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新しい市場を創る(全2記事)

新規市場は孤独との戦い ラクスルとランサーズの起業ストーリー

IVS 2015 Springの本セッションを前に行われた特別インタビューに、ラクスル・松本恭攝氏、ランサーズ・秋好陽介氏が登壇。モデレーターを務めるfreee・佐々木大輔氏と「新しい市場を創る」をテーマに意見を交わしました。本パートでは、インターネットを使った印刷事業を手がけるラクスルと日本初となるクラウドソーシング事業を手がけるランサーズを起業したきっかけと、自身がイメージするサービスの価値が理解されるまでの苦労を語りました。

IVS特別番組「新しい市場を創る」

佐々木大輔氏(以下、佐々木):こんにちは。Freee株式会社の佐々木大輔です。今日はIVSの特別企画ということで、「新しい市場を創る」ということをテーマに、日本のスタートアップ業界で新しい市場をつくっている経営者お二人に参加いただいてお話できればと思います。

それでは、それぞれ自己紹介していただければと思います。よろしくお願いします。

松本恭攝氏(以下、松本):ラクスルの松本恭攝です。今やっている事業は、印刷のeコマースで、名刺とかチラシ、パンフレット、そういったものをインターネットでお客様に購入いただいて、印刷データをアップロードいただいて、印刷をしてお届けするということです。

ただ、印刷工場自体は保有していなくて、日本全国の印刷工場と提携をして、それぞれ近くの印刷工場であったり、得意な設備を持っている印刷工場の空いている時間を使わせていただいて印刷をして届けるというような事業をやっております。よろしくお願いします。

秋好陽介氏(以下、秋好):ランサーズの秋好と申します。クラウドソーシングという、個人と法人の方がインターネットを通して、直接会わずにワンストップで仕事ができるサービスをやってます。

ちょうど今、500億円以上の仕事依頼総額があるサービスになっていて、今日のテーマが「新しい市場を創る」ということなんですけれども、ランサーズが日本では最初になる2008年にクラウドソーシングを立ち上げました。以上です。よろしくお願いします。

佐々木:よろしくお願いします。私自身もクラウド型の会計ソフトというか、今までパソコンにインストールされて使われてきたようなものをクラウドに置き換えて、全く新しい形にして提供しようという事業で、僭越ながら「新しい市場を創る」というところに取り組んでいます。

まずこのお二人が、どういったきっかけでこの印刷、クラウドソーシング事業を始められたのかをお伺いできればと思います。松本さんからお願いします。

インターネットで印刷業界のあり方を変えたい

松本:私がこの会社を立ち上げたのが2009年の9月で、もともとは外資系のコンサルティング会社で2年間経営コンサルタントとして働いていました。

その時に、ちょうど2008年でサブプライムショックがあり、リーマンショックがありと、そういう状況下でいろいろな大企業のコスト削減の仕事をたくさん経験させていただきました。

その中で、システムの開発費や物流費、広告費、賃料光熱費、通信費などBtoBで生じるあらゆる費用を見る中で、印刷が一番削減率が高い費用項目だったというのが、私の原体験です。「何て非効率な市場なんだ」と。

でもこの市場を見てみると、6兆円という広告業界と同じくらいの大きな市場で、大日本印刷、凸版印刷の大手2社が、売り上げでいうとざっくり3兆円、印刷部分だけを見ても2兆円以上と市場の半分近くを持っている。

一方で、印刷会社が3万社以上あって非効率が存在している。業界構造がかなりいびつな形をしているように見えたと。

だからこそ、インターネットを使うことによって、この業界のあり方を変えることができるんじゃないのか。

変えたときのインパクトがすごく大きく出るんじゃないのかっていうところを思い、業界を変えたいなと。この仕組みを変えたいなという思いから起業しました。

佐々木:なるほど。外側から印刷業界のコストカットオポテュニティが見えてきて、そこから始めたと。印刷業界自体に造詣はあったんですか?

松本:全くなかったです。コスト削減をする企業側として印刷会社さんと関わるだけの関係だったので、中のことは全然わからずにスタートしました。

佐々木:そこに関しては不安じゃなかったですか?

松本:何とかなるだろうって思ってたっていう(笑)。

佐々木:なるほど。大胆ですね(笑)。

松本:そうですね。業界の問題とか、変える余地が大きいっていう「Why」はあったんですけど「How」はなかったんですね。

「How」は「まぁ何とかなるかな」って思って、あまり考えずにスタートしたっていう感じです。

佐々木:絶対にいけるっていう感じがあったんですか? それとも、興味があるしとりあえずやってみたら何とかなるっていう感じだったんですか?

松本:興味があるし、とりあえず何とかなると思ったっていう感じです。

秋好:おもしろい。

佐々木:なるほど。次は秋好さんに伺いたいんですけれども、どういったきっかけで今のクラウドソーシング事業を始められたのか聞かせてください。

クラウドソーシング事業をはじめた原体験

秋好:私は大学生のときに学生ベンチャーをやっていて、フリーランス、個人事業主として働いていました。その後ニフティ株式会社に入社して、社員僕1人に対して、20〜30人パートナーがつく会社だったんですね。

プロパーの社員が少ないんだけど、グループ会社でいうと数千人いるという会社で、要は1人に対して20〜30人がその分発注してたんですよ。

大学生のときの知り合いのエンジニアは、とてもスキルが高くていいコードを書いて、1週間である程度のサービスを納品できて、50〜60万ぐらいでやってくれる。でも勤めてた会社は程度大きな会社だったので、発注先は大手ベンダーや、SIでした。

そうすると、フリーの人が1週間でできることが2ヵ月かかりますと。かつ1人月200万ですと。「嘘でしょ!?」と。

もうどれぐらいだろう……10倍とは言わないですけど、(かなりの)単価、スピード、クオリティの差があったんですよね。

そんな時に、「個人に頼めば絶対みんなハッピーになる」と。個人からしても、ニフティから仕事がもらえるというのは、ポートフォリオにもなるなと。

しかし、稟議を書いたら通らない。「秋好くんの言う“鈴木さん”っていうエンジニアがすごいのはわかるけど、相見積りを取るために“鈴木さんⅡ”を連れてきてほしい」って言うんです。さすがに“鈴木さんⅡ”は知らないじゃないですか(笑)。

それに何とか通しても、「誰が責任、貸し担保を持つんだ?」「秋好個人で持て」って言われて、意味はないんですけど、「僕が持ちます」っていうような稟議を書いたり。

なので、そういう企業が個人に発注するって本当に大変なんだなっていうのが原体験としてありました。

「そんなサービスはきっと誰かがやっているだろう」と思って探したら、1件もなかったんですよね。

これはもう神からのギフトだと思って。その当時、夜中の23時くらいにエアコン止まってて汗だくだったんですけど、鳥肌が立つような感じで涼しくなって。「これは見つけてしまったものの使命だ!」と。

佐々木:会社の中で?

秋好:会社の中で起業を思い立ったっていう感じですね。

人が反対する事業はイケている

佐々木:それで即「そういうサービスを開発しよう」みたいな感じでコーディングする感じだったんですか?

秋好:その時は「これは熱病だ」と思ったんですよ。

佐々木:ああ、なるほど。

秋好:よくあるじゃないですか。ラブレターを夜中に書いて、朝見ると恥ずかしいみたいな(笑)。

この事業計画もそうだと思って、いろんな人に聞きにいったんですね。反対する人、賛成する人いたんですけど、僕の熱病が下がんなかったんですよ。「これはいけるな!」と。

さっきの松本さんの話じゃないですけど、僕も「これは絶対ニーズあるしいける。Howはわからないけど可能性はある!」って思って。

半年くらい悶々と考えたり、ビジネス上のスキームを組むために確認しないといけないこともあったので、それを調べてから起業したって感じですね。起業してから開発しました。

佐々木:なるほど。みんなに意見を聞くときに、どれくらいの人が「いいね」って言いました?

秋好:1割くらいですかね……。一瞬「いいね」って言うんですけど「そんなインターネットで個人なんか集まるの?」とか「発注しても、怪しいでしょ」とか、「絶対そんなのうまくいかないよ」とか。

既存のフリーランスが利用する掲示板サイトがあったので「それと何が違うの?」とか言われて「まあ確かに」って思いつつ「いや、絶対すごいから」って思って(笑)。

佐々木:すばらしい。

秋好:僕のポリシーで、いろんな人が反対するものって何かイケてるんですよ。自分がイケてると思って、いろんな人からダメって言われれば言われるほど、成功確率が上がるんじゃないかと思っています。

佐々木:なるほど。松本さんはどうでした? みんなから反対されました?

松本:最初はまず、いろんな印刷業界の人に会って話を聞いて「いや〜、そういう人たくさんいるからね。でも、印刷って特殊だから無理だよ」ってすごい言われて。

ベンチャーキャピタルの人には、「目の付けどころはいいけど、業界難しいし。20年、30年かかるんじゃない?」って言われて。いいって言ってくれる人がいなかったですね。

佐々木:1人も?

松本:1人もいなかったですね。

秋好:それで起業したのは何なんですか?

松本:やっぱり変えるときの意味があるし、変えたときのインパクトがすごく大きいし、チャレンジする土俵としてはすごくいい土俵だって思ったっていう。

秋好:ワクワクしたってこと?

松本:ワクワクですね。

やらない後悔よりもやった後悔

佐々木:なるほどね。でも本当にそうなんでしょうね。

もう起業した後の話なんですけど、僕もクラウド会計ソフトのプロトタイプを「こんなものつくりました」と。

それで経理やってる人とか、経営者の人とか、会計士の人に「こんなんつくったんですけど、どうですかね?」ってフィードバックをもらいたいなと思ってやったら、誰1人として「こんなの欲しい」って言わないんですよ。

「困ってないし、今のままで満足してるし」って言って。

だから、本当にすごい心が折れそうになったんですけど、結局さっき秋好さんが言ってたみたいに、「絶対にこれによって時間も短くなるし、良くなるに違いない」という思いで出したんですけど。

何なんですかね? そこの「でも、これで行ける!!」って思える何かっていうのは……。

秋好:僕の場合は個人的な体験で。自分自身がユーザーで、個人にオンラインで発注できたら、もう誰が見ても幸せだっていうゴールから逆に来てるから。

ここのゴールは確実に価値がある。確かに行けるかわからない。でももし行けるんだったらワクワクするし、テンション上がる。僕の場合はただそれだけでしたね。

松本:自分には見えている価値は、その段階では「イメージ」なんですよね。自分にはこういう価値が見えているんだけれど、他の人は、例えばプロトタイプだったり、紙だったり外しか見えてなくて、でもその裏側にある本質的な価値が見えてるのって、実は自分だけで、そこを信じて走るかどうかみたいな。

ただ、最初のタイミングで言ったときに、そこまでみんながイメージを持ててない。本質を見えてないんじゃないかなと。

佐々木:理想っていうか。「その先にこれがあって、こうなるんだ」っていうイメージの共有がやっぱり難しいということですよね。

そうすると、「世の中に新しい仕事をつくっていくんだって見せていくには、自分を信じるしかない」っていうことなんですかね? どう思いますか?

秋好:そうだと思います。自分を信じるのと、とりあえずやってみる。やってみて失敗したら、自分も「ああダメだったか」って思うと思いますし。

僕の個人的な経営哲学ではないですけど、社長ってやらない後悔をよくするんですよ。でも、やった後悔ってあんまりしないんで。であれば、やるっていうのはありかなと思います。

佐々木:その記憶はもう本当に毎日ありますよね。何度でも語れるっていうか。

松本:サービスを出した後に、自分では「こういう世の中がつくれる」って思っているんだけれども、リリース直後は想定の1〜2割しか反応がない。

お客さんとの対話の中でサービスが徐々に自分の中の「イメージ」と近づいていく一方で、実は理想がちょっとズレていることにも気づいて、徐々にお客さんが求めている本質的価値を提供するサービスに近づいていく。

出した後に継続して、みんなが見えてないんだけれども、「いつか絶対にこれは受け入れられるはずである」っていうところでいかにプレゼンを積み重ねていけるかっていうところってありませんか?

佐々木:そうですね。結局、最初から理想は見せられないのでっていうところなんですよね。

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