2024.10.10
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山口揚平氏(以下、山口):生活環境や体調管理など、お二人が行われてることはありますか?
落合陽一氏(以下、落合):例えば、減量してないときの食生活で気をつかってることはありますか?
日菜太氏(以下、日菜太):試合の2週間くらい前は、すごく食事に気をつかいます。僕は今29歳で今年30歳になるんですが、歳を取ってきたので、若いときとは体が違ってきていて、サプリメントをすごく取るようにしています。
落合:わかります。最近ずっと僕もサプリです。
日菜太:本当にそういうのも、すごく大事だと思います。
山口:最近の栄養学は、非常に早いペースで情報が入ってきていて体調も整えやすくなっている。例えば、ライフログサービスみたいなアプリもあると思うんですが、そういうことも取り入れたりするんですか? 新しい知識や、従来とは違う栄養の概念ができていますよね。
日菜太:僕らはすごく減量をします。肉を落とすところがほとんどないんですよ。これは、みなさんがやっているダイエットとは違うんですが、水を抜くことが僕らの減量です。
最後の計量の1日くらい前に約3キロ、多い選手だと約5キロ、24時間のうちに体重を落とします。走ったり、お風呂に入ったり、サウナに入ったりして、体の水を出して脱水症状で計量する。
そのあとのリカバリーが体重競技では大事で。今、主流になってるのが点滴で水を入れる。それをだいたい1.5リットルから2リットルくらい入れる。
普段、僕は75、6キロあるんですが、軽量のときは70キロ以下で体重を測ります。でも、試合のときには75キロから76キロくらいに戻ってます。すごく体には良くないので、こういう体重の落とし方はしないでほしいです(笑)。
サウナで体重が落ちるのは、体の水が抜けているだけなので。実質的に自分の脂肪が減ってるわけではない。だから、ダイエットというのは、歩いたり、ぜひキックボクシングをやってください!
(会場笑)
山口:日菜太さん、今日はスーツですがネットで画像検索をすると、すごい肉体美があらわになって出てきます。
塚田さん、柔道連盟のメンタルマネジメントやトレーニング、そういうものはどうなんですか? 最近は発展してるんですか?
塚田真希氏(以下、塚田):今、全日本のシニアチームのコーチも兼任してるんですが。メンタルコーチというのは、柔道の選手に合わなくて。個性が強くて、あまり人を信用しないという特性があるので。だから、何人かメンタルコーチをチームでお願いしてやってたんですが、どうしても合わなかったことがありました。
今は、私がコーチをやってるんですが、コーチがメンタルコーチも一緒にやっていて、選手のメンタルもケアしながら、選手のパフォーマンスを上げていくことを計画的にやっています。
私は自分が経験してるので、その経験と選手の置かれてる状況をいろいろと自分なりに考えて、「何が響くかな」と考えながらやっています。そういうところで、メンタル的なアプローチを選手にはしています。
山口:塚田さんは、コーチとの出会いがすごくオリンピックの優勝にも貢献したというか、すごく影響したとうかがっています。
塚田:そうですね。最初に出たオリンピックでは、柔道は7階級ありました。1日のなかで、1階級ずつ試合をしていく。それで、当時は48キロ級で一番軽量級の谷亮子さんが初日で、そのあと、どんどん軽量級から試合をしていく。
一緒に合宿を半年間やってきた仲間が、みんなで一緒にやってるはずなんですが、一人ひとりどんどんいなくなっていくわけですよ。私だけ最後に取り残されるんです。
気づいたら、シャワーを20分ぐらい浴び続けちゃったりしていました。入りすぎてた。そういう精神状態のなかでコーチに、「俺だってきついんだよ!」と言われて、その言葉で「あ、私だけじゃないんだな」と気づいたんです。
練習相手をしてくれてる先生やチームスタッフがいるから、私がここにいるんだという経験があって。自分は1人じゃないんだと思って、コーチの一言のおかげで、オリンピックをなんとか戦いきった。それが、自分がコーチを志しているモチベーションでもあります。
山口:柔道は、そういう師弟関係が非常に強いイメージがあります。マスターやメンターのつながりが強いイメージがあると思うんです。
僕自身もビジネスマンのキャリアのなかで、非常に大事にしてるのがマスターとメンターのラインです。やはり仕事のスキルは本では学べない身体知です。人からしか学べないので、その面を大事にしています。
柔道では師匠、弟子という関係がすごく強そう。それは今でも東海大学のなかで、続いているんですか?
塚田:そうですね。東海大学もそうですし、全日本でもわりと。女子は特にコーチの存在が大きくて、古賀稔彦さんと谷本歩美さんですね。そういう強い絆があって、オリンピックに勝ったというのは多いかもしれないです。
山口:生活上のセーフティネットにもなってるそうですが、どうですか? キャリアから引退されたあとも、そのつながりがありそうな気がしますが。
塚田:そうですね。
山口:日菜太さんは、マイナースポーツとおっしゃってましたがキックボクシングには、そういうマスターやメンターのラインみたいなものはあるんですか?
日菜太:マスター?
山口:マスターやメンターの、なんと言うんですかね、気持ちをおさめてくれる……。
日菜太:トレーナーですか?
山口:トレーナーだったり。
日菜太:僕が24歳くらいのときに1年間教わった、大好きなトレーナーがいて、その人はタイでめちゃくちゃ強かったチャンピオンだったんですけど。
その人がいつも僕に言ってたのは、「練習が仕事だ、試合は給料日だ」と言って。「給料をもらうためには練習をしっかりしろ、仕事だから」と言ってくれてました。
その人がいてくれたから、「キックボクシングを仕事にしよう」と思っていて。どうやってプロとして飯を食うか。
みなさんはこれから会社に勤めたり、自分で起業したり、学校の先生やったり、仕事をしてお金をもらうと思うんですが。それはやはりプロとして仕事をしているからお金をもらえるわけです。僕はキックボクシングをやってるから、キックボクシングのプロとしてお金をもらうということが、今、1番心がけていることです。
山口:特に先ほど言ってた心がけていることで。キックボクシングのプロとして、チケットの販売もそうですし、スポンサーの獲得とかもそうですが、実際、言いづらいこっち(お金)側の面でいうと、どういうふうにしてスポンサーを獲得するんですか?
日菜太:そうですね。地上波のテレビで、僕の試合が流れないということは、企業の広告的価値というのはすごく低い。だから、そういうことを考えて、今の僕の強さと僕の知名度で言ったらどれくらいだというのを、自分で価格を設定します。
自分のパンツに会社の名前を入れて宣伝するんですが。僕が今してるのは、「この枠で1枠いくらです。でも、僕が返せるのは、僕のホームページで、その会社を宣伝したり、試合でそのパンツを履くことぐらいしかできないんです。それでもいいんだったら応援してください」というスタイルを取ってます。
そういうことをして、大きい企業はもちろんつかないですが、僕のことを好きで、僕の試合を見てファンになってくれた会社の人が、僕を今、応援してくれています。
草の根活動じゃないですが、そういうことを。1回で何万人に届けることはできないですが、僕は1回で5人でも10人でも届いていったら、僕の周りはだんだん1,000人、2,000人になってくれたらいいなと思って、草の根活動をがんばってました。
今は、15個くらいのスポンサーの方々に応援してもらっています。試合でしか返せないし、試合が終わったあとに出向いてお礼を言うことしかできないですが、それでもよかったら応援してくださいというスタイルを貫いてます。
山口:すごくちゃんと設計されているというか、しっかりお金の面からも管理されていて、ポリシーも設計されて、キャリアを作られているという印象がありますね。
落合さんにはなかなか聞きづらいんですが、お金はどうしてますか? 落合さんは会社も2つ、「Pixie Dust Technologies Inc.」と「ジセカイ株式会社」をやっていますよね。
落合:会社は普通に投資を、ベンチャーキャピタルから受けました。
日菜太:僕に投資をしてほしいです。
(会場笑)
落合:僕がですか(笑)。それは確かに、誰かが僕にめちゃくちゃお金をくれれば、それはいいんですけど。市場がくれたらいいんですけども。
基本的に研究はお金がかかる。しかも、研究をいくらしてもお金は1円も返ってこない。そこがミソで。例えば、特許化して事業化すればお金になるけど、特許化して事業化することをしたくないから研究者をしてるわけですよ。
特許化して事業化するところは僕の担当じゃないので。つまり、僕にとって研究はめちゃくちゃ金のかかる趣味です。年間数千万円を0円のために使う。それは、めちゃくちゃ勇気が必要ですが、それをするために、テレビに出たり、本を売ったりというのは、僕のなかでは非常に整合性が取れています。
僕が本当にやりたいことは、21世紀の思想を作ることなんです。ルネ・デカルトっているじゃないですか。
山口:はい。
落合:デカルトのときは、キリスト教が腐敗していて。キリスト教的価値観で世界をとらえられなくなったから、人間的価値観に戻ったと思うんですが。そのあと、我々は今インターネット的価値観に生きてくと、人間は脱構築されて人間じゃなくなるんですよ。
そこのあたりをずっと考え続けるのが好きなんですよ。それをするようなことをするために、どうやってテクノロジーを実現していくか、どうやってテクニックな面を実現してその世界に近づけていくか、ということばっかり考えてるんですけど。
わりとマネタイズの仕方はわりとどうでもいいです。自分の会社を売るのでもいいし、自分の会社の製品を作るのでもいいんだけど。なるべくそこに時間を割かなくて、かつ、うまくできるように、目的に最合理化された人生を歩みたいと思っています。
ソイレントって、昔あったじゃないですか。ドロドロの液体を食ってれば、永遠に栄養不足にならないやつ。ああいうのが、超好き。人生の楽しみをすべて捨ててもいいからやりたいことが2つくらいあって。その思想を作ることと、あとテクノロジーを作ることがあって、それ以外には興味がない。
山口:そのマネタイズもかなり最適化して計算されて、本も露出も会社も最適な時間のなかでやってらっしゃる……。
落合:そうですね。最適な時間のなかで、目的がやりたいということです。
山口:セカンドプライオリティですね。
落合:そうです。あと、人間を脱構築したい。
山口:ファーストペンギンの生き方のなかで、自分の一番の明確な目的意識があるんですね。
ただ、それを達するためにどうしてもセーフティネットじゃないですが、お金の問題もつきまとってきていて。おそらく今回の問題はファーストペンギンになろうという会だと思うので。それをどういうふうに担保していくのかというところも、興味があったのかなと思いますけども。
話の流れのなかで、みなさんに「嫉妬とかライバルっているんですか?」という話を聞いてみたんですが。落合さんは先ほど「いや、人間にはいない」とおっしゃっていました。
どっちかというと、「アルファ碁やコンピュータだ」という話をされてたんですが、かいつまんで落合さんの21世紀の思想はどういうふうなものなんですか?
落合:今、我々は、ユビキタスコンピューティングの世界は人間と人間以外でものを考えるんですが、それをやめたい。人間って、本質的にはフィルターとロボットの集まりなので。我々にはなんの特別性もない。そういうところを小学校の子が詠唱できるような世界をちゃんと作りたい。
山口:自我の概念はどうされますか?
落合:自我の概念を、どうやって捨てるかというところがすごく興味があるところで。哲学ではスワンプマン問題というんですが。ある瞬間に人が死んで次の瞬間に復活したときに、「それは同じ人か?」と言われたら、本人からしたら時間が連続してないから同じ人じゃないような気がするけども、周囲の全員から見れば同じ人なんですよね。
そこをすごく考えた末、人間はやがてスワンプマンを受け入れると思う。そういうような世界にしたい。そういうところが、僕の唯一の人間的なこだわりで、ほかのところはぜんぜん合理的に考えられるところで。
つまり、人間が人間じゃなくなることに、妙に人間的に興味があるという、この自己矛盾を抱えている。それは、非常におもしろいかなと思います。
山口:おもしろいですね。そもそも人間とは自我にまとわりつく意識の集合体の概念にすぎないのに、そんな個人という単位をベースとして今の社会では多数決による民主主義が第一にされているのもおかしな話です。自我問題に関しての仮説や研究は、どこまで進んでいるんですか?
今のAIブームのなかでも、特に人間性(自我)が脅かされていますし。それに関して研究者としての落合さんの見解みたいなものを聞きたいです。
落合:それはうちの研究室でもよくやってるんですが、例えば、ディープラーニングをして、グッとくるところとかあるじゃないですか。絵画とか見て、「わあ、グッときた!」と思うところ。例えば、スポーツを見てテンションが上がったところがあるじゃないですか。
あれを、1回機械が学習したテレビ番組を作ることで、人間がグッときたところに関わってるフィルターはどこなのか、特定する作業をうちの研究室ではずっとやっているんです。
つまり、人間が感動したり、感じたと思ったところは、どの数式で表されるのかという研究をしていて。それは人間が脳みそを外側から発見するのではなくて、人間が脳みそみたいなものを外側に作る。
そして、そいつが作り出したグッとくるポイントを評価することで、我々は自分の心の外側に自分の心のなかで、最も琴線的な部分を作り出すことができて。それを我々が共有した瞬間に、我々の精神というのは1回脱構築されるはずなんです。
「おれたちは特別な存在じゃないんだ」「この数字がちょっと違うだけで、ぜんぜん違う人になっちゃうんだ」という。そういうことは、多分10年、20年以内に当たり前の常識になってるはずなんです。
そうなったときに、人間はなにをして生きるのかなと思った。だけど、1回そうやって人間が特別じゃないとわかったら、幸せに生きられそうな気がしたんです。
山口:なるほど。幸せに生きられますか?
落合:僕は超テンション上がって、幸せに生きられると思います。
山口:ありがとうございます。この話、大変興味深いのであとでスタバでゆっくりお願いします(笑)。
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