でリリースを延ばします。

今考えると、事業開発においてはさほど大きな壁にぶつかっていないのですが、それはシステムへの強いこだわり故だったのかもしれません。

航空管制官時代には飛行機と飛行機の間の距離を測る良質のレーダーがあったにも関わらず目視確認が求められるという現場のリテラシーに遅れを感じていましたが、今はシステムの提供側として現場のリテラシーに合わせて機能をそぎ落とし、世の中的にダサいと言われても使う方にちゃんと使ってもらえるようなシステム作りを目指しています。

成長に向けた最大の課題は、新たな人材の採用

藤岡:現在松本さんが感じていらっしゃる経営課題はどのようなものでしょうか?

松本:採用面には確実に課題があると考えています。組織にしてもプロダクトにしても、それらを作るのは人でしかないと考えていますので、ここから新しいフェーズに入って会社を急成長させていくためにも、もっとスピードを持って採用を進めなければいけません。

しかし、採用は会社という身体に新しい血を入れることです。市場から期待されているスピードや事業規模、アライアンスなどに対応した採用が果たしてできるかというところには非常に危機意識を感じています。

慎重に採用を進めてきた結果、エンジニアや営業、事業企画、バックオフィスといった多くのポジションが空いている状態になっていますので、是非アマテラスにご協力いただきたいと考えています。

藤岡:とくに必要としているのはどの分野でしょうか?

松本:まずは、既存事業を大きくグロースさせたり、新規事業の立ち上げを一緒にしていただける事業企画責任者の採用強化をしています。

実は現在これまでとは全く違う新規事業を計画しています。社会的インパクトもあり、物流業界やドライバーに貢献できると確信しているにも関わらず、それを推進していく人材のリソースが足りません。早めの種まきが重要なのに…という焦りもあります。

また、現在登録している15,000名以上のドライバーのレーティング機能のあり方を模索しています。このレーティング機能は間違いなく我々の資産になりますし、今後何か新しい事業をやろうとすれば必ず重要な判断基準になることは間違いありません。

しかし、彼らにとってどんな相手からどこを評価されるのが一番幸せなのかということや、数ある評価基準の中でどこに軸を置くべきかなど、ベストの答えを出すのは至難の業です。このような新しい事業の創造も事業企画責任者の方には担っていただきたいと考えております。

■gazou05CBcloud6周年イベント時の様子

裁量をもつ中核人材として活躍できるフェーズ

藤岡:現在の社員規模、企業フェーズはどのような状況でしょうか?

松本:人数規模は、正社員が42名、それ以外の非正規スタッフが26名ほどです。また、2019年9月にシリーズBエクステンションラウンドの資金調達を完了し、2016年9月からの融資を含む累計調達額は、約20億円となりました。

藤岡:このフェーズでCBcloudに参画する魅力はどこにあるとお考えですか?

松本:今回のシリーズBの資金調達ではソフトバンク株式会社や佐川急便株式会社、日本郵政キャピタル株式会社を迎え、更なる事業拡大を目指しています。

しかし、事業としてはこれまでプロダクトを3つ開発して順調に拡大していく一方で、人のリソースが足りていないことが課題にあります。また、事業の成長はもちろん、組織としてもIPOを見据えて仕組みづくりや社内規則の策定などの組織体制の構築を急ピッチに進めていく必要があります。

そのため全職種、レイヤーでの募集をしている現状は、これから入社していただく方にとって裁量を持って働くことのできる大きなチャンスだと考えます。

ベンチャーとして、しっかりとした組織にするフェーズにおける重要な役職を担う仲間を募集していると言うことです。ですから、これから参画しても組織作りや経営に参加する可能性はありますし、大いに力を発揮していただけると思っています。

藤岡:承知しました。御社のご期待に応えられるよう、私たちも精一杯協力させていただきます。本日は素敵なお話をありがとうございました。

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