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経営者としての成長(全2記事)

グリー・田中良和氏が「成功」ではなく「失敗」を語り出した時に見えた、経営者としての"成長"

若手起業家として著名なライフネット生命の岩瀬大輔氏、日本最年少で上場した株式会社リブセンスの村上太一氏とが、会社や人の「成長」について語り合ったセッション。急成長企業だからこその失敗や学びは、若手のビジネスパーソンにとっても必聴の内容です。(IVS 2014 Springより)

組織づくりはサービスづくりと同じ

武田純人(以下、武田):じゃあお二人、自己紹介をひと言ずつ。岩瀬さんからお願いします。

岩瀬大輔(以下、岩瀬):はい、ライフネット生命の岩瀬です。よろしくお願いします。

村上太一(以下、村上):株式会社リブセンスの村上です。よろしくお願い致します。

武田:今回、インタビューアーをやらせて頂きます、UBS証券の武田です。最初にですけど、この前にあったセッション、お2人お疲れ様でした。成長起業としての組織、チーム作りみたいな内容でしたが。

こちらでどんなことが印象的だったのか。学びみたいなものがあったのか。ちょっとお2人から頂きたいなと思うんですけど。じゃあ岩瀬さんから先に。

岩瀬:そうですね。皆さんのお話、面白かったんですけど。やっぱりサイバーエージェントの曽山さんのお話ってすごくいつも勉強になるんですよね。3000人を超える会社であれだけ生き生きと働く組織を作るのってほんとにすごいなと思うんですけど。曽山さんの話を聞いていると、人事制度だとか組織だとかを、あたかもプロダクトを作るように。

武田・村上:うんうん。

岩瀬:新サービスとか新商品を作るぐらいの気合と思い入れでやっていて、だからあれだけネーミングとかにもこだわるし。ディティールへの作り込みも上手いんだなって思うんですよね。だからそこはやっぱり本当に強い会社って、それぐらいの気持ちで、商品かサービスを作るぐらいのつもりで会社の制度を作っているので。

僕らも色々と学びながらやっているんですけど、なかなか上手くできないんですけど。今日も改めて村上さんの話もそうですけど、やっぱり成長している会社って、人をどう、みんなの力を引き出す仕組み作りのところにかなり工夫させているので。それが非常に印象に残りました。

言葉ひとつに組織のアイデンティティが表れる

武田:ありがとうございます。じゃあ村上さんも。

村上:私はあの、話すほうでいっぱいになって。何を話していたかっていうのが、もう記憶に無くなってしまっているんですけど。一応、印象に残ったのがマカロン。

武田:あ、マカロン。はいはい。

村上:サイバーさんの制度で、「ママがCAでロングで働く」(略してマカロン)。あのネーミングの部分であったりとか、あとはなんですかね。「何した?」っていうのが、ちゃんと組織内で話が出るようにとか。やっぱりお話頂いたように、1個1個のディティール詰めてるなっていうのと。

あとほんと言葉って大事だなっていうのが。日常的に話しやすいっていう。やっぱり組織を作っていくにあたって、普段使う言葉によって組織の風土はできてくるなと思っていて。お客様のことを「アイツ」とか言っていると、やっぱりお客様を変に扱う組織になっちゃいますし。お客様じゃなくて、じゃあなんて言うとか。やっぱりそういった言葉ひとつひとつに組織のアイデンティティが表現されるなと思っていて。その辺の工夫、見ていて勉強になりましたね。

岩瀬:それでいうと村上さんのね、「当たり前を発明しよう」。あれは秀逸だなと思いましたよね。「常識を疑おう」とか、「イノベーションを起こそう」というのは言い古されているんですけど。「当たり前を発明しよう」というのが、色々なものをすごく凝縮して表現しているような気がして、流石だなと。

村上:いえいえ、ありがとうございます。

ライフネット生命の企業理念

武田:ほんとに仰る通りで、なんか僕もセッション聞かせて頂いていたんですけど。すごく面白くて。村上さんの、その「当たり前を発明しよう」。これ去年考えられたんですよね?

村上:えーと社内、プラス外部も一部手助けをしていて。そのプロジェクトに関しては、外部の私が大学時代からお世話になっている先輩で、クリエイティブディレクターの方がいて、その方に一部入って頂きつつ、どういう議論をするべきだみたいな。骨子を作って頂いて、社内で話して議論しながらアウトプットができてきたっていうような感じです。

武田:うーん。そこですごく印象的だったのが、いわゆる企業理念というところに対して村上さんが、去年変えたわけですけど。元々、「始まった時のやつってもう覚えてないです」っていうぐらいで。

そういう意味でもちろん、企業のステージによって企業理念は変わる。あるいはそれをみんなが覚えて、みんなで組織の中で一緒の方向を向いて頑張っていく。そのために企業理念ってあると思うんですけど。逆に言うとね、岩瀬さんのところは多分企業理念にあたるのって、「子育て世代の保険料半分に」というところで。

ほんと明確に、創業の時から持っていらっしゃっていて。そこに突き進んでいくという形で、でも村上さんの場合は具体的に「これ」という感じじゃなくて。なんて言うんですかね、柔らかい企業理念みたいなものが。それも前からあるんじゃなくて、作り直していく。

そういうところって、組織運営だけじゃなくて、経営者として。あるいはもちろん、取り組んでいらっしゃる分野が違うから、というのもあるのかもしれないんですけど。その企業理念というところに対しての考え方って、だいぶ違うのかなと思って。そこら辺、ちょっとお2人にぜひ。

岩瀬:そうですね。僕ら金融業でかつ生命保険なので、単一の事業なんですよね。なのである意味、みなさんの話聞いていると羨ましいのは、サイバーエージェントさんもリブセンスさんもそうですけど、すごく広がりがあるから、ある意味広がりを持たせた定義になりますよね。

武田:はい。

岩瀬:僕らは生命保険会社なので、保険を軸に置くっていうのは違うと思うんですけど。僕らですね、それともうひとつ開業する前にマニフェストというものを作ったんですね。「こういう会社作りたい」っていうのを書いていって、それこそ外部の方にもアドバイス頂きながら。20項目か25項目ぐらいの「こうありたい姿」って書いていくんですね。これやっぱりすごく良くて、みんなが共通して立ち戻れる拠り所みたいなところなんですけど。ただちょっと問題があって、20個あると覚えられない。

武田:そうですね。

岩瀬:そこをもう少し工夫したいなという。ちょうど僕ら6年目終わったところで7年目入るので、村上さんの話なんかも聞いて、もう1回ブラッシュアップしてみるのもすごくいいかもしれないなと改めて思いました。

リブセンスの創業理念の原型は、文化祭

村上:そうですね。私の場合はもう創業時っていうのは、明確な理念、一応あったんですけれども。またちょっとニュアンス違うものだったりが、言葉としては出ていました。ただやっぱり創業時から創業メンバーが思っていたのは、今の理念である「幸せから生まれる幸せ」。多くの人に幸せになってもらうことによって感じる幸せ、そういったものを最大化していこうよというのは、思いとしては変わらずなのかなと。

この言葉が「幸せから生まれる幸せ」っていう理念自体に関しては、一番辛い時に「なんで会社をやるんだろう?」と思っている時に出てきた言葉なんですよね。会社を始める時に「なんで会社をやるんですか?」って言われたら、答えていたのが「やりたいからです」っていうあまり回答になっていない。その感情の部分だけを言っていたんですけれども。

いざ会社をやって、サービスを立ち上げ、とはいえ利用ユーザー増えないぞ、お客さん増えないぞ。どうしようっていうので、相当苦しい時期が。もう胃に穴が空くんじゃないか。実際、帰りの電車で、もう苦しくて苦しくて、「ああヤバい」と途中下車したり。

そういうような時期があって。その時になんで改めて「会社をやるのかな?」と考えていた際、幼い頃からこの軸あるよねと。多くの人に喜んでもらって、それが自分事のように嬉しいと。もう高校の時も文化祭とかをやって、お金とか儲からないけれども、約2万人ぐらいが来るような文化祭、高校でやっていたんですけど。

それで「来て良かったです」「来年も来ます」と言ってもらえると嬉しいみたいな。それをやっぱり最大化していきたいというのが会社だよね、っていうので言葉に落ちたと。思いとしては持っていたんですけど、言葉としたのはそういう時期でしたね。そういうような形で言葉にして、言葉にしていったのも創業1年目でやってから、いま約8年経ちますけど。やっぱりやっていく過程で、考え方もより深くなって、視座も高くなるっていう過程で、ブラッシュアップを一部していく。ただ根っこの部分はずっと変わってないなという感じですね。

最初から完璧なマニフェストはつくらなくていい

武田:今のお話、岩瀬さんにお伺いしたいんですけど。僕もセッションで村上さんが「言語化っていうのは後で、行動が先」。これ結構、明確なメッセージですごくググっと来たんですけど。岩瀬さんモデレーターやられていて、そこの発言とか。ご自身も経営者としてビジネスやられているなかで、あの発言ってどういう風に受け取りましたか?

岩瀬:そうですね。すごく共感するところがあって、僕らもですね。「子育て世代の保険料半額に」っていうキャッチコピーは、実は始めて2年目の終わりぐらいに出てきたところがあって。

武田:ああ、そうなんですね。

岩瀬:先にそのマニフェストがあったんですけど。

武田:ああ、そっか。なるほどなるほど。

岩瀬:やっぱり色んな表現の仕方ってあって。そういうことも考えて、色々なことを考えてやっていたんですけど。段々やっていて、口に出していく内に「なんか違うな」と。色々な言葉を投げてみて。それで「あ、これだな」と。それはつまり自分達のやりたいこと、目指す方向を表現しているし、周りの方も共感を得られるし。社員も求心力のある言葉ということなので。最初からそんな素晴らしい理念を持っている方もいるかもしれないんですけど、上手く表現できていないケースが多いので。逆に村上さんの話を聞いて、最初から全部綺麗じゃなくていいんだなと。

武田:そうですね。

岩瀬:やっている内に段々洗練されていくんだなって思いましたね。

他の企業の仕組みをマネしても、失敗する

武田:あと、そういう理念みたいなところを言語化していくのと、組織としての規模であったりとか。多分、創業当時の、本当に濃いメンバーだったら、別に言語化しなくても理念で共有しているのかもしれなくて。

でも、ほんと組織が大きくなっていく中で、さっきのマニフェスト20数個とかじゃなくて。やっぱりもう少し絞っていかなきゃいけないんじゃないか。6年目というところで、岩瀬さん考えられたりだとか。村上さんは村上さんで、その言語化していくという中で。その規模の大きさというか、そこら辺で何かコツンと音がした経験というのはありますか?

村上:そうですね、音というわけではないんですけど。意識した点でいうと、各社色々な仕組みがあって。一時期、真似よう真似ようとかで、「あ、サイバーエージェントなんとかいいよね。やってみようか」という時期もあったんですけど。色々やった中で学んだのは、やっている事業であり、やりたい世界であり。あとは規模であったり、今の状況であったりで。もう全然違うなと。そこを意識しないで「他の企業のこの仕組みはいいぞ」と取り入れていくと失敗するなというのは学びましたね。

やっぱりそういった中で規模に応じて考えていく。私がすごい好きな言葉が、経営において何が一番大事かと言ったら「自分の頭で考えること」っていう。小倉昌男さんというクロネコヤマトの方が言っていたんですけど。その言葉がすごくしっくり来て、やっぱり制度であったりとか色んなアドバイスがあるんですけど、一番状況を知っているのは経営者であり、ボードメンバー(取締役)であると。そういったメンバーがどうすればいいかというのを、常に思考することが大切だなと思いましたね。

人数が増えるとコミュニケーションは難しくなる

武田:岩瀬さん、何かあります? 規模的にというところで、何か感じたところ。

岩瀬:そうですね。やっぱり僕らも100人と、色んな方を入れて150人ぐらいスタッフ、アルバイトの方も入れてですね、いるんですけど。フロアーが分かれてからやっぱり変わりましたね。

武田:あー、なるほど。

岩瀬:狭いビルにいるので、その人数で3フロアになっているんですよ。そうすると1フロアだった時は、やっぱり人の行き来もあるし、コミュニケーション濃いんですけど。分かれていくにつれ、やっぱりメッセージが届かないなというのと。

あと会社が本当に20人しか居なかった時に入った人と、上場してそれなりに有名になってから入った人では意識も違うので。そこを埋めるためにはコミュニケーション量を意識して増やさなきゃいけないんだなと思っていて。今も課題です。ちょっと司会ハイジャックして、質問していいですか?

武田:もちろんです。

岩瀬:経営者としての成長っていうテーマじゃないですか。武田さんも色々な方、取材されると思うんですけど。「あ、この人成長したな」と。アナリストという立場から、そういうの感じられるのってどういう瞬間かなと思って。ヒントじゃないんですけどね。

ちょっと前に、これ実名出して問題ないと思うんですけど。DeNAの小林さんと赤川さんと話した時に、守安さんが就任してから1年間ですごく成長されたっていう話をしたんですよ。彼らならではの目線なんですけど。最初はずっと一緒に仕事していた仲間じゃないですか。就任直後からやっぱり1年経って、ものすごい色んな面で変わって、守安成長したんですよって。小林(こばけん)さんが言っていて面白いなと思って。

武田:小林(こばけん)さんが人を褒めるってすごいですよね。

岩瀬:そうそう。それで僕はずっと副社長で、去年社長になって1年振り返ってみて、十分成長できてないなという反省もあるんですけど。

武田:そうなんですか?

最近いちばん成長した経営者は、グリー・田中氏

岩瀬:武田さんからご覧になっていて、なんかそういう瞬間ってどういう時に感じますか?

武田:すみません。すごく上からな言い方になっちゃうかもしれないので、ほんと感じる部分というところで申し上げさせて頂くと。多分、いま岩瀬さんが仰った守安さんが就任から1年でいうところは、我々資本市場の人間も多分大勢が感じたと思いますね。それはやっぱり彼がやることのサイズが大きくなったからっていうところ。そオポチュニティに対して、彼がほんとにミートして、やり切ったからというところがやっぱりあると思います。

じゃあ僕自身、いま岩瀬さんからご質問頂いた、直近ちょっと振り返った時に企業経営者として成長した……まあ守安さんのケースは、いわゆるほんとのトップのマネジメントじゃないポジションから、ほんとのトップになるっていうジョブサイズが広がるというところでの成長だったと思うんですけど。

僕がいま一番この数ヶ月で感じるのは、グリーの田中さんです。さっき実はグリーの田中さんともちょっとお話したんですけど。やっぱり業績が厳しい状況がコンプガチャの問題があって以降、ずっと続いていたわけですけれども。一時期、ほんとに何をやっても厳しかったっていう中で、当然人員の削減みたいなところもあの会社は手をつけられていて。

でも、ほんとにですね、この2四半期前ぐらいからですかね。急に田中さんの決算説明会とかでの表情がほんとにね、これちょっと数字じゃなくてご説明できないところなんですけど。変わったんですよね。

その瞬間ぐらいから田中さんのメディアへの露出も増えてきたんですよ。その時に彼が何を語っていたかというと。失敗を語るようになったんですね。やっぱりベンチャーの経営者の方達の多くって、「いや俺達、今これができてます」っていう形でお話されるケースが多いんですけど。

田中さんの直近のパブリシティ見てるとわかるんですけど、「僕はこれで失敗しました。これがキツかったです」って。キツかった時の経験が消化されて、ほんと新しいほうに向き始めたんだなっていうところに、僕は経営者としての成長を感じました。アナリストの目に対して非常にわかりやすく、いま出ているのが田中さんかなっていう風に思います。

岩瀬:昨日、パネルディスカッションに登壇されていて、僕ちょっと田中さんのやつは聞けなかったんですけど。それを聞いていた、わりと親しい仲間内が夜打ち上げで来てですね。みんな「すごく良かったよ」「なんかすごい変わったよ」って言っていたんですよね。多分、そういうことなのかもしれないですよね。

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