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Lecture 2 - Team and Execution(全3記事)

「ノー」と言えない人は仕事ができない--”何をやらないか”の決断が実行力のカギ

DropboxやAirbnbといった、世界で注目される企業を育てるスタートアップ養成所・Yコンビネーター。本講義では、その代表を務めるSam Altman(サム・アルトマン)氏が、スタートアップ成功の鍵「実行力」について語りました。

実行力のある人は、希少価値が高い

サム・アルトマン氏:では「実行力」についての話を始めましょう。多くの創設者にとって、これは会社経営の中でも最も困難だと感じる部分です。しかし、これが決定的な要素となります。多くの人が会社を立ち上げるときらびやかな生活が待っていて、雑誌の表紙に載ったり、パーティに行ったりすることが仕事になるのだと勘違いします。

(会場笑)

しかし、会社を立ち上げるということは長期に渡ってプランを実行し続けるということであり、この仕事を他の人に任せることは決して出来ません。実行力のある会社にする為には皆さん自身が実行力のある人物でなければなりません。

どのようなスタートアップになるかは創設者次第です。創設者が組織の文化をつくります。一生懸命仕事に取り組み、細部までによく着目し、顧客を満足させ、質素な姿勢を保つ社内文化にしたいのであれば、皆さんがそのような人でならねばなりません。他に方法はありません。

カンファレンスに参加することを理由にCOOを雇って全てを任せることは出来ません。メンバーは皆さんが熱心で実行力がある人であることを期待します。確実にプランを遂行できる人には素晴らしいアイデアを持つ人の少なくとも100倍は希少価値があります。素晴らしいアイデアを持っているだけではダメなのです。優れた実行力が会社に真の価値を与えます。

ここで大切なのはとにかく努力することです。実行力を上げる為に学ぶことはたくさんあります。「実行力」については今後コースの3回分の時間を設けてあります。

企業家の最も重要な役割は、行動の基準を設定すること

CEOの仕事についてよく聞かれます。大きく分けて5つあります。初期は時にこの5つです。多くの人がCEOの仕事としてよく挙げる4つのことは「ビジョンを明確にする」「資金を集める」「今後社に迎え入れたい人、エグゼクティブ、パートナー、プレスに自分の会社の素晴らしさ、ミッションを深く理解・共感してもらえるように努める」「雇用し、チームを上手く管理する」です。

5つ目は多くの創設者があまり率先してやらない、または自分がそれをすることを上手く想像出来ないことです、「行動の基準を設定する」。これが実はCEOがやらなくてはならない最も重要な役割であり、CEOにしか出来ないことです。

「実行」には大きく分けてふたつあります。「何をするか」「どうやってそれをやるか」です。「何をするか」について皆さんはすでに自分のアイデアをお持ちでしょうから、「どうやって」の部分についてお話したいと思います。ふたつあります、「フォーカス」と「勢い」です。

「フォーカス」はとても重要です。創設者によく聞きます、「どんなことに時間とお金を使っていますか?」これを聞くことで、その創設者が何に重きを置いているのかが手にとるようにわかります。

創設者は日々何を最優先として取り組むか頭を抱えます。皆さんは毎日の最優先事項を2つか3つに絞り、それに取り組み、他は無視する、考えないようにするのです。

創設者がよく最も重要だと考える多くのこと―多くの法律会社を訪れる、カンファレンスに行く、アドバイザーを雇う等々―は重要ではありません。その時々によって最優先事項は変わりますが、よく覚えておいてください。今やらなくてはならないことをよく考えて、2つか3つに絞り込みそれに取り組むのです。

毎日「今日はこれをやり遂げよう」と決めるのは2、3の項目だけに絞ります。なぜなら、毎日予想が出来ない様々な問題が出てくるからです。最優先事項を2、3に絞れないと何もやり遂げることが出来ません。これが創設者にとって実行するのがとても難しいことなのです。創設者が興奮するのは新しいことを始める時ですから。

実行力の鍵は「ノー」を言うこと

残念なことに、優れた実行力の鍵はたくさんの「ノー」を言うことです。皆さんは100のうち97のことに対し「ノー」ということになります。多くの創設者が「ノー」を言うよう意識しています。多くのスタートアップが初期段階ではまったくフォーカスしていないと言っても過言ではありません。

きっと彼らは皆一生懸命にやっているのでしょうが、がむしゃらにやるのではなく真に必要な物事に対して必死に取り組まなければ失敗してしまいます。スタートアップを始めることが素晴らしくもあり最悪でもあるひとつの理由は「頑張った」事実が評価されないことです。市場が求めているものをつくって初めて評価されます。つまり間違った方向に頑張っても誰も気に留めてくれません。

では、毎日何にフォーカスするかをどのように決めるのでしょうか。日々のゴールを定めましょう。成功している創設者の多くが、社内全員が理解し、それに向かっていくよう短期的ゴールを設けています。

例えばプロダクトをこの日までに必ず発送する、ある部分の成長率を上げる、要となる役割を担う人を雇う等。ポイントは社内全員が毎週何を成し遂げねばならないかを理解しているということ。そうすれば全員がそこを目指して行動します。

何にフォーカスするかを定めるのは創設者の仕事です。創設者がどんなことにフォーカスしようとも、そのフォーカスが会社全体のフォーカスポイントとなります。成功する創設者は設定したゴールを何度も何度も必要以上に繰り返し言います。

例えば壁にそのゴールを掲げたり、1対1のミーティングの場で皆にそれをリマインドしたり。これをすることによって会社全体のフォーカスがぶれません。全体が一丸となり目標を達成出来るようにフォーカスする為には円滑なコミュニケーションが欠かせません。

たとえ社内の人数が4、5人であったとしても、小さなミスコミュニケーションから、皆が違うことにフォーカスして仕事をしてしまうという状況が生まれることがあります。すると社内のフォーカスをぶれ始めて、ガラガラと崩れていきます。

常に成長しているかを問い続けるべき

追ってまた詳しく話しますが、「成長すること」と「勢い」についてだけは絶対に軸がぶれてはなりません。なぜならスタートアップの成功はそのふたつにかかっているからであり、それらを保たねばならないからです。フォーカスがぶれていないか常にチェックします。

毎週それらをレビューするミーティングを設けましょう。もしも「今は成長率にはフォーカスしていません。現在あまり成長していませんが、他のことをやっていますので。他のことに集中しているので、これをいつ配送するかについてのタイムラインは設けていません。」などと言い訳をする自分を発見したら気を付けてください。このような言い訳が始まるとほぼ間違いなく大参事に繋がります。

正しい基準を持つこと、そして自分の判断基準を成長させること、勢いを保ち続けることにフォーカスしましょう。簡単に脇道に逸れたり、他のことに集中しすぎないように。よくあるのは自分の会社のPRに喜びすぎることです。PRがビジネスに何の効果ももたらさないことはよくありますが、外部に取り上げられると嬉しくなってしまいます。

しかしその1年後、宣伝効果が表れることもなく、その当時は取り上げられていたかもしれませんが今では注目を浴びていない。そんな時、1年前に取り上げられた時の記事を引っ張り出してくる。そこには「スタンフォードの学生が新しいスタートアップを始める。これは多いに期待できそうだ」とある。しかし現在成功していないのであれば、有名メディアに取り上げられた過去があったとしてもまったくの無意味です。

先ほども言いましたが、同じスペースで、同じペースでやりましょう。外部に取り上げられたことをぬか喜びしているようでは成功しません。そして共同創設者が方々に散らばっているととてもやりにくいです。物事が進むペースも遅くなります。

ライフワークバランスをスタートアップに求めるな

「実行」のポイントのその2、「勢い」どれだけやれるかについてです。スタートアップは勢いにのってとにかくやるしか成功への道はありません。私の友人は、スタートアップの成功の秘訣はとにかくフォーカスすること、そしてとにかく身を捧げることだと言います。

スタートアップと他の趣味だとか家族を両立させることは出来るでしょうが、仕事以外に出来ることは限られるでしょう。ライフワークバランスをスタートアップに求めてはいけません。悲しいですがそれが現実です。

スタートアップの素晴らしいポイントはいくつもありますが、これだけは辛いところです。スタートアップは消耗しますし、説明するのが難しいです。皆さんにはとにかく誰よりも優れた仕事をしようという強い意思が必要です。

良い知らせは、正しいポイントに少しだけ余分に力を注ぐことで大きな違いが生まれることです。既存のユーザーがどれだけ多くの新規ユーザーをもたらすでしょうか。もしも0.99倍であれば、その会社は消滅するでしょう。もしもそれが1.01倍であれば永久に成長し続けるでしょう。

これは少し余分に努力するか否かで成功か失敗かが決まるというひとつの例です。成功する創設者に話を聞くと、皆これと似たような話をしてくれます。競合よりも少しだけ余計に努力することが彼らを成功へと導きました。

勢いとやる気が必要です。そしてそれはCEO、創設者しか生み出すことはできません。スタートアップが有利である点のひとつに実行するスピードが速いことと、厳格なオペレーションのリズムがあります。

「早く動いて、壊せ」、これはFacebookの有名なポスターです。しかし、そう言いながらも彼らはクオリティにもものすごくこだわっています。これが言うのは簡単であれども実行するのが難しい理由です。

早く動くこと、またはクオリティにこだわることも簡単ですが、スタートアップでは両方一度にやらなくてはなりません。ひとりひとりの仕事の高水準とスピードを保つ社内文化にしましょう。

優秀な創設者はスピードがとにかく速い

Apple、 Google、 Facebook、彼らは今お話したことをとてもうまくやってきました。ポイントとなるのはプロダクトそれ自体ではなく、彼らがどう行動するかなのです。彼らは素早く動き、既存の概念を壊し、つましくいられる正しい居場所を見つけました。

それに加えてクオリティにもとてもこだわっています。下手くそなコードを書いて欲しくなければ、使えないコンピュータを人に与えたりしないでしょう。クオリティの高水準もルールとして社内全体で設定します。皆さんは意思の固い断固とした人でいなければなりません。

優柔不断はスタートアップを潰します。2流の創設者は多くの時間を彼らの素晴らしいプランについて語ることに費やしますが、言葉だけで行動に移しません。「あれくらい自分にもできた」「あんなこともやれたのに」と言いますが、結局動かないのです。行動することです。

優れた創設者は小さなところから動き出しますが、そのスピードがとても速いです。なにかを成し遂げるのが本当に早い。優秀な創設者と話すことがあれば、彼らは毎週新しいなにかを成し遂げていることに気がつきます。実はこれがYCでは成功を予感する目安となっています。

毎週話をする度に新しいことに取り組んでいる会社は成功する可能性が非常に高いです。言い換えると、大きな計画も小さなところから始めればやり遂げることができます。小さな成功が積み重なり、1年後には素晴らしい結果に繋がることでしょう。

実現可能な「正しい」サイズのプロジェクトに取り組みましょう。例えあなたが前例のないクレイジーな合成生物学の会社をつくろうと考えているのであっても、例えあなたがその計画を実現するにはまずは1年は準備が必要で、プロジェクトを部分部分にわけることなど出来ないと思っても、大抵の計画は小さなプロジェクトに分けてひとつずつ取り組むことができます。

スピード感がとても大切です。大抵の場合優秀な創設者はメールの返信が早く、意思決定も早いです。それ以外の側面でも彼らの行動はとても速い。更に彼らは、成功する為ならなんだってやってやるという姿勢で臨んでいます。

どんな小さな問題でも、とにかく現場に行ってみる

概してそのような優秀な人々は様々な場所に顔を出します。彼らは会議にやってくる、そして会議に参加するひとりひとりに挨拶をする。彼らは問題が起きれば、たとえそれが「小さな」ものでも飛行機に乗り込んでやってきます。ここで短いお話をします。

私自身が自分の会社を経営していた時、契約を逃しそうになっていることに気がつきました。その契約は会社にとって重要なもので、私達にとっては初めての大口顧客でした。そしてこの大口顧客は私達よりも経験のある違う会社と契約を結ぼうとしていました。

私達は顧客に電話し、「私達のプロダクトのほうが優れています。是非一度会って話を聞いてください」と言いました。彼らは、「すまないが向こうとの契約を明日結ぶ予定なんだ」。と言いました。彼らのガードは堅かった。私達は空港に直行し、飛行機に乗り込み、翌日の朝6時には彼らのオフィスで待ちかまえました。

私達はそこに居座りました。彼らには出ていけと言われましたが居座り続けました。ついにジュニア・マネージャーが私達と会ってくれることになりました。結果、彼らは当初契約を結ぶはずだった会社との話を蹴り、一週間後に私達と契約を結んでくれました。私達がすぐに空港へ向かい、飛行機に乗り込まなければ、そして実際に彼らのオフィスを訪れなければこの話は実現していなかったでしょう。

とにかく直接会う機会を設けること。どんな小さな問題でも、とにかく飛行機に乗り込み実際に行ってみることだとはよく言われますが、文字通りには「どんな小さな問題でも」というわけにはいかないでしょう。しかし私は「どんな小さな問題でも、とにかく実際に行ってみる」というのは文面通りに受け止めても良いアドバイスだと思います、

負けている時は、小さな成功で勢いを取り戻す

勢いと成長についてはお話した通りです、もう1度言います。スタートアップの存続は「勢い」と「成長」に依存します。これは実行力を持つ為の最も重要な秘訣です。皆さんは皆さんの会社を常に成長する会社にしたいと願っているはずです。操縦中にペダルから足を離せば、制御が利かなくなってあっという間に転覆します。

勝ち続けるチームは自分たちの成功を楽しみながら勝ち続けます。負け続けるチームの士気は下がり、更に負け続けます。常に勢いを保つのです。もしも成功の秘訣をひとつだけアドバイスできるとしたら、私は「勢いを保つこと」と言います。

多くのソフトウェア・スタートアップにとって「勢い」は「成長し続ける」ことと同意義です。ハードウェア・スタートアップにとってはこういうことです、「発送期限を必ず守れ」。YCでもよくこの話をします。皆きちんと話を聞いて理解してくれるのですが、その時は理解できても後々他のことに気を取られてしまい成長率が下がります。

そして組織のフォーカスがぶれると、内部の人々は不満を漏らし始め、辞めてしまい、会社は崩壊します。どこに成長を最も期待すべきかを見極めるのは難しいです。なぜなら多くの会社がそれぞれ新しく違ったやり方で成長するからです。

しかし、これだけは共通します、「素晴らしいプロダクトをつくれば会社は成長する」。つまりプロダクトづくりの成功を初期段階で目指すことが、後に勢いを失わない為の最高の方法であるということです。

多くの創設者が失った勢いを間違った方法で取り戻そうとします。会社のビジョンを長々と語り、そのスピーチで皆の士気を高めようとします。しかし、会社の勢いが下がっている時に従業員はそんな話は聞きたくありません。ビジョンを語る長い演説は、勝ってからにしましょう。負けている時には、小さな成功を積み重ねて勢いを取り戻します。

低迷時期から勢いを取り戻したFacebookの事例

私のボード・メンバーはよく「スタートアップにおいてはセールスがすべてを決める」と言っていました。これは本当です。まずはどこから始められるか、どこで小さな成功を重ねることが出来るかを見極めます。小さな成功を重ねていくと、抱えていた他の問題がどんどん消えていくことに驚くでしょう。

勢いが落ちてきた時にもうひとつ気が付くことがあります。皆の今後の方針に関する意見がバラバラになり始めます。勢いが低下すると内部で対立が起こります。チーム内で意見が対立する場合にはユーザーに意見を求めることです。

そして、ユーザーに指摘されたことをすべてやってみるのです。「今は上手く行っていないけれど、お互いを嫌い合う必要はない。すべてを軌道に戻せば必ず上手くいくはずだ」と皆に言い続けましょう。これを皆さんが認識しておくだけで物事はスムーズに改善していくはずです。

またFacebookの例を挙げます。2008年のFacebookのセールスが低迷した際、「成長グループ」というチームを立ち上げました。そのチームはFacebookの成長率を加速させる為に小さなタスクに取り組みました。

ひとつひとつは取るに足らないタスクに見えても、それが積み重なってFacebookはまた軌道に乗り始めました。そして「成長グループ」はFacebook内で最も優秀な人が集まるチームとなりました。

マークはこのチームについて「Facebook至上最高のイノベーションだ」と言っています。当時Facebookに勤めていた私の友人は、「成長グループ」が社内の士気を上げたと言っています。Facebookは皆が希望を失い始め、勢いがなくなるという状況から再度世界のトップに返り咲きました。

他人を気にすることなく、自分のビジネスに集中すべき

勢いを保ち続ける為には、会社創設初期段階でオペレーションのリズムを確立することです。それにはプロダクトを発送し、新しいフィーチャーを定期的にローンチする、毎週会社全体でメトリクスをレビューする等が含まれます。

役員会が出来ることがひとつあります。彼らがビジネス戦略に良いアイデアを出すことはまれですが、彼らの存在を会社がメトリクスと主要管理点を常に意識することを強要する圧力として利用しましょう。

他社が私達の勢いを邪魔してくることがあります。プレスの力を使ったりして。外部からの力で会社の勢いが落ちる場合、原因の多くは他社です。

競合他社が実際に素晴らしいプロダクトをつくって皆さんを負かすまで、皆さんが彼らに気を揉む必要は全くありません。メディア、プレスでものを書くのはコードを書くことよりも簡単です。

そして戯言を言うのは素晴らしいプロダクトをつくるよりも簡単です。皆さんは創設者として、社内全体にこんなメッセージを送り続けなければなりません、「奴らがプレスに露出しているからといって、私達が落ち込む必要は全くない!」と。

ヘンリー・フォードの残した素晴らしい言葉を紹介します、「他人のことを気にすることなく、彼のビジネスに集中し、常に上を目指して全力を尽くす人が真の競合として恐れられる人である」。

プレス・リリースを多くやっている会社がフォードの言う「競合」となることはありません。彼らはいずれ世間から忘れられます。

今日はここまで。ありがとうございました。

 

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