2024.10.10
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柴田英里氏(以下、柴田):ちょっと話が変わるんですけれども、日本の中で美術が歴史化されていないということが、なし子さんに対する美術界の一部からの評価の低さにもすごくつながっていると思っていて。
ろくでなし子:あとひとつ、さっきの話でも思ったんですけど、美術って小学校とかから習うじゃないですか。
わたしは大学で美術、美学を習ったんですけど。すごく根本的な話なんですけど、アーティスト、過去の作家に男性しかいないんですよ。女性がいないじゃん。だれもそこはあんまり指摘していないなと思って。
柴田:実はそれを歴史化していると思われる、70年代に『美術手帖』に掲載されたリンダ・ノックリンの「なぜ女性芸術家は大成しないのか」という論文がありまして。
それは、歴史的に女性で活躍した作家はいたにもかかわらず、代が代わる時に名前が消されてしまったり、活躍できた女性作家も、父親が作家だった、父親が画廊や工房を持っていたから作家活動ができたみたいな。
女性が絵を描くアクセスが少なかった歴史と、少ない中でも活躍した女性作家はいたにもかかわらず紹介しなかった。
ろくでなし子:アルテミジア・ジェンティレスキっていう人がいたじゃないですか。しかもその人って、自分がレイプされたことを裁判にしたりした画家なんですが、そんなすごい人がいたことを、自分で調べるまで知らなかったのがびっくりなんですよね。
柴田:やっぱり歴史化、アカデミズムの中にきちんと回収されていないので、ジェンダーアート、クィアアート自体が日本では言葉としても歴史としても認知されていなかったり。
海外の作家でクィアを扱っている、たとえばフェリックス・ゴンザレス=トレスのキャンディーの作品とかって、なし子さんが、最初にビデオで「とにかくデータを拡散させたかった」って言っているじゃないですか。
ろくでなし子:それあんまり言わないでください。
(会場笑)
柴田:でも、トレスの作品って結構それもあるんですよ、キャンディーの先に。あれはゲイのコミュニティの中のエイズの危機に関して、ハードキャンディーをなめるっていうのがゲイの中でフェラチオの隠語だったり。あとは、病を持って帰る。
病を拡散するような欲望って、欲望として肯定されていいと思うんですけれども。
そういう文脈のある作品にもかかわらず、日本でクィアやジェンダーアートが紹介される時にそのワードが抜かれることがあったり、日本の女性作家でジェンダー、フェミニズム、クィアを扱っていても、出資者や展示する側の判断で「フェミニズムっていう言葉を消してください」みたいな一種の自主規制の背景があったりだとか。
ろくでなし子:就職活動でもフェミニストみたいなこと書くとだめだから消すって聞いたことがあるんですけど。
柴田:やっぱり、ひとつはアカデミズムの中で触れる機会がないから。しかも、田嶋陽子みたいな目立つ人しか見てないから「フェミニズムってダサい!」みたいな。そういう、フェミの食わず嫌いみたいな現象が起きたり。
さっきと重複するんですけど、アカデミズムの中で承認が得られていない学問なので、どんどん立ち消えてしまっていく。調べようとしても中古で再版していなかったり、すごく高かったり、中古で10,000円とか。ちょっと興味あっても……高いですよね。
500円で新書だったらちょっと読んでみようかなっていう気にもなるけど。だから、本当に研究するっていうことにならないと読まれないっていう状況が……。
ろくでなし子:高学歴の人のためのものになってしまってる。
柴田:そうですよね。有名なジュディ・シカゴの『花もつ女』ですが、今は再版されていないので中古でしか入手できないんですよね。
ろくでなし子:そうなんですね。あれは一応持っているんですけど。あ! 確かに中古で買ったわ(笑)。
柴田:最後に、ろくでなし子さん自身の裁判への思いとかって?
ろくでなし子:何度も言うんですけど、ノリで生きてきたんで「こんなもんアートじゃない!」とかって馬鹿にされたらその都度燃えて「もっとバカバカしい作品を作ってやる~!」とか思って、ラジコンと合体させてリモコンで走るまんことか。
「まんこは布団をめくってそっと暗がりで見るもんなんだ!」と言ったおじさんがいたんでムカついて、まんこがピカピカ光る照明器具、シャンデビラを作ったり。
そういう、反抗を笑いで表現してきたら逮捕されてしまったんですけど(笑)。逮捕自体も「めっちゃ漫画のネタができたなあ」と思って、とても怖い思いをしたんですが、怖い思いや大変な思いほど、漫画家にとってはおいしいんですね。
しかも今までは大きな湖に一人で石をポーンと投げてポチャーンっていう位のものだったのが、今は国と戦って法廷で「まんこはわいせつですか?」みたいなことを、みんなで、今日もお仕事帰りに来ていただいた一般の方とかも考えてくれる。
すごい、いい機会ができたし、昨日の法廷でも検察側は、私の作品を傍聴人に見せないようにお手製の木の深い箱みたいなものを作ってきていて「この作品は人に見せられない位卑猥なんですよ」みたいな情報操作、印象操作とかをして。
「いやらしいなあ」と思いながらも、またこれでネタができたなあと思って「これ、開いたらこの辺にくるコマにしようかな」とかいろいろ考えたりして……。
柴田:赤瀬川原平と対極ですよね。彼は「千円札裁判」という、千円札の偽札事件として扱われているけれども、裏が真っ白で使えない。
完全に偽札ではなくて千円札の模型だと自身の作品を評しているけれども、あの裁判の時は、ものすごく法廷が美術館のようになってしまって、後々その記録写真を見ると「赤瀬川原平が超おいしい!」っていう……。
ろくでなし子:名前も売れたんでしょうね、きっとそれで。
柴田:そうですね。
ろくでなし子:刑事訴訟記録でしたっけ? 自分が供述した取り調べの内容とか、証人としてきた人が供述した調書みたいな分厚いのを2冊位もらって、裁判が始まるから読んでおかなきゃいけないんですけど。
警察がわたしのまんこの作品を「これは本官が女性器の詳細露骨ななんとかと見受けられたので猥褻と認定した。以上」みたいな、ざっくりとした見聞書とかもあって、データがどうやったら開けるか写真を撮ってくれたり……。
撮ってくれたりっていう言い方をしたんですけど、警察が率先してわたしの作品をあの手この手で本のようにしてくれてるんですよ。図録のようにしてくれてるんですよ。
(会場笑)
柴田:すごい!
ろくでなし子:3Dプリンター持ってないし、データもソフトもパソコンに入れてないから、こういう風に見えるんだ、みたいな感じで、ひとつの壮大なアートなんです。
柴田:作品集!
ろくでなし子:作品集なんですよ。
柴田:プロデュースド バイ 警視庁!
ろくでなし子:そう! 『ドグラ・マグラ』って本あったじゃないですか。あんな感じなんですよ(笑)。これがひとつのアートだなと思って。
よく海外の取材の方にも「これからもどんどん制作続けていかれますか?」とか「次に何やりますか?」って言われるんですけど、今、アートの制作渦中だから、新しいことというより、今! ナウ! 現代アート! みたいな感じなんですよね(笑)。
柴田:まさに、美術作家って、別に法律家や弁護士みたいな免許がない領域ですし、たとえば年収700万美術で稼げないと美術作家ではないという規定もないから。
自分で「今日から美術作家です」って言えば美術作家なんですよ。だからすごくゆるくなれる職業だけど、今回法的に逮捕されたことで、国家認定の美術作家になれるんじゃないか、赤瀬川原平に続いて。赤瀬川原平も最初は「自称・前衛家」でしたから。
(会場笑)
ろくでなし子:どうしたらいいんだろう。「自称・前衛家」って言おうかな、ホント(笑)。
柴田:前衛は今の時代じゃないですから意味がわかんないですよ(笑)。
ろくでなし子:逆に警察の方がおもしろいですよね。新しい造語をどんどん作ってくる感じがして。
司会:お話も尽きないと思うんですが、ここで質疑応答の時間を設けたいと思います。ご質問をされたいという方、挙手をお願いいたします。
質問者1:どちらかというと弁護士の方に訊きたいんですけど、冒頭のところで「無罪をコーディネイトしないといけない」みたいなところで「ろくでなし子さんが子どもだから」ということをおっしゃられていたんですけども。
今日、ネットとかSNSとかで拝見していると、ちょっと危ないんじゃないかな? って懸念というか危惧というか。それを規制しちゃうとまた話の拡がりがでてこないし、放置しちゃうと裁判に不利に悪用されてしまうようなリスクもあるかもしれないからっていうのをはたから見て懸念するんですけど。それをどういう風にマネージメントしていかれるのですか?
弁護士:嘘ついてもしょうがないですよ。なし子さんがどういう人かとか、自分はどういう主張と言動をしてきたかということは、嘘ついてもしょうがないと思う。だから、嘘をつかせたくない。
ただし、誤解されるようなことはやめようっていうのが基本的なスタンスですよ。僕が言ったコーディネイトというのは別に取り繕おうと嘘をつくということじゃなくて、誤解されないようにしようっていうことなんですよ。
たとえば拡散しているとか言ってるけれども、そういう言動を過去に実際しているわけだし、映像に残っているわけだし。そもそも本人の創作過程だし、それがなし子さんの人生の一部なわけだし、嘘ついてもしょうがないんですよ。
それを含めてどうやって、これが彼女の特定化するものなのかってわかってもらうかってことなんです。そうしないと捏造することになるし、捏造で裁判は勝てないですよ。
ただ一方で誤解されても困るわけですよ。なし子さんはふざけてるように見えても真面目にやっているんです。彼女の創作とか問題意識ってものすごく真面目なんです。表出方法についてひとひねりもふたひねりもあるかもしれないけど。
彼女は「真剣にふざけてる」って言葉を使ってもよろしいでしょうか。そういうことをわかってもらわないといけない。そういう意味でコーディネイトが必要という意味なんです。
もうひとつ、タイミングの問題はひとつありますよ。裁判はカードゲームと似ていて。強いカードを持っていれば勝てるわけじゃないから、どのタイミングでどの順番でカードを切っていくかっていうことはあるわけです。
どの時点でこういったほうが良いのか、あるいは裁判官、人間が心象良く形成していく過程にとって、こちらが優位になるようにするためには、どの段階、どの順番でカードを出していけばいいか。どういう順番でプレゼンしていけばいいのかってことがあるじゃないですか。
これは別に裁判官に対するプレゼンの問題なんですよ。これは弁護士の領域なんで、それは彼女に聞いてもらうしかない。でもやっぱり嘘はつかせたくないし、嘘はつくべきではないと考えています。よろしいですか?
質問者1:ありがとうございます。
スタッフ:ちょっと時間が無いので、質問者の方お二人から伺ってから一緒に答えたいと思います。
質問者2:なし子さんの勾留理由開示公判に行ったんですけど、抽選に外れちゃって。昨日の第1回公判も「週刊金曜日」の人が8人も行ったのに入れなかったということを聞いて、大きい法廷にすることを要望したらいいんじゃないかと思うんですけど。
質問者3:証拠を公開する時に、傍聴人には見えないような状態というのは、過去の法廷にもあったのかどうか? それは証拠の目的外使用という刑訴法改正の改正がありましたけど、それとは関係ないことなのか、そのことについてお伺いしたいです。
弁護士:最初の方の、大きい法廷にするかどうかという話なんですけど、これは裁判所の方が決めることなんです。ただ、傍聴人がいっぱいいて抽選に外れる人が多いということになると、大きな法廷でやりましょうか、という風になりやすいんですね。
ただ一方で本件は刑事事件という性質があるんですよ。民事の法廷と違って刑事用の法廷というのは限られているということがあるのと、あとは入口で警備とかいろいろあったりしてVIP扱いされているというのがひとつあるということなので、裁判所がどう考えるかわからないけれども、なるべく多くの人に聴いてほしいので、大きい法廷に、という要望は出していいと思います。
ただそれが通るかというのは裁判所の一存だし、もうひとつは、大きい法廷って数少ないんですよ、はっきり言って。他のところとの奪い合いになってしまうということもあるということです。
大きい法廷にしようと思えば、みなさんが傍聴に来ていただいて、毎回あふれこぼれるような状態が続いていれば、より大きい法廷になりやすくなると思うので、みなさんに是非来ていただきたいということです。
もうひとつ、証拠の開示というか、正確に言うと証拠の取り調べなんですね。物的な証拠を取り調べるためには、関係者に対して見せなければならない。こういう風になっているんですけど。
関係者に対して見せるっていうのは、要するに、検察官が出すんだったら弁護人と裁判所と被告人にはちゃんと見せようということで、傍聴席に見せなければならないというルールは無いんです。
ただし、傍聴席からわざわざ見えないように隠すというのは原則としてしてはならないだろうというところがあるわけです。僕の知っている限り、ああいう風に他の人に見えないような形で調べた事件というのは多分あんまり無いと思うんですよね。
結構イレギュラーな取り扱いではあると思います。特にプライバシーとかが問題になっているわけじゃないですから。たとえばプライバシーの問題などの事件だったらそれはあり得ると思う。証人席に衝立をするとか、顔が見えないようにするとかはあると思うんですけど。
そういう事件でもないし、イレギュラーな対応といえばイレギュラーな対応ですね。検察官の方に「これはイレギュラーな対応ですよね。どうなんですか」と言ったら「答える必要がない」というような対話でした。
司会:ありがとうございます。
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