2024.10.10
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憲法と沖縄~戦後70年の内実を問う(全1記事)
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木村草太氏(以下、木村):なぜ今、沖縄で憲法を語る必要があるのか。それは辺野古新基地建設問題があるからだ。日本国憲法のもとで、この国は約70年間運営されてきたが、この問題について憲法の角度からアプローチすることは、辺野古の住民だけでなく、沖縄や日本にとって、憲法をどう使っていくのが一番いいのかを考える非常に重要な機会になると思う。
辺野古新基地建設問題については、行政不服審査法というあまり聞いたことのない法律が、新聞紙面をにぎわせている。そのほか、さまざまな分野の法律に基づいて、埋め立ての承認や、岩礁破砕の議論が進んでいる。
ただ、この問題の全体を指導する基本原則が何なのかという議論も必要だ。そもそも、新基地建設に賛成の方も、反対の方もいると思うが、どうも進め方がおかしいのではないかというのを双方が感じているように思える。
辺野古について考える際、そもそも米軍基地を造りたい場合にどうするのかが問題になる。日本は法治国家なので、何か国が行為をするときには、必ず根拠になる法律や条例が必要になる。
今の米軍基地を造るための法的根拠というのは、政府、内閣、防衛大臣に非常にたくさんの権限を与え、責任を内閣にかなり押しつけるという状態になっている。
いわゆる日米安保条約第6条に基づく駐留軍用地特別措置法に基づけば、政府がここに必要ですと言えば、そこに基地を造れるし、政府が土地を所有してなくても、収用して基地を造れるという法律になっている。
ただ、住民や地元自治体から何の意見も聞かずに、政府が認定し、基地ができるという法律になっているが、それでいいのだろうか。
こういう仕組みだと、嫌なことを押しつける仕事を政府だけで引き受けなければならない。今は法律の根拠が非常に曖昧かつ抽象的で、国民や国会が基地建設の責任を感じることができる状況になく、問題だ。
憲法95条に基づいて、地元の声について考えてみたい。
米軍基地のようにみんながいやなものをどこかに造るとき、多数決というのは賢明な手段ではない。沖縄県民、東京都民であっても、国民全体でみれば少数派なので、国民全体で多数決をとれば負けてしまう。
日本国憲法95条は、「一の地方公共団体のみに適用される特別法は、法律の定めるところにより、その地方公共団体の住民の投票において、その過半数の同意を得なければ、国会はそれを制定することができない」とある。辺野古新基地建設では、この条文に基づく住民投票が必要に思える。
1997年に名護市で、海上ヘリ基地についての住民投票があったが、それとは違う住民投票だ。従来の住民投票は法的効果というのが非常に弱い。なぜなら、住民投票の結果が、市や国を拘束できないからだ。憲法で市長や内閣に与えられた権限を、住民の意思で拘束することが、権限の制限となってしまうからだ。これが一般的に住民投票をやるときの壁になる。
ただ憲法95条の住民投票はそうではない。住民の同意を得ないと、その法律は制定できないわけだから、法案が国会を通過したとしても、その後に地元住民の同意を得るプロセスが必要になる。
辺野古新基地建設問題については、まず国民全体で責任を引き受け、地元を説得するために、国民全体が努力しなければいけない。そういったコミュニケーションを生み出す制度づくりが必要だ。
関連して、憲法と安保法制という話もしておきたい。会場には、安保法制をめぐる議論を見て、危機感をもっている方も多いと思う。日本が行う武力行使、あるいはその支援の在り方は今、大きく変わろうとしている。
安保法制については三つの問題が同時に進み、複雑だ。これをまず整理すると、(1)日本自身の武力行使の範囲を拡大しようという議論(2)日本自身が外国に武力を使うという場合の限界を広げていこうという議論(3)外国がやっている武力行使に加わらず、後方支援を拡大しようという議論が進んでいる。
(2)は集団的自衛権とか存立事態(わが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険な状態)の言葉で語られる話で、注目すべきは(3)。外国が自分たちだけの実力では治安活動を十分にできず、日本に手伝ってほしいと言ってきた場合にどうするかが議論されている。
集団的自衛権の議論で、自衛権の行使を日本国憲法でできると解釈するのはネス湖でネッシーを探すようなものだと思う。安倍政権は閣議決定で集団的自衛権の行使容認を決めたが、安倍首相の立場から言うと、9条を改正しようと提案して、議論を展開すればよかった。改憲派の勢いがないからだと思う。
集団的自衛権は外国を助けるための権利で日本の自衛のために何かをする権利ではない。安倍首相の自信のなさが出ていると思ったのは、会見で外国の在留邦人が米艦船を使って避難するケースを挙げ、集団的自衛権の行使容認への支持を国民に訴えたこと。
外国を助けるわけだから、外国で攻撃を受けた米軍や外国人を見殺しにしていいんですかという提案で十分。それを外国にいる日本人を助けたいという話にして、日本国憲法下で容認することが難しい集団的自衛権を行使しようとしているので、おかしな話になっていると思う。
戦争になったら、武力攻撃をした側は、相手国の復興支援に加わりにくい。戦闘が終わった後に道路や学校を造るという提案は、戦闘参加国からは言い出しにくい。日本の今の立場で、武力行使以外に国際貢献をする手段というのはあるのだ。
自衛隊の海外派遣や安保法制関係のニュースを見る際に、気にしてほしいのは手続き、財源、責任の3点。
まず手続きだが、現場の危険性を正しく判断する手続きがあったのかを確認する。今の法律は、自衛隊を武力行使を任務とする組織として派遣することを禁じている。これまで自衛隊は軍隊としてではなく、あくまで現地の復興支援などの活動をするために派遣されている。今の法律のもとで、危険なところに派遣することが国会や政府で議論されていないかチェックする必要がある。
また、今の自衛隊は日本領域を防衛するため、必要最小限度の範囲内でつくられた組織。今の装備のまま、海外活動に行くと、業務や活動費が増える。消費税増税に反対しながら、集団的自衛権に賛成するのは無責任でおかしい。海外派遣を議論するのであれば財源を確保する必要があり、責任のある提案がないといけない。
また派遣先で事故が起き、自衛隊員が負傷・死亡などしたとき、派遣の責任を問う世論形成能力があるかも問わなければならない。仮に自衛隊を軍隊として海外派兵できるよう憲法を改正する場合、その責任の取り方も考えなければいけない。隊員を海外に派遣するということは、最悪の場合には亡くなるという選択をしていることを、国民や国会、政府は認識する必要がある。
あらためて言うが憲法を無視して国を動かそうというのは、現実的ではない。それでは適切な統治ができないだろう。
辺野古の米軍基地の工事手続きは、憲法上おかしいという確信をもってほしい。それだけで訴訟には勝てないし、政治は動かない。しかし確信がないと、「日本の安全保障がどうなってもいいのか」という(政府の)圧力にまけてしまう。
日本国憲法の実現しようとしている価値は、困っている人への想像力だと思う。困窮者は社会の中で少数なので(その方たちのことを)考えずにいた方が、おそらく国の運営の仕方としては簡単だ。しかし、それではいろんな価値観が共存して国家を運営していこうという民主主義の理念が実現できない。
住民投票の承認がない限り、新基地建設は不可である。国を形づくる憲法の価値から導き出される帰結で、皆さんにはその確信も持ってほしい。
質問者:沖縄にいると、日米安保条約や地位協定が憲法の上にある気がする。憲法の価値観は沖縄に及んでいるのか。
木村:安保も地位協定も、憲法が内閣に与えた外交権の帰結だと言える。ただ、これほど沖縄に負担が集中し、何とかしなければいけないという考え方も憲法の価値から導かれる。憲法が無意味になっていると考えるのではなく、憲法を使ってよりよい統治にしていくべきだ。武器になりえる憲法を捨ててしまうのはよくない。
質問者:特定秘密保護法や安保法制の審議で、議会や国民に十分な働きかけがないまま、議論が進んでいるように見える。
木村:特定秘密保護法は、これまで指定されていた秘密の中で、一定の範囲を特別に保護しようというもの。むしろ大事なのは文書管理と情報公開制度だ。この情報は必ず公開してくれ、公文書を残しておいてほしいと政府に要求して法制化することが大事だ。
質問者:沖縄独立論についてどう思うか。
木村:役人的な回答になってしまうが、憲法は地方公共団体が独立することを想定しておらず、その手続きもない。ただ私の解釈では、地方が独立を望むほどのひどい統治をするというのは、憲法は想定していない。憲法の理念に合った統治ができていないから問題になる。強権で圧迫するのではなく、地方が納得できるような統治をすることが憲法上の要請であると考える。
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