2024.10.10
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司会:「クリエイティブ・ディレクターの仕事術」ということで、クリエイティブ・ディレクターの中村洋基さんと、ジャーナリスト、コンサルタントの林信行さんにお越しいただきました。簡単に自己紹介をお願いします。
林:はい。ITジャーナリストの林信行です。私はITジャーナリストというふうに言ってはいるんですけど、実は今年はITのフィ―ルドを離れて、むしろぜんぜんITじゃない領域。東京デザイナーズウィークという、1週間に10万人ほどが来るデザイン系のイベントの企画に携わったりですとか。
IVSに来るとずーっと顔なじみの顔があるんだけれども、デザイン業界もデザイン業界で、同じ顔馴染みがあって。なんか結構、どの領域も“ムラ化”してしまっていて、これを飛び越えて繋がると素晴らしいことが生まれそうなのに、みんな自分のぬるま湯から出ないようなところがあって。そこをうまく揉んで、みんながショックを受けて、新しい新結合でイノベーションみたいな、そういうことができたらいいなと思ってます。
中村: PARTYという会社の中村洋基といいます。職業はクリエイティブ・ディレクターといって、広告のアイデアを考えて、全体をうまくマネジメントして、いいアウトプットを世の中に出すと。で、世の中をわっと驚かすみたいなことを生業としてやっております。
さっきのセッション(クリエイティブマネジメント最前線)って、そんなに結論が出なかったですね。結論っていうのは何かって言うと、さっき僕らとか、GREEさんとか、スマートエデュケーションさんとかが、各々の表現方法というものに対してプレゼンテーションをしたんですね。プレゼンテーションをみんなが聞いて、それぞれに分析しあったりしたんですけれど。
究極のところ、ロジックで構築できるものっていうのと、最終的なアウトプット。GREEさんの「クリノッペ」とかわかりやすかったんだけど、それまで構築していたロジックに対して、最終的に全然違うものが世の中に出ても、アリなんじゃないか、というか。そのへんの「アリとするためのプロセス」をもっと知りたかったと思うんですよね。
最終的には、実は左脳でどんだけ考えても、右脳でこれがいいんじゃないかって思ったら、それはもう、博打打ちの一手のように、世の中に表現として出してしまう。そういうことしかないんじゃないかなっていうので、フワっとしたまま終わってしまったんだけど。そこらへんはね、ロジックで詰めきれるものではないので。僕は結構、結論出すのが難しいな、と思って聞いていたんですよね。
林:今回非常によかったのが、一番最初に中村さんが、「クリエイティブっていうのは、アートじゃない」と。何をやっているかというと、課題解決。ITの世界で課題解決っていうとですね、今回もすごいウケを取っていたヤフーさんが、「課題解決エンジン」というのをうたっているんですけれども。そういう意味で言うとね、ITの経営者の人たちも、まさにクリエイティブな仕事しているわけで。
中村:会社っていうものが、全員なにがしかの課題を解決しなきゃいけないもんだと思うんですよね。もともとは社会に対して「これが足りない」とか、「もっとこういうふうにできたら、社会はよくなる」っていうふうに、社会に利益を与えるために存在している感じで。お金儲けをしたいわけじゃなくて、その対価として、お金をいただくっていうのが、多分、会社とかっていうものの基本だと思うので。
経営者さんが集まると、そういうなんか「ミッション観」とかをやっぱり大事にすると思うんですよ。ただ、もし仮に自分が経営者、自分は経営者のひとりではあるんですけど、あれもできます、これもできます、いろいろしたい、と。可能性を少なくしたくないので、「広く構える」っていうのがひとつの企業のミッションの作り方というか。
たとえばうちがやっていることは、いろんな世の中の人間に新しい機会、チャンスを与えていく仕事だ……って言ったら、実は検索エンジンだって、デザイン会社だって、何だってそうだなって言えたりするんですよね。ただ、ある程度広く構えることが、企業のミッションとか理念の中で大事なことで。一方で、課題をどんどん狭くしていくっていうか。
中村:ひとつ、ちょうど先週やったんですけど、レディ・ガガが来日してそのプロモーションをお手伝いしました。何やったかっていうと、ラブドール、ダッチワイフの一種を作っているオリエント工業さんというところとコラボして。すごい精巧な、シリコン製で触ったら人肌みたいなレディ・ガガ人形を作ったんですね。
それで、そもそもそういう会社とコラボレーションして作ったっていうこともバイラルするし。もう一個機能として、抱きしめる、ハグすると、骨伝導でガガの声とか音楽が聞こえてくるみたいな……。
林:映像はYouTubeに上がっているので検索してほしいんですけども、レディー・ガガそっくりで等身大の……。
中村:ガガ・ドールという。
・Lady Gaga - Making of "GAGADOLL"
林:ガガ・ドールがあってですね。それがこう、ほんとに生々しい。肌の感じとかも生っぽく見えて。男性が抱きつくと、骨伝導で耳に伝わってくる。ガガの音楽とか。日本語の挨拶とかも入っているんですか?
中村:あります。ガガが片言で「愛してます」みたいなことを言うんです。 林:その映像の最後で男性が抱きついているのが、すごいシュールな映像なんだけどね。
中村:あれもたしか、3日で60万PVとか。
林:すごいですね。
中村:それはなんか、何でそういうアウトプットになったかっていうと、途中まではすごいロジックがあるわけですよ。まず、レディー・ガガが気に入ってくれるものじゃないといけない。あの人が気に入るものって訳わかんないんですよ。生肉ドレスとか、最近ではスポーツ新聞ドレスとか作ってたんですけど。格好も何もかも奇抜で、発言も訳わかんないときとかがあって。なおかつ、世の中に刺激を与え続けているから、生半可な刺激じゃいけないという話をまず初めにしました。
そのあと、やっぱりこうグローバルな人間だから、日本ならではのことをしなければいけない。で、ラブドールを作っているオリエント工業は、実は1977年とかから始まっているんですね。すごい歴史のあるダッチワイフ屋さんなんです。これはジャパニーズ・クオリティだろうと。
一歩間違えば、ちょっと性的な表現とかに踏み込むかもしれない。そういう商材を“アリなもの”として世の中に見せられる力があるのは、ガガさんだけですよ、であるとか。他にたとえば蝋人形とか彫刻とか、ガガのいろんなものができているんですね。今のポップカルチャーをそのまま残そうとする動きっていうのがあって。その中で「日本でしかやれないことしましょうよ」みたいなことを言って。それで「最終的にこれしかない!」というふうになるわけですよ。
で、ガガも運良く「これしかない」って言ってくれたので、そのままアウトプットになって。でもそれは、意外と結果論であって。クリエイティブっていうのはなんて言うか、ずっとロジックを積んでいって、「これしかない!」って言っているように思うんですけれど。
あとは、世の中にあるいろんなビジネスとかいろんなアプリっていうのは、「これしかない」っていうふうに、ロジックが立てて作られているように見えるんですけど。実はふたを開けてみると、全然誤解で。ある程度、「これがほしいな」「こういうのがあったらいいな」っていう、なんか課題観みたいなものはあるんだけど。
最終的に表現っていうのは、多数決を恐れずに、「これでいいんだ!」みたいなことを、自分が「いい」と思うことをぶちまけてしまって。で、世の中の評価を見て反省したり、「これでいいんだ!」とかって自信をつけたり、そういうことの繰り返しでしかないなっていう。非常に右脳的な作業だなと思ったりするんですよね。
林:そうですね。とにかくこれは、言葉だけで話してもわからないんですけど。やっぱり、IT系の企業が作るものって、ほとんどの人たちが作っているものが、想像の範囲内。確かに、課題は解決しています。でもまあ、こんなものかっていうところで。中にいくつかブラッシュアップしていて、ここまでできるんだって思わせてくれるところがあるけれども。
そうじゃなくて、やや枠を飛び出て、吹っ切っちゃってるいうのがPARTYさんのすごさで。それって、課題をちゃんと持って、それを解決しようってということをやりながら、そこまである意味、壁をぶち壊して抜けてっちゃうっていうのは。もちろん、すごいディスカッションとかあると思うんですけど。たとえば、今のレディー・ガガにしても、最初はどれぐらいの案のものから作り始めていくんでしょうか。
中村:大体初めは、わかりやすいのをまあ3案ぐらい持っていくんですよ。松竹梅みたいに。それで、まあ広告だとクライアントのブリーフィングがあるんですよ。要するに課題観というか。で、大体、言い切れないことが多いんですね。なので、「あなたのことを全部聞くとこれ」っていうものと、ちょっと違うものまでバリエーションを作っていくんですけど。レディー・ガガの場合は、一番ぶっ飛んだ、外れたものが実はよかった。これは結構あるんですよ、こういうことって。持って行ってみると。 林:そのときのこう、場の雰囲気ってのは、「普通これだけど、でも、これできたらちょっとスゴくない?」みたいなノリで……? 中村:そうですね。あのときはクライアントさんも、ユニバーサルさんなんですけど、見た瞬間に「これよ!」みたいな。「ガガなら、これだわ!」みたいな感じで、僕らも「これなんすか?」みたいな……。でも、作っていったら結構面白くて。ガガそっくりに作ると何が面白いって、ガガのポージングとか、着ているものとか、一個一個が面白いから。僕らが僕らの手で、ある意味民主的になんか変なポージングとか、カメハメハとか、セーラームーンのポーズとかやらせてみたんですけど、何をやってもガガなんですよ。撮ると。
林:なるほど。
中村:それが面白くって。ある意味、カルチャーを世の中に出すオーラみたいなものも、なんか、2割3割ぐらいは複製できるもんなんだなって思ったりして。そういうなんか、やってみた結果わかってくることってあると思うんですよね。
中村:なので難しいところですよね。ミッションがあって、特にベンチャー会社さんとかだと、今だとやっぱり内製(社内)で作られるほうが多いから。エンジニアを内製(社内)で雇って。目的があって、それに対してウェブのサービスだったらウェブのサービスの構成図を作って。それを目標の設計図にして、デザイナーさんがデザインして、エンジニアが組む……と。まあ、「That's It!」なんですよね。
林:そうですね。そのなんか、ベルトコンベアの上に載せちゃうと、どうやってもそういう枠を超えられないものになっちゃいそうなイメージありますよね。
中村:そうなんです。なので、結局じゃあ僕たちとか、ベンチャー会社の経営者たちがどういうことをすればいいか。僕らも、組織わかんないままやっているんですよ。わかんないままやってんだけど、時々なんか……人の道を外れてしまってもいいじゃないかな、っていうか。
「こっちの方が俺は面白いと思うんだけど、どう?」っていうことに対して、周りがみんな「いやあ、社長、それは違いますよ」って言っても、たまにはやっちゃってもいいんじゃないかなと。ダメだったときに、また「ごめん!」って直せばいいんだから……っていうのは、結構思ったりして。そういうものひとつで、サービスとか魅力が全部変わったりすることってあると思うんですよね。
林:クリエイティブな部分に投資をすれば、他との違いを生み出せるというか。GREEの荒木さんが(さっきのセッションで)いいこと言ってて。新しいイノベーション、まったく誰もやっていないものをパアーっと出すことに関しては、実はそれほどデザインとか、そういうところにこだわらないでも、それなりに市場ができるというか。成功できると。
ウォークマンとかにしても、ウォークマンⅡはいきなりかっこよくなったけど、Ⅰあたりはちょっとダサいみたいな感じで。それがこう、他にもライバルが出てきてレッド・オーシャン化してくると、そこで秀でるためにはクリエイティブなものがないと、というのは感じました。
中村:そうですね。たとえばIT系のガジェット、NIKEのFUELバンドが出た後、そういう系のガジェットがたくさん出てきたじゃないですか。で、やっぱりこう、先行者利益が強い部分はあるし、そのあと洗練していくスピードも速いというか。そういうなかで一番スピードが速かったりするのは、日本の企業だったりしますよね。最近はそういう、まったく新しい斬新なのとか、逆にすごい勢いで洗練されているものってあったりするんですか?
林:新しい、そのジャンルの製品?
中村:たとえば、 ITガジェットとかでもそうですけど。
林:今回のIVSで出てきたのだと、Amazonさんがラジコンヘリっていうか、ドローン……クワトロコプターってわかります? プロペラが4つ付いている。あれを使って配達するサービスをアメリカで始めると。
中村:ええ。
林:オーダーしたら30分以内に届くっていうのがすごい話題になっていたんですけど。それに加えて、Kickstarter(キックスターター)で「X」っていう、150ドルくらいでこれくらいの手乗りドローンが買える時代になっていて。来年は結構、ドローンが来そうだなと僕は思っているんですけど。
中村:ああ、そうなんだ。なんか最近、ドローン系のアイデアをよく聞くなと思っていたら、流行っているんですね。
林:そうですね。最初の「ARドローン」って結構大きくって、値段もそれなりにしていたんだけど、精度が高いものがどんどんどんどん出来るようになって、しかもちっちゃいものもできる。そうなってくると、来年はきそうな感じがしますね。
中村:うーん。僕らすぐなんか職業病で、ブレーンストーミング・モードになっちゃうんですけど、基本的にはWi-Fi通信なんですか?
林:Wi-Fi通信のものもあるし、あとGPSとかでプログラミングもできる。Google MAP使って、こういうルートでってプログラミングできるものもあるし、いろいろです。
中村:あーなるほど。そうすれば途中の電波は必要じゃなくなる。それすばらしいですね。そうか、だからAmazonでも最短距離で届けられるんですね。
林:そうですね。
中村:なるほど。そういうのを聞きながら、適当に脳みそを刺激して、ストックしているんですよね。僕らの仕事の仕方って。で、別な仕事が来たときに、うまいことストックがいっぱいあって。ディスカッションのときには何にも思い浮かばないんだけど、翌朝とか風呂に入ったときとかに、バシーンと繋がったりするんですよ。そうすると、「これでいいんじゃないか!」みたいなのがあって、提案して世の中に出す、みたいな感じですよね。そういうの、多いですね。
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