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Cafe Eight・清野玲子氏(全2記事)

肉を出さない“純菜食主義”で勝負 都内でカフェレストランを営む女性社長の気づき

アマテラス代表・藤岡清高氏が、社会的課題を解決する志高い起業家へインタビューをする「起業家対談」。今回は、カフェエイト・清野玲子氏のインタビューを紹介します。※このログはアマテラスの起業家対談を転載したものに、ログミー編集部で見出し等を追加して作成しています。

“純菜食主義”をコンセプトにしたカフェを経営

藤岡清高氏(以下、藤岡):Cafe Eight(以下、カフェエイト)とDouble Ow Eight(以下、ダブルオーエイト)という2つの事業を手がけられていますが、事業内容や起業の背景について教えてください

清野玲子氏(以下、清野):はい。カフェエイトのほうは、飲食事業をやっておりまして、ヴィーガン(VEGAN=純菜食主義)をコンセプトにしたカフェレストラン事業です。

ベジタリアンという言葉はご存知だと思いますが、ベジタリアンにもいろいろな種類があり、多くの場合は卵や乳製品など一部の動物性食品を食べます。

ヴィーガンとはそれらの動物性食品を一切食べず、野菜や豆・穀類を中心とする純菜食主義者のことです。この飲食事業をスタートしたのが2000年で、その3年前、1997年にデザイン事務所を川村(現取締役)と一緒に立ち上げまして、これがダブルオーエイトという会社です。27歳のときでした。

当時女性2人でデザイン事務所を立ち上げるのは珍しかったと思います。川村とは、ソニーミュージックという会社で一緒になり知り合いました。

1997年と言えば、バブル崩壊後、景気がガクッと落ち始めていたときでした。私たちはバブルをぎりぎり余韻だけ味わった世代で、先輩たちはバブルを味わってきた人たちで「こんなに景気が悪いのに、よく会社作るね」ということを言われながら始めたのですが、女2人でデザイン会社を起業するのも珍しくて、強みになると自分たちでは思っていました。

社名のDouble Ow Eightは映画の『007(ダブルオーセブン)』から来ています。『007』の次で008(ダブルオーエイト)。2人ともデザイナーとして『007』という映画作品がすごく好きなんです。『007』のオープニングのグラフィックが毎回すごくて、デザイナーの目で見ると「やるな」ってことをやるわけです。

そういうところに感動したことと、『007』のジェームスボンドみたいに身軽に動いて、オシャレで、しかも遊んで見えるような仕事の仕方をしようと。「いつもあの人たち遊んでるな」と思われるぐらいでいかないと起業した意味がないと思っています。

以前は企業に所属していましたが、大きな組織だと上下関係であったり、取引先のトップの話を直接聞けないなど、いろんなジレンマがありますよね。自分たちはそういったことに向かないタイプということは2人ともわかっていました。

また、デザイナーという職業のキャリアパスは、企業のデザイン部署のなかで、だんだん地位を上げていくか、独立するか、あるいは別の職業に代わるかという選択肢になる。

それを考えると、遅かれ早かれ独立するのだったら今やってもいいんじゃないかということで立ち上げたんですね。

仕事のスタイルは『007』のように

藤岡:営業経験のないお二人がダブルオーエイトを起業して、最初はどうやって売上を上げられたのですか?

清野:当時はインターネットブームがあり、ホームページデザインの仕事を運良く受注できました。サラリーマンだったときに、「間違いなくこれからはインターネットだ」という確信があったのですが、いわゆるホームページデザイナーがまだまだいなくて、当時勤めていた会社から専門学校に通わせてもらいました。社会人向けのホームページ作成の短期セミナーです。

そのセミナーには、有名大企業の次期精鋭のマーケティングの方や、かなり上席の方たちが大勢参加されていました。「ホームページってなんだ、インターネットってなんだ、サーバーって何?」というようなことを勉強しに来ていて、デザイナーとしてそこに参加していたのは私だけでした。

そこで知り合った人たちからホームページ作成の依頼がどっときました。セミナーの講師経由からもたくさん仕事のお話を回していただきました。大企業とのダイレクト取引ですし、2人だけの事務所だったので、利益率の高いビジネスでした。

ただ、会社を2人で立ち上げたときに、「お金ができたら好きなことをまずやろう」と言っていたんです。1年仕事をしてお金がある程度できたら、1ヶ月2人でニューヨークやロンドンに行って帰ってきて。クライアントさんからは、「突然いなくなるし、電話も出ない!」と顰蹙(ひんしゅく)を買いました(笑)。

でもそういう仕事の仕方、つまり『007』のようなスタイルを求めていました。「この2人は普通じゃないぞ」と思われたことは間違いないと思います。

カフェエイト立ち上げの背景

藤岡:カフェエイトが立ち上がる背景を教えていただけますか?

清野:私たちはデザイナーなので、印刷物、立体物も作ります。インテリアであったり、コンセプトワーク、ブランディングもしていきます。そういう流れのなかで、お店を作るということはものづくりの1つだったので、自然な流れでした。

私自身ものすごく料理が好きなのですが、2人とも飲んだり食べたりが大好きなんです。最初の事務所は3LDKのマンションの端と端に住んで、真ん中の部屋を事務所として使っていました。

ですので夕飯も一緒に食べたりしますよね。私が毎日毎日料理をして、打ち合わせに来た人や、夕方来たお客さんにも「食べてけば?」 と誘ってみんなで食卓を囲んでいました(笑)。

仲良くなったある印刷会社の営業さんとは、「宴会やるから打ち合わせを夕方にしようよ」という感じで宴会が始まり、じゃあ誰誰も、という感じで人が集まるようになるんです。まあ、連日連夜宴会をしていたんですね(笑)。

だから私、15時以降は仕事していませんでしたね。15時になると食材の買い出しに行っていました。

そのうち、いろいろな方たちが来て宴会をするようになったときに、「お店をやったらいいよ」という声が出てきたんです。

もともとクライアントさんだった方が青山に作る新しい店舗の最上階に飲食店を入れたくて、いろいろと声を掛けられていたらしいのですが、なかなかピンと来なかったようで、そんなときに、「清野さんやらない?」と言われて、「私でいいんだったらやりますよ」ということで始まりました。

そもそも飲食事業をすると決めた理由の1つが、2000年頃、特殊な殺人事件が連続して起こったり、狂牛病や牛乳の偽装事件だとか食の問題が勃発していた時期で、「食」という側面からこの状況を解決したいと思っていたことでした。

私自身がベジタリアンで、もともと料理写真家になりたくて料理撮影の会社に勤めていた時期があったんですが、そこで外食産業の裏側を見る機会があり、業務用の食材ってこんなひどいものが使われているんだという事実を目の当たりにして、外食が一切できなくなった時期がありました。

みんなを呼んで宴会をしていたのには、そういう背景もありました。自分が選んだ健康な食材で野菜をたくさん食べてほしい。私の料理でみんな体がすっきりすると言って喜んでくれて、これが私の使命かなとも感じていました。

日本人の食がおかしくなったから、おかしな殺人事件や切れやすい子供が出てきたりしたんじゃないかと思います。

「食のことを見直さないとみんなおかしくなってしまう」という思いがどこかであったので、私の手料理で宴会をして「みんなたまにはちゃんとしたものを食べなさい」と言い続けました。その会は「割烹清野」と呼ばれ、私は「お母さんみたい」と言われていたんですよ(笑)。

「今日、『割烹清野』やるよ」とみんなに電話すると集まってくる。来られるみなさんは、見た目は豊かな生活をしてるし、しっかりした会社に勤めていますが、実際話を聞くと「昨日もコンビニの弁当でさあ」「徹夜で」と、本当に酷い食生活で体を壊す人がたくさんいました。

「そういうことじゃだめだよ」と宴会をしながらみんなに話していました。そんな思いもあったので、「飲食店やらない?」と言われたときに、「私だったらこういうことやりたいです」と言ったところ「おもしろいからやってよ」と言っていただき、カフェエイトがスタートしました。

3年くらいカフェエイトを続けたころに狂牛病はじめ、食に関する事件がまだまだ続いて起こりました。

カフェエイトの食事に喜んでくださるお客様がたくさんいらっしゃり、実際に取引する農家さんの実情を知っていくと、有機農家の野菜を買う人がいないと有機農家は増えないし、フェアトレードをして需要を増やす必要があるなと思ったり、いろいろな使命を強く感じました。

川村と相談して、店舗のオーナーに当初負担していただいた初期費用や権利などを自分たちですべて買い取り、完全に独立して法人化しました。そこから本気でやろうということで走り出したんですね。それと同時に現在の表参道の店舗「PURE CAFE」もオープンさせました。(※2016年6月より「PURE DELI & STORE」に店名変更)

リーマンショック直後の逆張り戦略

藤岡:「資金繰り」の面ではどのような壁があり、それをどう乗り越えたのでしょうか?

清野:一番資金繰りで苦労したのはリーマンショックの直後ですね。母体となるデザイン業務のほうの仕事がさっぱり激減してしまいました。

弊社の場合は、デザイン事務所(ダブルオーエイト)というコストがほとんどかからない事業と、飲食事業(カフェエイト)というコストも手間もかかる業態の2つがあります。

当初はそのコストのかからないデザイン事業で得た利益を飲食事業に補填・投資をしていくかたちでスタートを切って、飲食事業が赤字でもトータルで経営できるような状態でやっていました。

リーマンショックが起こると、広告宣伝費がまず削られます。実はそのときに、有名なIT企業の社員食堂の大きな企画を任されていたのですが、具体的なプランを出しているような状態の真っ最中にリーマンショックが起こり、その仕事自体が頓挫してしまいました。

そこに何ヶ月も時間を割いてやってきたのですが、かかったコストも支払っていただけなかった。その後もどんどん仕事が減りました。お仕事自体はあるのですが、その予算がどんどん減っていく、業界全体が縮小するというような状態になり、さすがに苦戦しました。

もともと余剰人員を抱えていたわけではないので社員解雇はしませんでしたが、自然減や女性の妊娠退社のタイミングでスタッフを極力絞り込んでアルバイト雇用にシフトするなどしてコストを抑えました。

デザイン業はしばらく未来は明るくないと感じたのですが、食は大きな落ち込みはないと考えて、飲食事業を補填なしで採算があがる仕組みにしなければと思い、初めて銀行から融資を受けて店内の内装替えをしたりメニュー構成を変えていきました。

ふつうこういうときは、出費をできるだけ絞ると思うんですが、逆に投資をして攻めました。これが結果的には正解でした。飲食事業はリーマン後、利益を生み出すようになっていきました。むしろ、リーマン前までは考えが甘かったと気づきました。

二足のわらじ状態でしたので、デザイン事業は非常に忙しくて、どうしても飲食事業は現場任せになり、目が届いていない部分がありました。このままではいけないということで細部にわたって私たちが細かく指示をしながらお店全体を引き締めていくという作業をしました。

箱は悪くないので、きちんとやればもっと売上は上がるはず、やらなきゃいけないことはたくさんある。リーマンショックをきっかけに着手した、という言い方が正しいかもしれないですね。

飲食のなかでも、例えば高級レストランなどの高客単価ゾーンはリーマン後は厳しかったようですが、幸いカフェは客単価の低い業態なので、あまり不景気の煽りは受けなかった。

むしろ高いレストランに行っていた人たちが客単価の低いカフェにシフトしてきて、飲食事業に関してはリーマンショックの直接的な煽りというのはほとんどありませんでした。

女性経営者としての気づき・事業へのこだわり

藤岡:女性経営者として、女性だからこそぶつかった壁や困難はありましたか?

清野:必ずしも女性だからこそ、ということではないと思いますが、数字へのこだわりなど対外的なことを意識して経営するということがまったくなかったので、銀行の方と話をするときには頭を男性的に切り替えたほうがよかったと反省したことがありました。

それまで直感で仕事をしてきたというところがありまして、自分たち自身を経営者と思わず好きなことを好きなようにやってきました。

結果的に銀行からは融資を受けられたのですが、良い評価を得られなくて、思うような金額を融資してもらえなかったんです。

デザインに関しては、いただいた仕事に対してコストをあまり意識せずとにかくお客さんに喜んでいただこうとしか考えていなかった。

なので飲食に関しても同様にお客様に喜んでいただけること、それだけを考えてやってきたのですが、やはり数字(コスト・利益)のことは追いかけていったほうがいいと追々気づくようになりました。

女性だから数字にこだわりはない、ということはないと思うのですが、女性が起業しよう何かやりたいと思ったときに、男性と比べると自分の好きなことを職業にしようと思う方が多いと思うんですよね。

儲けたいとか、会社を大きくしたいとか、上場して有名になりたいという欲求よりも、誰かを元気にしたい、といった身近な人への貢献の発想で起業される女性は多いと思います。

藤岡:男性と女性で考え方が違うと感じたエピソードなどあれば教えてください。

清野:カフェエイトを始めるときに、飲食業界に勤める男性の方たちにヴィーガンというコンセプトでやりたいと話しに行ったところ、10人が10人とも「やめろ」と言いました。

まず、単価の高いお肉を使わないと商売にならないということと、野菜は仕入値段の変動が激しいし単価も安い。野菜は旬の入れ替わりが激しくて調理のスキルも非常に必要になってくる……などなど、論理的に考えるとやめるべきだと。

悪いこと言わないから少しでもお肉は出しなさいと言われたんですけど、「いや絶対にヴィーガン料理でやっていける」という確信が私の中にはあったので、言うことを聞かないわけですよね。

自分の中でもうビジョンが見えてしまっているので、信じてやっていけば必ず実現できるという思いがあって、やってみてダメだったらしょうがないな、くらいの覚悟はできていたんですね。女性は男性よりも直感で動く部分が大きいかなと思います。

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