2024.10.01
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テーマ「TPP」について(全1記事)
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堀潤氏(以下、堀):このコーナーは専門分野に長けた論客の皆様に独自の視点で今、知るべきニュースを角度持って思う存分お話いただきます。
脊山麻理子(以下、脊山):改めてゲストをご紹介します。ジャーナリストの堤未果さんです。お願いします。
堤未果氏(以下、堤):よろしくお願いします。
堀:堤さん。テーマの発表をお願いします。
堤:はい。
(テーマ「TPP」について)
脊山:TPP(環太平洋パートナーシップ協定)を巡って交渉に参加する12ヵ国は、ハワイで24日(7月24日)から主席交渉官会合を、28日からは官僚会合を開くことにしています。新薬の保護期間など衝突が続く分野もあり、交渉の行方が注目されています。
堀:前々から指摘されている知的財産分野ですよね。話し合いの中で最も行き詰まっている。やはり、新興国側と米国側では非常に対立もしていると言われていますが。
著作権や特許権を守るためのルールを定める「知的財産」。中でも新薬に含まれる成分データを特許として秘密にする期間をめぐる対立が激しいということです。
ジェネリック医薬品の話もはじめ、「製薬メーカーVS新興国」というような構造も見え隠れしますよね。
堤:この新薬データ保護の問題です。今、だいたいこんな感じで。
堀:「医療品データの保護期間をめぐる各国の主張」ということで。
堤:アメリカは、できるだけ長くしたいわけですね。世界のトップ10位、上位10位の製薬企業のうち、5社がアメリカにあるので、非常に製薬企業の力が強く、できるだけ特許を引き延ばして、ジェネリック薬が市場に出にくくしたい。
このデータ保護期間の問題は、TPPが出てくるずっと前からあったんですね。HIVの薬とか、感染症の薬など、生死に関わる薬については、各国で判断してジェネリック製造できるというWTO特別規定があるんですが、これに製薬企業側がずっと反発してきた。
そこでTPPで一気に知的財産権保護強化を製薬業界がおしてきた。そもそもTPPは、日本国内では「国 対 国」の枠として報道されていますけれど、その本質は「多国籍企業群 対 国家主権」ですね。
何となく「自由貿易条項」という名前から、どんどん関税をなくしたり規制緩和で貿易を自由化していくイメージを多くの人が持ってると思いますけど、メインターゲットは「非関税障壁」なんです。そして薬に関しては、自由化ではなく知的財産権の保護を強化していく。
ですからこれは自由化とは逆の方向ですね。保護が強化されるとどうなるかというと、独占市場になっていくわけです。
ですから、「TPPで、ものすごくグローバルで自由になって値段が下がる」っていうイメージを持ちがちなんですけれども、実は、薬に関しては、独占体制が強くなりますから、薬の値段全体は当然上がっていくわけです。
堤:では、日本の立場はどうでしょう? 日本はこれに関しては完全にアメリカ側に立って、薬の特許保護期間は他国も8年にすべきだと提案して、参加国から反発と失望の声が上がっています。
ただし薬の価格に関しては、この特許保護期間も重要ですが、もう1つ最大に警戒されているのが、TPPの肝といわれる「ISD条項」なんです。
ISD条項(Investor State Dispute Settlement)って、言葉自体を、初めて聞く人がほとんどじゃないでしょうか?
堀:最初ね、ISD条項の話が出た時に、時の首脳も「えっ」って言葉に詰まって、「よく知らない」なんて、国会で問題になりましたね。
堤:はい、佐藤ゆかり議員が国会で質問した時に、当時の民主党の野田首相が知らなかったとして問題になりましたど。ISD条項とは、参加国の国内法が投資している側の企業にとってフェアな競争を阻む、つまり商売の邪魔になると判断された場合、企業側がその国の政府を第三者機関に訴えることができるというものなんです。
ISD条項裁判は投資家側に有利になっていることから批判の声が大きいんです。これまでNAFTAでアメリカ側が起こした訴訟は46件で、カナダやメキシコ政府から多額の賠償金を受け取っていますが、アメリカ政府が負けた事例はゼロ、多国籍企業の一人勝ちなんです。
堀:NAFTAっていうのは、カナダ・アメリカ・メキシコの北米自由貿易協定と言われるものですけど。
堤:そうです。TPPはそれよりさらに企業側に有利なものとして、「NAFTAのステロイド版」、と言われています。
堤:ではこれを、薬でやられた場合どうなるか。『沈みゆく大国アメリカ 第2弾』という本にも詳しく書いたんですけど、例えば、日本は薬の値段を国が設定できますね。中医協(中央社会保険医療協議会)というところが決めている。私たちは、皆保険制度のおかげで安く薬が手に入る。
でも、このルールがあると、「皆保険制度や中医協のせいで薬の値段が安く下げられてしまう、フェアな競争の妨害だ!」と企業側、投資家側が判断した場合、ISDを使って裁判に訴えることができる。
これ、もし裁判に負けたらですね、日本は巨額の賠償金を税金で払わされることに加えて、国が薬の価格を設定するというルールを変えなきゃいけなくなるわけです。そうなると私たちが病院で薬をもらう時に、自己負担率があがったり、高い薬は国民保険制度を維持するために、保険から外される可能性が出てきます。こうやって影響が出てくるわけです。
結局、このISDがあれば、国家が国民を守っていたルールが、どんどん崩されていってしまう。米だろうが薬だろうが製造業だろうが司法だろうが、関係なく適用されますから。ここが危ないところなんですね。
堀:実を言うと、国連はすでに声明を発表していて、「人権侵害にあたる可能性があるから、TPPに関しては、公開の場で議論をするべし」と。「でないと、特定の企業や特定の強い勢力に利益が偏る可能性がある」ということを国連側も指摘してるんですよね。
堤:国連のそれは、TPP交渉を秘密裏に進めていることへの批判ですね。ISDに話を戻しますと、例えばオーストラリアはこのISD自体を最初からものすごく批判して、条約から削除するように要求していました。
他国でもTPP反対派はこのISD条項を非常に警戒しています。日本ではあまり知られてなく、報道にも全くでないんですけど、これいま、TPP交渉大詰めですから、後で「えっ知らなかった!」とならないように、是非「ISD条項」とういうのをできるだけ多くの人に知ってもらいたいですね。
堀:結構、外務省のHPだったかな。過去のISDで訴えられたケースが、どっちが勝ったのかとかも資料が一部公開されていたりもするので、是非皆さん、見てみてください。
ありがとうございました。
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