2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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会場:聞こえません!
ポール:うそだろ!? 勘弁してくれ!
(会場笑)
誰か早くなおしてくれよ!
会場:大丈夫です。ちゃんと聞こえています(笑)。
ポール:よし。では、始めます。今日話すことはエッセイにしてオンライン上にあげていますから、ノートを取る必要はありません。私の話を聞くことに専念してください。子供を持つ親であることが有利な点、それは誰かにアドバイスをする時にまずこう考えることができることです、「自分の子供にも同じアドバイスをするだろうか?」。
こう考えることで、適当なアドバイスはしなくなります。今日、私の2歳の息子に「君は2歳の次には何になるでしょう?」と聞いたところ、「こうもり」という答えが返ってきました(笑)。「3歳」と答えて欲しかったところですが、こうもりだなんて面白いですね。
私の子供たちはまだ幼いですが、彼らが大学生になり、スタートアップを始めるとしたらどんなアドバイスをするかもう決めています。そしてそれと全く同じことを皆さんにこれからお話します。ここにいる多くの皆さんは私の子供であってもおかしくないくらいに若いですしね。
何故だかはわかりません。しかしスタートアップにおいて自分の直観を信じることは危険です。
ゆっくり滑ろうとして反射的に背中を後ろにそらしてしまう。しかし、それでは逆にスピードアップしてしまう。スキーにおいては反射的に体を動かしてはならないのだと私は学びました。背中を後ろに反らせたい衝動を抑えるのです。
そうするうちに体の新しい動かし方が身につきます。しかし、初めてすぐのうちは意識的に覚えておかなくてはならないことがいくつもあります。足の入れ替え、S字ターン、内側の足を引きずらない等々です。
スタートアップはスキーと同じくらいに不自然なもので、スキーと同じように始める前に覚えておかなくてはならないことがたくさんあります。今日お話するのはそれらのほんの序盤です。
すべては皆さんが衝動的に行動して失敗に終わることを防ぐ為に、覚えておかなくてはならない「直観に頼ることができない」ものばかりです。
Yコンビネータ―を運営している時、「私達の仕事は創設者に彼らが見逃していることを教えることだ」とよくジョークを言っていました。これは本当なのです。
YCのパートナー達はいつも創設者に彼らが間違いを犯しそうな時、重大なポイントを見逃しそうな時には警告しました。大抵の場合、創設者が1年後に、「どうしてあの時、彼らの警告をきちんと聞いておかなかったのだろう」と後悔することになるのですが。
なぜ創設者たちの多くがこのようにパートナーの助言を無碍にするのでしょうか? これが私の言う「スタートアップとは直観に頼ることができない」という意味です。パートナーの助言が皆さんの直観と相違する場合、皆さんはパートナーのアドバイスは間違っていると思います。
その結果、もちろん皆さんは彼らのアドバイスを無視しますよね。これはYコンビネータ―だけに限りません。そのアドバイスに特段珍しいことがない限り、他人のアドバイスになんて耳を貸さないでしょう?
「ランニング」と「インストラクター」、この2つの言葉が一緒になる機会は「スキー」と「インストラクター」が合わさるよりも少ないです。なぜならスキーとは自分の勘に従えさえすれば上手く出来るスポーツではないからです。例えるならYCはビジネスにおける「スキーインストラクター」です。斜面を降りるのではなく、登っていく場合限定ですがね。
反面、人々に対して自分が感じる直観は信じてください。皆さんのこれまでの人生はスタートアップを始めることとは全く関係のないものだったことでしょう。
しかしこれまでの人生での人との関わり方と、ビジネスの世界での人との関わり方と全く同じです。むしろ創設者が犯す最も大きな間違いは人に対する自身の直観を信じることができないことだと言えます。
例えばこんな場合。ある創設者がどうやら大物そうな人物に会う機会があった。その大物からはなぜか胡散臭い印象を受けた。後にその人物と関わったおかげで大問題が起こる。すると創設者は言うのです、「あの人には最初から何かひっかかるものがあったんだ。でも彼は仕事が出来そうだったし……あの嫌な感じをそのまま流すんじゃなかった!」
例えば、スマートそうな人に会う。しかしなんだか信用できない印象を受ける。でもここで皆さんはこう思うのです、「ビジネスなんだからこんなもんだろう」と。しかし、それは違います。一緒に仕事をする人を皆さんがプライベートの場で友達を選ぶように選ぶこと。
人を選ぶ時は思い切り自分の感情中心に考えましょう。人に対しては自分の直観を信じること。長いこと付き合いがあり、自分が確実に「この人は好きだ、尊敬できる」と言える人と仕事をしましょう。世の中には最初のうちだけ良い人面することが得意な人が大勢いますからね。意見が分かれた時に初めてその人の本性が出ますよ。
さて、2番目の「直観に頼ることができない」ポイントです。もしかしたら皆さんをがっかりさせてしまうかもしれませんが、「スタートアップについての知識を詰め込むことは、スタートアップで成功するか否かには関係ない」です。
これが皆さんが履修している他の授業とこの授業が違うところです。例えばフランス語のコース。コースを修了するころまでには、皆さんはネイティブ並とはいかずとも、かなりフランス語が話せるようになっているはずですよね? このクラスでは皆さんはスタートアップについて学びますが、必ずしもクラスで話される内容は皆さんが成功する為に必要なことではありません。
スタートアップについての知識を詰め込むだけでは成功することはできません。皆さんがやらなくてはならないのは、プロダクトのユーザーについて知り尽くすことです。
ここにいる多くの皆さんはきっとエンジェルラウンドのメカニズムについて知らないでしょう。落ち込む必要はありません。恐らくあのマーク・ザッカ―バーグですらエンジェルラウンドのメカニズムについての知識は無いでしょうからね。ロン・コンウェイから高額の小切手を受け取ったことすら、マークはきっと既に忘れていることでしょう。
スタートアップの始め方を徹底的に研究することはあまり意味がない上に、ある意味危険です。なぜなら、若い創設者が犯しやすいもうひとつの間違いはスタートアップを始める「フリ」をすることだからです。
まずは衝動的にも思えるアイデアを思いつき、よい査定評価を得る為に資金を集める。次にすごくカッコいいオフィスをSoMa(サンフランシスコの新興ビジネスが集まる地域)に借りる。そして自分たちの友人たちを雇い入れる。そして彼らは気がつくのです。どれだけ自分たちがバカだったかを。
スタートアップを「形だけ」、「スタートアップをやっているんだ」と言えるように体裁だけ整えた彼らは、基本的で最も重要な部分に取り組んでいないからです。それは人に喜ばれるものをつくること。
ところで「バカ」なんて言葉を使ってしまいましたが、自然と出てしまいました。事前にサムに「バカ」だとか強い言葉を使うことについて話をし、それはオーケーだと言われています。彼も何回か使ってしまったことがあるとのことでしたので。
(会場笑)
(会場笑)
この現象に名前をつけました。「おままごと」です。時間が経つにつれ、だんだんこの現象の原因がわかってきました。若い創設者がスタートアップを始める真似事をするのは、彼らはそのように長年訓練されて来たからです。
大学に入る為にはどうすればいいのか考えてみてください。「課外活動をやっていましたか?」、の項目には「はい」のボックスにチェックを入れたほうがいい。大学に入ってからも、そこで行われる授業や与えられる課題はパスするだけ、点数を稼ぐ為だけのものなのになっていないでしょうか。
私はこの場で教育のあり方を責めているわけではありません。学生として何かを学ぶ際にはある程度やっつけ仕事的な、ヤマ勘だとかも必要です。彼らが教えられる内容をどれだけ理解して取り組んでいるかを測ると、大部分が彼らは「理解しているように見せて、言われた通りやっている」だけであることに気がつくでしょう。
実は私も大学時代はそうでした。ここで皆さんに良い成績を取る裏ワザをお教えしましょう。多くのクラスにおいて、教授が試験に出しやすい問題はその授業内容の20%から30%だけであるということに私は気がつきました。
私にとっての試験勉強とは授業内容をすべて理解することではなく、どの問題が出るかを予想し、それらに集中して準備することでした。私にとっての試験とは「どんな難しい問題が出るんだろうか」と不安に思うものではなく、「出るはずだと踏んだ試験問題のうちのどれが実際に出てくるか」でした。
私の成績はすこぶるよかったです。試験当日問題が配られる。そこで私が最初にするのは、「ふむふむ。僕が必ず出るはずだと踏んで準備してきた問題のうち、先生はどの問題を選んだのかな?」と確認することでした。
(会場笑)
特にコンピューターサイエンスのクラスでこれは有効でした。オートマタ理論はよく覚えています。あれについて試験に出しやすいポイントは2、3しかなかったですからね。
つまり、若い創設者はこのように「ゲームをどれだけ効率的にこなすか」と考えて行動することに馴れている為、スタートアップを始めるにおいてもまず「これを攻略する裏ワザはなんだ?」と考えるのです。
彼らは投資家を説得する「裏ワザ」をも知りたがります。「投資家を説得するには成長速度が速いスタートアップをつくることだよ。そして自分たちがどれだけ速く成長しているかを彼らに説明することだ」と彼らにいつも言っています。
そこでも彼らは聞くのです、「わかりました。ではどうやったら急成長するスタートアップをつくることができるのでしょうか?」
「グロースハック」という最近よく知られるこの単語が状況を激化させています。「グロースハック」という単語を使う人を見かけたらこう思いましょう、「くだらないことばかり言いやがって」。
(会場笑)
なぜなら、スタートアップを成長させる為にはユーザーが喜ぶものをつくらなくてはならないからです。YCのパートナーが創設者と話す時、多くの創設者は「どうしたら○○できるのか」という質問をします。
それに対してパートナーは「ただ○○すればいい」と応えます。なぜ創設者は物事を複雑に考えたがるのでしょうか? 長年の間、この疑問に対する答えを求め続けた私は気がつきました。彼らは「裏ワザ」を探している。ゲームの「裏ワザ」を探して効率良く物事を進めるべきであると長年の間訓練されてきたのだということに。
大企業の中にいるのであれば、その巨大なシステムを手玉に取って「ゲーム」のように物事を進め、成功することも時には可能でしょう。
堕落している組織内においては、「正しい」人物にゴマをすりさえすれば成功することもあるでしょう。深夜にメールを送信することで、「生産的」であることをアピールすることもできるでしょう。賢い人は、深夜に送らずともメール送信するコンピューターの時計を変更しておけば深夜に送ったように見せかけることもできるでしょう。
(会場笑)
私のこんなジョークに笑ってくれる人達の前で話すのは楽しいですね。
(会場笑)
スタートアップでは卑怯な裏ワザを決して使うことは出来ません。ゴマをすることができる上司すらいない。
ユーザーを喜ばせるしか成功する道はありません。ユーザーが喜ぶのは皆さんがつくるソフトウェアが優れている場合だけです。ユーザーはサメのようなものです。彼らは賢いので、ダマすことは出来ませんよ。
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