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第5部 分科会「クラウドファンディングを通じた社会変革」(全4記事)

価値ある使い方をする人に「お金」が集まる クラウドファンディングが変えた、お金の流れと使い道

経営に関する「ヒト」・「カネ」・「チエ」の生態系を創り、社会の創造と変革を行う株式会社グロービス。グロービスが主催する「あすか会議2019」では、テクノロジーや宇宙、地政学、ダイバーシティなどのさまざまな分野の有識者らが集い、日本の未来のあるべき姿と、その実現にむけて一人ひとりがどう行動していくべきかをとことん考えます。本パートでは、「クラウドファンディングを通じた社会変革」をテーマに、クラウドファンディングをはじめとする「お金」の流れの変化について意見を交わしました。

社会変革のためにどのようにお金を集め、使えばいいのか

杉山文野氏(以下、杉山):みなさん、こんにちは。モデレーターを務めます、杉山と申します。今の見た目はこんなおじさんですが、もともとは女子高生をやっておりました。トランスジェンダーです。といった自己紹介をいつもしています。

今日は藤原先生が「自己紹介のときにはインパクトが大事なんだ」というお話をされておりましたが、藤原先生のさだまさしネタよりも、私のほうがインパクトがあるのではないかと自負しております(笑)。

(会場笑)

その話はさておき。今日は「クラウドファンディングを通じた社会変革」をテーマにお話をさせていただくのですが、クラウドファンディングに限らず、広く社会変革のためにはどのようにお金を集めたり、どのように使えばいいのか、そういった話ができればよいと思っています。

お話をさせていただく前に、みなさんがどういったことに興味があるのかについて、お聞きしたい。そもそも「お金の流れ」自体に興味があるのか、それとも社会変革を起こしたい側であるということなのか。どちらでもない方もいらっしゃるかもしれませんが、お聞きしてもいいですか。まずはそもそも「お金の流れ」自体を聞きたくてここにいます、という方はどのくらいいらっしゃいますか?

(会場挙手)

はい。ありがとうございます。では「社会変革を起こしたい」という方。

(会場挙手)

両方という方もいらっしゃるんですね、はい。では、そんな感じでお話をさせていただきたいと思います。

クラウドファンディングのきっかけは、パラリンピックのスキーチームのための投げ銭サイト

まず最初に、大きな「お金の流れ」もそうなのですが、やっぱりクラウドファンディングというところから。クラウドファンディングといえばもう、米良ちゃんということですね(笑)。

私は、米良さんとは2012年のとき、東京レインボープライド以外にLGBTの子どもたちのサポートをしている「ハートをつなごう学校」というNPOを立ち上げ、「最初にどうやってお金を集めればいいのか」というときに、READYFORさんでやらせていただきました。たぶん、それが初めてのLGBT案件だったのではないかと思いますが。

それでは、米良さんから、クラウドファンディングの今までの流れと現状と課題について、ご教示いただければと思います。

米良はるか氏(以下、米良):ありがとうございます。みなさん、こんにちは。クラウドファンディングサービスを運営しているREADYFOR株式会社の米良と申します。私たちがクラウドファンディングの事業を始めたのは2011年3月29日で、東日本大震災の直後でした。もともとクラウドファンディングを始めたきっかけは、その2年前、2009年のときです。

私が大学のまだ3年生か4年生のときでしたが、当時はインターネットを通じた投げ銭のようなかたちでした。パラリンピックのスキーチームに対してお金を集めるというサイトを友人たちと一緒に立ち上げたのが、最初のきっかけになっています。

なかなか事業化していないものや、社会的な意義はあっても成長産業ではないようなことがたくさんあると思いますが、インターネットを通して共感を集めて、少しずつお金を出し合えるような行動が生まれるのではないかと思っていました。そこで試しに作ったのが、その投げ銭のサイトです。

結果として100万円ぐらい集まったのですが、100万円は……大学の3、4年生からしてみればとても大きな額で、「知らない方々から100万円が集まった」ということはすごく衝撃的なことでした。

社会的な活動をする人が、初めの一歩を踏み出すためのツール

米良:でも、当時資金を集めたパラリンピックの方々だけではなく、日本中はもちろん、世界中に「なにかやりたいけれどお金がない」という方がもっともっといるだろうと思っていました。そういった方々にお金を流す仕組みをどうやって作っていけばいいのだろうと。

そのあとアメリカに留学して、2009年~2010年頃から、クラウドファンディングという仕組みがプラットフォームとしてできつつあると知りました。今もクラウドファンディングの中で非常に有名なKickstarterというサービスであったり、Indiegogoというアメリカのサービスなど。

そういったサービスの中で、とても印象的だったことがあります。ちょうどFacebookの脆弱性が見つかったかくらいのタイミングだったのですが、当時のニューヨーク大学の学生さんが、新しい人とのつながりを生むようなサービスを作りたいというクラウドファンディングプロジェクトを立ち上げて、3日ぐらいで1,000万ぐらい一気に集めたんですね。

留学していたこともあり、それがニューヨークタイムズなどで記事になっているのを読み、「昨日思いついたようなことが、こんなお金の集まり方をするのか、しかも自分と同じぐらいの年齢の人だ」と、すごく衝撃を受けました。

それで「クラウドファンディングはきっと新しいお金の流れを作っていく仕組みになるだろう」と思ったのです。ちょうど私が大学生ぐらいのときにTwitterやFacebookなどSNSができて、いろんな人たちが今のリアルなつながりだけではなく、なにかテーマへの「共感」によって人とつながれるようになってきた頃です。これは1つの新しいトレンドになると確信して、2011年にREADYFORを作りました。

確信したのはいいんですが、その当時、クラウドファンディングは誰も知らないキーワードだったんです。そこから今まで8年ぐらいやっていますが、私たちの会社がリサーチすると、「クラウドファンディング」というキーワードをだいたい6~7割ぐらいの人は「聞いたことがある」、「知っている」と回答してくれるんです。

しかし、8年前はまだ本当に誰も知らない時代でした。この8年間はかなり粛々と、このキーワードを世の中に広めていくということをやってきました。でも、自分の最初の確信は「間違っていなかった」と思えるぐらい、クラウドファンディングは、社会的な取り組みをする人にとって、初めの一歩を踏み出すためのツールになってきたと思っています。

今後も、そうした方々に対して、お金が集まってチャレンジしやすくなるようにしていきたいと思っています。我々のプラットフォームも含めて、クラウドファンディング業界全体でまだまだ数百億円規模ぐらいにしかなっていないというところもありますから。これからどうやって、このお金の流れをもっと大きく作っていけるかというところでは、まだまだ課題が大きいと思っています。

毎月数千件もの相談案件と、常時200~300件のプロジェクトが走る「READY FOR」

杉山:ちなみに今は何本ぐらいのプロジェクトが走っているんですか?

米良:常に200~300件ぐらいのプロジェクトが掲載されています。そして、弊社にご相談いただく案件は毎月数千件レベルです。みなさんに「こういったことをやりたい」と気軽に言っていただけるようになってきたなと感じています。

杉山:今もいろんな社会課題がありますが、何系の課題が多いといった傾向や、変化の推移のようなものはあるんでしょうか。

米良:そうですね。サービス立ち上げ当初はNPOさんや、それこそ文乃さんなどのような団体さんにプロジェクトを実施いただいていて、新しいテーマとそれを実現するような団体さんに使っていただくことが多かったです。今もそういった団体さんに実施いただくことも多くありますが、最近は大学の研究や医療分野の基礎研究などでかなり大きな金額が集まるようになってきています。

どちらかというと、最初は個人や小さな団体さんに使っていただいていたのですが。最近は、今まで補助金や助成金を活動資金にしていたようなパブリック性の高い、企業や団体さんに使っていただけるようになってきたと思います。

杉山:ちなみに今「数百億程度」というような感じでしたが、目指している数字は?

米良:そうですね。……やはり、お金の流れを作ることにこだわっていきたいです。私たちは「誰もがやりたいことを実現できる世の中をつくる」ということをビジョンに掲げている会社なんですが、そうしたことをするためには、人のマッチングなど、お金以外にもいろんなマッチングの仕方があると思います。

でも、お金の流れをまず作りたいんです。お金があればいろんな仲間が集まってくることもありますから。なので、もっと「お金の流れを作っている」と、胸を張って言えるぐらいのケタにしていきたいと思っています。

「大学生が会社を作る」という選択肢がほぼなかった時代

杉山:ありがとうございます。では宮城さんにおうかがいしたいのですが。宮城さんは本当に長く関わってこられていて、このクラウドファンディングの文化ができる前と後で、どのように何が変わったのかということをどう見られているのかということについておうかがいしたいのですが。

宮城治男氏(以下、宮城):はい。あまり昔話をしていてもおもしろくないと思いますが……。

杉山:昔話、かなり聞きたいですね(笑)。

米良:うん、聞きたい。

宮城:(笑)。私は93年にこの仕事……仕事というか、大学生のときでしたのでサークルのようなことで始めたんですが。その当時で言えば「大学生が会社を作る」などということは、ほとんど誰一人として選択肢の中にない時代だったんですね。たまたま学生時代にカードを売ったりして儲けていたような人たちも、みんな卒業すると足を洗った。

米良:足を洗う(笑)。

宮城:そしていい会社に就職する、という感じだったのですが、そうしたときに「起業家としての生き方」のようなものも人生の選択肢としてあるし、仕事というのは「本当にやりたければ自分で作れる」と伝えたいと思ったんです。大学のキャンパスに起業家の人に来てもらって話をしてもらうということをやっていたんですね。

その当時、もう1995年ぐらいのときから、ホリさんに起業家の先輩として来ていただいていました。大学生たちに話をしていただいたりしていたんです。その当時で言うと、まず株式会社として会社を作るために1,000万が前提としては必要だったわけです。「株式会社を持っている」なんていうことは超ステータスで、誰もそんなことは自分でできるものではないと思っていた。それを調達すると言っても、方法がまったくなかったからです。

1パーセントの議決権も持たずに2億7,000万円を調達

宮城:そうした時代を思うと今は、例えば記者の方が取材で、年上の方だと「資金が大変ですよね」「最初の資金はどうやって調達するんですか」といった質問があるんですが。大学生などを見ていると、もうその問いがすごく野暮に聞こえるといいますか。

米良:(笑)。

宮城:「いや、それはクラウドファンディングで集めます」というようなことを、何の後ろ盾もなく、何の資産も経験も実績もないやつが、のうのうと言うわけですよ!

(会場笑)

そういうことは、25年前を思えばまったく考えられない世界観なんですよね。ですから彼らは、すごくお金のことに関してはライトです。資産家になったとしても、別に自分の……なんて言うかな、おじさんが一生懸命、人生をかけて溜め込んだお金とかではありませんから。使うものはバンバン使うわけですよ。そして、20代や30代にして、後輩を育てることに対して寄付をしてくれたり。

例えばエティック(NPO法人ETIC.)で、大学生向けの「MAKERS UNIVERSITY」という起業支援のプログラムをやっているのですが、あそこでも今、1パーセントの株式を寄付してくれたり。もう起業して売上が上がった人たちが寄付してくれる、というような循環が起こり始めています。例えばこの間も、クラウドファンディングで2億7,000万を集めたやつがいました。

米良:あぁ、ありましたね。

宮城:大口ですが。

米良:投資型で。

宮城:うん、投資型の。やっぱり何の実績も別になくて、特別なネットワークがあったというよりは、たくさんの人たちが賛同してくれたというものです。1パーセントの議決権も持たずに2億7,000万を調達する、というようなことを平気でやってしまう。

価値のある使い方をする人のもとにお金が集まってくる時代

宮城:そういうものが彼らの中の選択として登場し始めているので、やっぱり「お金」というものの位置づけ自体がすごく変わっていると思います。まさに「流れるもの」という感覚の中で、使う人のもとに、価値のあるところに集まってくるという、自然な動きが始まっているのではないでしょうか。

例えば一方で、寄付もそうです。寄付でも、今度は小口で月1,000円といった会員制を作り、今は億の単位のお金を年間で集めているチームも、NPOの中でいくつも出てきているんですね。これも本当に、90年代では考えられなかったことです。10年前でも一般的にはほとんど考えられなかったことなんですが、そういうことが起きている。

やっぱり、あとはエンジェルですね。今日ここに登壇してくださっているような、成功した経営者のみなさんからの出資も入れていくと、本当に今はもう何倍ぐらい起業しやすくなったか、数字ではとても表せないぐらいの隔絶した変化があります。そうした意味では、「お金がないので起業できません」という言い訳ができない時代になってしまったという気がすごくしています。

杉山:ありがとうございます。

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