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ラクスル&マネーフォワード CEO×CFOパネルディスカッション 〜起業からこれまで〜(全3記事)

スタートアップの採用は「やせ我慢」も必要 マネーフォワード辻氏・ラクスル永見氏が語る、成長期の指針

2019年10月2日、成長企業向けにフィナンシャル・アドバイザリーや成長企業経営支援サービスを行う新会社「マネーフォワードシンカ株式会社」の設立を記念して、「ラクスル&マネーフォワード CEO×CFOパネルディスカッション 〜起業からこれまで〜」が開催されました。ラクスルとマネーフォワード両社のCEO・CFOのパネルディスカッションを通して、「成長企業のCEOがなぜCFOを採用したのか、またCFOに求めること」「資金調達、IPO、IR、M&Aといったコーポレートアクションにおいて、CEO/CFOがどう役割を分担してきたのか」「上場前と上場後での経営の変化」「企業としてのHARD THINGS」といったテーマについて意見を交わします。本パートでは、現代における企業価値のとらえ方や、成長期の採用の軸について、それぞれの実体験を振り返りました。

ラクスルのコンセプトはどのように組み立てられたか

辻庸介氏(以下、辻):僕も投資家の方と継続的にお会いしていると、とくに機関投資家の方は、びっくりするぐらい前のメモを持って来られるんですね。つまり、昔に何を言ったかをトラックして、「この会社は言ったことをやっているのか」を、投資する上でチェックされています。僕はその信頼関係、投資家とのコミュニケーションがとても大事だということを上場後に気づきました。

それから、ラクスルさんの秀逸なところはコンセプトだと思うんですよ。「自分たちは何者なのか」とか、「仕組みを変えれば、世界はもっと良くなる」とか。そういうコンセプトは、松本さんが考えてオリジナルで作っていると思うんですが、どのようにそれを組み立てているんですか?

人と話しながらパッと浮かぶのか、温泉で一人で考えているのか、本を読んでいるのか。ご自分の会社の役割やミッションを定義し、それを発信されていく上で、実際にどうされているのでしょうか? もしヒントがあれば、ぜひ教えていただきたいです。

松本恭攝氏(以下、松本):いろんな事例を知ることと歴史を知るという、知識のベースを作るようなことはすごく大きいと思っています。例えばさっきのように、なんで売上総利益が我々の価値の源泉かと考えたかというと、僕たちは80億円を未上場の段階で資金調達して、マーケティングにたぶん50億円以上つぎ込んでいたからなんですよね。

『FACTA』に「倒産寸前の会社」みたいに書かれるということがあったんです。でも、経営していて、マーケティングをしていると、明らかに顧客が積み上がっていました。3~4年前に買っていただいたお客様に、いまだに買い続けていただいていたんですね。

明らかに企業の価値が上がっているのに、「営業利益で評価する」というのでは、(赤字である)我々の企業の価値はほぼ0なんです。だけど、企業の価値は存在しています。

企業価値の源泉、本質的な企業価値、資本市場における企業価値というのは「ディスカウントキャッシュフロー」といって、「将来にいくらキャッシュを生み出すか」を現在価値に戻したもので測ります。PER(株価収益率)とかPSR(株価売上高倍率)とか、それを簡易的に測るための指標としていろいろ作られているんです。

我々はどう考えても、マーケティングをすることによって企業の価値が上がっているのに、その価値が評価されない。これは会計制度そのものが間違っていると思ったんです。

海外の事例や会計制度の成り立ちを知ったうえで、企業価値を再定義する

松本:会計制度は18世紀にスタートして、基本的に(モデルは)製造業なんですね。産業革命以降、「機械を買うと、この機械が10年間キャッシュフローを生み出す。だから、買ったものを1年ではなくて10年で償却していこう」という発想ですよね。機械はバランスシート(BS、貸借対照表)にのるんだけれど、コミックはバランスシートにのらない。だからGoogleとかFacebookって、バランスシートがめちゃくちゃ薄かったんですよ。

監査法人と話をしていて、「バランスシートがこんなに薄い会社が、こんな(多額の)キャッシュを生み出している。これは明らかに会計制度そのものが間違っている」って話をしたんですよね。(間違っていないと説明する監査法人に対して)「こいつら何を言っているんだ?」って、すごく思いましたね。

それで、「いや、それは会計制度そのものが間違っている」っていう話を、証券会社監査法人にしました。みんな頭では「確かにそのとおりだ」って言うけど、「いやでも、そうは言っても松本さん……」みたいになるんですね。

ただ一方で、アメリカを見たら、赤字の会社が高い評価をちゃんと受けているんですね。それは今の会計制度ではなくて、企業の本質的な価値にフォーカスしてそういう評価を受けているということなんです。

「だったら我々は、価値のあり方を世の中のフォーマットじゃなくて、自分たちのフォーマットで規定していけばいいんじゃないのか」って思ったんです。すいません、ちょっと話が長くなりましたね。

そういういろんな事例やアメリカの事例を知っていて、日本の事例として我々が直面しているものとの差を考えることと、歴史的になんで今の会計制度ができているのかを考えるということですね。

あとは「なんでアメリカではこうで、18世紀のイギリスで会計制度ができたのか」とか、「福沢諭吉が日本に持ってきたところから、何で今の日本の会計制度って成り立っているのか」というのを本質的に考えます。そこには必ずバイアスがかかっているから、「このバイアスを変えるようなキーワードを作っていけばいいんじゃないか」ということを考えてコンセプトを作っています。

一部上場企業になって変わったこと、変わらなかったこと

金坂直哉氏(以下、金坂):ありがとうございます。ラクスルさんでいうと去年に上場されて、もう一部上場もされましたけれども、上場後、何か変わったことはありますか? 経営、雰囲気、採用、その他、何かあればおうかがいしたいと思います。

永見世央氏(以下、永見):社内の雰囲気は、ほぼ何も変わってないですね。上場日も普通にみんな仕事していました。一応夜に社内でパーティーをしたんですけど、(仕事の後)みんながちょっと2階に上がってきてパーティーをしただけです。普通にみんなコードを書いているし、仕事をしているという感じでした。

営業ベースのビジネスモデルではないので、目標はぜんぜん上場みたいなことに置いていなかったですね。そういうところでピークアウトしたくもなかったですしね。上場日は淡々と過ごした感じでして、上場後もそんなに変わらないと思いますね。採用面においては、やっぱり上場企業として一定の信頼が出てきています。とくに大企業とか、あと新卒とか、そういうところへの信頼の後押しの意味において、上場は一定のプラスになるんじゃないかなと思います。

経営においては、別に四半期とかで数字を作ることを(目的として)最大化している会社ではないですが、やっぱり「ちゃんと四半期ごとにピッチが刻まれる」ということ自体は、会社のグロースにとっていいことかなと思っています。やっぱりそのグロースが自分たちを加速化していく要素ではあるんじゃないかなと思っています。

決算発表だけでは、会社の本当の価値は測れない

:そうですね。だいぶ前でちょっと忘れちゃいましたね(笑)。上場ってちょっと大変でしたよね? 金坂さん?

(会場笑)

3ヶ月毎に成績(四半期決算)を出さないといけないですからね。さっきの松本さんの話ですが、僕たちは価値をつくりだそうと思ってやっていますが、会社の価値ってブランドだったり人材だったりしますよね。人材ってPL上はコストにしかならないし、ブランドは無形資産です。四半期に1回、決算発表をすることは、なかなか本質的な価値と乖離しているのではと経営者として思います。

ただ当然、結果責任があるので、そこはしっかりご説明して理解していただくようにしたいです。僕は、上場のときに「こういう価値観でやっていきます」というレターを発表しました。今もそれからブレておらず、ずっと会社を経営しています。

VC(ベンチャーキャピタル)さんに出資していただくときも、「我々はこういうことを実現したり、こういうことをお約束したりできます」「こういうことはお約束できないです」というのをお伝えして、ご理解いただきました。

上場のときもそれをきちんと約束しようと思って、ちょっと恐れ多いですが「こういうことに賛同いただいた方は、ぜひ株主になっていただきたいです」のような内容で出させていただきました。その約束は2年間ずっと守っています。

上場後にラクスルの成長率が上がった理由

松本:これはファクトとして言いたいんですけど、上場して成長率が上がったんですよ。我々はこの3年間で一番売上高成長率が高くなっています。これは上場したことによって、レイヤーや目標に対してしっかりとミートしにいくとか、役員のそこへの責任感が上がったことによるじゃないかなと思いますね。

:僕は上場してよかったなと思うことがあります。みなさんもそうだと思うんですけど、未上場のときって、取引先とかメディアの方々、もちろんVCさんもそうですけど、みなさん応援してくださるんです。社会的に何の保証もされてない会社を、みなさん応援してくださるじゃないですか。

やっぱり上場したことによって、応援してくださった方に「応援してよかったな」って思っていただけることが、本当にうれしいですよね。VCさんにはもちろんリターンを返せて、また次のスタートアップに投資できます。むしろそっちの方がうれしい。

上場して次のステージへ行けたというイメージがすごく持てるし、機関投資家の方もちょっと違う層の方にお会いできるようになりました。経営者としても会社としても、自分たちが成長できている、ステップアップしている、という実感があります。

制約を入れないと経営は成り立たない

金坂:さっきラクスルさんがお話していた「成長率の加速」について、1つ聞きたいなと思いました。やっぱり売上成長率が伸びているのは、明らかに物流や、広告のところで上場前から新しいチャレンジを仕込んでいて、上場をしっかりとかたちにして伸ばしている印象があります。一方で、全社としてはちゃんと黒字にコントロールする経営をされている印象があります。

そうすると、印刷も広告も物流も、3つ全部が伸びている中で「いや、うち(の事業に)もっと投資したい」のように、「どこにどれぐらい投資するか」ということで社内での議論がけっこう白熱するのかなと勝手に想像したんです。実際どんな感じなんですか?

永見:うちはガイダンスのところで、例えば前期でいうと黒字って一回言い切ったので、その中のキャピタルリソースの問題です。それで、最適配置をする。基本的にはどこも投資はしたいと思うんですが、制約を入れないと経営って成り立たないと思っています。その中でちゃんと成長をするっていうのは、1年クリアしたと思っています。

金坂:なるほど。ラクスルのIR資料は本当に勉強になりますね。

:たまにそのままパクろうかと思いますね(笑)。

永見:パクっていいですよ(笑)。

(一同笑)

入社して2日目に「やばい」と思った

金坂:はい。それでは最後に近づきました。松本さんに冒頭でもちらっとお話をしていただきましたけども、HARD THINGSについてです。辛かったことというか、きつかったところです。これまでを振り返って「ここ10年でどういったところが辛かったか」というのを教えてもらえますか?

松本:これは僕が客観的に話すよりも、永見さんがラクスルに入社して最初の1ヶ月の話を具体的にしてくれたらいいと思います(笑)。

(一同笑)

永見:やっぱり人周りがまず大きかったです。この前、二人で再計算したんですけど、いつも対外的には「僕が入社したときの退職率は20~30パーセントでした」と言っていたのが、実は計算したら42パーセントでした。

(一同笑)

すごいですよね。年間で10人中の4人が辞めているっていう会社に、僕はたまたま入ったんですね。それで、入って2日目ぐらいで「やばい」って思ったんです。でも、そこで覚悟ができたなってけっこう思っていて、最初にHARD THINGSを経験したのがよかったと思っています。

あと、ベンチャーの「HARD THINGSあるある」では「売上が伸びない」ということがけっこうあるんですよ。僕らが本当に幸いだったのは、比較的そこは順調で、当然いろいろと大変なことはあったんですけど、そこまでではなかった。それは、すごくハッピーなことでした。

多くのベンチャーは売上が伸びないときに逆回転していくというのが、あるあるのHARD THINGSです。そこからちゃんとサービスに向き合っていくというプロセスがあると思うんです。僕らはいろいろとあったんですけど、そこは相対的にはなかったかなとは思っています。

会社が急成長する時期に、やせ我慢してでも採ってはいけない人

金坂:ありがとうございます。辻さん的にHARD THINGSとは? お話しください。

:今日おいでくださっている方のお役に立つとしたらやっぱり、採用のところですよね。会社が急成長していくなかで採用が必要になったときには、どうしても「スキルはあるけど、マインドがちょっと難しい」みたいな人を採ってしまいがちです。

そこを「いかにやせ我慢して採らないか」というのが、すごく大事だなと思います。それで1回、組織が大変なことになりました。つまるところ、その社員がミッション・ビジョン・バリュー・カルチャーにフィットしてなかったのだと思っています。僕たちのマネジメント能力も不足していたんですよね。

壊れた組織が復活するまで1~2年かかったので、すごくしんどかったですし、採用を本当に慎重にしなければと学びました。

松本:僕も一緒で、退職率40パーセントを記録した年も、半年前ぐらいがまさに資金調達のときなんですよね。事業がうまくいって資金調達をして、組織を急拡大するっていうタイミングでした。採用経験があんまりなかったので、「このポジションが必要だから、とにかく人を採ろう」とスキルベースで採用しました。「履歴書に『リクルート』って書いてあったらもう全員採ろう」みたいな感じでした(笑)。

(会場笑)

やっぱり一番辛かったのはマインドの部分です。ビジョンへの共感がない人たちが集まって、結果的に何をしたい会社なのかわからなかった。

会社の方向性としても、大企業みたいに「誰が入ってもバシッと動く」みたいなかたちではなく、その人が突破して「型」を作っていくようなリーダーを採用しないといけないタイミングなのに、マインドもないし、ビジョンの共有も見ずに人を採ってしまったがために、そうなってしまいました。

でも、たまたまビジョンを共有してくれる永見さんがいて、その40パーセントの離職率が2年後には10パーセントを切るぐらいまで下がりました。一番のHARD THINGSが、その頃でしたね。お金があって事業が伸びているのにすごく辛い、みたいな時期でした。

「自分の分身になる人」しか採りたくない

永見:なんか似た話で、やっぱり起業家って自分のビジョンの実現のために熱量を持って進めているじゃないですか。非常に主観的なものだと思っています。僕は、それは一番大事だと思うんですけど、同時にやっぱり周りの経営メンバーとか、CFOでもいいと思うんですけど、ちゃんと「スタンダード」を持ち込むっていうのがけっこう大事な話かなと思っています。

採用に関しては、(CEOが)「自分は前職が○○社だったら採る」と言うのに対して、(周りの経営メンバーが)「いや、これだったら採るべきじゃない」というスタンダードを持ち込んであげる。これってけっこう大事だと思います。そのスタンダードの尺度としては当然、ビジョンへの共鳴が一番大事だと思うんです。

例えば僕でいうと、「自分の分身になる人」しか採りたくないと思っていたんですね。むしろ、(そうでない)人が増えたほうが気持ち悪いというので採用を進めていったんです。なので、1年から1年半ぐらいは相当辛かったんですけど、逆にそこからは少し楽になりましたね。

「少し踏ん張る」みたいな話があったと思うんですけれど、その先には1個、やっぱり自分が作った組織に誇りを持てるようになります。なので、ちゃんと踏ん張って、スタンダードを持って採用し、進めていくってことがけっこう大事なんじゃないかと思いますね。

金坂:はい、ありがとうございました。こちらでパネルディスカッションと質疑応答は終了とさせていただきます。本当にみなさま、どうもありがとうございました。

(会場拍手)

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