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「北欧、暮らしの道具店」に聞く、ファンに愛されるブランドのつくりかた(全7記事)

一緒に働いてみたい“憧れの会社”の作り方–「北欧、暮らしの道具店」の場合

Facebook、Instagramともに30万人を越えるファンを持つ、人気オンラインショップ「北欧、暮らしの道具店」。単なるECサイトではなく、そのサイト上で提示されるのは北欧テイストの素敵なライフスタイルだ。サイトには、記事の執筆者がアイコンで登場。社員自身が愛用品を紹介するコンテンツも非常に人気が高いそうだ。同サイトを運営するクラシコム代表の青木耕平氏と“ゲリラPR”で知られる砂流恵介氏が、「ファンに愛されるブランドのつくりかた」をテーマにイベントを開催。本パートでは、青木氏が採用に注力する理由、仲間集めの際に意識すべきことなどが語られました。

採用のすべてを代表の青木氏が担当

青木耕平氏(以下、青木):僕自身の時間の半分は採用のことに使ってるかもしれないですね。500人を相手にする採用プロセスも僕が1人で全部やっているので。

砂流恵介氏(以下、砂流):え?

青木:ブッキングから、1次面接、2次面接。全部、僕がやってるんですよ。

砂流:人事、いないんですか?

青木:人事、いないです。僕、一人間接部門なんで。経理も総務も人事も全部僕がやってますから。

砂流:経理も総務も人事も?

青木:はい、全部僕がやっているので。経理とか総務とか、ほぼ外注でコントロールしてるだけですけど。採用は僕しか、それこそ採用ページ作るのも僕なので、みんなから受け付けたメールを「応募書類、届きましたよ」とメールを出すのも僕ですし。「送りましたよ」とか。

砂流:すごい(笑)。

青木:「面談いつできますか?」というのも僕が1人でやってるので。

砂流:この話を聞かなければ、入るまでとても青木さんがしてるとは思わないですよね。

青木:最初から僕がメールしてくるので、みんなビビると(笑)。

砂流:そうですよね(笑)。

会社はメディア、採用で会社を編集する

青木:1次面接で僕が出て、ある程度足切りをしておいて、現場の担当者を2次面接から呼んで「ある程度、揃えといたんであとよろしく」みたいな感じで。要するに、僕が落としたくない人は落としてほしくないんですね。

僕が選んだなかで誰を選んでくれてもいいという感じなので、2次面接である程度足切られた人を僕が見たら、そこがコントロールできないので。ただ、毎年延べ100人弱くらいの面接をやってます。

砂流:そこまでされてるから世界観の統一というか、勝手な想像ですよ。御社のなかで服装のイメージとかって、ふだんサイトを見てるんで、白いシャツもいっぱい白があると思うんですけど(笑)。なんとなく、ありますよね? とても僕みたいにこういうTシャツ(真っ赤なTシャツ)着てる人がいるとは思えないです(笑)。

(会場笑)

青木:いるんですよ(笑)。いるんだけど、ただ僕は経営者としての会社がメディアだと思っているので、僕の編集対象は人ですね。人事が僕の編集手段なので。

砂流:会社を編集されてる?

青木:そういうことだと思います。さっきの「ブランドとは何か」というお話の時に、究極的には「仲間になりたい」と思わせることだとありました。その仲間のコアにいるのは会社だと思います。

一緒に働きたい人がいる会社を作る

なのでその会社に、例えばファンという言い方が適切なのかわかりませんが、弊社のブランドに興味持っていただける方の興味の度合いにグラデーションがあると思うんですよ。「あ、知ってる」というくらいのところから、「あ、よく見る」みたいな人から「買ったことある」「よく買う」みたいなところのなかで、たぶん一番コミットメントが強まるのが入社なんじゃないかと思うんです。

そのコミュニティの大きな設計として、中心にいくほどなにか非常に魅力が高まっていくことにならないと、求心力がないと思うんですね。

だから、中心にある会社ってものがみんなが入りたい会社になるというのが非常に重要だとすると、入りたいかどうかにはもちろん給料がいいとか、オフィスがすげえとか、もちろんいろんなことがあると思うんですけど、そこにいる人たちが魅力的だという。実際、入ってみたらギャップなく「あ、本当だった」と思えるということが超重要だと思うので、ほとんどそのことしか考えてないですね、僕は。

そうなれば勝手にみんなが仕事してお金は儲けてくれるだろうというところがあるので、とにかく会社を組織として魅力的でハッピーな場所にすることができれば、その会社に入りたいという気持ちが究極的な部分としてあって。

あとはグラデーションで「ちょっとだけ絡んでみようかな?」みたいな感じで感想のメールをしてみるだけのコミットメントの人もいれば、「椅子を買ってみよう」という人もいるかもしれない。

好きだから「宝塚に入りたい」

砂流:すごいですね。なんか、アイドルになりたい子の究極系というか。アイドルになりたいから、モー娘に入りました、AKBに入りましたみたいなプロセスを全部見れてて、本当に関わりたい人の最終形がそこに行きつく場所を見えてるわけですもんね、お客さんから。

青木:宝塚をよく例に出すんですけど、宝塚の本質的なプロダクトって何だろうと思った時に、例えば演目があるじゃないですか。これは、はっきりいって本質的なプロダクトじゃないと思うんですよね。ファンにとっては『ヤマトタケル』でも『ベルサイユのばら』でも正直どっちでもよくて。

砂流:観に行きますね。

青木:じゃあ、俳優さんなのか。でも、俳優さんも卒業というのがあるので卒業するたびにファンが離れてるのでないとすると、俳優さんも究極的なプロダクトではない。おそらく、宝塚ファンというあるコミュニティに所属してることの気持ちよさみたいなものが究極的な商品だと思うんですね。

その気持ちよさを作っているひとつの要素だな、と僕が勝手に思ってるのは、さっきも言ったように宝塚のファンの人たちもコミットメントにグラデーションがあると思うんですよ。「スカパー!」で見る人から、「東京で公演ある時は観に行きます」という人から、「本拠地まで行きます」という人まで。

おそらく究極的なファンは、「自分ないし自分の娘を(宝塚へ)!」と思っている(笑)。

砂流:そうですよね(笑)。

「年に一度、中途一括」採用プロセスをオープンに

青木:宝塚ファンの夢というところがあって、その夢に至るルートが1個しかなくて明確だってこと。つまり、宝塚音楽学校という学校に何十倍なのか何百倍なのかわかんないですけど、倍率を通って入って、そうするとそのなかに入れるというのがすべてのファンに明らかになっている。つまり、中心にいくための方法がフェアで1個しかないとことですね。

だから僕らが今、年に一回、中途一括採用というのをオープンにやってることの主な意味というのはそういうことだと思っていて。さっきも言ったように、究極的にはお客さんに「この会社、入ってやってもいいかな」と思ってもらえる会社を作っている。

ただ、その会社にどうやって入ったらいいのかというルートがわからない。どういう基準で選ばれてるのかわからないという感じだと、そこにアンフェアさが漂うと思うんですけど、競争は激しいかもしれないけど、あるフェアな審査を受けて通れば入れる。

なので、我々新しく入社した人をサイト上でご紹介するコンテンツをやるんですけども、お客様から「おめでとうございます!」みたいな感じですごいメールが来るんですね。

砂流:おお! うれしいですね。

青木:そういうことを考えて、ひとつの採用を中心としたブランドの基礎みたいなものを作ることを意識してるかもしれないですね。

砂流:予想以上でびっくりしてしまったんですけど、そこまでされてるんですね。

青木:そこだけ頑張ってる感じですね。あとはみんなが頑張ってくれてるんで。

砂流:それ、いつくらいから意識されてるんですか?

意思統一が楽になる

青木:ほんと、創業当時からです。今、8期目の採用の内定が決まったところですけど、ちょうど今10期目なんで、その方法で採用し始めたのは近々で3期目くらいという感じですね。

砂流:今、ちなみに御社って何名いらっしゃるんですか?

青木:子会社、グループ会社込みで30人くらいですかね。

砂流:30名の方が。でも、そこまでいくと同じ説明できますね。考えてること「きっと青木さんならこう思う」とか、やっちゃいけない制約とかルールを決めたりしなくてもいけるわけですね。

青木:まったくそういうのがないわけじゃないけど、徹底が楽だということはありますよね。「1回言ったらわかるよね?」くらいで、やれると。何回も「そこまで言わなきゃいけないか?」なんてことはあまり起こらないです。

砂流:今日、(会場に)人事担当の方いらっしゃらないですよね?

青木:そういう話じゃないですね。

大切なのは「超楽しそうにやること」

砂流:いや、でもこれはブランド作るうえでは、ものすごいヒントになる話なんだと思ったんですけど、どこかちょこっと真似するのが難しいなと思っちゃったんです。何から取り組むと変わるきっかけ作れそうですかね?

青木:僕らがよく言ってるのが、まず最初、当然どういうかたちかわからないですけど、偶然なにかそういうことをやろうって思う人がいて、そしたら1人なのか、2人なのか。なんでも最初は大きい組織のなかでもそういうことをやろうという人が少人数いたんですね。

この少人数の人たちが最初に心がけるべきことは、超楽しそうにやることなんですよ。よくそれをトム・ソーヤマーケティングと僕は言うんですけど。

砂流:トム・ソーヤ?

青木:トム・ソーヤの話をご存知の方とそうでない方といらっしゃると思うんですけど、トム・ソーヤがおばさんから「塀のペンキ塗りをお手伝いでやりなさい」と言われて。あっちのほうで友達が遊んでて、一緒に遊びたいのに俺はペンキを塗らなきゃいけないという状況で、彼はどうしたかというと、ご存知だと思うんですが、超楽しそうにペンキを塗ってみせるんですね。

そうすると、あっちで遊んでた友達がワラワラ寄ってきて「それをやらせてくれ」と言ってくる。トムは「いやいや、これはおばさんから自分にやれと言われてることだからやらせられない」と言うと、自分の宝物を持ってきて「この宝物やるから、頼むからやらせてくれ!」とみんな懇願して。

(会場笑)

青木:最後はみんなが塗ってくれたという話があるんですね。僕はこの話がすごく示唆にとんでいるなと思っていて、つまり人は何に動かされるかということだし、最初の1人が何をすべきかってことだと思うんです。

なので、楽しそうに見えるものの仲間になりたいという気持ちがある、一緒にやりたいという気持ちが出てきて。それはお客様として。あるいは、同僚として。あるいは、お取引先様として。まず、一緒にやりたいと思ってもらわないことには、どんな仕事でもまったくそれは動いていかないわけですね。

現場がノッていないと新規事業は立ち上がらない

何もない時にまず最初にすべきことというのは、とにかく超楽しそうにやること。無理にでもですね。僕らも最初ほんとひたすら倉庫作業ばっかりしてるような会社でしたけど、超楽しそうにやる。どうやったら楽しめるか。どうやったら疲弊しないでやれるか。それは、楽しそうにしても実際そうはならないんですよね。

それはお客さんに伝わっちゃうんで、楽しくできるようにちゃんと仕組みをつくるとか、自分たちが何をやるか、どこと勝負するか、そこを定義するとかそこはすごく重要だと思いますけど。とにかく楽しくやるということが本当にできるか、ということかなと僕は思っています。

だからいまも新規事業やるときに優先順位とよく言っていて、第一の優先順位は現場がノッてること。第二の優先順位で初めて買っていただいたり、あるいは買っていただいた方の期待値を超えること。第三に、それが収益に結び付くことといってるんですね。

なんで、現場がノッてればだいたいの場合お客さんが満足してくれる物ができるんですよね。お客さんが満足してる物ができれば基本的に収益のつじつまはあとでいくらでも合うんで。だから、まずは現場がノッてないことには新規事業が立ち上がんないですよ。

だから、最初一番気にしてるのは現場の人たちが「これはいける!」と思ってるとか「これができてうれしい!」と思ってるとか、少なくとも「やだな」とは思ってなければいいんですけど(笑)。ちゃんと楽しくできてるかってことは、すごく気にしてますね。

「どう楽しむかを考えた」砂流氏の“ゲリラPR”

砂流:そうですね。自分の話で大変申し訳ないんですけども、さっき僕、青木さんが後ろにいらっしゃった時に自己紹介で、Acerにいた時のゲリラ戦術の話をしていたんですけど、あれ振り返るとたぶんそういうことで。

青木:すごい楽しそうに見えてました(笑)。

砂流:たぶん僕の力でできないので、コピーライターさんとかアートディレクターさんとかクリエイティブを作ってる方と、とにかくAcerでどう楽しむかを一緒に考えてたんですよ。

なので奇抜なアイデアが出るんですけど、奇抜なアイデアは全部採用してたんですね。「これ、ダメだろ」というやつも、失敗はするんですよ。失敗はするんですけど、3回くらい失敗すると「あっ!」って、すっごい合う時があると。それがさっきのNAVERまとめのなかに載ってるもの、あれはほぼ全部ピントが合ったやつで、「これは攻めすぎだろ」と言われてたんですけど、楽しくてしょうがないので。

お金も結局、おもしろいんですけど、僕、これ言っていいのかな? コピーライターさんはお金かかるじゃないですか。僕、アートディレクターさんの場合はカタログのグラフィック作るといって広告のグラフィック作ってもらって、お金の節約してたんですね(笑)。ぜんぜん値段変わるんですよ、ゼロが変わりますからね、リアルに。

コピーライターも書いてもらうコピーをWebのコピーってことにしたんです。サイトのコピーにすると安くなるんですね。というかたちでも、「好きなことやってください」に勝つんですよね。

なので、それでやった結果がたぶん「Acerおもしろいね」ってことで。僕がやったことって要はそれを承認する。どうやって会社にそれを通すかってことを真剣に考えることで、苦しい部分はあったんですけど、出てしまえば超楽しいので、たぶんそういうことなんですね。

人が集まる場所をどう作るのか

青木:現場がノッてるということ。僕はよく自分の仕事のことを箱作り職人と言ってるんですけども、詰めたくなる箱が作れるかどうかがリーダーというか、なにかのリーダーシップの力量だと思うんですよね。その詰めたくなる箱をどう作れるか。

それは、僕らは営利事業者なのでしっかり儲かるってこと、関係する会社と利益をシェアできてるってこと、現場がノッてくるってこと、ちゃんと3ポイントが成り立つような箱を作ったうえで、それが詰めたくなる箱になる。そういうことかなと思いますね。

とにかく楽しくやること。よく最終的に「広場を作りたいんです」って話になるんですよ。例えば、「みんなが集まるところになるものを作りたいんです」みたいな。ほぼ日さん(ほぼ日刊イトイ新聞)とかでも銀座4丁目交差点みたいなコンセプトで言われてたりしますけど。

要は人が自然と集まってくるような場所を作りたいと、ブランディング関連とか、マーケティング関連の人たちは思うんですよね。じゃあ、どうやったら広場ができるのか、因数分解しようみたいなことを考えて。

僕らは最初に何ができるかと考えたら、広場に隣接してる家でホームパーティーを開く。これ、比喩的なことしか言わないのでポカーンとされちゃうんですけど、広場に面した自分の家で楽しいホームパーティーを開く。

その次、楽しくホームパーティーを開けるようになったら、次にセレブリティを呼ぶ。まあ、どのくらいのレベルかって話なんですけど、自分たちよりセレブ。そうすると、「ここ楽しそうなホームパーティーやってる家だな」から「あの家、ああいう人たちが来るんだ。どういう家なの?」みたいなもう1つの興味が生まれる。

今度、そこまできたら外から見える設備、見え方ですね。そうしたところに少し投資する。例えば、庭にプール作ってそこでパーティーするようにしようとか。屋台をオープンさせてみたり、外からの見える価値ってものを足していくってことですね。

そうしていくなかで人がどんどん集まり始めると、自分の家の敷地からこぼれ落ちるように広場に広がっていくんですよ。そうなっていくと、いわゆる自然に集まる場所になってくる。

僕は最終的には、そこに教会を建てるって言うんですけど。人がワーって集まってくると、そこが何をしていい場所で、何をしていけない場所ということが一時的にわからなくなりカオスになるということがあるんで。

そこに教会というのは、たぶんそこはこういう場所なんだよとか、ここは何をしてよくて何をしてはいけないんだよとかの象徴になるような物をどうやって置くかというのが、けっこう大事なんですけど。いずれにしても最初の入り口ってことで言うと、楽しそうにやる。

砂流:それはできそうですね、僕らでも(笑)。

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