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クラウド以降の技術トレンドとアプリビジネスの不可避な関係(全4記事)

儲かっている市場に参入するのは非常に危険––16歳の起業家に学ぶ「スピード」が事業の成否を決める理由

2018年2月7日、この1年間で著しい成長を遂げたスマホアプリを表彰するイベント「App Ape Award2017」が開催されました。イベントでは表彰だけでなく、業界のトップランナーたちを招いたアプリマーケットセミナーも実施。世界中で進むアプリシフトの現状と今後の潮流を紐解きます。SESSION1「クラウド以降の技術トレンドとアプリビジネスの不可避な関係」には、パラレルマーケター/エヴァンジェリストの小島英揮氏が登場。この10年のテクノロジートレンドとビジネスの関係性について語ります。

参入スピードが武器になる

小島英揮氏:エコシステムの法則を使うと、まず新しい課題を見つけることができるようになります。例えばさっきのインバウンドの人向けのものは、スマホってみんな持っている。海外の人も持っている。ただそれを使うための環境に不備があるとか、そこに出す情報が英語のものがあまりないとか、ロケーション情報もあまり最新のものが展開されていないとか。

こういうものが、ビジネスの新しい課題になるわけですよね。今まではその前の段階だったので課題として明らかにならなかったんですけども、人が来て、日本を旅行するところまで来てるので、それに対して新しいニーズができる、ということになるわけです。

参入スピード。これはエコシステムに関係なく、どこでも同じなんですが、儲かってる所に参入するのは非常に危険です。ビットコインも……まぁ、それに近いのかもしれないですけども(笑)。儲かってるエリアっていうのは、間違いなくマーケットは大きいんですよね。その意味では参入すべきマーケットである可能性があります。

ただ参入者が多い場合は、要注意です。なぜかと言うと、圧倒的でないと勝てないからです。みなさんが圧倒的になる技術とか体力とか資金力があるのであれば、2番手3番手でもたぶん、巻き返すことは可能です。ただ、ほとんどの会社はそれができないですよね。なので、参入する時は参入者がどれくらいいるかというのをよく見なきゃいけない。

そして、良さそうなマーケットで参入者がいない、もしくは少ししかいない場合は、みなさんの参入スピードと、それからその後にニーズを聞いて、キャッチアップしてブラッシュアップしていくスピードが武器になる、ということになると思います。なので、ここもポイントになる。

スピードを出すために余計なものは作らない

そして3つ目、プラットフォーム。さっきNHKさんのVRの、モーションで体験する様子をお見せしましたけど、あれは(ハードウェアが沢山ある)フィジカルなものなのでイメージがしやすいです。しかし意外と、サービスとかソフトウェアの世界では、1から作ってしまうっていうことはよくあることです。そのほうがわかってるからとか、昔からそうしてたから、とか。

確かにそういうのはあるんですけども、手作り部分が少ないほうが、持ってるリソースをほかに投入できるんですよね。みなさんがやらなきゃいけないのは、お客様の課題に、もしくはお客様の欲しいものを形にして、早く触ってもらって、フィードバックをどんどんもらって、ブラッシュアップしていくことです。

これ以外、成功の方法はないんですよね。AIを使えば成功しますとか、VRにすれば成功しますとか、そんなことはないです。そりゃ打率は上がるという話にはなるんですけども、成功するためにはこの、スピードが必要です。それで、スピードを出すためには、余計なものは作らないというのが大事なモデルになるわけです。

今日ご紹介したいのはApp Ape Awardとかに出てくるアプリとはちょっと違うのかもしれませんが、僕が考えるモデルにけっこう近い作り方をされてるアプリがあったので、例として。これは、これから非常に盛り上がるとか、すごくみんなが使うようになるかどうかは、ちょっと私の保証できる範囲じゃないですけれども。今のところ僕が言ったセオリーに非常に近いので、ご紹介したいと思います。

この「ONE PAY」というアプリですが、山内さんと言うか、山内「君」を知ってますか? この間、16歳で1億円調達したということで、けっこう有名になった起業家がいます。16歳ってどういう年かって言うと、私の息子とまったく同い年なんですよね(笑)。けっこう衝撃で……今日も遅刻しそうになりながら学校に行きましたけども。同じ年の子が、もう3つ目のサービスらしいですね。起業後3つ目のサービス。そしてちゃんとした大人から1億円調達して、世にフィンテックのサービスを出している。

彼が解決しようとしている課題は、まさにエコシステムの変わり目で、今現場で起こっていることです。さっき私、タクシーでクレジットカードが使えなくて外国人が困ってる、っていう話をしました。なぜタクシーはクレジットカードを使えないのか。いくつか理由があるんですけど、クレカ決済用の端末とか仕組みをデプロイするのが非常に大変なんですよね。投資がいるんです。

課題解決にフォーカスしてブラッシュアップすることが成功の道

それから、街のレストランだとかコーヒーショップが、もし海外の人向けのサービスに紹介されたら、海外の人がたくさん来ます。それは良いんですけど、日本円で現金っていうのは、お支払いが大変なんですよね。やっぱりカードをみんな求めるわけですよ。でもじゃあ、自分でカード会社に電話して書類のやり取りして決済機を置くのか? なんか面倒だな、と。

そこで、みんなが持ってるのは何かって言うと、スマホなんですよね。このスマホにクレジットカード決済の機能を持たせるアプリをダウンロードするだけで、ハードをスキャンするデバイスもなにもいらないです。カードをカメラで撮るだけで決済ができる、という仕組みです。なので、多大な労力を払ってカード会社を結びつけるのはみんなイヤだ、っていうところを間に入っていると。

ここまでは良いんですけども、じゃあそれをやるために全部ゴリゴリ作りましたかって言うとそうじゃないんですよね。もうあるプラットフォームを使います。例えばこの場合「Stripe」という決済プラットフォームを使ってるんですけども、これによって「ONE PAY」の会社そのものも、カード会社とやり取りしなくていいんですよね。ペーパーワークもしなくていい。

そしてStripe自身もAWSの上に乗っかっているので、スケーラビリティというところに関しては担保されている。だから本当に課題解決にフォーカスして、どんどん顧客要望を聞いてアプリケーションをブラッシュアップする。こういうビジネスができるわけですよね。

本人(山内氏)がおっしゃってたいんですけど、「構想1週間、開発1ヶ月」って言ってました。これぐらいのスピードがあれば勝負になる、ってことですよね。企画会議で、ああだこうだってやってると、どんどんこういう若い子に置いていかれると。これぐらいのスピード感で、そして1億円の調達という資金力を持って、若い世代がやって来ているというのは、ファクトとして見ていただければいいんじゃないかなと思います。

そして先のエコシステムの法則に、非常に従っているように私には見えます。息子と同い年なのでけっこう肩入れしちゃうんですけども、発言がかっこよくてですね。でも的を射てるんですよね。彼が言っているのはこれです。「東京のGDPは、世界で一番大きい都市で、そのほとんどが現金で動いている。それで不便に思っている人もいる」と。「これ、吸い上げたら大きいビジネスじゃないですか?」って言ってるんですよね。

こう言われるとそのとおりなんですよね。そのために最短の方法でモノを作って世に出す。よく物事が見えてるんじゃないかな、と思っています。

テレビの死の代わりに口コミが力を持ち始める

なのでみなさんもアプリ開発とか企画される時に、例えば「山内君だったらどう考えるだろう?」みたいに、山内君をペルソナにして開発会議をやってみるとおもしろいんじゃないかな、と思います。ビジネスインサイダーの記事にもありますので、もしよろしければ読んでいただくと、非常におもしろいと思います。

さらに、作ったものをどんどんブラッシュアップしてビジネスにしていかなきゃいけない、という話をしましたけども、いわゆるマーケティングですね。ここにもいろんなエコシステムと言うか、不可避な流れが来てるということが言えると思います。

わかりやすく言うと「テレビの死」ってことですよね。マスメディアは死にました、という話です。みんなに等しくリーチできる方法がない時代なんですよ。それはもう、みなさんがよくおわかりになっている。その代わり非常に力を持ち始めてるのが、いわゆる口コミですよね。「知り合いに勧められた」とか「あの人が良いと言っている」というのは、非常にパワーを持つようになっています。

これはもともとパワーを持つ仕組みなんですよね。「おとなりの〇〇さんがこうおっしゃってたわ、私もこうしてみようかしら」みたいなのは、それこそ江戸時代からあった話です。ただその時代は、スケールしなかったんですよね。本当に「井戸端会議」っていう言葉のとおりで、その長屋以上にそれが伝わらない。伝わったとしても、ものすごく長く時間がかかる。

今は違うんですよ。例えば今日もみなさん、ツイートしていただけてるんじゃないかと信じてますけども(笑)。みなさんに繋がった先に、この場所からどんどん情報が……つまりみなさんがマイクロメディアなんですよね。なので、ここを使うとすごく情報が拡散し始めます。

じゃあその個々の拡散パワーを、束ねるとどうなるか。これが今いろんな会社がトライしようとしている「コミュニティを作る」って話だと思うんですよね。コミュニティっていうのは、単に集まってピザを出してウェーイ、じゃなくて、「このサービス良いよね」とか「この場所良いよね」っていうのをどんどんほかの人に、自分の力でアピールする。そういう場なんですよね。

ユーザーの声は信頼性がある

(スライドを指して)実はこの写真は、私がAWS時代にやっていた「JAWS-UG」というユーザーコミュニティで、彼ら(コミュニティのメンバー)が自分でやっているイベントなんです。今度も3月にやります。エントリーが1,500人くらいいて、実際に会場に来られる方が1,200~1,300人。セッションの数も50くらいあるんですが、これを全部、ユーザーサイドでやってしまっていると。

つまりユーザーさんが、新しいお客さんを集めて「良いよ」って話をしてくれてるわけですよ。これは強力なんですよね。なぜかと言うと、情報に信頼性があるからです。これは恥を忍んでお出ししますが、僕がAmazonにいた時、AWSのある情報をサーチしたら、オフィシャルなブログが何位にいたかって話です。

メーカーの情報が、Top5に入れないんですよ。Top5は、使ってる人が「これ使って良かったよ」とか「ここは足りないよ」とか、リアルな声のほうが上に来るんです。少なくともGoogleという検索エンジンを通すと、こっちのほうが質が良い、と判断されます。ましてやメーカーの情報を代理店に渡して、咀嚼してマスメディアに乗せる、というのは、リーチ力はあるんですけど影響力が弱いんです。

つまりマスメディア、もしくは旧来のマスマーケティングは、わかりやすく言うと「リーチのテクノロジー」です。リーチすることまではできる。だけどその後に転がすのが非常に時間がかかるんですよね。

コミュニティはこれが違って、コミュニティの人に聞くと「それ良いね」っていうかたちで、どんどん拡散される。みなさんもアプリのプロモーションを考える時に、Facebook広告が良いのかTwitterが良いのか、いやいやもしかしたら最近はInstagramじゃないのか。LINEにも出稿しなけりゃ……って思うと思います。心配しなくて良いですよ。この人たちが、自分の周りで一番インフルエンスがあるメディアを選んで、自分で投稿するからです。

場合によっては複数コンテンツを切り替えながら投稿します。最適化されてるんですよね。これを束ねると非常に強い。このコミュニティを使ったマーケティングというのは、マスマーケティングと比べるとこんな感じです。

商品の力をアップするためにコミュニティを利用する

さっきマスマーケティングというのは、「リーチするテクノロジー」だと言いました。だけどリーチすべき範囲って、実のところキレイにセグメントできないんです。興味があるかどうかがあまりわからない。なので、どうもこういう利用者がついてるらしいとか、年齢がこうらしいとか、アンケートベースや、ちょっとした口頭ベースで類推するしかない。

本当に関心があるかどうかはわからないし、そしてその情報に左右されるかどうかもまったくわかりません。コンテンツを作る力はないので。

コミュニティは、適切なターゲットに適切なチャネルでマイクロメディアがリーチしてくれるだけじゃなくて、コンテンツそのものをその人が作ってくれます。なので、ターゲットに響くコンテンツ生成と、適切なターゲットへのリーチ。この2つができると良いです。

イメージで言うと、既存のマスマーケティングって、ボーリングのピンを1ピン1ピン倒そうとしている感じです。なぜかと言うと、ボールに威力がないからです。倒れないと「もっとボール持って来い」と。つまり、「もっと予算やキャンペーンを積め」ということになり、こうするとお金がいくらあっても足りない。

それより、1個のボールで、全部のピンを倒すほうが、やりやすいはずですよね。そのためにはセンターのピン、つまり「1番ピン」になる人が必要で、それが私が言うところのコミュニティ、という話です。

商品にファンがいればそういう人を束ねると、そういうコミュニティができる。より少ない原資で効果を与えられますし、売ることだけじゃなくてフィードバックもすごく来るんです。「これもっとこうしたほうが良いよ」とか、「これを直すとお勧めできるよ」とか。それをいち早く聞くことによって、商品の力がアップする、ということになると思います。

今いろんなサービスをやってらっしゃるとか、プロトを作っていたら、ぜひファンの方を作って、ファンの中からみなさんの「1番ピン」を探してみる。こういった新しい、みなさん自身のエコシステムを作っていただければいいんじゃないかな、と思います。

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