2024.10.10
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木村和貴氏(以下、木村):続いてのキーワードは資金調達です。最初の一歩を踏んで、やりたいことも決まって、仲間も見つけたと。でも、やはり資金がないと、どうしても持続的に継続するのは難しいのかなと思います。
これは話せる部分と話せない部分があるかもしれないんですけど、話せる範囲で、どのように資金調達を進めていったかをおうかがいしたいと思います。川井さんから。
川井優恵乃氏(以下、川井):最初は資金調達のことも知らなくて、プロダクトをうまくやっていくにはどうすればいいか悩んでいて。そんなときに、たまたま友だちがすごく著名なエンジェル投資家さんと知り合いなのをTwitterで見て知りました。
「知り合いなの? 美容整形のアプリが作りたいから紹介してほしい」と伝えたら、その人が「美容整形はいま熱いから、ちょっと話聞きたい」って言ってくださって。それで面談させていただくことになりました。
「資金はどこから入れたの? 入れなよ」みたいな話になって、VC(ベンチャーキャピタル)を紹介していただいたんですね。そこで初めて「あ、資金調達するべきなんだ」と考えました。
木村:なるほど。最初は資金調達しなきゃ、探さなきゃではなく、「プロダクトを作るぞ」と思っていて。VCを入れたほうがいいよと言われて、その存在に気付いたということですね。
じゃあ、資金がなかった場合に、プロダクトを作るときにかかるお金はサービス自体の収入で、という感じですか?
川井:それがなにも考えてなくて。最初に入ってくれたチームが、週末に会社終わってからプロダクトを作ろうって言ってくれて、最初はそれでやろうかなと思っていたんです。あまりそのときは先のことを考えてなかったですね。
木村:とくに給料は払っていなかったので、最初は原価もほぼかからない状況ってことですね。
木村:古木さんは、資金についてどうですか?
古木数馬氏(以下、古木):一番最初は、僕が自分でサロンをやっていたので、その資金を丸々突っ込んでやっていました。けっこうな金額を使いましたね。ぜんぜん考えないでやっていたので、あとで計算したらあまり残ってなくて。最初は貸付みたいな感じでやってました。
エンジニアさんと一緒にやるとなると、けっこうコストがかかるじゃないですか。最初に一緒にやってくれるってなった方がジョインしてくれたときに、まだ投資を受けられてなかったので、「ここでキャッシュ尽きるよね」っていうのがわかっていて。なんとか投資を受けないといけないな、という状況で。
最初の頃、いろんなVCさんを教えてもらっていったんですけど、ことごとくボコボコにフィードバックいただいて、ぜんぜんダメな状態でした。それをたまたま、これもお客さんなのですが起業家の方が何名かいらっしゃって、その方たちにファイナンスのことを教えてもらいました。
「ファイナンスはめちゃくちゃ重要だから気をつけたほうがいいよ」って。そんなことは、ぜんぜん知らないじゃないですか。
みんなが同じようなことを言ってくれて。とくにいろいろ教えてもらったのが、今はもう雲の上のような存在になってますけど、ツクルバという企業の村上浩輝さんという方が、お客様で来ていたんです。それでバリエーションの付け方や資本政策なんかをさらっといろいろ教えてくれて。
教えてもらったものを本とかで片っ端から読んで。CFOはそのときまだコミットしてなかったけど、手伝ってくれてて。「資本政策って知ってますか?」と聞いてしまいました。監査法人にいた会計士さんなら当たり前に知ってるじゃないですか。そこで「作ろっか」って簡単にその場でババババッてひな形を作ってくれて。
その雛形でいじりながらやって、事業計画とか作って、がんばって活動して。結局VCさんにはうまくプレゼンができなかったので、美容系でバイアウトをされて成功されてるエンジェルの方にプレゼンしてお願いしたんです。
ホットペッパーより先に送客サービスを作ってバイアウトしている方で、その方に会いに行ったら、「出資するよ」と言ってくれまして。最初はそんな感じで、なんか事業計画やプレゼンなどすごく大変でした。
木村:なるほど、なるほど。最初はファイナンスの知識とかも大変でしょうし。
古木:たまたま友だちにエンジェル投資家がいるとか、そういうラッキーなやつじゃなくて、泥沼をはいつくばってみたいな感じです。朝にモーニングピッチみたいなところに行って、ボコボコにされて六本木をさまようみたいな。
(一同笑)
そんな感じでした。
木村:すごいのは、そういったアクションが実らず、結局、力になってくれたのがお客さん経由だったっていう。最終的に毎回そこに着地するというのが、すごいなと思っていて。たぶん築き上げた信頼関係がめちゃめちゃ強かったのかなと。
川井:私も資本政策なんてぜんぜんわからなくて。創業メンバーも多くてお金どうしようかとか、ストックオプションをどうしようというので、勉強やマインドを経営者に聞きに行って、2ヶ月も経っちゃって。それで「やっぱ、なしね」と言われて。
そのときにはもう、メンバーも元の会社を抜けてたんですね。でも「次の月の給料がないんだけど」みたいな感じで、あわててVCにアポを取って資金調達に回って。結果、無事にYJとeastから資金をいただいて、何なら元の条件より良くて(笑)。でも、資金調達している最中は生きた心地がしなかったです。
木村:なるほど。この流れで次のキーワードに移りたいです。美容師や女子大生から「VC」や「ストックオプション」「ファイナンス」という言葉は普通出てこないと思います。でも、当たり前のようにお話しされていて、それが当事者としての自分ということでした。
今度は起業家としての自分というのが、存在しているのかなと思っていて。起業家としての自分ができあがっていく中で、もともとなかった知識をどんどんインプットしていかなきゃいけないと。
それにどう勉強してたどりついたのか。もしくはどういう経験からたどりついたのか、というのが、今の話の中にも含まれていたかなと思います。
これから別のフィールドに行って起業したいとか、そういった勉強をどうやっていったらいいんだろうと思っている方に対して、自分はこうやって勉強したよとか、起業家としてはこういうマインドでやっている、というのがあれば、おうかがいしたいなと思います。
川井:私の場合、会社で働いたことすらないので、まず「働く」ということ自体、よくわからなくて。メンバーは会社経験があって、みんな優秀なんですよ。だから、それぞれできることはすべてやってもらってます。私が「これがしたい」と言うと、みんなで「じゃあ考えよう」という感じで。
私はみんなに支えられて、頼るタイプの起業家で。起業も何パターンかあって、自分ですごくリーダーシップを発揮できる人もいるんですけど、私は周りの人に頼ってます。
木村:なるほど。強いビジョンや課題意識や指針を示して、周辺のことは仲間がやっていると。
川井:インプットは、いろんなアプリやUIを確かめたり、記事を読んだりするようにはしています。
木村:ぜひAMPの記事も読んでいただけると。古木さんはいかがですか?
古木:僕は美容師をやっていたので、けっこう技術者というかアーティスト的な感じがあったんですよね。ですので、最初やり始めたときに、まず会社っていうのがなんだかよくわかってなかったんですよ。個人事業主でやっていたので、株式会社にする意味もわかっていない状況で。
楽しかった点や好きだったところは、プロダクトを企画したり、デザインしたりというところです。それがやりたくて始めましたが、それに付随して経営しなきゃいけないので。資金の管理はサロンでやって慣れていたんですけど、事業計画や数値計画みたいなものは苦手だし嫌いでした。
古木:あとはピッチですね。プレゼン資料を作るのも苦手で。とにかく、これが大嫌いでやりたくないというか。プレゼンにいくのもお腹痛いみたいな感じだし。どうせ、「何しに来たの?」みたいな感じなので。
木村:ピッチはけっこう上から来ますもんね。
古木:最初はそれがすごくいやでしょうがなかったです。でも自分のやりたいことを実現したいという思いのほうが強かったんですね。
いやいやながら一生懸命作ったり、勉強したりして、ビジネスモデルを作って、マネタイズ考えて。僕らはどうしても投資を受けなきゃ進んでいけない事業だったので、投資家だったり、VCの方と壁打ちさせていただいたりするわけです。
いやいやながら作って、持っていってやって。やってるうちにビジネスモデルもなんにもなくて、実現したいことしかなかったんですけど、フィードバックをいろいろもらえるじゃないですか。それですごくいい意見がいっぱいもらえるんですよ。僕いまでは投資家回りがすごく好きで。プレゼンしに行くのがめっちゃ楽しいんですよ。
あるタイミングから、プレゼンしに行くのがすごく好きになって。いつのまにかプレゼン資料を早く上手に作れるようになったし。今日も10分と言われたので、10分だとこれくらいかな、みたいな感じで作れるようになったし。
自分の事業なので、数値計画も作るのが楽しくなったりして。いやいややってたけど、やっているうちにだんだんそういうのができるようになっていったんです。ビジネスモデルも、いろんな投資家さんと話していくうちに、「こういう可能性もあるんだ」「こういうお金の儲け方があるんだ」とわかるようになってきて。
マネタイズすることによって、僕らが生き延びられるし、それを還元することによって世の中を変えられるって、めちゃくちゃいいなと思って知っていって。いやだけどがんばっていたら好きになったみたいな、できるようになったみたいな。そんな感じです。
木村:お二人とも当事者だったというのもあって、課題を解決しようという意識が強いなと思います。川井さんも大学生のときにワードプレスの勉強から入って、エンジニアを見つけようとか、そういうアクションを必要に駆られてやっていて。
古木さんも、コーディングなどを勉強されている。熱中していると、必要なのでとにかくがんばってやると。やったら好きなほうに変わっていったり、自分の知識になっていったりということで、そういった目的があってのインプット。だからこそ最短距離で、どんどんどんどん吸収していったのかなと外から見て感じました。
続いては「現場視点でサービス作りをする強み」ということで、いろんな業界のスタートアップや新規事業って、業界の中から出てくることもあれば、外からの参入もあったりして。その市場のことはわかりません、という人が入ってきたりというのがあると思います。
競合と比較したときに、お二方は当事者としての絶対的な自信や強みがあるのかなと。現場視点でサービス作りをする強みは、こういうときに発揮されている、というお話を聞ければなと思います。では、川井さん。
川井:私の場合は、美容整形をされている方のコミュニティがもうすでにできあがっていて。プロダクトを作って意見を述べるっていうので、すぐにPDCAを回して、今を作れるというすごい強みがあるなと感じています。
木村:なるほど。ターゲットのインサイトなどを知れるし、周りにも当事者だからこその繋がりがあるというところですね。
木村:古木さんは?
古木:シンプルにいうと2つあります。1つはプロダクト作りで、もう1つは戦略を作るところかなと思います。プロダクトでいうと、最初に僕がやりはじめたときに、リーンスタートアップが流行っていて、どこの投資家を回ってもそれを言われました。「PDCAは誰が回すの?」と言われて、PDCAってなんだろう? 回すってなんだろう? みたいな感じでした。
そういうのがよくわからなくて。とにかく今作りたいもの、自分が使いやすいものや、周りの優秀な美容師さんが使いやすいという観点でいい物を作っていました。
プロダクトマーケットフィットやリテンションという言葉があるじゃないですか。当時はそれを知らなかったんですよね。僕は「リーンスタートアップ」というのが理解できていなかったので、どうしたらいいんだろうとずっと悩んでいたんですけど。プロダクトができてリリースしたら、リテンションカーブがすでにこう、左から右になってたんですよ。
一定で定着するようになっていって、僕はそれがいい状態か悪い状態かもわかっていなかったので、当時はそういうふうに思っていました。
今思えば、ニーズをちゃんとくみ取っていくのが大事で。「ここ直したいよね」っていうのって、僕の周りが美容師さんたちなので、美容師さん全員の共通意見とその人だけの個人の意見っていうのがすぐ明確にわかるんですよね。
それを拾っていくのがすごく大事だと思うんです。それをいいサイクルで回せていることに、半年か1年くらい前にやっと気付いて。もしかして知らないうちにできてたのかもしれないです。そういった意味で、プロダクトを作るというのは、すごく強みなのかなと思います。
木村:戦略の面はどうでしょう?
古木:戦略に関しては、美容業界って資料でもお見せしたように、サロンに直接営業に行くとか、お客様側からサービス届けて利用者を獲得するというのが多いんですよね。
お客様側は使っているけど、美容師には定着しない理由を現場の美容師は全部肌感覚で知っているんですよ。どのサービスはなんで定着しないのかがなんとなくわかってる。その情報がめちゃくちゃ重要なんだなと。
美容、サロン向けのサービスをやられている起業家の方や、大企業のサービスをやっている方たちとかでも、そこに気付けていないんだなっていうのが見えてきて。現場の美容師からしたら、めちゃくちゃシンプルなのに。
例えば、Aというサービスがあったら、「Aサービスはこういう理由でみんな使わないよね。でもこの人たちはこういう理由で使うよね」みたいなのが、当たり前に美容師さんたちにはわかるんですよね。
そこがわかるから、どこから入ってサービス使ってもらって、どうやって上がっていったらいいかが最初からなんとなく見えていたっていう。
ただ、それをうまく説明することができなかったので。だから、その良さが投資家に伝わらなくて、自分でも間違ってるなと認識していたんですよ。今思えば、やろうとしていたことや戦略って、最初からまったく変わっていなくて。当時は伝え方が整理ができなかったんですね。
PDCAもなんのことかわかってなかったし、報告・連絡・相談なんて聞いたことなかったし、フレームワークっていう言葉も初めて知ったし。フレームワークってなんだろう? フレームワークっていうのがいっぱいあるんだな、っていうようなレベルだったので。今思えば、現場視点でどうやって参入していくとか、そういったものがすでにわかっていたところが、強みなのかなって思います。
木村:なるほど、なるほど。お二人とも自分自身が当事者であるというだけじゃなくて、当事者の世界の仲間たち、集合知の意見も併せて取れるというところが、生きているのかなと思います。
自分自身の意見だけだと人を説得するのにはちょっと弱いけど、他の整形した人連れてきてとか、他の美容師さんたちの意見を積み上げてというのが、そういったところなのかなと。
やはり、業界特有の事情を投資家や別の世界の人に説明するのって、なかなか伝わらないと思うんですよね。現場感みたいなのは。
古木:そう、難しいんですよ。今はなんとなく昔より伝えられるようになったかなと思うんですけど、まったくそうですね。
木村:そこを気持ちと、あとはデータと集合知の意見というのを揃えて進めていったんだなというのを感じました。
では最後のキーワードです。イベントタイトルで「美容業界のアップデート」とうたっていて、美容業界という括りに興味がある方もすごく多いのかなと思っていて。
今回は美容、医療の領域だったり、美容師さん、サロンの領域をピックアップしました。そういった美容業界をこれからどうやってアップデートしていくかというのを、みなさん含めて考えていく場合に、どういうことをやっていくと美容業界を変えていけるというアドバイスであったり、考えをおうかがいできれば。古木さんからいきますか?
古木:美容業界のアップデートについて、直近の観点でいうと、まず美容業界は、美容師業界だったり、ネイルだったり、マツエクだったり、ヘルスケアや医療業界も含めてかなと思っています。その観点でいうと、まず情報が平均化されることが大事かなと思っています。誰でも同じような情報を取得できる観点でいうと、個人の情報がちゃんと繋がっていくことが大事かなと思っていて。
例えばわかりやすいのでいうと、求人の業界って、昔って会社のほうがけっこう強かったなという印象があったんですよね。ブラックであってもブラックのままでいれた。でも、今って情報がみんなに平等に流れるようになっているので、なかなかブラックな経営はしづらくなってきてるじゃないですか。
一方で雇用されている側で他の情報がわからなかったから、ブラックなところでも気にならなかったというのがあります。今は情報が流れてくるから、雇用環境も変わってきてると思うんですよね。
それが、まだ美容業界では起ききってないなという印象があるので、それが起きることによって、今の時代に合った構造になるかなと思っているし、そういうふうな流れしたいというのもあって事業をやっています。
古木:もう1つの遠い観点で考えたときに、美容の市場の拡大という観点で、自分たちがやるんだったら、そういったところまでできるのがいいなと思っています。それってどうやったら実現するかというと、僕らとはまた違う業界が関係してきて、より社会が豊かになっていくことが重要かなと考えています。
例えば、AIやロボットが発展していくことによって、いろんなものが自動化したり、労働から解放される。そうすると、人間って人類の歴史を見ても、豊かになればなるほど美容の市場ってずっと広がってきているんですよ。
豊かになると、自分の時間ができる。労働時間が減り、お金があって時間を買えるようになる。そういったことによって、美容にお金を使うようになっています。
美容って、真善美とか哲学的な思想的な言葉があるように、ずっと残るものだと思うんですよね。その市場が拡大していくという観点で、世の中がもっと豊かになっていくというところで、どんどんどんどん美容の市場って拡大していくし、魅力的でおもしろいんじゃないかなと思っております。
木村:なるほど。すごく勉強になります。川井さんのほうはどうですか?
川井:美容業界って、女性のターゲットが多いかなと思っていまして。IT業界って女性が少なくて、なおかつ起業家も少なくて。美容医療はニッチだと思うんです。美容医療の課題を抱えている人って、女の子だとリテラシーがあまりなかったりするので、ITを少しでもわかって、解決しようと思ってくれる人がいないと、なかなか出てこないのかなと。
でも、最近だと私の友だちが「成分からコスメを探せるものを作りたい」とか、「起業しようと思っている」と相談を受けたりしていて、すごくいい流れだなと思っています。
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